DAILY 公演情報 DAILY」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 5.0
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  • 満足度★★★★★

    大学生が初演の快挙!作者の命日に観劇
    如月小春は、野田秀樹、渡辺えり子(現えり)、川村毅、鴻上尚史らと
    並び、1980年代の小劇場ブームを牽引した演劇第三世代に当たる。
    「女子大生亡国論」が定着した時代に、才色兼備の女子大生劇作家
    として彗星のごとく現れ、メディアの寵児となった。
    存命であれば、その活動はいまも注目を浴びていたに違いない。
    44歳の若さで亡くなったのが2000年の12月19日で、私が観劇したこの日は
    奇しくも祥月命日。
    近年、渡辺えりのプロデュースにより作品の追悼上演が行われたが、
    その作品が上演される機会は稀で、名前を知らない世代も多い。
    今回、如月小春の戯曲を愛する1人の大学生が縁あって幻の
    未発表戯曲に出合い、ご遺族の許可を得て上演の運びとなった。
    戯曲は小説と違い、上演されなければ一般の目に触れる機会が少ない。
    それだけに今回極めて貴重な機会を与えてくださった学生の皆さんに
    深く感謝する次第です。
    戯曲は13のシーンで構成され、上演時間1時間10分。
    キャストは全員女性です。
    脚色・演出の坂本麻衣さん(女子大生時代の如月さんに雰囲気が似てる)によると、時間の関係で割愛した場面はあるが台詞にはまったく手を加えず、忠実に上演したという。
    陽の目を見た作品はみずみずしく、まったく古さを感じさせない。
    むしろ斬新だ。一番喜ばれたのは泉下の如月さんでしょう。
    何よりの供養になったと思います。
    本当にすばらしい公演なので、できれば再演し、
    より多くの人に観ていただければと思った。
    特にフェミニストのかた!
    如月小春は美女だったので男性ファンも多かったが、みんないまどうしているんでしょう。

    ネタバレBOX

    如月小春は「光」と音楽にこだわった作家かもしれない。
    今回の舞台も、照明と音楽が効果的に使われていた。
    砂漠を思わせるベージュのラグが床に敷かれ、黒い椅子が左右の端に
    2個ずつ置かれたシンプルな舞台装置。
    キャストの衣裳は全員オフホワイトやオフベージュのカットソーに
    ワーキングパンツ。
    開演前から舞台奥に白い球体を持った全身白ずくめの人物が座っている。
    見たところ性別不詳だが、配役には「白い男」(利田眞実)とある。
    物語の語り部となる少年(乗富由衣)が、この白い男にさまざまな質問を
    ぶつけるが男は無言。少年は「僕はいまから出かけなくちゃいけない。
    そこで待っていてね」と言い残し、出かけていく。
    少年は首から帳面をぶら下げていて、見聞したことを書き付けていく。
    ・「群れもまた一人一人の人間から成る」
    少年を含め、5人の人物が行進していく。
    抜き抜かれつ。
    遅れる者の焦燥。先頭に立つ者の快感と喜び。
    歩き疲れた者の諦め。
    我々の人生のようだ。陽と陰。
    ・「生まれたものは皆死ぬ」
    女(中島綾香)は少年を相手に、人の死、墓場について語り、夫の帰り
    を待って夕飯の支度をする主婦の日常に思いを馳せ、また、墓場について
    語る。
    女は少年に聞く。「私、泣いてもいい?暴れてもいい?」
    少年は「いいよ」と優しく言う。
    女はわめき、号泣し、手足をばたつかせる。
    静かに語り始めたときから女には本物の涙があふれていた。
    見ていて言いようのない悲しみに襲われる場面。
    誰の心の奥にもある衝動だからか。
    ・「椅子式恋愛論」
    少年は雑踏の中、椅子の傍にポーズを取って座っている女
    (坂本麻衣)を発見する。
    「何やってるの?パフォーマンス?」
    「椅子よ、椅子。私、椅子になりたいの」
    父親が買ってきてくれたという椅子についての恋情を語り始めた女。
    「私、この椅子と結婚したいの」と言う娘に両親(北澤茉未子・山田志穂)
    は猛反対。女は教会や役所に行って結婚の許可をもらおうとするが
    取り合ってもらえない。
    椅子と結婚するなら生活設計を考えなくてはと忠告する少年。
    「喫茶店は?君がおいしいコーヒーを入れ、お客さんはその椅子に
    腰掛けてコーヒーを飲む。それなら一緒に仕事ができるよね」
    という少年の提案に喜ぶ女。
    存在の証明について考えさせられた。椅子を人間の如く愛するというのが
    凄い発想だ。椅子をまねる坂本のポーズがダンスのように美しい。
    ・「石の想い」
    12年間連れ添った夫を20歳の愛人に奪われ、妻(北澤)は愛人(中島)と
    口論になるが、どちらも譲らない(リアルな会話だった。身近にこういうケースがあっただけに)。
    石段を登ってきた少年。妻と愛人は石の様な固い想いを抱いたまま、狛犬になってしまったらしい。女の一念は恐ろしい。
    ・「陽のあたらない楽園にて」
    さまざまに変化する光。氷河期のような寒さ。焦げるような熱暑。
    地球はどうなってしまうのだろう。
    ・「陽のあたらない楽園にて」(2)
    光は影を生む。光を極度に嫌って逃げ惑う影たちが男2人(北澤・山田)
    の会話で表される。だが、影たちも本当は光が心地良いのだ。
    「光はまなざし、移ろうもの」と如月は捉える。
    「如月さんはいつもスポットが当たっていてまぶしいような人と昔は敬
    遠していた。でも改めて作品を読み返すと、違う一面に深く共感を覚えた」
    と渡辺えりが語っていたことを思い浮かべた。
    ・「僕の仕事」
    瓦礫に埋もれた町。でも「街はまだ死んでいない。生きてるんだ」
    と少年は言う。白い男から少年へ白い球体が渡される。
    復興の息吹。世紀末、阪神淡路大震災や戦争の世紀と言われた20世紀への想い、これから始まる21世紀への希望を如月は表現したのだろうか。
    白い球体は地球?希望?
    公演が終わっても珍しく席を立つ人がなく、若い人たちがみな熱心にアンケートにペンを走らせていた姿が印象的。
    心が浄化されたような「癒し」の戯曲だった。
    いま、如月小春の芝居が猛烈に観たくなっている。


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