ミスターの観てきた!クチコミ一覧

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兎座

千本桜ホール(東京都)

2017/12/05 (火) ~ 2017/12/10 (日)公演終了

満足度★★★★

10日夜、知人で役者の古川奈苗が同世代の役者・野崎亜里沙&藤原珠恵と組んで結成した演劇ユニット兎座の旗揚げ公演千穐楽を観てきた。場所は,学芸大学駅近くの千本桜ホール。

作と演出は、兎座メンバーの藤原珠恵が担当。
舞台は、「高校を卒業して30歳を迎えた年に、演劇部のメンバーに同窓会の招待状が送られてきて久しぶりに再会する。しかし、それは演劇部でいじめられてた部員による、いじめていた部員に対する復讐劇の始まりであった。そして舞台は現役高校生時代の演劇部でのいじめの実態の再現を経ていざ復讐に・・・」という内容の劇を演じようとしてい
る高校生の演劇部員達の談笑で、幕を閉じる。手に汗握るというかドキドキさせられる復讐劇が最後には架空の舞台なんだよという設定にはなかなか感心。いや、この暗い内容の舞台をどう収めるか、観ていて気になったからだ。ただ、最近観た劇団時間制作の作品でも高校でのいじめ問題が取り上げられており、高校の思い出として「いじめ」がそれほどインパクトのあるものなのかと改めて考えさせられた。まぁ、もっとも高校時代を舞台化しようとしたとき、印象に残るというか舞台化しやすい題材なのかもしれないが。

役者は、いじめ役の古川奈苗の演技には凄みがあって秀逸。目つきがいじめ役になりきっていた。正直言って、他のメンバーには振り当てられた台詞がちょっと弱いところもあって、熱演は認めるのだが古川に続く抜きん出た役者というのは見当たらなかった。敢えて言えば小林愛里か。
今回の作品は兎座メンバーのものであり、この先も兎座として作者を固定化またはメンバーでの持ち回りにするのであれば、脚本家としてのメンバーの成長が兎座というユニット自体の成長に繋がるといって過言では無いだろう。

ちなみに、今回の公演では日替わりでゲストが出演。自分が観た千穐楽には沢井美優が出演していた。

兎座の真価は、数回公演を重ねることで定着してくることだろう。

春雨の降る夜に

春雨の降る夜に

ユーキース・エンタテインメント

浅草三日月座(東京都)

2015/03/09 (月) ~ 2015/03/15 (日)公演終了

満足度★★★★

人間と霊の複雑かつ楽しい関係
9日夜、浅草三日月座で上演された四宮由佳プロデュース公演vol.3『春雨の降る夜に』を観てきた。この三日月座というのは実際にキャバレー?として使われている(た)ハコで、この日の舞台内容が閉鎖されたキャバレーの入った古いビルというでの出来事というのに合わせた会場選定であったようだ。出かけたのは、出演者の1人に知人の若林美保がいたからであったが、製作がユーキース・エンタテインメントでもあったから。過去の経験からいって、田中優樹が代表のこの会社が関わる舞台にハズレが無いという安心感というか信頼感があったからでもある。

さて、物語の舞台は古いビルの中にある閉店して長い年月を経たキャバレーの店内。使っていないにもかかわらず、人の気配がしたり電気がついていたりというのに不安を感じた女オーナーの佐藤が、知り合いの刑事に真相の究明を相談したのが話の始まり。この古キャバレーには仲の良い2人の自縛霊が住み着いていたり、ホテル代を節約したいカップルが忍び込んで楽しんでいたりという実態があきらかになり、オーナーは除霊師を雇ってキャバレーの除霊に乗り出そうとしたことで事態が動き出す。除霊師の背後霊を通してキャバレーの自縛霊の1人がオーナーの親友であったこと、自縛霊の2人が実は親子であったことが明らかになると同時に、このビルの相続権を取り戻そうとオーナーに近づいた元オーナーの親類2人(オーナー経営の会社のスタッフと店への不法侵入者)に、現オーナーが夫に近づいたのは、自縛霊になっている親友を交通事故に合わせた犯人がその夫であり復讐のためであった事を告白する。

現実の人編関係に霊魂の人間関係まで絡んだ面白い設定。しかも、霊の姿や話し声は現実の人間には聞こえにというのが、舞台内容を想像以上に膨らませる要因となっていて、その着眼点には恐い入りました。
実際は90歳を超えながら若さと美貌を保っている現オーナー佐藤役を演じた若林美保は台詞も多い重要な役をこなしつつ、刑事とのコミカルな演技もみせてくれた。親友だった今は自縛霊のマユ役四宮由佳と実は彼女の子供だった同じく自縛霊のミユ役朝倉千賀は、セクシードレスがお似合いの正にキャバ嬢役にハマっていて良かったですね。刑事とその後輩の巡査との漫才のようなやりとりもなかなか見応えのあるあるものだった。残念だったのは、彼女に近づいた元オーナーの親類2人の役柄というか設定が中途半端であったことと、取り戻すための画策というものが殆どなかったので、身元が明らかになった時のインパクトが弱かったこと。あと30分ほど時間をかけてこの2人に何かをさせたら、全体のストーリーに起伏と締りが出来たのではないかと思う。

あめの声、なつの唄。

あめの声、なつの唄。

チークパイ

【閉館】SPACE 梟門(東京都)

2017/08/22 (火) ~ 2017/08/27 (日)公演終了

満足度★★★★

女優・傳田圭菜と藤木蜜によるユニット・チークパイの第1回公演を観に行った。今回は、本公演『あめの声、夏の唄。』(上演時間80分)と、スピンオフ公演『とびらの物語』(同・30分)の2本立て。脚本はどちらも加藤英雄、演出うえのやまさゆり。出演の田中淳之とはゴールデン街でのリアル関係。傳田は激バス・梁山泊・リトルシアターで観るし、リトルシアター関連としては、藤木、福田も。脚本の加藤もリトルシアター関連(それとGフォース)だし、演出のうえのやまは激バス関連。出演者や脚本・演出で、一度は観たことのある役者がこれほど多く集まっている公演は初めてであった。


