うさぎライターの観てきた!クチコミ一覧

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宮地真緒主演  「モーツアルトとマリー・アントワネット」

宮地真緒主演 「モーツアルトとマリー・アントワネット」

劇団東京イボンヌ

スクエア荏原・ひらつかホール(東京都)

2015/12/08 (火) ~ 2015/12/10 (木)公演終了

満足度★★★★

よくわかるフランス革命
次第にクラシックが本格的になり、大変充実して来たのは良いが、
その分芝居の方が軽くなった印象を受けた。
マリー・アントワネットのキャラと悲劇性が弱く、肝心な
“モーツァルトの音楽に救われた”感が薄いのが残念。
また、マリー・アントワネットぐらいは結婚後衣装替えがあっても良かったのでは?
囚われの身になって初めて夫ルイ16世と心を通わせるシーンはとても良かった。
神様役の吉川拳生さんが登場すると舞台が引き締まる。

ネタバレBOX

開演前のミニ・コンサートで、客席には豊かな歌声が流れている。
ロビーの花の香りと共にクラシックコンサートの華やかさが伝わってくる時間。
電子機器の電源OFFを歌で促すなどの工夫も楽しい。
舞台は奥に向かって階段状に高くなり、一番高いところにオーケストラが控えている。
舞台手前上手側にピアノが置かれている。

神の子モーツァルト(石井康太)は自信家である。
「自分の音楽で人間世界を変えてやる」と父である神(吉川拳生)に宣言、下界へと下る。
彼の音楽は熱狂的に受け入れられるが、やがて貴族や大衆、同業者ら世間の
気まぐれな感情に翻弄され、次第に疲弊していく。
そんな彼が出会ってすぐに愛したのが、あのマリー・アントワネットであった。
叶わぬ恋ながら、モーツァルトは彼女の悲劇的な運命を見守ることになる…。

挿入されるクラシック音楽が素晴らしく、物語がおまけになりそうな迫力。
その中でモーツァルト役の石井さんは頑張っていたと思う。
メリハリがあり、笑いのタイミングも良い。
ピアノを弾くシーンなども、シンプルながら良く工夫されていた。
神役の吉川さんが素晴らしく、ラスト「過ちを繰り返す人間をそれでも許す」と語るところは
舞台が引き締まるような台詞だった。

ちょっともったいなかったのは、マリー・アントワネットの影が薄かったこと。
宮地真緒さんは素のままの髪型で衣装替えも無かった。
“作らない”設定はもちろんありだが、クラシックの方々のいで立ちと迫力に
負けないだけの“生まれながらの王女”感があれば、さらに悲劇性が高まったと思う。
清楚で華奢なだけでは“知らなかった”と泣き崩れる説得力が弱い。
ルイ16世(鈴木貫大)との最期の別れは、不器用な人間の哀しさ切なさが伝わったが、
マリー・アントワネットの“寂しい豪遊”がもう少し丁寧に描かれていたら、
さらに高まっただろう。

鈴木さんのルイ16世、最後の最期に彼の特技を生かす場面が出来た、
その誇らしさと哀れさが伝わって来てとても良かった。

クラシック音楽と演劇の融合は難しい。
“クラシックだけよりストーリーが豊かで楽しい”とか
“芝居の中に本格的な歌が入って違和感がない”とか
そんな風に双方のファンから支持されるようになったら良いと思う。

福島さん、お身体に気をつけてまた素晴らしい“融合”を見せてください。

『痕跡≪あとあと≫』◆◇終演。ご来場ありがとうございました!!!◇◆

『痕跡≪あとあと≫』◆◇終演。ご来場ありがとうございました!!!◇◆

KAKUTA

シアタートラム(東京都)

2015/12/05 (土) ~ 2015/12/14 (月)公演終了

満足度★★★★★

善意の罪
初演を観ていないのでこれが私にとって初めての「痕跡」。
皆ひたむきで、傷つきながら誰かを守ろうと必死になっている。
その姿が本当に真摯でそれだけに哀しい。
事件の証言者が丁寧に解説する構成、スピーディーな展開、
美しく的確な照明、そしてくっきりしたキャラで2時間20分はあっと言う間。
KAKUTA20周年記念に相応しい秀作で、隙の無い出演陣も素晴らしい。
ラストシーンの余韻が、観る者に長く痕を残す作品だと思う。

