日本人のへそ 公演情報 日本人のへそ」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 5.0
1-2件 / 2件中
  • 満足度★★★★★

    先見
    これが井上ひさしの舞台戯曲処女作(?)。1969年当時はかなり過激な内容だったと思うのですが、評判をとりながらある意味「問題」にならなかったのは、テアトル・エコーが弱小だったからなのでしょうか。「アイウエ王」「カキクケ侯」に始まる数々の言葉遊びも、後の戯曲に繋がる感じです。また、音楽が服部公一さん。こちらも後の音楽劇と遜色の無い感じ。また劇中、見舞いの果物籠が届く場面があり、故人・存命を問わず実名だったのに少し驚きました。ブラック、シニカル、下品でドタバタな内容ですが、きちんと成立させる劇団のパワーはお見事です。ストリッパー役の女優さんたちの思いっきりの良さに役者ってやっぱりスゴイと思いました。同性同士のシーンも、よくぞ40年前にこのシーンを差し込んだものと、井上さんの先見に脱帽です。

  • 満足度★★★★★

    ミ、ミ、ミ、ミ、ミュー、ミュー、ミュー、ジカル!
    若い頃の井上ひさしさんは、ちょっと攻撃的で、やや下品で、少々荒っぽく、とても過激で尖っていた。これは、初演時(1969年)には、かなり刺激的だったと思う。
    時代の空気感のようなものがそこにあった。
    ピアノの生演奏付きの音楽劇。
    2幕2時間40分(休憩15分)。
    楽しくて飽きなかったなぁ。

    ネタバレBOX

    五十音を物語にした(あいうえ王が…らりるれ牢に、というような)、面白い吃音矯正の練習らしき発声で幕は開く。

    吃音矯正を研究している教授によると、吃音のある者、つまりドモリの人は、歌を歌ったりするときには吃音は出ず、また外国語を話すときにも出ないという。
    つまり、自分と関係のない言葉を話すときには吃音が出ないということなのだ。

    そこで、吃音者たちを集め、自分と関係ない言葉である台詞を言わせ、お芝居をさせることで、吃音を治療しようということになる。

    12人の吃音者たちが集められ、教授の脚本により、浅草で一世を風靡したストリッパー、ヘレンの半生を、ヘレン本人を主人公にして上演することになるのだ。
    それが、劇中劇、吃音症患者による吃音治療ミュージカル「浅草のストリッパー、ヘレン天津の半生記」だ。

    岩手から集団就職で上京し、最初のクリーニング店では店主に言い寄られ、それを袖にしたことから、ヘレンの物語が始まる。
    水商売や風俗などを、男に失敗しながら転々とし、浅草のストリップにたどり着くヘレン。そして、ストリップ小屋での踊り子や従業員のストライキのときに、スト破りに現れたヤクザとつながり、さらにヤクザの親分の囲われ者となり、ついで右翼の大物のモノになり、そして与党の代議士の東京妻となっていく。
    そんな中、代議士が短刀で刺されてしまう。

    そして2幕へ。
    この1幕と2幕のつながりが面白いし、あれれっという展開も楽しい。

    「吃音」という着眼点自体からもわかるように、「コトバ」へのこだわりを、全編に感じる。言葉遊びも多く出てくるのだが、後年のようななめらかな感じではなく、ちょっとごつごつ、ぼそぼそした印象で、少々野暮ったいかもしれない。

    そして、その内容が、かなり刺激的なのだ。
    例えば、「ぱちんこの玉とは別のタマを…」とか「男に惚れて、惚れて、掘ったらオカマ」とか「物干し竿を立てて」とか、意外とお下品なのだ(笑)。
    トルコ風呂で働くヘレンとか、女と女、男と男の関係なども出てきたりして、ちょっと戸惑ったりする(笑)。

    また、スラム出身の幼なじみが、かたやヤクザの組長で、かたや組合の専従という皮肉や、日本の軍隊は明治時代は強かったが、大正、昭和と進むにつれて弱くなったのは、天皇陛下の…なんて右翼が聞いたら激怒しそうな台詞まであり(舞台の上でも右翼の大物が激怒していたが)、過激さもある。

    また、農家の出稼ぎや、集団就職で住み込みで働いている女性の扱い、学生運動などの当時の状況や、日本人的な、「顔」にこだわる右翼の大物や「腹」にこだわる代議士なんていう言葉の遊びも楽しい。

    男が男を愛するならば、機動隊と学生のぶつかり合いは、集団デートになる、なんていう発想も愉快。

    全般的には、初演が上演された1960年代の世相でもあるので、たぶん若い世代にはピンとこないものもあったかもしれない。
    また、過激さも今の尺度から見るとたいしたことはないのかもしれない。
    ただし、これは、井上ひさしさんが初めて手がけた芝居の脚本で、このテアトル・エコーのために書き下ろしたものを、同じテアトル・エコーで再々演した舞台という意味は大きいと思う。

    今も現役の熊倉一雄さんを軸に(演出も兼ねて)、十年以上の中堅、そして、入団したばかりの若手などをバランス良く配し、若さと老齢のしたたかさがミックスされていたと思う。

    劇場の入り口に、今回の再々演にあたって、井上さんから熊倉さんに宛てたはがきのコピーが飾ってあった。そこには「2幕は薄いので、(熊倉さんが演出をするので)加筆しても構いません」ということが書いてあった。
    お二人の関係が見えてくるし、加筆したエコー版の『日本人のへそ』も観てみたいと思った。

    そして、テアトル・エコーのために書き下ろした、残りの5本も是非観てみたいと思うのだ。井上さんの新作はもう観られないのだから。

このページのQRコードです。

拡大