さて、本公演の舞台はとあるレストラン。今は亡き父親の命日に、近親者や父親の知人達がゆかりのあるレストランに集まることが毎年恒例となっていたのだが、参加者は年々減り、今はほぼ家族だけしか集まらなくなってしまった。そんな家族の3兄弟のうち、結婚している長男一家はこの行事を今年で辞めようと言い出そうと思っている。長女は毎年連れてくる恋人が異なり、今年も去年とは別人を! 主役である次女は父親の好きだった唄を口ずさみながら1人無口で店内にいる。その3兄弟で今後の命日の集まりについて論議している最中、父親の関係者で今日遅刻している母親と会ってきたばかりという謎の男がレストランに現れる。兄弟達は「父親の隠し子では?」と疑いつつ、母親のいる近所の喫茶店に向かう中、次女だけが、その男が過去から時空移動してきた若き日の父親であることに気づく。若き父と、娘との間で交わされるつかの間の会話。男(つまり父親)も娘も、幸せを感じる一時。そして、命日にみんなが集まってくれることを喜ぶ男と、この先も集まりを続けようと決心する次女に別れの時が訪れる。

主人公である次女を演じた傳田の熱演をまず褒めるべきであろう。長男役の野村知広、長女役の藤木蜜、男(父親)役の田中惇之んもなかなか見応えの演技をしていた。長女の元恋人役・中谷中と現恋人役の石塚義高、レストランのマスター夫人役の松田かほりも良い味を出していた。
肉親、近親者が時空移動して過去や未来に行い、行った先で会いたい肉親に会い交流を深めるという内容は、なかなか見応えがある。こうした内容では、今年小説と舞台で話題の『コーヒーが冷めないうちに』があるが、そこでの主人公は時空移動する側。本作では、時空移動されて過去の人物に会うことになる現在の時空に生きる次女がメインの話。
演ずる役者だけでなく、脚本も演出も適度な質感を保っていて観やすかった。
今後のこのユニットの活動が楽しみである。


なお、スピンオフ公演は、本公演で父親そして次女が歌っていた歌にまつわる昔話を再現したもの。やる方次第では、これは凝縮版にして時間的に余裕のある本公演の中に組み込むことが出来たかもしれない。

the Answer

the Answer

FUTURE EMOTION

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2016/09/15 (木) ~ 2016/09/19 (月)公演終了

満足度★★★★

予想以上の面白さ

17日夜、新宿シアター・ミラクルで上演された明日は純情2nd WORK公演『the Answer』を観に行った。これは、いくつかの舞台をハシゴした結果、舞台を観、ネットで繋がった役者・嶋谷佳恵の出演作だからである。ちなみに、終演後、嶋谷と挨拶を交わしリアルなつながりを持つことができた。

この舞台は、『the Code』という作品の続編に当たる。
科学者である父が娘に残した思いを保持する量子コンピューターのある場所にたどり着いた娘の西森明星。その量子コンピューターを狙うハッカー。そしてコンピューターの存在隠匿と管理を狙う警視庁公安部と内閣府調査室の暗躍。コンピューターを守りたい西森博士の同僚をはじめとする科学者たち。
結局は明星しかなしえないコンピューターの初期化を行うことで、量子コンピューターの存在を巡る様々な陰謀・暗躍は無と化すのだった。

が、である。父親がこのコンピューターに残した娘への思い(メッセージ)も同時に無となった。その重要性に、脚本はほとんど触れていないのがどうも不本意でならない。
舞台での、各役者の演技な熱が入っていて好印象。シアター・ミラクルという場所柄、大道具には期待していなかったが、質素ながら最小限の大道具の活用という点では及第点を与えられそう。
科学に興味の無い人にとっては、舞台上で交わされる専門用語に悩んだかもしれない。

役者関係では、西森明星役の宮ちあきの顔が大きいのと(苦笑)、嶋谷佳恵扮する麻生早苗という役名が、知る人ぞしる有名AV女優と同姓同名だったのが印象的だった。同時に、演技上での表情が良かった。また、明星の母親役の滝澤千恵と竹内役の三好康司が渋い演技を見せていた。
登場人物的には、この程度の人数が観る側としては観やすいのではないだろうか。
それにしても、予想外の良い舞台だと思う。

ウェルテル

ウェルテル

新国立劇場

新国立劇場 オペラ劇場(東京都)

2016/04/03 (日) ~ 2016/04/16 (土)公演終了

満足度★★★★

後半からが秀逸
新国立劇場で公演しているオペラ『ウェルテル』の中日に出掛けてきた。
ゲーテ原作の台本にジュール・マスネが作曲したフランスの作品ある。

粗筋は、一言でいえば婚約者のいる女性・シャルロットに恋したウェルテルが、婚約者と結婚して人妻になっても彼女の事が忘れあれず、結果として自殺することで彼女への思いを清算するまでの葛藤を描いた作品。ウェルテルの自分に対する思いに応えたい気持ちと婚約者(後の夫)への思いの間で苦しむシャルロット。シャルロットの婚約者でウェルテルの恋心に感づいたアルベール3人の、本心を隠したままで対峙する2重唱が秀逸な2幕や、シャルロットと自殺に向けて決意するウェルテルの想いが工作する3幕が見所といえるだろう。

実は、観に行く事前勉強で粗筋だけは頭に入れて劇場に行き、特にプログラムを買うこともなく1幕を観た段階では、今まで観てきた様々なオペラと違い退屈だし穏やかな作品で最後まで飽きずに見終えることが出来るだろうかという思いがあったのだが、2幕の内容がかぜん緊迫した物となって気分は一新。あわててプログラムを買い求めて、マスネがこの作品をオペラではなくドラム・リリックと名づけて作り上げた事を知り、なるほどそこが従来のオペラとは違った印象を受けた根本的な理由だったのだなぁと納得した次第。

さて、公演ではウェルテルを演じたテノールのディミトリー・コルチャックと、シャルロットを演じたメゾソプラノのエレーナ・マクシモアの歌唱と演技が圧巻。日本人では、シャルロットの妹であるソフィーを演じたソプラノの砂川涼子の出来が素晴らしかった。動きが比較的少なく、登場人物も少ない本作では、感情を込めた歌唱のシーンが多く、その歌唱に緊迫感がよく込められていて上演のレベルとしては秀逸の出来ではなかったろうか。

