舞台「性年バイバイ。」 公演情報 舞台「性年バイバイ。」」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 5.0
1-1件 / 1件中
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    鑑賞日2023/04/01 (土) 13:00

    価格4,000円

    4月1日(土) 13:00
    A班

    ネタバレBOX

    路上で弾き語りの少女、ビラ配りの兄、登場人物の顔見せと賑やかで趣ある冒頭。※前説は聞き取りにくい

    少女・真希は芸能事務所の詐欺に遭い500万円を抱える。それを知った兄・聡は返済の為に大学を中退し、ウリ専の仕事に身を投じることに。この場面、妹思いの大変な決断ながら、激情でもなく嫌々でもなく、淡々と受け入れている感。この性格は後の展開に影響してくる。ウリ専の仕事と知らずに面接に訪れ、一度は逡巡するも店長・桜田から覚悟・偏見を諭され受け入れる。

    先輩ケイタによる研修。飄々としたムードメーカーでありつつ、この仕事の大切な心構えを教えてくれる。研修は音楽を流しつつどこかダンサブルな見せ方。照明、薄手のカーテンの使い方も上手い。

    本作は全員(悪役そうな者もおちゃらけてる者も)が各々の道徳や倫理観、矜持、プロ意識を持ち合わせている。そして多様化だなんだと言われている昨今でも、受け入れられずに拒絶し合う悲劇に繋がる。

    聡以外にも高校の同級生であり親友・康雄の恋人・翔子=カナもまた風俗嬢なのだ。
    その風俗店の同僚クッキー。人好きでおちゃらけているが本質が見えてる人。ある意味でケイタと対になる存在。店長(同系列で兼任)の落ち着き、面倒見も併せて職場が居場所として機能している。

    聡=カケルの店にはショウというNO.1の先輩が。彼もまた過去のトラウマを抱えており、聡にとって大事な役割を担う。

    さて、聡は勤め始めた初日に常連客・田端と出会う。聡を気に入った資産家の彼は高額な裏引き・愛人契約を持ち掛けるが、聡はそれは拒否し、通常の接客を行う。
    田端はプレイ時の妖艶な眼差しと後の語らいの時のクリっとした瞳のギャップが凄い。
    関係を深めながら、彼の住むタワマンにお泊まりコースに出向く。そして事件が起こる。

    とあるゴシップ誌の編集部。そこには生真面目な新人記者・金子とスレた編集長・吉岡。
    トー横問題を社会派の記事として取り上げたい金子に、掲載の交換条件としてスキャンダル取材が命じられる。
    …対象は実業家の田端の男漁りの件。

    その頃、康雄は翔子の風俗勤め(会社の先輩の情報、写真、不自然な通帳)に疑念を抱き、聡に相談する。自分の事情も打ち明けたいと考えていた聡だったが、風俗の仕事への偏見、拒絶を見せる康雄には説明出来ず仕舞い。

    逆に打ち解けたショウからは過去の経緯(差別、同僚の自殺、母親)を聞き、共感、肯定と同時に偏見をする側への反発も静かに強まった瞬間でもある。

    そして田端との夜。全てを手に入れている彼からも話を聞く。全てを手に入れている彼が得られなかった普通の生き方。それを隠す、埋め合わせる為に成功を得たとも言え、同時に虚無感に陥ってしまっているのだ。
    聡は自分に正直に生きて来なかったことを実感。これもまた新しい自分と居場所、今の感情、流れを前のめりに肯定する事(偏見への更なる反発の裏返し)に繋がる。真に視野や器が拡がった事とは少し違う。それを見越したのか、自分が分からなくなってしまう危惧を田端から釘刺されるのだが…。

    そして、そんな流れの時にタワマンでの田端との姿を激写、取材されてしまう。
    後に金子は編集長への報告と同時に記者を辞めるつもりであることを打ち明ける。下衆い仕事オンリーかのような編集長から記者を志した動機や仕事とは何たるかの話を聞き、自分なりのケジメを付けることに。

    一方でケイタとのお喋りから翔子=カナの風俗勤めを確信(ケイタがカナを指名してプレイしている事は気にならないらしい)する。
    ここで全ての伏線、秘密が繋がってしまう…。

    兄妹の心の通いあった会話、温かい両親の存在、アコギの歌が却ってその後の悲劇を予感させる。
    刺激的な設定、シナリオの作品だが一つ一つの会話の仕上がり自体が抜群に良い。言葉と芝居に没頭していてふと気付くと気の利いたBGMが鳴っている。この選曲もまた抜群に良い。

    ストーリーに戻る。
    ケイタと翔子=カナのプレイ時についに察知した康雄が殴り込んできてしまう。店長、ケイタ、クッキーが見守る中で話をするも、話し合いにはならない。康雄は風俗への偏見で怒りと拒絶の言葉を吐くばかり。
    更には聡=カケルまで(翔子が聡に驚かないのは謎)が駆け付ける。この流れでウリ専の仕事を明かすことになり、康雄は更に混乱と怒り。そのまま康雄と翔子は破局となる。

    ゴシップ誌が発売。田端の男漁りの件が掲載される。田端は責任を取って会社を退任して旅に出る。破滅を淡々と受け入れながら、見失っていた自分の再起を語れる田端は人生経験と物理的な余裕もあるのだと思う。聡との違いの一つ。

    雑誌は真希の手元にまで。真希からは仕事を止めるよう懇願されるも、意固地になっている聡には届かない。もちろん他に返済の手段がないという切実な事情もある(序盤の追い込みの電話もしつこかったしヤバい筋の相手なのかもしれない)
    「お前が借金さえしなければ」
    借金が発覚して大学中退を決めた時には淡々としていたが、ここで本音が出てしまった。自分の心を守る為にも偏見への反発を強い言葉で吐く聡。
    雨の中飛び出す真希。

    駆け付けた康雄と押し問答。
    「こんなこと」「そんなこと」
    良く使う言い回しではあるが、意図的に多用している。
    「汚れ」「醜い」「汚い」
    感情のコントロールを失い康雄の首を絞めるも、元々待ち合わせをしていたショウが現れて解き払う。

    康雄からは消えろと。目の前から、記憶から。
    妹と親友と断絶。
    おそらく親バレもしているのだろう。
    慕っていた田端も去ってしまった。
    ショウは抱きしめてくれる。
    良い雰囲気の新たな居場所もある。
    でも埋め合わせにならなかった。
    若い聡には受け止めきれなかったのだろう。
    分かって貰いたかっただけなのに全否定。
    康雄と真希も特に偏見が激しいというわけでもなく、2023年の今でも「普通」の感覚なのだと思う。勿論瞬間的な反応でもあるから時間を掛ければ解決したのかもしれない。何にせよ皆が若過ぎた。誰かが悪いのではない。

    ノンバーバルの後日談的なカーテンコール。
    和やかな日常、門出、引き摺る壁や傷、記念の写真。
    見守っていた聡は靴を脱ぎ、笑顔で電車に…。
    この結末を選んで欲しくはなかった。
    こんなバイバイは。

    センシティブな題材をどこにでもいる若者の内面の描写に落とし込めている。
    私は性自認も性的指向もストレートであり、聡とは共有出来る所はないが、自分の中の普通ではない部分、人とは違っている悩みと照らし合わせ、聡に浴びせられる言葉、聡から吐き出される言葉が痛かった。
    どんな人間にも当てはまり得る普遍的な物語。
    言葉選び、音、光も含めた演出、役者の熱演と申し分のない素晴らしい作品でした。

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