住み込みの女の観てきた!クチコミ一覧

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わが町

わが町

東京芸術劇場

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2023/01/25 (水) ~ 2023/02/08 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ネタバレ

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柴幸男(ままごと)の『わが町』を観劇。

原作はソーントン・ワイルダー
野田秀樹が立ち上げた東京演劇道場の若手公演だ。

1900年代のとあるアメリカ・ニューハンプシャーでの架空の街の物語。そこでは何気ない日常が淡々と進んでいる。事件や事故も起こらない毎日だ。
そして2023年の現代の東京では、事件や事故は起こるが、毎日の営みは100年前と一緒だ。時と場所は変われども同じように世界は進んでいるのだ…。

『わが町』というタイトルを聞くと、ままごとの代表作『わが星』を思い出すだろう。同じような視点で毎日の日常を描いている。決して『わが星』のようにグルグルと円を囲んで動き回ったりはしないが、地球の外から作家が俯瞰して見ている視線は変わりない。
各々の登場人物を俳優が人形を操りながら演じてみたりと人形劇とまでは行かないが、それに近い形で表現したり、街の風景がパズルのように組んだり崩したりと実験精神旺盛だが、奇抜に描いているように見えず、市井の人物の風景が更にやんわり見えてくるのが興味深い点だ。
この戯曲が発表された当時は何も起こらない日常を描くことがかなり革新的であったそうだが、今では平田オリザを先頭に「日常こそが大事件だ!」と描いている演劇人の多い事。
何はともあれ、不思議な体験をした夜であった…。
どっか行け!クソたいぎい我が人生

どっか行け!クソたいぎい我が人生

ぱぷりか

こまばアゴラ劇場(東京都)

2022/11/24 (木) ~ 2022/12/06 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ネタバレ

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ぱぷりかの『どっか行け!クソたいぎい我が人生』を観劇。

昨年の岸田戯曲賞受賞の劇団の新作。

あらすじ:
夫と離婚して、娘とふたり暮らしのシングルマザーのかすみ。
その事を引きづりながら、大学生の娘なしでは生きられない状態だ。
そんな中、かすみの知り合いが恋愛感情のもつれから殺人事件を起こしてしまい、
彼女たちの心境に変化が現れ始めてくるのである…。

感想:
離婚が原因で、常に何かに頼って生きる母親と逃れられない娘が描かれている。
心が病んでいながらも、かすみが仕事仲間や弟夫婦、娘などと仲良く暮らしている生活は微笑ましいが、たがが外れた場面は唖然としてしまう。だが彼女の苦しみと娘の苦悩を直に感じ取ることが出来る瞬間でもある。
離婚後、占い、スピリチュアル、潔癖、娘の溺愛など生きて行く為に何かに取り憑かなければ生き延びれないかすみと同じように、我々も何かに頼って生きているのは間違いない。その事に気づくと同時に「もし宗教が当たり前の様に周りに存在していたら、かすみも我々も少しは楽に生きられるのだろうか?」と考えてしまう作品でもある。
歌わせたい男たち【11月26日夜~12月3日公演中止】

歌わせたい男たち【11月26日夜~12月3日公演中止】

ニ兎社

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2022/11/18 (金) ~ 2022/12/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ネタバレ

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二兎社の『歌わせたい男たち』を観劇。

解説:
2005年の初演で物議を醸し出し、今回は再再演。
国歌斉唱問題が取り上げられた時期と並行して作られたので、関心度と完成度で演劇賞を総なめしたようだ。
14年たった今での受け止められ方はどうなのだろうか?

