闇の光明 Lux in Tenebris 公演情報 闇の光明 Lux in Tenebris」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 5.0
1-1件 / 1件中
  • 満足度★★★★★

    ブレヒトによる「性の寓話」
    初見の劇団。ご贔屓の「東京演劇アンサンブル」と活動状況に共通点がある劇団があると、夫が教えてくれたので、観に行ってみました。
    なるほど、専用劇場を持っているとか、学校公演を行っている点やHPのつくりなども東京演劇アンサンブルと似ている。

    本作は「性の寓話」だが、ブレヒトはこういう短編茶番劇も書いていたんですねぇ。
    高台の舞台の3方を客席が囲む。舞台装置や「場」の説明、ト書きなどを俳優自らが行うのが印象的。
    女郎屋の建物をミニチュアで配したり、女郎屋のランタンの「青い灯、紅い灯」を表現した照明や軽快な音楽など、アンティークな雰囲気がとても洒落ていた。松本修の演出と似たところもある。
    上演時間は約1時間と短いが、最近2時間以上の小劇場芝居が続いたせいか、すがすがしく感じた。上演時間が長ければいいというものではない。先ごろ、同じブレヒトの「アルトゥロ・ウイの興隆」をピーチャム・カンパニーで観たが、あの長時間屈葬状態の悪環境での観劇のときとは別世界の快適さ。
    大人の鑑賞に堪えうる劇団にまたひとつ出合うことができた。とても嬉しい。

    ネタバレBOX

    売春窟通りで、興行師パドゥークが「<光あれ>国民に衛生教育を!」の看板を掲げ、テントの中で「性病」に関する怪しげな展覧会を始め、怖いものみたさに客が詰め掛けて、連夜満員札止めの盛況ぶり。そのせいで女郎屋は軒並み閑古鳥が啼いて灯りも音楽も消え、さびれてしまう。ホッゲ夫人が直談判にやってくるが、パドゥークは取り合おうとしない。かつてパドゥークは、ホッゲ夫人の経営する女郎屋の客だったが、持ち金が足りずに追い出されたことを根に持っていた。
    パドゥークは展覧会の成功に味をしめ、「性教育映画」の上映会も目論む。
    もとよりパドゥークの目的は「衛生や性道徳の啓蒙」などではなく、金儲けである。懐が温かくなり、ほくほく顔のパドゥークに、ホッゲ夫人は、こういう見世物は一度見たらおしまいでリピーターは期待できないから、早晩、興行はすたれることを説き、それよりも女郎屋で遊んだほうが楽しいに決まっていると、娼婦の写真を目の前でちらつかせる。展覧会のために禁欲生活を送っていたパドゥークはたちまち興奮して女郎屋に出かけてしまう。音楽と酒、女、やっぱり、こっちのほうが楽しいことを悟る。
    5人の俳優が1人何役かを演じるが、パドゥークの車宗洸とホッゲ夫人の辻由美子のやりとりが面白い。男の役も演じる辻はズボンにブーツを履いているが、ホッゲ夫人のときだけスカート姿になってほしかった。ロングの巻きスカートなどを使えばズボンの上から着脱できるのに。演技の途中で俳優が観客の隣に腰掛けて顔を覗き込んだり、楽しい演出。
    「闇の光明」という題名に象徴されるように、この芝居のもうひとつの主役は照明だ。パドゥークが見世物テントに明るい白色照明を使ったことにより、周囲の女郎屋のランタンの灯りがかすんでしまったのである。しかし、その光明も、所詮は売春窟という闇があってこその光明であったという皮肉。
    やっぱり、ブレヒトは面白い!

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