図書館的人生 vol.3 食べもの連鎖 公演情報 図書館的人生 vol.3 食べもの連鎖」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 5.0
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  • 満足度★★★★★

    オブラート一枚の向こう側にある非日常
    この劇団の公演を見るのは初めて。

    4話からなるオムニバス。全体を通して、演出は淡々と進むタイプ。演技、衣装、装置など何一つ派手なものはない。ごく普通に、日常を切り取ったかのように淡々と話は展開していく。

    ただし、「日常を淡々」だけならばなにも舞台を見る必要がないわけで、ではなぜ演劇として成立しているのかというと、オブラート1枚の隔たりで「変」な世界に入って行ってしまっているから。オブラートなので日常の世界が透けて見える、そしてちょっとの水分で溶解してしまいそうな気がする、だけど厳然と「非日常」である、という面白さ。これがこの劇団の魅力なんじゃないかと思う。

    ネタバレBOX

    基本的にセリフのやりとりによって場が進行していく。そのセリフが、派手ではないがほんの少し、作者の独特のセンスによって日常とは「軸」がずらされている。ストーリーの展開というよりは「状況の説明(言葉による説明ではなく、会話を重ねることによって状況が浮かび上がるという内容)」なのだが、その「状況」が、ありそうであり得ないこと(4話の中には「あり得る話」もあるが)、なのでいつの間にか作者の構築した「変」な世界に入り込んでいく。

    #1 Entrée/前菜(要するに「第一話」)「人の為に装うことで、誰が不幸になるっていうんだ?」

    #2 Poission/魚料理 「いずれ誰もがコソ泥だ、後は野となれ山となれ」

    #3 Viande/肉料理  「人生という、死に至る病に効果あり」

    #4 Dessert/デザート   「マヨネーズの別名は、全体主義的調味料」

    この4話がシンプルでほころびのない演出で淡々と進行していく。基本的に静かな、大きな盛り上がりのない展開なのだけれどもそれでも飽きずに見ていられるのはセンスのよい台詞の軽妙さと、工夫された動きによる。舞台装置は料理教室で使われていたキッチン台(4台あったように思う)。これを縦横に動かしたり、くっつけたりして時には食卓、時にはスーパーのレジ台、時には病院のベッドなどいろんなものに見立てる。展開を文章で説明するとなると非常に深刻になる(特に第3話)が、実際には何分かに1回はクスリと笑いがもれる程度のくすぐりが入り(決して爆笑ではない)、テンポよく進行していくため、暗さも深刻さも感じない。

    オムニバスの各パートにつけられた「前菜」「魚料理」「肉料理」「デザート」がいい得て妙だ。話のボリュームという点でもそうだし、日常からの距離という点でもちょうどそれくらいの感覚かな、と思う。

    「前菜」は「通常でも起こりうる範囲」。しかしあくまで芝居という「虚構」の世界の出来事であって、通常で起こり得ない部分をほんの少し、付け加えている。それは夫である甘利文雄がガラスを突き破って外へ飛び出すという点だ。肉だと思っていた料理が実は植物性タンパク質のグルテンだった。そこで激昂するという場面は日常にはあるし、実際に充分起こり得る風景だ。たとえその激昂ぶりが度を超えていても、「日常」の範囲をはみ出してはいない。しかしコース料理が進むにつれ、そのはみ出しぶりが少しずつ、段階的に「日常」を越えていく。

    メインの「肉料理」では「飲血による不老」という、全くの虚構をベースとしたドラマへとはみ出していく。その踏み出す段階の付け方が絶妙だ。そしてあくまで演技は淡々と、「自然」だ。

    劇団のサイトから主宰者の作・演出家前川知大氏のブログに飛べるが、その中の日常を描いた記事がそのままさらりと舞台になった感じ。見ながら「これ、舞台よりもむしろ映像向きなんじゃないか」とか、「文章の面白さがそのまま3D化している」と思った。

    「さらりと自然に」といってもそれは舞台で演じる上での「自然」であって、素で行動しているわけでは全くない。舞台上の演技であるからには発声も身体の所作も、きちんと訓練された「表現を見せる」ものであるに違いないのだが、そこに少しの力みも舞台上の演技臭いものも感じさせない。そこに非常に高い技術を感じる。

    だいたいが私は若い頃からやたら力んで勢いで見せる芝居ばかりを好んで見てきた。レビュー芝居もその延長にある。目一杯のてんこ盛りが好きだ。だからその対極にあるようなこの劇団の芸風はとても新鮮で、なおかつ面白く観劇している自分を不思議に思った。

    それは多分こういうことなのかも知れない。表面に現れる演技や装置や衣裳、台詞回し、ストーリー展開などはあくまでさらりとしている、しかし「さらり」と感じさせるための緻密な計算や訓練や構成力とそれを組み合わせるセンスが、実は水面下では「てんこ盛り」なのだ。例えるなら出汁をしっかり取った上での究極の薄味、というかんじ。

    あと、この劇団の他の作品、特にオムニバスではないものはどんなになっているのか。この「究極の薄味」はインターバルの短いオムニバスだからこそ飽きが来ずすんなり見られたのではないか、という思いもあって、今度は是非1本ものを見てみなくちゃ、と思っている。

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