住み込みの女の観てきた!クチコミ一覧

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ワクチンの夜

ワクチンの夜

城山羊の会

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2021/12/03 (金) ~ 2021/12/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ネタバレ

ネタバレBOX

城山羊の会の『ワクチンの夜』を観劇

いやらしい演劇である。
男根をムズムズさせる事に全力に取り組んでいるのがこの劇団の持ち味であるが、その微妙さのさじ加減が薄れてきていたので最近は観ていなかったが、今作は初期の頃を彷彿させる面白さである。
ワクチンとタイトルは謳っているが、コロナ問題を取り上げているのではなくワクチン接種後の副反応という厄介な身体的な問題と男根が見事なまでの作劇によって作り上げられている。
戯曲の完成度の高さ、演出力、俳優の絶妙な演技と間合い、台詞の強弱など全てが細かくコントロールされているのは良く分かる。だがいやらしいので、身体がそんな事に感心している場合ではないと合図さえ送ってくる。
母役の岩本えりは「ポツドール」「ブス会」と女性の性を露にした芝居の上手さは群を抜いているが、常連女優の石橋けいとはまた別の女性を演じて、戯曲からでは決して読み取れないキャラクター作りの上手さはここ最近の俳優ではベストではないかと思う。
今作は妄想という台詞が何度か発されるが、観客の妄想度のよりけりにより興奮の度合いが大きく変わってくるのは間違いない。
一度は観ることを薦める劇団である。
何度も言うが「いやらしい演劇」である。
彼女を笑う人がいても

彼女を笑う人がいても

世田谷パブリックシアター

世田谷パブリックシアター(東京都)

2021/12/04 (土) ~ 2021/12/18 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ネタバレ

ネタバレBOX

『彼女を笑う人がいても』を観劇。
作・瀬戸山美咲 演出・栗山民也

新聞記者・伊知哉は東日本大震災を長期に渡り取材していたが、東京オリンピックの開催を目前に配置転換されてしまう。そんな時に祖父・吾郎が新聞記者だった時の取材ノートを見つけ読み進めていくが、60年代安保闘争の時期だけ何も書かれていなかった。
何故 、空白だったのか?
調べていくうちに当時と今を結ぶマスコミの社会への在り方が見えてくるのであった…。

樺美智子を知っているだろうか?
日米安保条約改定反対運動の際に死んだ女性戦士と言われている。
死因は運動の最中に勢いの余る学生たちに踏み潰され圧迫死と公表されているが、解剖医の検査結果は警官の棍棒の投打になる内臓破裂という証言が出ている。隣にいた学生の目撃証言も得ているが、その学生は存在すらしていなかった。
樺美智子を題材にした演劇は観た限りではつかこうへいの『飛龍伝』だけだが、内容は神林美智子と名を変え、学生運動リーダーと機動隊隊長との三角関係を描きつつも、運動に参戦している現場側から闘争を見据えていたが、今作は新聞記者側から見た闘争の検証に迫っている。
当時も今もそうだが、マスコミの報道の仕方次第でいくらでも世論は動いてしまう。
樺美智子の虚偽の死因を報道したのもマスコミ、学生運動の終止符を打つために七社共同宣言を発表したのもマスコミ、東日本大地震の復興を他所に東京オリンピック開催の話題を提供しつづけたのもマスコミだ。彼等は言葉の弱さを嘆きつつも、暴力無しでは革命は成立しないという結論すら出している。
ただ震災で生き延びた女性が「人は常に正しい行いをしなければならない!」と叫ぶ姿が、樺美智子の生写しに見えてくるクライマックスは救いを導いてくれる。
そして蜷川幸雄やつかこうへいが革命を寓話的に描き、熱くなった観客はそこに向かいたくなるが、決してそれを期待してはいけない。間違いなく言えるのは結は全く一生だったと言う事だ。

当時のヒーローだった樺美智子があれから全く無視されているのは、彼女が共産党員だったからなのだろうか?疑問である。
THE BEE

THE BEE

NODA・MAP

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2021/11/01 (月) ~ 2021/12/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

