kikiが投票した舞台芸術アワード!

2016年度 1-10位と総評
「江戸系 諏訪御寮」「ゲイシャパラソル」

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「江戸系 諏訪御寮」「ゲイシャパラソル」

あやめ十八番

2本立て公演でどちらも思い入れがある作品だが、自分としての1位は『ゲイシャパラソル』。バイリンガル(日本語と中国語)な猫を語り手に配して、近未来の深川芸者と傘職人の恋を縦糸に、政治や国や名前(というかアイデンティティ)、親子や夫婦の情、その他様々な要素を横糸に編み込んで、色鮮やかな世界を立ち上げていた。2面舞台や通路を生かした演出も、個性的なキャスト陣も、和の印象を加えたあやめ十八番名物の生演奏も、ゾクゾクするほど魅力的だった。

ムーア

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ムーア

日本のラジオ

児童連続殺人犯であったカップルとその2人の言動を細かに夢想する漫画家。漫画家の周囲の人々もそれぞれ社会的に容認されないであろう嗜好や欲望を抱えている。独特の雰囲気の中でそれぞれ2つの役を演じ分けてみせた4人のキャストが魅力的だった。脚本や演出はもとより、美術、照明、パンフレットに至るまで表現に抑制と諧謔が効いて、しんと張り詰めた濃密な緊張感が印象的だった。

この町に手紙は来ない

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この町に手紙は来ない

monophonic orchestra

200年以上の年月にわたる小さな町の興亡を、少人数のキャストで描くクロニクルであり、ある種の贖罪の物語でもあった。人々がそれぞれの罪を背負いながら生き続けていく姿を柔らかく描きつつ、罪の象徴とも言えるある種の欠落さえ、責めるのではなく、罪も含めて生きることを肯定しているように感じられた。ずっと昔読んだ懐かしい小説のような、セピア色に染まる遠い思い出のような、そういう舞台だった。

げんない

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げんない

わらび座

愛媛と秋田でそれぞれ1年近くロングラン上演されてきた舞台が、全国ツアーに向け、パワーアップして帰ってきた。ツアーならではの物理的あるいは時間的な制約もあるはずだが、かえってギュッと濃縮された印象となった。観る人の関心を惹きつけようとする工夫やテンポの良さがこれまで以上に際立ちつつ、魅力的な座組がキッチリと独特の世界観を立ち上げていて、自分としても2016年に最も追いかけた作品となった。

15 Minutes Made Volume14

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15 Minutes Made Volume14

Mrs.fictions

東京の小劇場界隈の今を映し出すショーケースイベントとして、回を重ねてきた『15 minutes made』。いつもながら、いえ、いつも以上に振り幅の大きい作品が集まりつつ、観終わってみればどこかまとまった印象になるのが不思議。6作品の中でも、初見だった日本のラジオの精密かつ濃密なホラー『ハーバート』が超ツボに入ったのと、ラストを締めくくった主催団体Mrs.fictions『上手も下手もないけれど』の充足感と完成度が特に印象に残った。

無情

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無情

MCR

絶望的な立場の女性2人のストーリーが交差しつつ物語は進むのだが、2人を取り巻く登場人物の言動が、身勝手だったり非常識だったり厚かましかったりし過ぎて、その理不尽さについ笑ってしまう。ふたつの物語はゆるくつながりつつ、状況はどんどん絶望に向かっていく。しかし一方で、破天荒に見えた人々の柔らかな心のひだが感じられてきて、序盤の笑いとは違う、何か切実な想いが観る者の胸を満たし始める。絶望的な状況の中で人々がポツリと見せる、心の芯のところにあるピュアな何か。そしてそれが確かに愛する相手に伝わっているのだと思える静かな救い。思い返すと、今もまだ言葉にならない想いが胸を満たす。

燦々

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燦々

てがみ座

葛飾北斎の娘 お栄を軸に描く、父と娘、師匠と弟子、妻と夫、女と男、そして人間の物語。シンプルな舞台の上で、竹竿と白く透ける不織布を使って江戸の人々の暮らしを生き生きと描き出していく。長田育恵さんの脚本の確かさはもちろん、それを立体的に立ち上げていく扇田拓也さんの演出がとても好みだった。いま私が観たかったのは、こういう芝居かもしれない……観終わると同時にそんなことを思った。

彼の地

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彼の地

北九州芸術劇場

ひとつの街で、何組かの人々の間で起こる出来事を描いたいくつもの物語が、繋がったり繋がらなかったりしながら進んでいく群像劇。それぞれの場面で人々が見せる切実さや、シチュエーションや人々の関係が絶妙で、誰もが結局は居場所を求めるのだ、と思えて切ない。どこにいてもいいのだと、ただ生きてさえいてくれれば、君の好きな場所で生きていけばいいのだと、最後にそういう言葉が登場人物だけでなく観る者の胸にも小さな灯をともすように感じられた。

夢の劇 -ドリーム・プレイ-

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夢の劇 -ドリーム・プレイ-

KAAT神奈川芸術劇場

美しいものを観た。久しぶりに、そんなふうにシンプルに感じられる舞台だった。遠い昔どこかで観た絵画のような物語。その非現実感を醸し出しているのは、逆説のようだけれど生身のダンサーたちだったかもしれない。ありえないくらいしなやかな身体が物語を牽引していく。キャストもそれぞれ味わいのある演技で物語によく似合っていた。詩的な言葉に満ちたどこか懐かしい物語。それを彩るしなやかな舞踏と生演奏。描きだされた世界に浸って、しばし日常を忘れた。

恐怖時代

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恐怖時代

花組芝居

凄惨な悲劇を、様式美と遊び心で夏の夜にふさわしい美しい舞台に仕立てた。浴衣姿でメイクもなし、舞台も蚊帳をひとつ吊っただけのほぼ素舞台。そういうシンプルな道具立だからこそ、キャスト陣の大人の余裕と艶やかさが際立ったのだという気がする。

総評

初めて拝見した団体も多く、上記10作品以外にも1位に選びたいくらい面白い芝居がいくつもあって、いい観劇ができた年だったように思う。

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