ネタバレBOX

冒頭、衝撃的な事の起こりを語るバーのマスター(若狭勝也)、その語り口が魅力的だ。
緊張感にあふれ緩急自在、私も一緒にその場に居合わせているような錯覚に捉われる。
この後10年間忘れられない人物の顔を、彼はこの台風の夜、2人目撃する。
ひとりは自殺しようとしていたところへ声をかけて、店でビールを飲ませた男(松村武)。
もう1人はその夜起こった、9歳の少年ひき逃げ事件の犯人と思われる男(佐賀野雅和)。
そして10年後、余命半年と宣告された少年の母親(斉藤とも子)が、
どうしても諦めきれずにこの町へ戻ってきた。
彼女の義妹(高山奈央子)、ドキュメンタリー作品の為カメラを回し続けるジャーナリストの男(成清正紀)、バーのマスターも巻き込んで、
10年前の真相に少しずつ迫って行く…。

誰もがあとあと後悔しながら生きている。
かわるがわる証言する登場人物たちはそろって「あとあと後悔した…」という
意味のことを口にする。
そして“人が存在していた跡を証明する”戸籍をめぐる物語でもある。
戸籍上は結婚していない夫婦や、戸籍を得るために偽装結婚する外国人、
戸籍を持たない人間の定まらない孤独…。

事件はそれぞれ当事者が自分の罪を認めるところから急速にほぐれていくが
肝心の母と息子が出会うのかどうかまで見せずに終わる。
だがその余韻に明るい兆しを私は感じた。
ああ、このあと母子は出会うのだと思った。
そうすることで、失敗に終わった多くの善意が報われるのだと。

初演の青山円形劇場を思わせる丸い舞台に川と橋のある町、クリーニング工場、
韓国料理屋、と変化する舞台装置が見事。
シンプルで整然とした場面転換も洗練されている。

斉藤とも子さんの儚げな母親が良かった。
圧巻は真実に近づきながら、「違う」と言い張られて引き下がるところ。
絶望と自己嫌悪でいたたまれない様がビシビシ伝わって来た。

その義理の妹を演じた高山奈央子さん、情に厚いが人の話を聴かないタイプで
思い込みの激しい強い女性が素晴らしく、捜索隊メンバーにぐっと厚みが出た。

韓国料理屋のホステス山田花子役の多田香織さん、直面する現実の厳しさと、
世間から隔絶されて育った青年と恋に落ちる初々しさとのアンバランスさが
とても良く出ていて切なくなった。

吉川竹夫を演じた松村武さん、不器用な生き方と内に秘めた優しさ、最後の決断をする
強さ、そして少年が追いかけてきたとき「嬉しかった」と激白するシーンが忘れられない。

助けてくれた人を親と信じて育った少年は「何だかその人のそばを離れちゃいけない
ような気がして」という根拠のない不安と隣り合わせに生きて来て20歳になった。
このどこか浮世離れした青年を好演した川隅美慎さん、ラストに明るい兆しを感じた
もう一つの理由は、この青年像が明るく清々しいからかもしれない。

しばらくは、美しいいくつものシーンを反芻する日々が続きそうな作品だった。



クリスマス解放戦線

クリスマス解放戦線

渡辺源四郎商店

こまばアゴラ劇場(東京都)

2015/11/21 (土) ~ 2015/11/23 (月)公演終了

満足度★★★★

青森のサンタ
笑っているうちに、何だか現政権下で起こりそうなエピソードにうすら寒くなる作品。
二転三転して最後にドカンとまたひっくり返す展開が、サスペンスフルで秀逸。
工藤良平さん、三上晴香さん、音喜多咲子さん、工藤由佳子さん、役者陣がほんと完璧。
何がって、台詞の咀嚼度、キャラの作りこみ、台詞の間、声のトーン等々が。
70分くらいという長さも実に心地よい。