ネタバレ
観劇予定の方は絶対に読まないように。

ネタバレBOX

野田秀樹の『THE BEE』を観劇。

アングラ演劇から始まって現在までの演劇シーンで鑑みると、今作こそが演劇史上の『最高傑作』である。

生で観れる俳優の表情、一瞬で変わる美術、見立ての旨さ、演劇の面白さが存分に感じられる。

解説
初演の日本バージョン、ロンドンバージョン。
再演の日本バージョン、ロンドンバージョン。
今作の再再演日本バージョンを入れると5回目の観劇となる。
日本バージョンとロンドンバージョンでは演出、俳優、言語も異なっている。
初演、再演の日本バージョンの主役の井戸役は野田秀樹、今作は阿部サダヲ。
初演の脱獄犯の妻役・秋山奈津子、再演は宮沢りえ、今作は長澤まさみ。

あらすじ
善良なサラリーマンの井戸が帰宅してみると脱獄犯が井戸の妻と息子を人質に取っている。
井戸は脱獄犯の自宅に向かい脱獄犯の妻と息子を人質に取り、お互いの家族を暴力で報復しあい終わりのない暴力連鎖が始まるのであった…。

感想
観劇予定の方は決して読んではいけない。

初演はアメリカ同時多発テロの影響で出来上がった作品だからか、暴力連鎖の悲劇を明確に打ち出してきていた。互いの妻を強姦し、子供の指を全部切り落とし、更に妻の指までも切り落としてしまう程だ。
再演では初演を踏襲しつつも、相手側の妻が加害者に従順していく心理も描かれている。
再再演の今作では前作を踏襲しているが、世界情勢がまるで変わったしまったからだろうか?演出をかなり変えてきている。
善良な人間であった被害者が加害者に豹変していく瞬間を目撃してしまう恐怖。
被害者が全ての力を手に入れ、独裁者になってしまう瞬間を目の当たりにしてしまう恐怖。
野田秀樹が演じた井戸はやられたらやり返すまでの暴力連鎖だったが、阿部サダヲが演じた井戸はそれを遥かに超えてしまっている。野田秀樹では成し得なかった役柄を阿部サダヲが体現してしまったのだ。
今作では鉛筆が折れる音が子供の指を切り落とす見立ての残酷なシーンは前作ほど怖くない。
朝起きて、皆でご飯を食べ、子供の指を切り落とし、妻を犯し、一緒に寝る。こんな残酷な場面を何度なく折り返し、オペラ・蝶々夫人のハミングコーラスが流れていても前作ほど悲しくない。
これこそが暴力が日常化してしまい、何も感じなくなってしまった証拠だ。初演、再演を観ている観客もこの暴力に麻痺しまっているのだ。
それに気がついた観客は更なる恐怖を感じ取るであろう。
初めて観た観客は初演と同じような恐怖を感じるだろう。
タイトルがなぜ『THE BEE』なのか?という疑問も最後の最後にやっと分かるのである。
鳴呼!! もうこれ以上の作品は永遠には現れないだろう?というほどの大傑作である。
音楽劇 百夜車

音楽劇 百夜車

あやめ十八番

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2021/10/29 (金) ~ 2021/11/02 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ネタバレ

ネタバレBOX

あやめ十八番 『音楽劇・百夜車』を観劇。

初見の劇団である。

百夜通い伝説を知っているだろうか?
絶世の美女といわれた小野小町に惚れた深草小将が求愛するが拒絶される。それでも懲りない深草小将に「百夜訪ねて来てくれたならお心に従いましょう」と言い放った小町を深草小将は毎夜訪ねるが、百日目の夜に大雪に見舞われ、寒さと疲労で凍死してしまったという伝説。

それをモチーフに、交際男性5人を殺害した清水謡子容疑者に雑誌記者・実方が100日間の裁判を傍聴したら獄中結婚するというお話。

平安時代の伝説を現代に甦らせ、容疑者と雑誌記者の愛の行方を描いていくのだろう?と期待をしたがそうではなく、事件の全容とそれに関わる人々の100日間を並行して描きながら、音楽劇で清水容疑者を深く掘り下げていく手法だ。
百夜通い伝説をモチーフにするアイディアに即座に飛びつき、それが鑑賞のきっかけになったが、事前の勝手な物語への思い込みが作品をつまらないものにさせてしまったようだ。
作品の完成度は高いようだが、僅かな前情報だけで物語を想像してはいけないのである。それは演劇にしか存在しない余白を無にしてしまう行為だ。
作品の出来云々より、明らかに演劇鑑賞者失格の私であった。
フタマツヅキ

フタマツヅキ

iaku

シアタートラム(東京都)