指揮は当初ミッシェル・プラッソンだったが、急遽来日不能になり息子のエマニュエル・プラッソンが担当。これまで新国立劇場にはバレエ公演指揮者として2回登場していて、オペラ公演を指揮するのは今回が初めて。ネット上ではバレエ指揮者と軽視する向きもあったが、なかなかどうして上手くオケと歌手をコントロールしていたように感じた。特に後半のドラマティックな音楽作りには感心。若手指揮者として、もっと招聘してもよい人材なのではあるまいか。

売春捜査官

売春捜査官

稲村梓プロデュース

サンモールスタジオ(東京都)

2017/09/05 (火) ~ 2017/09/10 (日)公演終了

満足度★★★★

サンモールスタジオで上演された、稲村梓プロデュースのつかこうへい作『売春捜査官』を観てきた。声優であり女優である稲村梓はこの作品を「心の支え」としており、既に何度か上演していることを今回初めて知った。つかの作品のいくつかは非シス人という劇団で観ることが常だったのだが、今回の稲村の舞台を演出したのがその非シス人で演出を手がける間天憑であったことと、まだこの作品を舞台として観たことが無かったのが今回出かけようと思った直接の理由であった。


作品としては有名であり、改めて粗筋を書く必要もあるまいが、大雑把に書くなら、女なのに木村伝兵衛(稲村梓)という名の部長刑事と彼女の下に八王子から転任してきた熊田刑事(内谷正文)、ホモの戸田刑事(村手龍太)の3人が、熱海で起こった山口アイコという女性の殺人事件の謎を犯人大山(渡辺敬介)を回して解いていく。特に、前半の刑事室での刑事達のドタバタと、後半刑事役と犯人役が演ずる事件の再現シーンの対比がこの作品の見所であろう。ちなみに、今回の舞台では稲村の演ずる木村部長刑事以外はダブルキャストであり、自分が観たのはKチームであった。

演出的にはウィキペディアでも「大音量の「白鳥の湖」をBGMに木村が電話でがなりたてるオープニングや、新任の刑事に渡す書類を地面にわざと落とし、木村が「拾ってください」というやり取り、木村が成長した犯人を花束で何度も打ち据えるシーンなど、この作品の名物となっている部分は、形は変わりつつも、どのバージョンにも数多く残っている。」と指摘されている部分はそれを踏襲していた。しかしながら、実は全体で2時間ほどの上演の中でスタート30分ほどは演出の質というか役者の集中力というのが散漫で、これはどうなるかと心配しながら観ていたのも事実。しかし、舞台後半の事件再現シーンに入ってからの役者の緊張感が一変しように素晴らしい台詞のやりとりに観る者の神経が研ぎ澄まされた。そのきっかけは恐らく役者・村手の力であり、それに応じて好演を見せた主演・稲村のなせる技だろう。良い舞台を見せてもらった。

腰巻おぼろ 妖鯨篇

腰巻おぼろ 妖鯨篇

新宿梁山泊

花園神社(東京都)

2017/06/17 (土) ~ 2017/06/26 (月)公演終了

満足度★★★★

19日、新宿花園神社境内特設紫テントで上演された、新宿梁山泊第60回公演『腰巻きおぼろー妖鯨篇』を観てきた。

唐十郎作、金守珍演出という、アングラ色の濃い舞台となることは予想済み。

ネタバレBOX

舞台は、捕鯨船のモリ撃ち破里夫の遺品のゴム長靴を、彼の彼女(妻?)であるおぼろに渡すため、彼女を探し、探し当ててからは一緒に生活を営むようになったガマという少年の波瀾万丈な生き様に、元船長であり今は占い師の千里眼やヤクザなどが絡み合ってくる複雑というかドタバタ的というか、かといって物語の中心線は崩れない不思議な作品だった。

主演のおぼろを演じた水嶋カンナ、ガマを演じた申大樹の熱演が光っていたが、大鶴義丹や大久保鷹の存在感、6人の女達の活躍が印象的でもあった。
終演間際では、恒例の水を使った演出(6人の女たちは人魚となり、おぼろは海に入っていくというもの)はなかなかの盛り上がりよう。
いやぁ、この団体の舞台感想は、本当に書きにくい。あまりにも内容がてんこ盛りで、どこをどう取り上げてよいのか混乱してしまうからだ。
笑いの要素も交え、休憩を挟んだ3時間30分の大作にどっぷりと見入った夜であった。
坊's WAR頭2〜神々のオフ会〜

坊's WAR頭2〜神々のオフ会〜

乱痴気STARTER

Geki地下Liberty(東京都)

2015/09/18 (金) ~ 2015/09/23 (水)公演終了

満足度★★★★

個性的な女優陣を楽しむ
いわゆるシルバーウィーク、勤務している会社の休みのシフトが連休ではなく21日のみと正式に決定したのが前週で、さてどうしたものかと頭に浮かんだのが観劇か音楽鑑賞。音楽はチケット手配の都合などで無理そうだったので観劇しようとお思い、候補に上げたのがお気に入りの劇団シネマユニットバス所属の女優3人が出演する音楽劇『人魚姫』か、知人が時々客演をするアフリカ座系列の乱痴気STARTERの『坊s WAR頭2』。音楽劇はどうやら親子連れを主なターゲットにした舞台らしく、大人一人で行くのはどうかと思っていた所、Twitterのメッセージで乱痴気の複数の出演者から観劇のお誘いを受けたので、今回は出演者の坂本ともこさんにチケットを依頼して出かけることにした。前作(かつての同業飲み会仲間の1人、あすかが出演していた関係)に引き続いての乱痴気観劇となった。

話の核は、インド神話に出てくる主神シヴァが、世界の主だった神々を引き連れて夫婦げんかの末人間界に落とした夫人のカーリーを探しだして天上の世界に戻るというものだが、そこに貧乏神にとりつかれた男とそれを除霊しようとするインチキ除霊師、ゲームに熱中する生臭坊主たちと真面目すぎる坊主などが入り乱れてのアクションあり笑いありのドタバタ?劇。
実は劇の核は貧乏神と取り憑かれた男、それにニセ除霊師の交流かとも思える劇でもあり、せっかく進行に起承転結をつけてありながら、起と結との関連性が希薄になった感があったのは残念。それと、笑える部分は多々あったが、対極の泣かせる部分というのが希薄で、その分内容に深みが感じられなかった。加えて、ゲームに熱中する坊主たちの滑舌にもやや難があったように思う。もう少し慌てずゆっくり喋らせたほうが良かったのでは。