粗筋:
卒業式を2時間後に控え、シャンソン歌手・音楽教師のミチルはコンタクレンズを無くてしまいピアノが演奏出来ない状態だ。初の生演奏での国歌斉唱だ。国歌斉唱を拒否する生徒や先生が出ないことを願っている校長は、ミチルの様子伺いをする。それは昨年の音楽教師は演奏を拒否し、同じことがないことを願うばかりだ。国歌斉唱を拒否する社会科・拝島先生と校長が議論をするが平行線のままだ。彼も同じ考えを持っていたのに今では推進派だ。
そんな最中、退職した桜庭先生が国歌斉唱反対のビラを巻き、警察が来てしまいてんやわんやだ。校長はとんでもない行動に出るのだが、果たして上手くいくのだろうか…。

感想:
歴史認識を踏まえた上で国歌斉唱反対を唱える拝島先生、その内心には同調するも賛成派の校長、歴史認識すらない他の先生と関心がないシャンソン歌手がどのように変わっていくのかが鑑賞点。観客もどれだけ歴史認識があるかでかなり見方は変わってくるが、そんな時はミチルと一緒に物語に入っていけば良いのである。
物語の進行と共に理解が進んで行くと拝島先生の考えに行き着くか?校長の様に成り下がっていくか?と作家に問われるのは確実だ。そこで初めて今作への接し方が見えてきて、メッセージを受け止めることが出来る。鑑賞後の深い余韻が「我々はこれからどうするのか?」を考えるきっかけを与えてくれる。
何故、ミチルはシャンソン歌手という設定なのだろうか?
シャンソンは抵抗の歌なのである。
これこそが真のアングラである!
ぼくらが非情の大河をくだる時~新宿薔薇戦争~

ぼくらが非情の大河をくだる時~新宿薔薇戦争~

オフィス3〇〇

新宿シアタートップス(東京都)

2022/10/22 (土) ~ 2022/10/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ネタバレ

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3○○の『ぼくらが非情の大河をくだる時〜新宿薔薇戦争』を観劇。

50年前の今、作・清水邦夫、演出・蜷川幸雄、石橋蓮司、蟹江敬三にて公演された革命劇。
10代だった渡辺えりが戯曲に感激し、念願の公演を果たした。

桜の満開の森の下には武士の死骸が埋められているように、新宿の公衆便所の下には革命戦士たちが埋まっていると信じる詩人の弟。
弟を裏切りながらも庇い続ける兄と父。
彼らが生きた時代は学生運動で社会が盛り上がり、社会党の浅沼稲次郎刺殺、マラソンランナー円谷幸吉の自殺、あさま山荘事件、イージーライダー、三島由紀夫と様々な事件が流れていく最中、学生たちは何を想い考え、どのようにして革命の大河をくだっていたのだろう?
清水邦夫の戯曲には物語などなく、詩のようなセリフの数々と時代背景を比喩表現で用いることで当事者たちの心情に肉薄していく。観客は登場人物に
なかなか追いつくことが出来ないながらも、「追いつこう!」「逃さないぞ!」と舞台に前のめりになっていく。そこに蜷川幸雄のダイナミズムが追い討ちをかけ、圧倒的な興奮を得てしまうのである。
人物の内向的な部分を得意とし、そこで評価を得てきた演出・渡辺えりにはダイナミズムは期待出来ないながらも、当時の若者たちへの想いは、遥か山形県から眺めていた感覚に近いのが今作の出来上がりだ。
現代から50年前、そして現代への戻っていく終わり方は、清水邦夫の革命戯曲への新しいアプローチを発見したのかもしれない。
だからこそ今作は貴重な公演であった。
いびしない愛

いびしない愛

ばぶれるりぐる

こまばアゴラ劇場(東京都)

2022/10/13 (木) ~ 2022/10/17 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ネタバレ

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ばぶれるりぐるの『いびしない愛』を観劇。

以前から気になっていた劇団。

あらすじ:経営難で潰れる寸前の魚のふし(節)工場だが、何とか持ち堪えようと策を練っているが上手くいかないようだ。そこに障害がありながら成功を収めた長女・しおりが戻ってくる。経営を立て直すはずのつもりが、幼い頃からの姉妹同士のわだかまりが爆発してしまうのであった…。

感想:全編通しての高知県土佐清水市の方言・幡多弁で、ふし工場の事務所のみで展開される背景はゾクゾクするが、時間が経てどなかなか物語が見えてこない。姉妹の確執が問題だと分かってきた辺りで大きく動いてくるかと思いきや、それもあっさり解決してしまう。
泥棒の存在も物語を掻き回すだけの存在だった。
田舎の見慣れない職場での風景を描きたかったのか?
だが物語を期待させるような展開にしている。
何故だろう?
不完全燃焼の時間を過ごしたようだ。
一度しか