2021/10/28 (木) ~ 2021/11/07 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ネタバレ

ネタバレBOX

iakuの『フタマツヅキ』を観劇。

噺家くずれのダメ親父の下で過ごした息子は、将来の夢もなく仕方なく介護の仕事に就くつもりだ。そんなダメ親父に噺家としてのチャンスが再び巡り、自信がないながらも妻の応援もあって挑戦してみるが失敗する。
夫をずっと応援してきた妻、やりたい事の為に子供を顧みないダメ親父、そのダメ親父の背中を見続けてきた息子。
ダメ親父の敗北によって、家族同士が真摯に向き合う瞬間がやってくるのであった…。

『好きな仕事につけた幸福は人生の幸福の8割を占めている』と著名な方が言っていたが、どうやらそれが怪しい名言だと感じてしまったのが観劇後の印象だ。
今作は『夢を持って生きろ!』『やりたい事をやるのが人生だ!』というのがテーマではなく、背景に過ぎない。
若い頃から妻に応援され続け、それに応える為にもがき、逃げることすら出来なくなってしまったダメ親父、常に夫優先の妻、子供の頃から構ってもらえず両親をなじる息子。
大人になろうが、子供を持とうが、人間は常に何かしらの弱さを抱えてはいるが、その負の部分は決して抱えきれないが、時として対話によって簡単に解決してしまうのかもしれない。特に家族間ではそのような事は顕著に表れてくる。
前作でも対話不足によって起こった悲劇を描いていたが、今作も同じようなテーマが潜んでいる。
前作は会話によって悲劇は解決したが、今作では話しが得意な噺家のダメ親父が家族の再生に用いた道具は言わずとも分かりそうだが、そのクライマックスの上手さには演劇的魅力が存分に溢れていて、涙せずにはいられない。
iakuは今作で6本目だが、代表作がここに誕生したようだ。
傑作である。
扉座版 二代目はクリスチャン ―ALL YOU NEED IS PASSION―

扉座版 二代目はクリスチャン ―ALL YOU NEED IS PASSION―

劇団扉座

すみだパークシアター倉(東京都)

2021/10/21 (木) ~ 2021/10/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ネタバレ

ネタバレBOX

扉座の『二代目はクリスチャン』を観劇。

故・つかこうへいの生の芝居を体感したいなら『扉座』と言われているが、ここ数年でつか作品を連発している。
つかこうへい自身はこの戯曲を一度しか公演していないようだ。

元シスター今日子は刑務所から出所してみると亡夫の神流組はほぼ壊滅状態だという。組員たちも組を解散するつもりだが、今日子は組の立て直しを決意するのであった…。

概ねのあらすじだが、横内謙介は原作を借りただけでほぼ新作を作ってきたようだ。
暴対法によりヤクザたちのシノギが無くなり、原発危険作業員、老人介護など人がやりたがらない職業で金を稼いでいる。ヤクザと戦う事が警察の生き様だと言い切る警察側はヤクザの覇気のなさに憤りを感じ、ヤクザ復活にあの木村伝兵衛が登場する。この辺りは学生運動が鎮火し、活躍の場を失ってしまった機動隊員の哀愁を描いた『初級革命講座』にそっくりだ。
つかこうへいの描く弱者の目線は在日韓国人、オリンピック補欠選手と様々だが、今作の弱者は落ちぶれたヤクザだ。その弱者を通して国家への批判を声を大にしているのは勿論の事だ。
今作をただの再演にしているのではなく、つかこうへいのエッセンスを上手く取り入れ、時事ネタ、木村伝兵衛、熊田留吉の息子までが登場してしまうとはつかファンにはたまらない。それに今日子役は『飛龍伝』のヒロインの石田ひかりだ。更に木村伝兵衛の最期まで描いてしまうとは…。
つかこうへいを堪能した事があるファンには堪らない作品になっている。
そんな方のみにお勧めしたい作品である。


野外劇 ロミオとジュリエット イン プレイハウス

野外劇 ロミオとジュリエット イン プレイハウス

公益財団法人東京都歴史文化財団 東京芸術劇場、 東京芸術祭実行委員会

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2021/10/15 (金) ~ 2021/10/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★