ネタバレBOX

舞台中央階段の上にはクリスマスリースの飾られた白いドア。
ここは「クリスマス解放戦線」の拠点で、訪問者は合言葉を言わなければ入れない。
リーダーのシンちゃん(工藤良平)は先代リーダーのコズエ(夏井澪菜)を慕い、
過激な活動の後今は行方不明になっている彼女を、10年間学生のまま待っている。
近未来の日本では、「クリスマスは日本国民を堕落させる」として
祝うことを禁じられている。
「クリ戦」は、密かにその禁じられたクリスマスを祝う集団だ。
今年もささやかなイベントを計画し、ツリーやケーキを用意している。
ところが新メンバーとして参加した者の中に、警察側の人間やカルト教団の教祖が
紛れ込んでいてメンバーたちは大混乱に陥る。
実はその時、誰も知らない秘密の計画が進んでいた…。

少し前“クリスマスにはホテル・ディナー・ブランド物のプレゼント”という
バブル3点セットみたいなものがもてはやされた時代があった。
日本人の価値観が狂い堕落したのはあの“クリスマスなるイベント”のせいだ、
だから取り締まれ、という乱暴な論理が現政権と重なって面白い。

クリ戦メンバーキララ(音喜多咲子)の“毒吐きキャラ”も健在で楽しい。
彼女が実は大学1年ではなく、中学1年だったというのも見た目リアルに可笑しい。
音喜多咲子さんは台詞の“当意即妙感”が素晴らしく、これは天性のものだと思う。

もう1人紛れ込んでいたカルト教団「クリスマス帝国」のレイコ(三上晴佳)の
教祖ぶりも強烈な印象を残す。
自在な声の使い方、“イッちゃってる”風な目つきと妙な押しの強さ、で存在感抜群。
手下のサンタ(畑澤聖悟)に武器を配らせ、クリ戦メンバーを殺人テロ活動へと導く
ダークな教祖の凄みが素晴らしい。

実はすべてが国のカルト教団を潰すための計画だったとは、
そしてシンちゃんが法務大臣と取引していたとは…。
ラスト、帰って来たコズエのお腹が大きくなっていることに打ちのめされながらも
10年分のクリスマスプレゼントを次々渡すシンちゃんの姿にほろ苦い思いがこみ上げる。

日常と非日常、現実と悲現実を、薄い膜1枚で隣り合わせに描くことにかけては
なべげんは最高峰だと思っている。
毎回“演劇が今の日本の危うさを炙り出す最高に効果的な手法である”
ことを思い知らされる。
その意味で、「翔べ!原子力ロボむつ」や「海峡の7姉妹」、
「エレクトリックおばあちゃん」等の震えるような、こみ上げるような、
突き上げる感動は今回鳴りをひそめた感じ。
今回は対象が、直面する困難さではなく“時代の価値観”みたいなもの
だったからだろうか。

でも娘を連れ戻しに来た母親(工藤由佳子)が
「恋人はサンタクロース?!背の高いサンタクロースだぁ?!」と毒づくところ、
どうせすぐ別れるのに大枚はたいて盛り上がる人々に感心していた私としては
心から賛同いたしました(笑)







十七人の侍

十七人の侍

企画演劇集団ボクラ団義

CBGKシブゲキ!!(東京都)

2015/11/20 (金) ~ 2015/11/29 (日)公演終了

満足度★★★★

殺陣の醍醐味を満喫
初めてのボクラ団義、殺陣の華麗な振付けと鍛えられた役者さんの動き、
そしてサービス精神に、エンタメ集団としての素晴らしさを実感。
複雑なストーリーながらドラマチックなシーンの積み重ねが美しく映画のよう。
登場するキャラも魅力的で、工夫された衣装がよく合っている。
惜しいことに殺陣の音に台詞がかき消されることが多く、
またその台詞が謎解きの大事なポイントだったりするのでちょっと置いてきぼり感あり。
これで3時間近いのは少々辛い。
似たようなシーン・似たような台詞が繰り返され、役者さんも大変だっただろうと思う。
でも殺陣は素晴らしくカッコよくて、台詞と同じくらい感情がこもった動きに魅了される。

ネタバレBOX

奥に向かって登るように傾斜する舞台。
中央には洞窟のような穴が黒く口を開けていて、
1階2階の上手下手と合わせると出ハケ口は5か所もある。
繰り返される闘いのシーンも、この出入りが滑らかなので乱れた感じがしない。