とは言え、越智春奈の妖艶というかエロ可愛らしさ、坂本ともこのアクション、Maftyとニセ霊媒師の熱演は見応えがあった。そうそう、主宰の山元彩の演技は、やはり他の女優たちとは違い熟達していましたね。

ちなみに、この会場。ホール入口上部にも普段はシャッターをおろした空間があって、第二の舞台空間として使える構造になっている。この辺りも使って、アクションや進行などをさらに立体化したら面白くなりそう。
2度も観に来た乱痴気。こうなると、また来たくなるし、上部団体のアフリカ座公演や、出演者の越智や坂本の他の舞台も観たくなってきた。

オナラのナラ子

オナラのナラ子

ハレボンド

明石スタジオ(東京都)

2015/07/30 (木) ~ 2015/08/02 (日)公演終了

満足度★★★★

ナラ子の各世代を演じた女優に拍手
7/31、高円寺の明石スタジオで上演されたハレボンド第2回公演『オナラのナラ子』公演を、知人のアローズプロダクション代表であり俳優である麻生敬太郎氏と鑑賞。これは共通の知人である高坂汐里が出演していた関係からである。プロダクションで即戦力になる役者が欲しいという麻生氏の言葉に、自分が先日見て即戦力になると思った高坂汐里を推薦したというのが事の経過といえるだろう。

さて、舞台は一言で言うと、緊張するとオナラをしてしまうというナラ子が経営していたアパートの火災で亡くなってしまった(2015年)のをきっかけにして始まる、ナラ子の子供時代(1972年頃)から亡くなるまでの回想劇という趣向。懐かしい天地真理や小柳ルミ子といった歌手の歌をバックに生き生きと生活する子供から学生時代のナラ子、そしてたこ焼きチェーンのオーナー夫人として充実した生活を満喫していた中年時代を経て、夫と死別してつつましいいアパート経営で生計を立てていた晩年。
人数の限られた役者が、それぞれの年代のナラ子と彼女を取り巻く人々を交代で演じていく。

舞台の核は、それぞれの年代のナラ子を演じた役者の演技力。個人的には1972年の頃を演じた元西彩子と1980年の頃を演じた高坂汐里の元気よく明るい演技が気に入った。また、生涯の友人であるサッチンを演じた亀山綾香の熱演も光っていた。2015年のナラ子は劇団初出演の男優・森田武博が演じていたが、これば晩年の渋い雰囲気を上手く醸し出していたのには恐れいった。

それに対して、男優陣に対する印象が若干弱い。なんというか、ナラ子の人生を左右させる存在の役柄にはもう少し強い個性が必要だったような気がする。

もう一つ、総じて役者がセリフを噛む場面がやや目立ったのが残念な点であった。

それにしても、上手い題材を見つけたなぁというのが観劇後に最初に感じた事。
手作り感も含め、この劇団の方向性はなかなか面白いと思った。次回作品も可能なら観てみたい。

振り向けば優しい心の贈り物

振り向けば優しい心の贈り物

劇団 浪漫狂

参宮橋TRANCE MISSION(東京都)

2015/08/04 (火) ~ 2015/08/10 (月)公演終了

満足度★★★★

三話からなるオムニバス作品は涙なくして見れない!
いやぁ、泣かされたなぁ・・・

ネタバレBOX

知人の山下明起が劇団長補佐を務める劇団浪漫狂が、若手の役者による外伝『振り向けば優しい心の贈り物』という舞台を上演したので(明後日まで公演中)、参宮橋のトランスミッションまで出かけてきた。

プログラムによると、一話はオリジナル、二話はダウンタウンの生い立ち、三話はドキュメンタリー番組をベースに作ったという、全体で100分ほどのオムニバス作品。
より詳しく書くと、一話は父子(娘)の結婚にまつわる父の秘められた気持ちと、父への感謝の話、二話は母子(息子)の野球を中心とした貧しさ克服の話、三話は年老いた両親と、その看護を巡る子どもたち、そして老夫婦の暖かな夫婦愛の話。どれも客を泣かせるツボというものを熟知した作りで、笑いが起こる場面もあるが必ず涙が出てくる結末。いやぁ、良い作品ですよ、三話とも。その中核には、親への思いと「ありがとう」という言葉が存在している。
泣かせるツボをいかに演じていくか、若手役者に突きつけた演出・作の劇団長・中村隆天の思いは、満点とは行かないものの及第点はクリアしたのではないだろうか。
特に、一話と三話の伴優香(特に目の表情)、二話の宮島歩の演技は秀逸。男優陣では、J田平、工藤謙太朗、久住翠希が頑張っていた。(工藤は以前別の劇団の公演で観たような役者だったが、気のせいかな・・)。

SEX

SEX

劇団時間制作

サンモールスタジオ(東京都)

2015/12/16 (水) ~ 2015/12/23 (水)公演終了

満足度★★★★

性同一性障害者を中心に様々な愛の形に悩む人々を好演
知人の役者・奈苗が、初めて普通の女性を演じる舞台ということで観に行った。もっとも、彼女の舞台を観るのは今回が初めてなので、普通じゃない女性を演じた時との比較というのは出来ないんもであるが・・・・(苦笑)

さて、『SEX』とうなかなか過激なタイトルなのだが、これは性行為を意味しているのではなく、性別ということ。それは、この舞台の中心にいるのが性同一性障害の女性が、結婚をすれば自分が男から女になれるのではないかと結婚をし、頭ではわかっているものの感情的に女になりきれずに悩むということにあるから付けられたのだ。
しかし、この舞台となっている長瀬貴子が切り盛りする銭湯には、弟の嫁であるこの性同一性障害の麗美だけではなく、同性愛に対する周囲の目に悩むレズ関係の客や、父親をホームレスにし結局死なせてしまったという負い目から無料で入浴させているホームレス男性久我など、周囲から観ると厄介な客で溢れている。しかし、その厄介という見方が問題で、もっと本人を人間らしく観てあげられないのかという問題が一方に有り、理解しているように言うこと・接することが本心からなのか偽善からなのかという問題も付きまとってくる。それを明確に口に出し、舞台後半では何となく悪者的な存在になってしまう貴子の従姉弟・聖也の「人は上でな動かない」「口に出している時分はまだマシで、厄介かのは口に出さずに偏見の目で観ている人たちだ」というセリフは、なかなか現実を鋭く捉え突いているといえるだろう。
今年は、マイナンバー制度や、各地で同性婚許容の条例化などが問題となっており、まさにタイムリーな内容の舞台である。扱う内容が深くかつデリケートな問題であるのだが、時折笑いを誘う演技を交えてそれを上手く中和しつつ、肝心な場面では的確なセリフと演技で観客を泣かせ90分の作品に仕上げた脚本・演出の谷碧仁の努力には拍手を贈るとともに、熱演した役者たちにも賛辞を贈りたい。