ネタバレ

ネタバレBOX

『野外劇 ロミオとジュリエット』を観劇

1000人近いオーデイションで選ばれた俳優陣で行う群像劇。
舞台設定は未来の池袋、ロミオのいるモンタギュー家を全員が女性キャストで、ジュリエットのいるキャピュレット家を全員が男性キャストで演じる分ける試みは興味深く、ロミオとジュリエットの恋愛模様を取り上げつつもモンタギュー家とキャピレット家の争いを現代社会の分断としている。
女性俳優がロミオを演じ、男性俳優がジュリエットの演じるアイディアはキャラクターの魅力を醸し出してはいるが、演じる事があまり上手くない俳優の為か、良さが半減してしまっている。オーディションで選ばれる小劇場の俳優は粒揃いが多く、実力は申し分ないのだが今作に関しては俳優陣は全体的にハズレだ。
作品に関しても物語の流れに余白がなく、ロミオとジュリエットの死の痛手に得たものは一体何だったのか?というテーマをほっぽり投げてしまう出来に不満であった。語るに値しない作品。
アンカル「昼下がりの思春期たちは漂う狼のようだ」

アンカル「昼下がりの思春期たちは漂う狼のようだ」

モダンスイマーズ

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2021/09/24 (金) ~ 2021/10/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ネタバレ

ネタバレBOX

モダンスイマーズの『昼下がりの思春期たちは漂う狼のようだ』を観劇。

『解説』
劇団員の出番はなく、若手俳優を集めて行った公演。
作・演出の蓬莱竜太は限られた空間内で、そこから逃れられない人物たちの葛藤を描くのが特徴だ。
劇作家・清水邦夫を彷彿させるタイトルなので「きっと何かが起こるのだろう?」と期待しない訳がない。
今作は中学校での一年間の学生たちの話だ。

『あらすじ』
広島県からの転校生ゲンでクラスはざわつくが、学生たちなりのヒエラルキーは存在している。不良や可愛い女子がクラスを仕切り、おとなしく目立たない子は下級だ。そんな位置関係も瞬時に変わってしまうのが日常茶飯事だ。
学生生活は終盤に向かっていくが、先生と生徒の恋愛が学生弾劾裁判になり、生徒たちの鬱憤が爆発し始めてしまうのである…。

『感想』
校内という限られた空間で、退避不可能という27人の学生たちのエピソードを余すことなく描きながら、決して物語にせず進めていく構成は魅惑的である。
各世代の観客の郷愁を誘いながらも、思春期にありがちな鋭利な敏感さで仲間を容赦なく刺していく。「きっと我々も同じ事を行ってきたであろう?」という行為を目の当たりにさせれると顔を背けたくのなるのが心情だ。
クライマックスの学生弾劾裁判での27人の生徒たちの鬱憤の吐口の凄まじさはエピソードのみで進んでいく展開だからこそ大きな衝撃を与えてくれる。まるで蜷川幸雄と清水邦夫コンビの革命劇を観ている感すらあるほどだ。
だが蓬莱竜太は決してクライマックスを冗長せず、何事も無かったかのように卒業式を迎え未来に向かっていく。
だが誰もが過ごした思春期も単なる通過点にしないという転校生ゲンの叫びは忘れられない。
或る、ノライヌ

或る、ノライヌ

KAKUTA

すみだパークシアター倉(東京都)

2021/09/25 (土) ~ 2021/10/05 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ネタバレ

ネタバレBOX

KAKUTA『或る、ノライヌ』を観劇。

幸か?不幸か?の出来事に遭遇してしまった人たちの生き様を、散らばったパズルがゆっくりと組み合わさって行くように人生を描く桑原裕子の作術は演劇界ではトップレベルであろう。答えなど出る訳などがない人生も物語というパズルに当て込むとすんなり腑に落としてくれるのがKAKUTAの虜になってしまう理由でもある。
さて、今作は如何に……。

不倫相手に逃げられた國子、恋人が去ってしまった誉、妹が宗教に取り込まれてしまった美帆。それぞれの目的が偶然一致した彼らは行動を共にし、同じトラックに乗り込んで遠い旅に出る。だが目的は達成したが、結果に大きな隔たりが生じてしまうのであった……。

前半での登場人物の描き方が冗長しすぎたのだろうか?
パズルが後半に一気に組み合わさって行くという展開すら予想出来ないくらい長く、物語のまとまりに欠けた感は否めない。
クライマックスの見せ場は流石であっただけに、前半部分の描き過ぎがKAKUTA特有の余白を無くしてしまったのが残念でならない。
ルシオラ、来る塩田

ルシオラ、来る塩田

桃尻犬

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2021/09/03 (金) ~ 2021/09/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ネタバレ

ネタバレBOX

桃尻犬の『ルシオラ、来る塩田』を観劇。

以前から名前に上っていた劇団だが、MITAKA ”Next Selection”に選ばれてやっと認められたようだ。
作・演出の野田慈伸は俳優としてキャラクター作りが上手く、主役以上に気になってしまうほどだ。
さて演出の方はどうなのだろうか?