一度しか

ほりぶん

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2022/09/29 (木) ~ 2022/10/10 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ネタバレ

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ほりぶんの『一度しか』を観劇。

今作は三鷹市芸術文化センターの期待の若手劇団シリーズだ。
ほりぶんはナカゴーから派生したユニットのようだ。

北区の団地では老人たちが週一に来る野菜販売を楽しみに待っている。世間話に花が咲きワイワイガヤガヤしているが、どうやら到着が遅れているようだ。そこに「団地内で幽霊が現れる?」という情報を聞きつけ、老人たちは慌てふためいてしまうのだが…。

川上友里、墨井鯨子、上田遥の三人が揃うだけで価値が高い公演だが、まさかの大傑作であった。今までに全く感じたことのない面白さと興奮を得たのも大収穫だ。演出、戯曲の出来もそうだが、それを大きく膨らませる女優陣のすごいのなんの。ナカゴーはあまり引っかかってこなかったが今作は抜群だ。過去作の評判を聞くと同じような面白さを秘めていて、偶然の傑作ではないようだ。
これは後追い決定な劇団である。
女優陣の破壊力は抜群だが、墨井鯨子の破壊力は震えてしまう。
今年一番のお勧めである。
영(ヨン)

영(ヨン)

玉田企画

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2022/09/23 (金) ~ 2022/10/02 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ネタバレ

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玉田企画の『영(ヨン)』を観劇。

この劇団を見始めてやや10年くらいだろうか?小さいな劇場からスタートして、やや遅いきらいはあるもののやっと池袋シアターイーストに登場だ。

あらすじ
脚本家のマリカは韓国ドラマが好きでしょうがなく、それ故か彼女が描くドラマは常にバイオレンスに展開してしまう。一発奮起して恋愛ドラマを書いてみるがどうやらそれも怪しい感じだ。
そこに彼女にしか見えない韓国人の殺し屋の少女が現れてくるのだが…。

感想
他者との関係で互いに触れたくないものをやや強調しつつ、場を可笑しな空気にしていく上手さは抜群で常に観たくなる劇団だ。
物語らしい展開はなく、話の辻褄があっていようがなかろうがその場の空気が物語を凌駕してしまう瞬間は最高で、そこに喜びを感じる事が玉田企画の魅力である。
だが今作では空気より物語を優先してしまった為か、話の辻褄が合わないのは何故?という疑問が湧き出てしまったようだ。それを空気という武器で回収してくれれば良いのだが、叶わずという感じだ。今までは狭い世界での出来事だったので功を奏したが、世界を拡げるとこのような結果になるのかと思ってしまったが果たしてどうなのだろう?
ただ要所要所で玉田節で爆笑し、長井短の100連発セリフ攻撃は最高だし、常連俳優は楽しい。大好きな李そじんも出ている。伊藤修子という俳優を発見したのも見逃せない。
Show me Shoot me

Show me Shoot me

やみ・あがりシアター

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2022/09/02 (金) ~ 2022/09/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ネタバレ

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やみ・あがりシアターの『Show me Shoot me』を観劇。

三鷹市芸術文化センターの期待の若手劇団の公演である。

常に漫才の掛け合いしながら生きている花形夫婦。
互いの呼び方は相方である。全く面白くないながらも彼らは満足しているようだ。
だがある日、隣りに越してきた大阪人の夫婦の何気ない会話の掛け合いに愕然としてしまうのであった…。

社宅での物語だ。
近所同士のお付き合いや会社の同僚などとの出来事を、大した物語もなくサラリと描いている。
演劇特有のテーマらしきものすらなく「こんなので2時間の上演時間は持つのか?」と思いきや、捉えどころないままあっという間に終わってしまった。退屈することすらなく、不思議な時間が過ぎていったようだ。
80年代小劇場では考えられない作風だが、その時代を沢山観ていたからこそ、こんな作りが新しく感じられた劇団である。
cocoon【7月12日~17日公演中止】

cocoon【7月12日~17日公演中止】

マームとジプシー

彩の国さいたま芸術劇場 大ホール(埼玉県)