最後に、自分の嫁が性同一性障害と知っても愛し別れないと抱きしめた夫の明人がポツリと「でも、ちょっぴり嘘をつきました」と漏らす本音と、舞台に涙したした観客たちが部外者でなくこうした問題の当事者になった時涙を流せるのかなぁという思いを抱いて、劇場を後にした自分。自分の周りには、実はこうした障害を持った人や同性愛者が少なからずいて交流を持っており、観客の涙がただ偽善でないことを祈るばかりだ。

役者についてみると、舞台全体のまとめ役的な存在の長瀬貴子役の奈苗と、性同一性障害者の悩みを好演した長瀬麗美役の森田このみが秀逸の出来。思ってことをズバズバ言う小澤聖也役・倉富尚人、母子家庭でレズであることを母親に打ち明ける事に悩む北村直美役・永井李奈もなかなかの演技を魅せてくれた。長瀬麗美の夫役で長瀬明人役・小川北人は、受け入れるまでの悩みをもう少し演技で見せて欲しかったが、これは役者の問題ではなく脚本の問題と言えそうだ。

この公演、Aチーム、Bチームの完全ダブルキャストで、チームが変わると舞台から受ける印象もかなり変わるらしい。自分の観たのはBチーム。時間があれば、両チームの比較という見方も面白いだろう。

アラジン

アラジン

新国立劇場

新国立劇場 オペラ劇場(東京都)

2016/06/11 (土) ~ 2016/06/19 (日)公演終了

満足度★★★★

米沢唯の踊りが素晴らしかった!
新国立劇場で上演されたバレエ公演『アラジン』の千秋楽を観てきた。

当日の主立った配役は下記の通り。

アラジン:奥村康祐
プリンセス:米沢唯
魔術師マグリブ人:マレイン・トレウバエフ
ランプの精・ジーン:福田圭吾

あらすじは比較的単純で、魔術師マグレブ人に財宝をやるとそそのかされて洞窟に入ったアラジンが、魔法のランプを見つけてマグレブ人に渡すのを拒み、洞窟に閉じ込められたのがきっかけでそのランプが魔法のランプで、ランプをこするとランプの精・ジーンが現れて願い事をかなえてくれることを知る。アラジンは洞窟を抜け出し、ランプの力を借りてプリンセスと結婚。その後マグレブ人にランプを奪われたものの機転をきかせて取り返し、彼を退治して無事に故国に戻りプリンセスと幸せに暮らす・・・というもの。

アラジンの奥村、プリンセスの米沢、ジーンの福田はおのおの役にあった素晴らしい踊りを披露。特に米沢は、これまで観た公演の中で最高の出来のように感じられ、舞台途中や終演後のカーテンコールで盛んな拍手とブラボーを受けていた。
演出的にはジーンの登場するシーンや魔法の絨毯に乗ってアラジンとプリンセスが故国に帰るシーンが印象的。
オケも、小難しいクラシックの名作曲家による古典作品とは違ってか、のびのびと演奏して充実した音楽を作り上げていた。
ただ、この日はバスを使っての地方からの団体客が多数入っており、オケのチューニングが終わり指揮者登場を待つ間も劇場内がざわついていたのは、新国立劇場に行くようになって初めての経験で、素晴らしい舞台だっただけに観客のマナーの悪さが残念であった

上演時間は、途中2回の休憩を挟んで2時間40分ほど。

毒花ーDOKKA-

毒花ーDOKKA-

危婦人

駅前劇場(東京都)

2015/01/08 (木) ~ 2015/01/13 (火)公演終了

満足度★★★★

しんみりしたシーンが欲しかったなぁ
12日昼、東京・下北沢駅前劇場で上演された(千秋楽は13日)、劇団危婦人の公演『毒花ーDOKKAー』を観てきた。これは、自分がよく立ち寄る新宿ゴールデン街の店で出会った役者・田中淳之が出演している関係からであるが、誘われた時に主演が小野真弓であることを知ったのも行きたくなった理由の一端であった。

粗筋は、おおよそ下記の通り。
ルポライターの浅宮の元に、大学時代の友人・波々伯部(ホホカベ)了から、家族を助けてほしいとメールが届く。了の実家は代々続く老舗ホテルで、この数年で家族や従業員が次々と変死しているというのだ。
了の実家のホテルに赴いた浅宮は、現地の刑事達やおば3姉妹とのやりとりなどから、了の父親・達樹(既に死亡)の後妻で今はホテルの女将である雅と料理長の桐生寛太が実の兄妹であり、両親を死に追いやった波々伯部家の人々への復讐劇という事件の真相を暴く。

もちろん、ミステリーにありがちな老舗ホテルの相続を狙っていて殺人動機を持ち合わせている様々な人達、まぁ今回の場合は愛人関係だったり不倫だったりとなかなか変化に富んだ面々が多数登場。そのキャラクターと役者の個性がバッチリ決まっていてなかなか楽しい人間模様を垣間見ることが出来た。

個人的にカンが働くというか職業柄というか、配役や舞台に最初に登場するときの行動などから犯人が雅と料理長であることには薄々(苦笑)わかってしまった。となると、その2人の関係がどういうもので動機は何だったのか、その解明過程をどう見せてくれるかに興味があったのだが、笑える部分は多かったのだがしんみり或いは泣かせられる場面が少なかったのにはちょっと残念感。それは、雅と料理長が兄妹だと知る過程や、ラストシーンでの2人からの真相告白に、殺人対象への恨み感というか殺人に至る衝動感というものをジーンと観客に訴えかける何かが欠けている、いや不足していたからだろう。もっとジンと来ていたら、最後に雅が自殺するシーンで泣けたはずである。