幼い頃母親に捨てられた兄妹は遠い親戚の牧場で育てられる。
兄の妹への献身的な愛情と近所の助けによって立派に育っていくが、年齢と共に鬱陶しさを感じてきてしまう妹は兄と大喧嘩をしてしまう。
果たして二人の仲はどうなっていくのだろうか…。

助ける側と助けられる側、応援する側とされる側。
人との関わりの中で一瞬にして互いの立ち位置が変わっていく様は傍から見ていると面白いが、本人にとっては大変なことだ。その箇所を過剰なセリフ仕立てと演技で作り上げたのが今作で、狙いどころとしては抜群だ。大きな物語はない代わりに登場人物の役柄で展開していくのは刺激的であり満足は出来るが、時間と共に物語が欲しくなるのは観客の心情だ。俳優の芝居、演出を含め総合的なレベルの高さは保っているだけに、観客の欲求を少しも満たしてくれないのは不満である。きっと今作はたまたま上手くいかなかったに違いない。
次回作も観てみようと思う。
カノン【8月19日~31日公演中止】

カノン【8月19日~31日公演中止】

東京芸術劇場

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2021/08/19 (木) ~ 2021/09/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ネタバレ

ネタバレBOX

野上絹代の『カノン』を観劇。
(野田秀樹の戯曲を若手が演出するシリーズ)

京の街では猫の瞳(キャッツアイ)という盗賊があちこちに出没している。
そんな最中、女首領・紗金が天麩羅判官に捕まってしまうが、牢番の太郎をたぶらかし脱獄をする。失敗を犯した太郎だが名誉挽回に猫の瞳のスパイになるのだが、気がつくと彼らの思想に感化され皆と一緒に自由を盗みに行くのであった.... 。
野田秀樹版を観てないのが悔やまれるが、夢の遊民社を彷彿される圧倒的な速さで俳優は走り出し、見立て、セリフが飛び交う。以前にはなかった機能を有効に使い、速さは更に加速度を増す。戯曲の言葉遊びの部分を大事にしているせいか、台詞の裏に書かれているテーマが大きく効いてくる。
野田秀樹版は猫の瞳(キャッツ・アイ)を連合赤軍とし、紗金は永田洋子だ。
勿論今回もそうなのだが、野上絹代は決して連合赤軍と声を大にせず、自由を求めている世界の革命家へのレクイエムとして描いているからか、戯曲の世界観が一段と大きくなり作品のテーマが己に深く食い込んでくる。

猫の瞳(キャッツ・アイ)が盗み出そうとするドラクロワの『民主を導く自由の女神』
それこそが彼らが狙う自由なのだ。
だが盗み込んだ先には巨大な鉄球が打ち込まれ、空から沢山のビラが降ってくる。
世界のあちこちで行われている、永遠に終わる事のない自由を盗む行為に本当に自由があるのだろうか…?
「ホクロ・ソーセーヂ」「ヂオロオグ・プランタニエ」

「ホクロ・ソーセーヂ」「ヂオロオグ・プランタニエ」

劇団東京乾電池

アトリエ乾電池(東京都)

2021/08/13 (金) ~ 2021/08/15 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ネタばれ

ネタバレBOX

劇団東京乾電池・二本立て公演
別役実『ホクロ・ソーセーチ”』
岸田國士『ヂアロオグ・プランタニエ』を観劇。

演出家・柄本明は好んで主人公不在の『ゴドー待ちながら』のような芝居をいつも作っているようだ。そういえば全盛期の東京乾電池のナンセンス芝居はここから来ていたのか?と改めて知った次第だ。
主人公が登場しそうで出てこないながら、周りが右往左往する様をコメディーにはせずシリアスに捉えるのが今の東京乾電池なのだろう。ただ原点は変わっていないようだ。
昔の劇作家の戯曲を作るというのは時代に即していない部分が多分に見えてきて『何故今やるの?』と疑問が出てくるのだが、そこを見透かして柄本明は作っているのがよく分かる。
一切登場しないゴドーらしき人物は途中でどうでもよくなってくるものだが、今作は気になってしょうがないのである。
もし観劇中にその一瞬に行きつければ現在の劇団東京乾電池の面白さを会得するのであろう。
雨花のけもの