2022/09/02 (金) ~ 2022/09/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ネタバレ

ネタバレBOX

マームとジプシーの『cocoon』を観劇。

今回は再再演。

戦争が始まっても沖縄の少女たちはのんびりだ。
「明日は何をしよう?」「どこでブラウスを買うか?」と毎日が夢一杯だ。そんな彼女らも野戦病院に駆り出されるが、そこで見るのは地獄絵図だ。危険が迫りガマへ移動するも、そこすらも時間の問題だ。
戦況が悪化の為「各々で逃げて生き延びなさい」と通達が出るが、外は米兵だらけだ。彼女のたちの運命は一体どうなるのだろうか?

初演と比較にならないほど今作から彼女たちが受ける惨さが身に沁みるてくる。兵士に犯される者、自害する者、生きることを諦めてしまう者。
前半にたっぷりと描かれる少女たちの無垢さにはややうんざりしてしまうが、後半に地獄を体験していく彼女たち。そこから楽しい思い出が何度も交互しながら天国と地獄を描いている。
必要なまでに反復を用いるのはマームとジプシーの技だが、反復方法がこれを程までに記憶に残る表現方法だったとは、明らかに映像より上を行っている。
勿論、反戦を込めて…。
あつい胸さわぎ

あつい胸さわぎ

iaku

ザ・スズナリ(東京都)

2022/08/04 (木) ~ 2022/08/14 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ネタバレ

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iakuの『あつい胸さわぎ』を観劇。

夫と離婚後、娘をひとりで育てた母・昭子は、娘・千夏の芸術大学の入学に喜んではいるが、「学費が高い!」「将来は大丈夫なのか?」と嘆いている。
幼馴染の光輝も同じ大学へ進み千夏の恋心が芽生え始め、昭子も会社の上司に関心へ持ってしまい、貧しいながらも親子は幸せな日々を過ごしている。
そんな最中、千夏の大学での健康診断が再検査になってしまい、親子の人生を揺るがす出来事が起こってしまったのである…。

胸をモチーフにした内容で、日常の中に突然に迫ってきた死をどのように選択していくか親子の葛藤が描かれている。
少女の頃、胸の膨らみを好きな男子にからかわれた瞬間、初めてのブラジャー、恋心を抱いた時の胸さわぎ、希望の道に進める胸いっぱいの気持ち、19歳での乳癌と胸のエピソードからこんな物語を作れ、作・演出が男性とは驚きでもあるが、年齢、男女問わず、微妙な感情を描くことを得意とするiakuは今作でも完成度は高く、戯曲と演出力は本物である。毎作ごと、飽きることなく、観客の満足度は常に高い。
先日観劇した野田秀樹も良いが、こちらも同等に素晴らしい!
お勧めである。
『Q』:A Night At The Kabuki【7月29日~31日公演中止】

『Q』:A Night At The Kabuki【7月29日~31日公演中止】

NODA・MAP

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2022/07/29 (金) ~ 2022/09/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ネタバレ

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野田マップの『Q : A Night At The Kabuki』を観劇。

ロミオとジュリエットを下敷きに、音楽はクィーンを使用し、英国尽くしの内容になっている。
再演。

12世紀の源平合戦の平の瑯壬生(ろうみお)と源の愁里愛(じゅりえ)の愛の物語で、もし彼らが若くして死なずに生き延びていたなら?という過程で展開していく。
第一幕はろうみおとじゅりえの出会いと死までが描かれているが、隣で30年後のろうみおとじゅりえが「何処で我々は間違いを犯してしまったのか?」と記憶をだどりながら若い時分の自分たちを見ている。
第二幕は生き延びて苦労しているろうみおとじゅりえを30年前の若いふたりがそれを見守っている。
時間と場所、過去や未来が瞬時に逆転したり、若いろうみおとじゅりえと30年後のろうみおとじゅりえが出会ってしまったりと大胆な発想と展開、見立て、言葉遊び、クィーン、歴史観ともう野田秀樹満載で十分面白い!と思ってしまいがちだが、ここ数十年の野田秀樹にはそんなに生やさしい演劇観はない。ここで描かれるのは戦争と政治だ。
独裁者がどのようにして民衆を足蹴にするのか?
戦争を戦っている名もなき兵士たちは?
それに苦しむ市民たちは?
まるでロシアとウクライナの戦争が始まったのでそれを機に再演をしたわけではないが、あまりにもタイムリーな内容だ。
シェイクスピアのロミオとジュリエットは究極の愛の物語として語られ、そこを軸に様々な演劇人が再構築しているが、ふたりの仲は何故引きさかれたのか?の箇所を見逃してはならない。その答えこそがロミオとジュリエットの本来のテーマであり、今作の見どころだ。
そこに行き着かなければならなかった劇作家・野田秀樹の苦悩とじゅりえ(松たか子)の涙が交差する。
大傑作である。
ディグ・ディグ・フレイミング!