そこのところが唯一残念というか不満ではあったが、それは脚本というか原作の問題。
役者の演技という点では、発声練習不足なのか風邪なのかは不明だが声を枯らせて熱演した小野真弓、明るく理知的に役をこなしたウチクリ内倉、どこか陰を感じさせる味な演技を魅せた山﨑雅志という主要メンバーだけでなく、おば3姉妹を演じた丹野晶子や元G☆Girlsのリーダー・椎名歩美、イケメンプレーボーイをスッキリ演じた田中淳之など、達者な演技には楽しませてもらった。
基本六角形の舞台を上手く使った演出にも拍手を贈りたい。

裏シンデレラ物語×VRの中のアリス

裏シンデレラ物語×VRの中のアリス

ぱすてるからっと

Geki地下Liberty(東京都)

2017/08/09 (水) ~ 2017/08/16 (水)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2017/08/14 (月) 15:00

劇団ぱすてるからっとが下北沢のGeki地下libertyを会場に、同じ舞台セットを使って2つの舞台、「裏シンデレラ物語」と「VRの中のアリス」という作品を平行上演する企画のうち、ダブルキャストで行われた「VRの中のアリス」B班の公演千穐楽を観てきた。実はこの作品、知人の役者・塚田しずくによる脚本、そしてB班は塚田自身の演出での上演と言うことで、期待して出かけた。


ある会社の営業部でナンバー1の成績を維持する桜田。最近両親を亡くし妹と2人暮らしの苦労も出さず仕事に熱中する桜田を心配して、上司の榊部長は有給休暇消化を命ずる。仕事が生きがいだった桜田は、それを自分のことを首にするリストラの始まりと勘違いをし、送り主の分からぬVR用眼鏡を装着してVRの世界でアバターのアリスとチャット交流を持つようになる。そんな兄を心配する妹・恵、同じ会社の社員で桜田に好意を寄せる涼野、そして行きつけの居酒屋の面々や会社の同僚達。彼らの心配する気持ちが通じたのか、桜田は気を取り直して再び会社に行きだし、周囲の人々は安心する。

舞台中、桜田の家庭の境遇が分かって行く家庭で観客がホロリとする瞬間があり、観客の泣きを呼び込むコツもまだ雑ではあるが身につけていると察した塚田の脚本。VR用眼鏡を送られてきた桜田と居酒屋の嫁の関係、アバター・アリスの正体など、もう少し解き明かしてもらいたい謎が放置されていたのは残念だったが、桜田、その妹、涼野、会社の後輩・木下の人物描写はなかなかのもの。
役者の演技的には桜田役の二葉と、妹役のとんちゃん、居酒屋のバイト・李役の宮﨑をはじめ、みんな熱演していた。多少演出をもう少し簡略化して言いたいことの焦点を明確にした方が良さそうなシーンもなきにしもあらず。ダンスシーンとアバター・アリスの歌うシーンを必然化させる工夫も、あと一歩かな。しかし、総じて頑張っていた演出だった。こうなると、異なる演出だったA班も観るべきだったと反省。
ちなみに、個人的に気に入った役者は、同僚社員・橋本役の高橋であった。

モグラ…月夜跡隠し伝…

モグラ…月夜跡隠し伝…

劇団桟敷童子

すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)

2016/12/15 (木) ~ 2016/12/27 (火)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2016/12/24 (土)

座席1階C列3番

12月24日午後、すみだパークスタジオで上演された劇団桟敷童子の『モグラ 月夜跡隠し伝』公演を観てきた。これは、知人で実力はの役者であるもりちえが所属劇団であり、今回も劇中の要になる役の一つである山月法師役で出演していた関係からである。


物語は、大雑把に言えば伝奇浪漫物語。脱獄した男を捕らえるため、隠れていると思われる泥捨番場という辺境地に向かった、謎の女・興梠に率いられた在郷軍人達と辺境地の住人、そして脱獄した男によって繰り広げられる混沌劇。貧しい村でありながら、山月法師という異彩を放ついわば能力者集団がいたり、死者が鬼となって蘇ったりという伝奇的な物語に、追っ手となった在郷軍人の一人と脱獄男が実は幼少時代故意に取り違えて育てられており、その在郷軍人が知らずに妹と肉体関係を結び恋愛的な感情を持ち合わせてしまったという近親相姦譚が交錯したり。内容的にかなり複雑で混沌としているのであるが、よくよく客観視してみると、この劇団が過去に上演した『風撃ち』『海猫街』『エトランゼ』の流れをくみ、それらで演じてきた内容の集大成的な作品であることが分かる。


役者では、主役の在郷軍人を演じた松田賢二、脱獄男を演じた稲葉能敬、在郷軍人を率いる謎の女を演じた板垣桃子、主役の姉で脱獄男の妻でもある女(山月法師の一人)を演じた松本紀保の演技が抜きん出ており圧巻。この四人の熱演により、脚本の矛盾点や雑な部分が吹き飛んでしまった。

四人以外の役者も欠けては話の内容に不都合が生じるであろうがごとき存在感のある役ばかりで、観ているものを舞台に釘付けに、時折観客から笑いを取るシーンも織り交ぜる余裕も魅せた。

これだけエネルギッシュな舞台を作ってしまうと、次回作でのテンションの維持が大変そう。年末、よい舞台を魅せてもらった。

「コンサートと無伴奏」

「コンサートと無伴奏」

劇団東京イボンヌ

北とぴあ カナリアホール(東京都)

2016/03/29 (火) ~ 2016/03/31 (木)公演終了

満足度★★★★

久しぶりの『無伴奏』に泣く

「クラシックの楽曲をテーマに、曲に込められた魂を物語に紡ぎだす演劇集団」と、これまでの「クラシック音楽と演劇の融合」という表現とは異なる結成・存在趣旨を明確に打ち出した東京イボンヌによる3回めの企画公演。2回めの企画公演は、いわゆる初期の東京イボンヌの公演という位置づけになるだろうから、今回が現在の東京イボンヌによる初めての企画公演と言えるだろう。ただし、公演内容は、後半に初期からこの集団の財産ともなっている舞台で何度か再演されている『無伴奏』のダイジェスト版を置き(ある意味、これがメインプログラム)、前半に器楽と声楽曲によるコンサート、後半頭に高村光太郎の『智恵子抄』の一部を生演奏の伴奏付きでによる朗読という構成。