雨花のけもの

彩の国さいたま芸術劇場

彩の国さいたま芸術劇場 小ホール(埼玉県)

2021/08/05 (木) ~ 2021/08/15 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ネタばれ

ネタバレBOX

さいたまネクスト・シアターの解散公演の『雨花のけもの』を観劇。

故・蜷川幸雄がさいたま芸術劇場で立ち上げた若手俳優の劇団。
彼は以前にもベニサンピットでニナガワ・カンパニーという若手劇団を作っていた。
さいたま芸術劇場の大劇場で、有名俳優やアイドルタレントを使ってシェイクスピアを作っていながら、老人(ゴールドシアター)や若手を使って革命劇を積極的に作っていた。彼の若い頃のアングラ劇団(櫻社、現代人劇場)の精神を味わいたいなら、この老人と若者の劇団を観るに限ると言われていた。
今作は、作・細川洋平 演出・岩松了

あらすじ
富裕層が社会に馴染めない若者を世話すると吹聴しつつ、若者をペットとして売買していた。若者たちはレシピ(台本)と呼ばれるの内容の三文芝居を演じながら、富裕層から値踏みされ買われていくのである。
だがそんな状況も時間と共に崩れていくのであった....。


いきなり始まりから掴まれてしまった。
若者をペットとして買う?
そこに存在するのは支配する者とされる者。
現代社会の貧富差のテーマはありつつも、どんな展開が起きるのだろう?と期待しない訳がない。
蜷川幸雄と清水邦夫が好んて作った若者が大人社会に反旗を翻すかの?
『暴動』と『ゲバ棒』、そして『言葉』を武器に闘争を行うのか?
だが時代は70年代ではない。
2021年・劇作家・細川洋平の武器は、『暴動』と『ゲバ棒』がなくなり『言葉』が
『狂気』に変わったのであった。
病室

病室

劇団普通

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2021/07/30 (金) ~ 2021/08/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ネタバレ

ネタバレBOX

劇団普通の『病室』を観劇。

今作は MITAKA”Next Selection” 22ndの期待の若手劇団シリーズ。

茨城県のとある病院では、四人の入院患者の下に家族が見舞いに来たり来なかったりと事情があるようだ。
患者同士の会話、家族との会話、先生との会話などを耳にすると人生の縮図が見えてくるのは病室ならではだ。
だが話しているのが内容が家族間同士なのだろうか?何を言っているかがさっぱり分からず、まるで不条理演劇の世界だ。
更に茨城弁がそれに輪をかける。
不条理な会話と人生の縮図を強引に掛け合わせてくる作りには戸惑いを感じるが、それに慣れ親しんでしまうと至って普通な世界観に感じてしまうのが特徴だ。
『城山羊の会』と似ているとは言わないが、不条理と条理の世界を巧く行き来しているのは興味深い点とも言える。
そして最後病室から患者が去った後、大きなメッセージが残されているのにはハッとさせられる。
次回作も期待出来そうな劇団だ!
もしもし、こちら弱いい派 ─かそけき声を聴くために─

もしもし、こちら弱いい派 ─かそけき声を聴くために─

東京芸術劇場

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2021/07/22 (木) ~ 2021/07/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★

ネタバレ

ネタバレBOX

『もしもし、こちら弱いい派』を観劇。

東京芸術劇場『芸劇eyesシリーズ』で、期待の若手三劇団の短編集。
演劇ジャーナリスト・徳永京子の企画で、過去に二回ほど催され盛り上がりを見せたシリーズ。
最近では個人の弱さの視点で捉える若手劇団が増える中、そこにテーマを持っていき『いいへんじ』『ウンゲツィーファ」『コトリ会議』の三劇団が挑む。
だが企画者の劇団の選択ミスなのか?
語るに値しない出来だったのが正直なところだ。
そもそも過去の開催後からどれくらい年月が経っているのか?
シリーズものの間隔はある程度の時間が必要だが、既に五年以上は経過しているし、その間の大きな時代のうねりの中で素晴らしい若手劇団は登場していて、直ぐ取り上げないのは怠慢としか思えない。
企画者への不満と作品の内容の不出来さがマッチしてしまったが、千秋楽の客の入りを見ていると明らかに答えは出ているようだ。
このシリーズは二度と見ない!
一九一一年