ディグ・ディグ・フレイミング!

範宙遊泳

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2022/06/25 (土) ~ 2022/07/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

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範宙遊泳の『ディグ・ディグ・フレイミング〜私はロボットではありません〜』を観劇。

10年以上前に期待の若手劇団として注目を浴び、映像、舞台セット、照明を多用して現代社会に警告を鳴らしていたが、演劇的な面白さが欠けていたのだろうか?それほど人気には至らなかった。
だが昨年に岸田戯曲賞を受賞して、これから一気に飛躍する劇団と思われる。

人気のユーチューバー集団は如何に視聴者数を上げるか?を苦心する中、誹謗中傷、炎上などに敏感になりながらも、あの手この手で電脳の世界を徘徊している。
そんな最中、記憶にない事件の被害者の家族が乗り込んできて、ユーチューバー集団が窮地に追い込まれしまう….。

電脳の世界なしには生きていけない我々は、ネットの書き込みの誹謗中傷で病気になったり、死まで選んでしまう中毒者は多数だ。
誰もが簡単に電脳の世界で泳ぐ事が出来、それに伴う危険と楽しさは紙一重だが、自分の意志とは無関係に広がってしまう恐怖に警告を鳴らし、どのようにして生き抜いていくか?と言うメッセージが語られている。
言葉にしてしまうと立派なが、それに相反する熱苦しい俳優陣の演技と馬鹿馬鹿しい小道具使いと笑いがテーマの深刻さを助長する。そこに好き嫌いが分かれそうだが、深刻な社会問題を問うているのは間違いない。
李そじんと村岡希美の共演はファンには堪らない。
飛龍伝2022〜愛と青春の国会前〜

飛龍伝2022〜愛と青春の国会前〜

★☆北区AKT STAGE

紀伊國屋ホール(東京都)

2022/05/20 (金) ~ 2022/05/24 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

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つかこうへいの『飛龍伝2022』を観劇。

このシリーズは富田靖子、黒木メイサ、桐谷美玲バージョンを観ているが、今作は北区AKTステージの井上怜愛が神林美智子役だ。
誰が演じようと筧利夫と富田靖子を超えないと観客は納得しないが、それを覚悟で紀伊國屋ホールで演出を担当する元アイドルの錦織一清には敬意を表する。

始まりから『初級革命講座』を色濃く出してくる展開はつかこうへい版との違いを明確に打ち出してきていて、学生vs機動隊の戦いはミュージカル仕立てで攻めくる辺りは後の展開に期待してしまう。
前半の神林美智子、機動隊隊長・山崎一平、全共闘リーダー桂木順一郎の三角関係の恋愛模様がただの流れにしかなっておらず一気にトーンダウンしてしまうが、神林美智子が機動隊の情報を盗み出す為に山崎一平の妻になる下りから愛の育みを焦点に持っていき、一気に絶望まで持っていく流れはお見事であった。一瞬ではあったが、つかこうへいを凌駕したのではないか?とも思えてしまった。
筧利夫、神尾佑とまではいかなくとも、肉体美と機関銃連射攻撃の早口セリフ回しを難なくこなしている一色洋平には大満足だ。
勿論、時事ネタは満載で、沖縄問題、ロシア戦争、日大問題、VAN
ネタはファンを喜ばしてくれるが、太陽にほえろネタは無意味であった。誰も気が付かないと思うが、日大農獣医学部ネタは最高であった。