前半のコンサートは、ソプラノ4人にテノールとバスという声楽家に加え、集団の音楽監督である小松真理のピアノを中心に、フルート、クラリネット、トランペット、チューバそしてコントラバスという編成で全13曲を披露。面白かったのは、別宮と中田による『さくら横ちょう』の聴き比べだったかもしれない。小さなホールだったので身近に歌を聴くということでは満足の行くものだったが、よほど音楽通でないと原語で歌う歌の意味がわからなかったのではないだろうか。パンフレットに対訳をつけるか、対訳のみ有料で配布したほうがより親切だったと言えるだろう。その点から、イボンヌは物販という分野にも目を向ける必要があると感じた。

ソプラノとチェロによる一部伴奏付きの『智恵子抄』の朗読は、続く『無伴奏』への橋渡し的意味合いが込められていたように感じた。
そして『無伴奏』。10年以上も前にバイトしていた山奥のペンションに姿を表した天才チェリストと言われる女性。密かに彼女に惹かれていたオーナーとの久しぶりの再会は、彼女が重病の身から、心の拠り所としてペンションのオーナーを求めていたからなのだろう。素朴というか朴訥なオーナーと利発なチェリストが織りなす心の交流と運命。全編を観たことのある者にとって、後半部でグッと心にこみ上げるものがあって思わず涙ぐんでしまった。
一般役者と声楽家を交えた舞台は、役者の演技の質にいびつさは感じられたものの『無伴奏』の魂は観客に伝わったのではないかと思う。この作品、イボンヌの財産として貴重である。将来、新生イボンヌの本公演として改訂再演されることを望みたい。

メロン農家の罠

メロン農家の罠

桃尻犬

OFF OFFシアター(東京都)

2017/01/12 (木) ~ 2017/01/18 (水)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2017/01/18 (水)

価格3,000円

18日午後、下北沢のOFF・OFFシアターで上演された桃尻犬冬の公演『メロン農家の罠』の千穐楽を観に行った。これは、知人の役者・嶋谷佳恵が出演していた関係からである。
これまで幾つも舞台を観てきたが、この舞台のようにインパクトのあるタイトルとフライヤーのデザインは初めて。どちらかというとコメディー的な内容なのかと思ったのだが、確かに笑える場面も数々あったが、本質的にはかなりシリアスな内容であり、上演時間95分が短く感じられた秀作の舞台であった。

話の中心は、幼くして両親を亡くした1男2女の兄弟が営むメロン農家・安喰一家。まぁ、次女は小五の設定なので実際には農業に従事しているわけではないが、この次女・乃愛琉(ノエルと読ませる)が舞台の重要な存在となる。10年間もメロンを盗まれている安喰一家には、中国人従業員・劉がいて、毎年メロン泥棒退治の仕掛けを作っている。安喰家の長女・美津子を好く近所の山岸は結局は結婚することになるが、美津子は堀淵という一家と付き合いのある男性と浮気もしてる複雑状況。安喰家の大黒柱・怜音(レオンと読ませる)は、人の良い実直な男で、いや実直すぎて合コンでも相手ができない。そんな一家に嵐を巻き起こすのが次女の乃愛琉。万引きし、その理由の本音を兄にぶつけ、兄も本音を吐露する。結局、一家三人の本音のぶつかり合いでギスギスしたことになるが、メロン泥棒が捕まり(仕掛けで目に怪我をさせてしまうが…)、次女がメロン畑にガソリンをまいて燃やしてしまうという行動を通じて、一家に絆が戻ってくる。
本音のぶつけ合いシーンは時に絶叫ありのかなりシリアスなもので、観ていて心が締め付けられたり…。所々で織り込まれた笑いのシーンがその緊張感をほぐしてくれる。
役者としては、難しい次女役の徳橋みのりの演技が秀逸。長男役の森崎健吾と長女役の嶋谷佳恵の熱演も光る。

脇役として、乃愛琉が万引きをするCDショップの夫婦も登場して、舞台に緩やかな風を注ぎ込んでいた。


舞台を大小2面に分けて進行させる演出は、小劇場の舞台の使い方としては上手かった。脚本も変な小細工を使わず正面から勝負を挑んでいて気に入った。この桃尻犬という劇団(ユニット?)、なかなかの実力とみた、次回作も観てみたい。

タカナシ家、明日は晴れ

タカナシ家、明日は晴れ

Gフォース

Gフォース アトリエ(東京都)

2016/05/22 (日) ~ 2016/05/29 (日)公演終了

満足度★★★★

ほのぼのとした家族愛の再生物語
25日午後、東京・蔵前にあるGフォース・アトリエで上演された『タカナシ家、明日は晴れ』を観てきた。
これは、作品の作と演出が加藤英雄ということで興味を持ったからである。加藤の作品は、これまで浅草リトルシアターで幾つか観て、おおよその作風というか癖はわかったのだが、リトルシアター以外の公演で、しかも彼の作品としては上演時間約90分とやや長めの作品がどうようなものなのか知りたくなったわけだ。
会場はマンションの屋上に増築されたような場所で、座席数は40。舞台は比較的広めだが、浅草同様大道具というのはベンチに見たてた横長の長方形の三人ほどが座れる箱のようなもの一つ。周囲は、黒い壁がそのまま使われているという実に簡素なものであった。

あらすじは以下の通り。
口下手の小説家・タカナシゲンイチロウは断筆宣言と共に一時入院。同時に今まで住んでいた家を建て替え始める。彼には母親が全員違う3人の娘がいるのだが、家に残り彼の面倒を観ているのは長女のカズミ1人。次女のツグミは父親が嫌いで家を出、三女のサトミは駆け落ち同様に結婚して家を出た。そんな3人娘が、父親の退院前日に家に集まってくる。次女は結婚しようと思う男性を連れ、三女は夫婦仲が悪くなり別れ話の相談のため。そして長女にも、好きな男性ができて手作りの料理を食べさせるために彼を家に呼ぶ。そんな3人の集まった所に、これまた偶然に父親が一日早く退院して戻ってきた。思いがけず、三人全員揃った娘達と会うゲンイチロウ。そこで執筆を頼みに来た出版社の社員や隣りに住むゴンドウ一家も巻き込んでのドタバタ劇。しかし、いつになく饒舌なゲンイチロウは娘達への思いを語り、特に長女の母親失踪の真実や兄がいて早逝したことを明らかにし、一同しんみりしたのがきっかけとなって娘達とゲンイチロウの間に家族の絆が戻ってくる。そして、ゲンイチロウは彼にしか見えない長男の亡霊と語り、家族全員の纏まった姿に安堵する。

