実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2023/04/21 (金) 19:00
座席1階
あちこちの劇団が取り組むつかこうへいの名作。自分が最近見たのはプロジェクト・ニクスのバージョンだった。劇団の個性がダイレクトに反映される作品なのだが、9プロジェクトの魅力は、つか作品へのまっすぐな思いがあふれているところではないか。今作は2年前に続く上演。作品初演時の単行本やゲネプロ映像をベースにしつつも、せりふや演技を俳優と演出家が討論し新たに練り上げたという。
今も変わらぬ差別構造を鮮明に切り取った本作。それは、朝鮮半島から五島列島に渡ってきた大山金太郎の父母に対するものであったり、五島から上京して売春を糧に生きざるを得なかったアイ子たちだったり。敏腕部長刑事木村伝兵衛が上司(警視総監)から酌婦のように扱われる場面もある。
その差別構造は表には出ないところで今もしぶとく生きている。そのあたりを体現するのが木村伝兵衛・アイ子役だ。前回に続けて熱演した高野愛は、今回の舞台でも体当たりの演技で客席の視線をくぎ付けにする。節目で織り込まれる昭和の名曲も、効果的に舞台回しの役割を果たす。
プロジェクト・ニクスのバージョンは女性劇団だけに、あだ花のように咲いたアリランの花たちが印象的だった。これに対し、今回の9プロ版は高野愛の細い腕に思いっきり重圧をかけてひねりだしていくようなイメージがある。こんな舞台の空気を感じるたけでも、今回の上演は見る価値があるのではないか。また、作品の空気を文字で理解できるパンフレットもいい出来だと思う。
9プロはつか作品に取り組む使命を負っている劇団だ。「熱海殺人事件~売春捜査官」は再び取り組んでいくことになる。次の舞台では何が起きるのか。他の劇団の上演にも足を運びながら、継続して見る楽しみがある作品だ。