実在した樺美智子の死は学生運動中の転倒が原因の圧死となっているが、実は機動隊に意図的に殺されたのである。
国家は何故、彼女を殺したのか?
彼女がジャンヌダルクになるのを恐れたからか?
もっと他にも強力な学生運動のリーダーがいたのに、なぜ彼女を殺したのか?
それは彼女は共産主義者で、学生たちに共産主義が蔓延するのを国家は恐れたからである。
だから樺美智子殺されたのである…。
秘密

秘密

劇団普通

王子小劇場(東京都)

2022/04/20 (水) ~ 2022/04/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ネタバレ

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昨年の『病室』に続いての観劇で、全編茨城弁である。

老夫婦が暮らす一軒家では娘が父親とたわいもない会話をしている。
母親が入院しているので認知症気味の父親の面倒を娘(由紀)がみている。母親が退院するも今まで通りの生活を送るのは困難なようで、既婚者の兄と相談するも、公共のサービスを使うか?施設に入れるか?と両親の問題には関心がないようだ。
娘(由紀)への負担が一気に増えるなか、親の面倒も限界にきてしまっているなか、由紀はどうなっていくのだろうか?


これほど恐ろしい身近な題材を何気ない風景として描いた劇作家は過去にいただろうか?
向田邦子を感じさせる市井の何気ない話と思わせるも、そこには主人に刻々と迫ってくる逃げられない不安と恐怖と絶望が描かれている。
誰も抱える高齢の両親の問題は避けては通れないが、自分自身で面倒をみるか?高額料金を払って施設に預けるか?姥捨山に捨てるか?はたまた両親と心中するか?とたったこれしか選択肢がないのは既成事実だ。
現在、自分も同じ環境に置かれているが、今作をまるで他人ごとの不幸な出来事して観劇している自分に呆れてしまうが、それほどまでに完成度が高いということだ。
地味ながら傑作が生まれたようである。

今作で二作目の観劇だが、この劇団から当分逃れられないようだ…。
「流れる」と「光環(コロナ)」

「流れる」と「光環(コロナ)」

劇団あはひ

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2022/04/03 (日) ~ 2022/04/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ネタばれ

ネタバレBOX

劇団あはひ『流れる〜能 “隅田川より”』を観劇。

隅田川のほとりで渡し船の出発を待っている松尾芭蕉と弟子がいる。
側には乗船チケットを買い損ねた女性もいて、船頭の息子アトム(ロボットの様な少年)が母親を探し回って辺りをウロウロしている。
どうやら隅田川ではこの時期に子供が二回も亡くなっているようだ。
さて船は何時出発するのだろう?

能の隅田川を下敷きに、鉄腕アトムと松尾芭蕉という奇妙な顔合わせで物語が進んでいく。女性は隅田川の役どころの狂女であり、隅田川で亡くなった子供を船頭がロボットとして生き返らせ、アトムは女性が失った子供の生写しの様だ。
様々な人物と能の融合?という点は興味深いが、隅田川という物語を知っていれば展開を掘り下げられたのだが、全く知らないのだ。
能と鉄腕アトムと松尾芭蕉の知識がないと単なる会話の風景を見ているにしか過ぎないと思う観客は沢山いただろう。着眼点は面白いのだが物語でしか叶わない人物の融合が「ただ出会っただけ?」になっている。
その出会いで何かを読み解くのが観客の役目?とも言っている様だが、それは劇作家の役目でしょう。
比較するのはナンセンスだが、源氏物語の六条御息所を下敷きにした野田秀樹「ダイバー」第七病棟「ふたりの女」の衝撃を思い出してしまうのは今作の不満の現れだ...。
是でいいのだ

是でいいのだ

小田尚稔の演劇

SCOOL(東京都)

2022/03/11 (金) ~ 2022/03/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ネタばれ