一九一一年

劇団チョコレートケーキ

シアタートラム(東京都)

2021/07/10 (土) ~ 2021/07/18 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ネタバレ

ネタバレBOX

劇団チョコレートケーキの『一九一一年』を観劇。

1911年の大逆罪を問う内容だ。
近代国家へ突き進む日本。それに不自由さを感じる無政府主義者(幸徳秋水、菅野須賀子)らが真の自由を求めて、明治天皇(睦仁)の暗殺計画に進んで行くが呆気なく頓挫する。
関係者は逮捕となり、大逆事件として裁判が始まる。
若き判事(田原)が審理を担当するが、結果ありきに意を唱えるが屈してしまう。
弁護士(平出)の助言もあり、自分の立ち位置で何か出来る事がないかと試みようとするが、大きな壁に何も太刀打ち出来ないまま、裁判は終了するのである…。

事実の一部のみを借りてフィクションに作り変えていき、現代社会に重ね合わせる巧さこの劇団の特徴だ。明治時代の出来事とはいえ、まるで我々がその場に生きている錯覚する感じられる。
今作は若者が厚い壁に屈せず立ち向かう様を描きつつも、反逆者が求めた『自由とは?』『思想とは?』の本質を問うているのが見所である。
判事(田原)と無政府主義者(菅野須賀子)との審理中での会話には誰もが考えさせられる。
前作の『帰還不能点』に比べるとやや硬い出来にはなっているが、見応えは保証する。

大逆罪…1882年から1947年まで存在していた罪。刑法73条。
この法律の特異な点は、犯罪を企んだ時点で罪とされる点。刑罰は必ず死刑である点。そして通常の地裁→控訴院→大審院の三審制を取らず、大審院で一度だけの裁判で刑罰が確定する点である(劇団チラシより)
虹む街

虹む街

KAAT神奈川芸術劇場

KAAT神奈川芸術劇場・中スタジオ(神奈川県)

2021/06/06 (日) ~ 2021/06/20 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ネタばれ

ネタバレBOX

庭劇団ペニノの『虹む街』を観劇。

横浜・福富町の昭和の匂いが残る古い飲食店街。
コインランドリーを中心に、パブ、喫茶店、中華料理、マッサージ屋など様々な人種が行き交うが、土地開発の波に街は消えていくのである…。

この粗筋から察すると日本人と外国人が入り混じった人情ドラマを想像しそうだが、タニノタロウが手掛けると全くそうではなくなってしまう。登場人物たちは顔見知りなので、コインランドリーで誰かが洗濯を始めると皆が自分の洗濯物を入れて一緒に洗ってしまうほどだ。
そんな中、何かが展開するでもなく、無言劇の如く淡々と時が過ぎて行く。
我々は彼らの生活の様をただ見ているだけなのである。
こんな劇を観せられた観客はどうすれば良いのだろうか?
退屈?不快感?眠気?
それに陥ると誰もが『劇団庭ペニノ』の虜になってしまうのである。
鳴呼!! これこそが演劇の生の醍醐味なのである。
夏祭浪花鑑【5月6日~5月11日公演中止】

夏祭浪花鑑【5月6日~5月11日公演中止】

松竹/Bunkamura

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2021/05/06 (木) ~ 2021/05/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ネタばれ

ネタバレBOX

コクーン歌舞伎の『夏祭浪花鑑』を観劇。

喧嘩っ早いが義理人情に厚い団七は喧嘩が原因で牢に入れられるが、国主・浜田家の諸士頭・玉島兵太夫の尽力で解放され、女房と息子に再会する。だが玉島兵太夫の息子・磯之助と恋人・琴浦の仲を悪人によって引き裂かれようとするのを団七、徳兵衛と妻、そして釣船の三婦と協力して助けようとうするが、団七の義父・義兵次が邪魔をし、日頃の悪行への鬱憤から彼を殺めてしまい、追ってから逃げ惑うのであった…。

中村勘三郎と串田和美による『渋谷で歌舞伎を!』を合言葉に始めた芝居。
あまりにも面白すぎたのか、再演、再演の連続、海外での公演と伝説化した舞台である。今回は息子たちが父親の役を演じている。