舞台は砂漠、ここではもう何年も西と東が敵対して刀による闘いが繰り返されている。
そしてもうひとつ、侵攻軍という勢力が、西と東の両方を襲ってくる。
襲われるから闘う、闘わなければ死ぬだけだ。
しかし誰も闘いの理由を知らない。
そんなある日、ひとりの少女がこの地へやってくる。
手には「十七人の侍」と書かれた手紙と1本のナイフ。
彼女もまた、どうして自分がここにいるのか判らない。
判らないまま十七人の侍を求めて西と東を行き来するうち、両方の
“オアシスの番人”と過去の記憶“を探るようになる。
3人にはある共通の記憶があり、それはこの闘いの理由につながっていた…。

流れるような美しい動きと刀の閃きに合わせた正確な効果音で
躍動感あふれる殺陣が素晴らしい。
ジュウゾウ・キュウゾウ役の竹内尚文さんのクールな殺陣が印象に残る。
侍として恥ずべきことをした自分を許せない潔癖さを持つ男が魅力的。
感情を抑えた表情と切れの良い動きが、かえって秘めた思いを雄弁に語る。
西と東の長老はじめ、キャラの構築がくっきりしていて解り易いのも良かった。
役割分担に応じたキャラの“典型”が、安定感と人物相関図理解の手助けになる。
黒沢明の「七人の侍」と“四十七士の討ち入り”の名前をアレンジしたアイデアも面白い。

ちょっと残念だったのは、やはりゲーム世代向けだったこと。
この場合は現実のプレーヤーの意思がキャラに反映されてさらに複雑になった。
謎解きの手引きとなるストーリーテラーの声がアクションシーンと重なり
聞き取りにくいこともあった。
“新しすぎて発売中止になった”理由が“脳に直接作用するゲームで危険すぎる”から、
というような理由だったと思うが、映画「マトリックス」みたいな感じだろうか?
そのあたりの説明がもう少しあっても良かったような気がする。
もっとも、よくわからなかったのは私だけかもしれない。
なにぶんゲームの世界に慣れていないので…(^^;)

サービス精神あふれるアフターイベント(指名した役者さんを斬る)も楽しかった。
終了後のアフターパンフは大変親切で有難いサービス。
もっと若い女性ファンが多いだろうと予想していたのだが意外に中年男性ファンが多く
私の前後左右のおじさん達が「撮影タイム」に一生懸命写真を撮っていたのにも驚いた。

以前別の劇団に客演していた沖野晃司さんを見てボクラ団義を知ったが
アクションにも台詞にも力のある役者さんが多く、また別の顔も観てみたいと思った。






もっと美人だった

もっと美人だった

箱庭円舞曲

ザ・スズナリ(東京都)

2015/11/04 (水) ~ 2015/11/09 (月)公演終了

満足度★★★★★

選択
構成と台詞の妙、スパイスのように効く少々シュールなエピソードや濃い目のキャラも秀逸。
“聞いたことはあるが私は出会ったことがない”登場人物の名字がフルってる。
思いがけないことで日本中に知れ渡る名前もあるが、名前に翻弄される人生もある。
隙の無い役者陣が台詞の繊細さを的確に表現し、絶妙の間で客席の笑いを呼ぶ。
創り手の温かいまなざしも心地よく、長さを全く感じさせない舞台。

ネタバレBOX

舞台は3つのパートに分かれている。
2階下手側は大学のゼミ室。
上手側は自宅で自己啓発系美容教室を開いている、その教室。
そして1階は失踪した議員の留守宅の居間という設定になっている。
これは毒島未来(ぶすじまみき)というひとりの女性の半生記である。
その名字からずっと「ブスブス」と呼ばれた未来は、
婿を取ってやっぱり毒島のままである。
自宅でちょっと怪しい「内面から美しくなる」とうたったお教室を開いている。
やがて夫は議員になったが、議員なら誰もがやるような不正を突かれて失踪、
自宅に石が投げ込まれるなどして、未来は引っ越ししたりしている。
物語は3つの時代を行き来しながら未来の人生を浮き彫りにする…。

3つの場所でそれぞれの未来がその時々を精一杯生きているのが伝わってくる。
無責任な先輩乃木坂(安藤理樹)に振り回され、自分の存在価値を見失う
若き日の未来(白勢未生)が痛々しくも率直。