ネタバレBOX

小田尚稔の『是でいいのだ』を観劇。

昨年の岸田戯曲賞候補の劇団。

就職活動中のある女は新宿で震災に遭い帰宅難民になってしまう。
彼女の両親は震源地のそばに住んでいて、連絡が全く着かないようだ。
自宅は遥か遠い国分寺だが、徒歩で帰宅する決意をする。
他にも都内で離婚協議中の夫婦、引きこもりの少年、仕事に疑問を持っているOLなど、震災時のその瞬間と数年後の話しを描いている。

今作の興味深いところは、ある女が震災の瞬間から国分寺の家に着くまでの時間を描いているのに対して、他の人たちは震災時から数年後までを描いている。
ある女の時間と他の人たちの時間を対比として描き分けているのが狙いで、観劇中に「それは何故?」と思い続けなければ意図は掴み取れない。それは震災の被害をまともに受けた家族、親族、友人などは、あの瞬間から時間が未だに進んでいないという表れで、他の人たちは過ぎ去った時間として描いている点だ。
人によって時間の進み具合はそれぞれだが、不幸が訪れてきた人は時間の感覚までが変わってしまうという事を教えてくれる。
この時期に合わせての公演だが、新たなる表現方法で震災を思い起こされる戯曲は抜群だが、演劇を観に来ているのに朗読劇のような見せ方では、観客にテーマの深さを呼び起こさせるにはやや難しいような気がする。ちょっと残念であった。
保健所番号13221

保健所番号13221

東葛スポーツ

シアター1010稽古場1(ミニシアター)(東京都)

2022/02/23 (水) ~ 2022/02/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ネタバレ

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東葛スポーツの『保健所番号13221』を観劇。

初見の劇団で、昨年の岸田戯曲賞候補劇団。

次回公演の戯曲は未だに書けず、悶々としてい劇作家が突然コロナにかかってしまう。
さて、どうするのか?


俳優がマイクを持ちながら、全体の2/3をラップをしながら演じている。大きい音と共にラップで語られるからか、社会の鬱憤や不満が感情を刺激する。
あのチェルフィッチュか?バナナ学園純情乙女組か?と勘違いしてしまうぐらい鮮度は新鮮だ。
ラップを武器として演劇を作っているので、俳優が話す言葉の重さはテーマと深く重なってはくるが、ラップ特有の一方的に主張を吐き出す手法は観客が妄想する瞬間すら奪ってしまう。
「観客はなぜ演劇を観に行くのか?」
「それは妄想をする喜びを得るためである!」
寺山修司、チェルフィッチュ、バナナ学園純情乙女組が登場した瞬間の「これは演劇なのか?」という衝撃度を感じたのは間違いない。
ただ今作は決して誰にも薦めない演劇である......。
天日坊【2月25日-26日公演中止】

天日坊【2月25日-26日公演中止】

松竹/Bunkamura

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2022/02/01 (火) ~ 2022/02/26 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ネタバレ

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コクーン歌舞伎・最終公演「天日坊』を観劇。

シアターコクーンが長期休暇に入るので、コクーン歌舞伎はこれで見納めであろう。

孤児の法策(中村勘九郎)は女性にだらしない観音院のもとで坊主の修行見習いをしている。ある寒い晩、世話になっているお産婆に酒の差し入れを持って行くと、ある事実を聞かされる。それは彼女の孫が源頼朝の落胤で、お墨付きを持っているという。法策は迷いながらも産婆を殺め、お墨付きを手に入れ、自分が源頼朝の落胤になろうと決意する。
逃げる法策、途中の河原で小作の男と服を取り替えるがその男も殺めてしまい、自分は殺されたという事にしてしまう。
道中、鎌倉幕府討幕を狙う地雷太郎(中村獅童)と一悶着あり、彼の連判状とお墨付きが入れ変わってしまう波乱はあるが、法策の腕についているアザが木曽義仲の嫡子であることが分かり、法策、地雷太郎、盗賊・人丸お六(中村七之助)の三人は意気投合し、鎌倉幕府倒幕を誓うのであった。
法策は天日坊を名を変え、地雷太郎と人丸お六の三人で源頼朝に接見し「天日坊は源頼朝の落胤である」と名乗り出るが、厳しい追及のもと天日坊が動揺してしまい、嘘が見破られ大立ち回り最中、天日坊だけが生き残るのであったのだ…。