家族愛と夫婦愛は、日常の些細な出来事で壊れかけても、お互いが素直になって相手の気持を思いやれば修復が可能だという暖かな家族物語。突出して出来の良い役者はいなかったが、ゲンイチロウ役の上田茂の雰囲気は、父親役にあっている上手い配役。
また、隣の家に住むゴンドウシズコ役の桂山みなは35年ぶりの舞台とのことだが、半ば舞台の進行役的な役目も担いなかなかの好演。
人物間のやり取りや、亡霊が一役買っている点は、いわゆる加藤英雄調全開という趣。
個人的な加藤英雄探求も、これで一区切りついたようだ。

「ドドンコ、ドドンコ、鬼が来た!」

「ドドンコ、ドドンコ、鬼が来た!」

椿組

花園神社(東京都)

2017/07/12 (水) ~ 2017/07/23 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2017/07/13 (木) 19:00

数年前に偶然「西瓜糖」という文学座系の演劇ユニットの公演に接してファンになった筆者。2017年は椿組との後y同公演という事だったが、いざ蓋を開けてみると椿組な夏に花園神社で行う野外劇本公演に、合同ではなく協賛という形で参加ということでちょっとさみしい思いが。まぁ、作は秋之桜子だし、演出は松本祐子だし、出演役者に山像かおり、奥山美代子といった西瓜糖の中心的存在の人たちがいるので気を取り直して初めてみる椿組の実力を拝見という心構えで舞台に臨んだ。

ネタバレBOX

貧乏藩の参勤交代用人足不足を補おうと、領内にある隠れ里を探し出した侍達。そこには、侍たちの頭的存在である吉池の行方不明になっていた娘三姉妹が神子として生きていた。侍達の出現が契機となって、隠れ里の住人は外部との交流を考えるようになり、かつて里抜けをして死んだと思われていた穂村とも遭遇し、商人・善野屋が中心となって隠れ里は宿場へ、そして岡場所へと変わっていく。その変わりように里の人たちの心も荒み、自分を見殺し的に扱った穂村の村への復讐の思いも重なって隠れ里の人々のある物は死にゆき、生き残った者の心は荒廃していく。しかし、人々が鬼と呼ぶものが暴れて(おそらく火山活動の一種)里の建物は崩壊し、かつての静けさを取り戻す。

30人を超える出演者、休憩を挟み2時間30分という舞台は熱がこもりなかなかの出来映え。ホール公演ではないので、役者は全力で臨まないと観客に演技が伝わらない。その熱意が凄いのだ。ただ、冷静に観ていくと脚本的にもう少し詳しい事情説明のシーンがほしかったところが何カ所かあって、そうじて荒削りの内容だった。
役者的には女優陣の頑張りが良かった。味のある演技としては、やはり椿組の主・外波山文明が別格の趣。
恋しくて

恋しくて

デッドストックユニオン

ウッディシアター中目黒(東京都)

2016/11/22 (火) ~ 2016/11/27 (日)公演終了

満足度★★★★

もてる男の心の内が悲しい・・・・・
24日午後、雪の中、ウッディーシアター中目黒で上演されているデッドストックユニオンの『恋しくて』を観に出かけた。この劇団を観に行くのは前回公演『民宿チャーチ14』に続いて二度目。観るようになったきっかけは塚田しずくが出演しているからだったが、なかなかしっかりとした舞台を観せてくれる劇団という印象を受け、お気に入りの劇団の一つとなった。


さて、今回の公演は一口に言えばラブコメディ。父親の築き上げたスーパーを副店長として守る鎌田小百合(棚橋幸代)は、映画の仕事がしたくて家を出て行った弟・昭夫(元木和哉)が戻ったら彼を店長として店を続けていく夢を持っている。そんなスーパーに、ある日ひょっこり昭夫が帰ってきた。喜ぶ小百合と実は昭夫の元カノでベテランパートである加藤由紀子(三崎千香)。しかし、昭夫が戻ってきた目的はスーパーを止めてマンションを建て、コンビニを経営する傍ら映画を撮る計画の実行のためだった。そのため、昭夫には映画業界での恋人・松本真奈(太田知咲)も付いてきて、なんとスーパーのバイトとして昭夫の元に居座る。スーパーを止めるには姉を店長代理・藤村博(星達也)と結婚させることが早道と画策する昭夫と真奈。逆に、昭夫とパートの江頭美雪(森崎ひろか)を結婚させたい姉。昭夫を巡る由紀子と真奈のせめぎ合い。そうした動きを何気に知ってしまった元万引き犯のガードマン・岩倉衛次(渡辺熱)。渡辺の機転で昭夫の計画は頓挫するが、昭夫の持っていた父親への思いも明らかになる。父と息子の熱き親子愛を再認識させられるラストシーン。自分を慕う女性達への思いと、自分が慕う父親。昭夫の胸の内が観る者の心を打つ。


熱演は、昭夫役の元木、由紀子役の三崎、真奈役の太田、藤村役の星、そして岩倉役の渡辺であろう。作・演出は、この岩倉役を演じる渡辺であるが、作りたいと思っているテーマが大きすぎるというか、テーマを語る場の絞り込みが苦手というか、笑いを誘うポイントを押さえるのは上手いのだが、全体的に間延び(特に前半)した結果、2時間を超える作品となってしまった。前半に比べて後半の間の良さや脚本の密度が適度に良くなったのはラストを盛り上げようとする作り手側の山場設定の結果だろうが、全体的にもう少し締まった舞台を期待したい。そうすれば、2時間以内の収まる濃い作品になるだろう。まぁ、逆にやや緩い印象の舞台がこの団体の持ち味と感じているファンもいるのだろう。岩倉の成長が劇団の成長へと直結しているように思われる。トータル的には良い舞台を観せていると言える。次回公演が楽しみである。

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