疑いながらも怪しい教室へ通い続ける生徒平陽役の辻沢綾香さんが素晴らしい。
中途半端でない振り切れた演技が、“地味にくすぶっている人生とその爆発”を
極めてリアルに、“切羽詰った感”満載で見せる。
実は潜入ルポライターである、もう一人の生徒美女木(川口雅子)との
次第にエスカレートするやり取りは本音と攻撃性が鮮やかで、台詞・演技とも秀逸。
生徒の疑問を巧みに丸め込もうとする未来(牛水里美)のしたたかさも大したもの。

現在の未来(ザンヨウコ)もまた追いつめられた状況にある。
“ほかの議員だってやってる”程度の不正がスキャンダルになって、
ネットで叩かれ、自宅に石を投げられている。
出入りする選挙管理副委員長資延(すけのべ)役の山崎カズユキさん、
政治の中で生きる人のうさん臭さ、日和見根性が
ちょっとした姿勢や視線からビシビシ伝わってくる。
信頼する人を失って孤立する未来が強く、たくましいのは
過去の様々な体験の積み重ねの結果だ。
愚かしくも真剣だった過去の出来事が、今の未来を支えている。

その愛おしさがしみじみと伝わってくるのがラスト、3人の未来が語り合うシーンだ。
下手をすると蛇足になりがちなこのシーンが、温かくまとまるのは
あの頃の愚かさを悔いたり反省したりするのではなく、肯定し受け入れているから。
この自己肯定と受容が、強靭なしなやかさとなって作品全体を貫いている。
かつて自分を傷つけたはずの人々を笑顔で許すザンヨウコさんの姿が、
それを象徴している。


彼女にとって無敵の世界

彼女にとって無敵の世界

ライオン・パーマ

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2015/10/29 (木) ~ 2015/11/01 (日)公演終了

満足度★★★

盛りだくさん
常に表面を軽い笑いが渦巻いていてクスッとさせる。
だが底の方に考えさせる要素が仕込んであって
最後にそれをスプーンでひと口、ほろ苦い味で〆る感じ。
その構成はいいが、ちょっと解りにくいのがもったいない。
もっとストレートに親心と、娘の成長譚であっても良かったような気がする。

ネタバレBOX

まこと(柳瀬春日)は眠りにつく前のひととき、今日も父親(樺沢崇)のお話を聴く。
父の語る物語は、昔ばなしや名作をアレンジしたもので、どれも現実的だ。
だから登場人物が死んでしまうことも多い。
ついにまことは「自分が物語の中に入って主人公を助ける!」と言い出す。
「世界で一番私を愛してくれるパパの創った世界なら、私にとって無敵の世界のはず」
そう言ってまことは自らその物語の中へと入っていく。
果たしてそこは、本当に無敵な世界なのか…?

おバカな世界と思っていると、父親の含蓄ある台詞も出てきたりする。
このお父さん、地味ながらなかなか台詞に味わいがあってよかった。
ただせっかくの意図がエピソードに紛れて解りにくいのが残念。
「浦島太郎」「銀河鉄道の夜」「走れメロス」「不思議の国のアリス」と
音無家、 山田家の人々という、盛りだくさんな展開にテーマが埋もれがち。
もっとストレートに“もう一つの世界”の価値観に触れたまことが成長し、
戻って来て厳しい現実を受け入れる、という話でも十分面白いと思う。

その理由は、出てくるキャラがバラエティ豊かで楽しいから。
シャドウ(あや)や、アナザー(比嘉建子)など存在そのものが意味深なのも大好きだ。
車掌(石毛セブン)の滑舌よく切れの良いジャッジは最高だった。
アナザーとシャドウも台詞が聞き取りやすくて、台詞の面白さが伝わる。
中には台詞が流れてしまってせっかく面白いことを言っているのに
テレビのように字幕があればもっと笑いが取れるだろうな、
と思う方もいてちょっと残念。
また常に笑いがちりばめられてはいるが、どかんと笑ったところは少なかったかも。
そのあたりのメリハリがあれば、もっと魅力的な舞台になると思う。




無心

無心

劇団 東京フェスティバル

小劇場B1(東京都)