ここからネタばれ
何が伝説化したか?
義父を殺めて、追っ手から逃げて逃げて逃げ回る団七が観客席を縦横無尽に走り、遂に逃げ切ったかと思いきや、劇場の突き当たりの大扉が開いて、渋谷のネオンを背景に本物のパトカーは劇場内に突っ込んで来て、「団七、無念!」という終わり方に観客全員が唖然としたのである。
当時は紅テントを中心に舞台壊しというのがよくあったが、「まさかシアターコクーンではあり得ないでしょう?」という観客の固定観念を打ち破ったのだ。だから伝説化したのだ。今回も再演なので同じ事を期待していたが、「どうやら違うらしい?」という声が出始めていた。
義父を殺した後、逃げてまわっている団七が庶民に混じり、そのまま大扉が開き渋谷の街並みに逃げて行くので、
『伝説になった大扉の開閉がこんなにも簡単に開いちゃうの?』
『こりゃ、蜷川幸雄の近松心中物語と同じラストシーンではないか!』
と文句を言っていたら、そんなことをしないのが串田和美の美学である。
そこから新たに話が続くのであった。
団七は己が犯罪者だと認識の下、妻と離縁して徳兵衛に預けて逃げる決意をする。徳兵衛の手助けにより追っ手から逃げ回り、遂に大扉まで追い詰められ開くどころか開きやしない。「きっと何かがあるぞ?」と初演を観た観客は期待するが、決してそうはいかない。「団七、もはや無念!」と思いきや彼らのとった行動は…?
初演を観た観客は伝説の大扉の扱いを知っているからか、今作を何倍にも楽しめるようになっているが、それ以上に初演と違うラストシーンにまたもや唖然とさせられるのである。
『伝説の舞台の再演!』と謳っているが、別作品に仕上げてきた串田和美のアングラ精神にはただただ感服させられるのである。
たがシアターコクーンはなくなるので、伝説の舞台を観ることは永遠に叶わないかもしれない…。
父と暮せば

父と暮せば

こまつ座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2021/05/21 (金) ~ 2021/05/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ネタばれ

ネタバレBOX

まつ座の『父と暮らせば』を観劇。

広島原発で父を失い、途方に暮れる娘。
後遺症を患い、絶望している娘を元気づけようと父親が亡霊になって現れ、世話を焼くのであった…。

テーマの重さを微塵も感じさせない軽い感じの笑いや会話の節々から、被害を受けた人びと、被爆国の我々を少しづつ恐怖に陥れいく。
原発の恐怖をいかに世に知らしめるか?と問いかける父親に対して、娘は国家に対して恐怖に慄き、生き
残ってしまった己に懺悔に慄きながらも進んでいく。
原発の恐怖を知らない世代は、いかに彼女と同じように向き合っていけるかを考えなければいけない。
井上ひさしの戯曲は、演出家が変わろうが変わるまいが同じ描き方になってしまうのが特徴であり難点でもあるが、作品の見応えと何かを背負わされて劇場を後にさせてくれるのは間違いない。
こまつ座の公演は、一生に一度ぐらいは観なければいけないだろう。

注:こまつ座は、井上ひさしの戯曲のみ公演する劇団。
姿

姿

ゆうめい

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2021/05/18 (火) ~ 2021/05/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★

ネタばれ

ネタバレBOX

ゆうめいの『姿』を観劇。

一昨年の三鷹市の期待の若手劇団の公演で絶賛の嵐だったらしい。
その再演。

父、母、息子の三人の家族の話し。
両親が離婚するらしい。息子も母親の行動にはゲンナリしているので納得している様子だ。そこから父と母の出会い、更なる過去から現在に至るまでが描かれている。
今作の最大の魅力は父親役を本当の父親が演じているのだ。勿論、素人だ。今までの経験したことのない「ポツドール」を超えるリアリティーで攻め込んでくるのかと期待したが、以外や以外、構成力の巧みさ、舞台美術の扱い、小道具の見立、多数の俳優たちが同時進行で同じ役を演じたりと演劇の面白さを味わえる作りにはなっている。
ただそれは過去に観たことのある有名な劇団の特徴的な箇所とそっくりで、目新しいものではない。
特に「チェルフィッチュ」の身体表現をそっくり真似した箇所にはウンザリ。
文句は言いつつも、完成度自体は悪くないが絶賛はしない。

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