赤色エレジー 公演情報 赤色エレジー」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 5.0
1-1件 / 1件中
  • 満足度★★★★★

    あの時代のニオイ
    別役作品にこだわって上演しているPカンパニー代表の林次樹が演出を担当。
    LAVINIAはふだん、台詞を廃し、歌やダンス、パフォーマンスにこだわった活動をしているユニットだそうで、彼女たちを核に、各方面で活躍するメンバーが集った。
    最近回顧され始めた1970年代、漫画雑誌「ガロ」、林静一、あがた森魚という70年代の顔が挨拶文にも紹介されているが、「あの時代のニオイ」にこだわったという林次樹のメッセージが、しっかり伝わってくる芝居だった。地味で無名のプロデュースユニットは、自分の場合、けっこう当たりが多い。
    今回、思いがけず笑うシーンもあったけど、最後はジーンとした!

    ネタバレBOX

    電信柱の下で行き会った、社会活動家のアラカワ(南保大樹)とウチダイチロウ(田中龍)、ヤマグチサチコ(橋本千佳子)の3人。
    家賃を滞納して大家(辻奈緒子)に追い出されたウチダは、電信柱の下に置かれた家財道具を見て、ここに住むからいいと2人に言う。ウチダを心配するアラカワとサチコ。サチコはウチダと同棲し始める。だらしなく、煮えきれない「だめんず」の見本みたいなウチダ。一挙手一投足をサチコに注意され、間の抜けたやりとりがコメディー並みに可笑しく、私の座るベンチシートは年代も違う個人客4人なのに、ツボにはまったのか、全員、肩を震わせて笑ってしまった。ほかの席ではあまり笑ってなかったのにすみません(笑)。いや、
    橋本のツッコミと間、田中のボケが素晴らしいのだ。コンビニがない時代の食料品についての会話がリアルだった。
    「チチシス」の電報をサチコに隠し、大家からボストンバッグと金を借りて帰郷しようとするウチダに、サチコは愛想を尽かし、アラカワのもとに走る。アラカワは内ゲバで襲われ、頭に重傷を負い、病院で寝たきりになるが、サチコはアラカワと正式に結婚することをウチダに告げる。
    ふだんは台詞を廃した劇をやっているユニットだというが、橋本の台詞は心にしみるようで、その演技に惹きこまれた。前半の喜劇と、後半の悲劇をくっきりと演じ分けている。
    昔の仲間が集まり、花見を始める。さながら昭和歌謡全集といった雰囲気で、次々に当時のヒット歌謡曲(なつメロ)が歌われる。俳優はみな歌がうまい。宮内彩地が歌う「カスバの女」と「アカシアの雨」が特に良かった。
    ウチダは病院にいるアラカワを思い、やりきれない思いを噛みしめる。サチコが現れ、アラカワの自殺を告げる。ワルシャワの労働歌をウチダが歌い始め、みなも歌う。
    暗転のときに流れる挿入歌の「赤色エレジー」も宮内の歌声のようだが、あがた森魚とはまた雰囲気が違ってセクシーだ。場面によってジャズ風のアレンジになっていたりする。暗転のまま、サチコとウチダの寝物語が流れるが、この官能的な哀歓は、平成の世にはないものだ。
    「赤色エレジー」が流行ったころは、周囲は明るい歌が流行していて、大正時代の演歌師が歌うような物悲しいあがた森魚のか細い歌声は、貧乏くさくてなぜか違和感があったが、いま聴いてみると、いかにも70年代らしい哀愁を感じる。
    政治の季節に若者が挫折し、国や社会より個人の幸せに関心が向く一方、経済も高度成長から低成長へとシフトし始めた時代、ウチダやアラカワやサチコのような幸せに乗り遅れてたたずむ若者がたくさんいたはずである。彼らにとって幸せとは何だったのだろう。
    「赤色エレジー」に歌われたサチコとイチロウの愛の物語。幸せはつかのまの性の営みの中にしかなかったのかもしれない。
    帰路、「内ゲバって何だ?」「内ゲバ?わかんないよ」「言葉の意味わかんねぇからさ、この芝居も最後までワケわかんなかった」と若い男女が話していた。そうか、内ゲバねぇ。平成のいまは、パンフに単語解説がいるのかも。若い人向けにパンフに時代背景の説明があるとよかったかもしれない。「内ゲバ」の意味を教えてあげようにも、男女は仲良く路地のラブホ街のほうに入っていってしまった。

このページのQRコードです。

拡大