簡単に粗筋を述べてはいるが、法策の奇怪な波乱万丈の人生物語と言っても良いだろう。ちょっとした偶然が法策の人生を変えてしまうが、彼が決して望んでいたのではなく、そのただ波に乗ってしまったようだ。
だがその法策もお産婆を殺めた瞬間、お墨付きを得た瞬間、自分の存在を消した瞬間、幕府倒幕に加担した瞬間、そして源頼朝に接見した瞬間など、常に苦虫を噛んだような表情をしていて「自分がこれを本当に望んでいたのか?」という疑問を常に唱えている。
一幕の終わりに法策が「俺は誰だあっ!」叫ぶ場面があり、今作は最後のコクーン歌舞伎のフィナーレに相応しい己の探究の物語なんだなぁと思わせるが、これは演出家・串田和美の罠で、法策の煮え切らない後味の悪さを観客は終始感じ続けるのである。
こんな毎場面、毎場面、主人公の後味の悪さが続く芝居はかつてあっただろうか?
しかしこの串田和美の罠がとある瞬間に破られるのである。
果たしてそれは何時なのであろうか?
観劇した者のみ答えを知るであろう。
その答えを知った観客は劇場を出た瞬間に問いたくなるのである。
「串田和美、貴方こそ何者なのだと?」
傑作である。
チェーホフも鳥の名前

チェーホフも鳥の名前

ニットキャップシアター

座・高円寺1(東京都)

2022/01/26 (水) ~ 2022/01/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ネタバレ

ネタバレBOX

ニットキャップシアターの『チェーホフも鳥の名前』を観劇。

初見の劇団で、2020年の岸田戯曲賞ノミネート作品。

舞台はサハリン(樺太)。
1890年から1980年までのサハリンで生きつづけた市井の人々の話。
日本、ロシア、韓国の人々が、近代以前はどこにも属していなかったサハリンで、国家間の争いに翻弄されながら生き永らえる。
ただ描かれる人達から悲壮感は感じられず、時代に身を任せながら、波に溺れる事もなく、多民族国家を行き来しながら時が進んでいく。
歴史的背景は決して明るくなく、生き続ける事には厳しいものがあったにも関わらず、作家の登場人物たちへの眼差しは優しい。
国家同士の分断が現代社会の最大の問題ではあるが、このサハリンでの多民族間の生き方こそが今の世界に必要ではないか?と劇作家とチェーホフは叫んでいる。
そして誰も取り上げた事のないサハリンという島と人々の歴史を取り上げた事が目玉だろう。
今作を演劇作品としてはお薦めはしないが、劇作家の静かな声を我々は聴かなければいけないだろう。
だからビリーは東京で

だからビリーは東京で

モダンスイマーズ

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2022/01/08 (土) ~ 2022/01/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ネタバレ

ネタバレBOX

モダンスイマーズの『だからビリーは東京で』を観劇。

追い詰められた状況を苦しみながら打破していく人たちを描いている劇団で、多額の現金を偶然に手にしてしまった若者たち(夜光ホテル)、血脈の呪縛から逃れらない家族(まほろば)、世話になったボスから離れられない青年(凡骨タウン)、学校のクラス内での格差(昼下がりの思春期たちは漂う狼のようだ)
誰にでも起こりうる出来事を、狭い環境設定で追い詰めていくのが作・演出の蓬莱竜太の世界観だ。

今作では全く人気がなく将来の見込みのない劇団が、コロナという追い討ちにどのように立ち向かって行くか?の今が描かれている。
過去の傑作群は創作された世界観として、すんなりと内容に没入する事が出来、登場人物に共感することが出来たが、今作は世界で起きている光の見えない遠い出口とモダンスイマーズが演劇活動を継続していく困難さを重ね合わせている。
常に新作を追っかけていたファンとしては今作に居心地の悪さは否めないが、作家も観客も結に何も見出せないでいるからだろう。
今まのモダンスイーマズとは明かに違い、過去作を見続けているものとしては完成度には不満だが、世界の危機的状況の今を直ぐ様描ける演劇の強みと作家の突破しようとする試みには敬服する。
モダンスイマーズの今を知るにはもってこいの作品である。

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