2015/10/23 (金) ~ 2015/10/28 (水)公演終了

満足度★★★★★

柔軟
直球ストレートな問題提起と、それを他人事と思わせない設定が
きたむらさんの真骨頂。
矛盾との共存を余儀なくされている沖縄の実情がビシビシ伝わってくる。
そこに暮らす人々の柔らかで、他を許し受け入れる精神が美しい。
“暑苦しく愛すべき”登場人物が大変魅力的で、うまく行き過ぎなラストまで
惹きつけられた。
シリアスなテーマを扱いながら笑いのタイミングを決して外さないところも
素晴らしい。
当分沖縄弁のイントネーションが頭から離れないさあ。


ネタバレBOX

沖縄、基地移設反対運動の拠点「テント村」が舞台だ。
活動を続けるメンバーたちは、皆沖縄の現状に矛盾を感じながら、
それでも協力し合っている。
ところがその矛盾が具体的な形で彼らの身に降りかかる。
娘が米兵と交際していたり、妻の病気にお金が必要で用地買収に傾いたり、
国の事業を請け負う仕事をしている父親の言いなりだったり…。
そしてそこへ東京からひとりの男がやってくる。
彼は地元の議員の主張の矛盾を突き、新しい発想で
事態を打開しようと試みる…。

基地がすぐになくならないのは誰もが分かっている。
考え出したら怒りと情けなさでいてもたってもいられないような場所で
沖縄の人々は生きている。
矛盾を矛盾のまま受け入れ、だけど純粋なエネルギーは持ち続ける。
そんな南国らしいおおらかさと、敵対する人をも理解し思いやるやさしさが光る。
きたむらけんじさんの脚本は、真摯に現実と向き合う人を描く時、その人を甘やかさない。
辛い選択をさせ、情けない告白をさせ、大事な友人を失う覚悟をさせる。
観ている私たちはそこに歩み寄り、深く共感する。
そして一緒に解決方法を探すのだ(たとえ解決できなくても)。

ストーリーを動かす登場人物が二人、実に魅力的だった。
一人は公務員でありながら反対派に心を寄せ、
敢えて間に立って職務を全うしようとする男。
菊池均也さん演じるこの男は、複雑な心情と立場が今の沖縄を象徴するようで、
この立体的な人物造形が物語に奥行を与えている。
もう一人は、東京から来て新鮮な空気とアイデアを吹き込む男。
江端英久さん演じるこの男は、アフロヘアの見かけとは違って硬派な一面を見せる。
硬直した関係性に全く新しいアプローチをする外の風だ。

これら役者陣の熱演が、暑苦しいキャラにはまって大変楽しい舞台になった。
山口良一さんの“間”と終演後の“しゃべり”に、さすが鍛えられてるなあと思った。

東京フェスティバル、テッパンの良心で泣かせる数少ない劇団だ。


イエドロの落語 其の参

イエドロの落語 其の参

イエロー・ドロップス

八幡山 秘密の見世物小屋(東京都)

2015/10/09 (金) ~ 2015/10/11 (日)公演終了

満足度★★★★

★4つ半です!!
元ネタの落語を「落語を聴くより面白い芝居」にするにはいくつかの仕掛けが必要だ。
噺家がひとりで演じる落語を二人で、景色や状況を映像で補足、
芝居ならではのエピソードを挿入…と、
その仕掛けがうまくかみ合って大変面白かった。
「ニートの金蔵」とか、スマホの着信音とかの演出も良い。
★は4つ半とさせていただきます。

ネタバレBOX

横長の白い壁(布?)を正面に、椅子と座布団が並べられている。
主演のお二人は受付や席への案内に心を砕いてくれて、いつもながらの雰囲気。

冒頭映し出される映像がセンスも抜群、大変楽しい。
長編の「品川心中」を前半でカットして
「粗忽長屋」の“行き倒れ”につなげる辺り、とてもよくできていると思う。
「始末の歌」はいつ聴いても笑える。

遊女お染と“ニートの金蔵”のキャラがはまって落語の語り口に劣らぬ面白さがあった。
わかばやしめぐみさんの、落ち目の遊女の意地と情けなさがとても良い。
さひがしさん演じる、金蔵の底抜けなお人よしぶりも良かった。
案山子の師匠が若々しく、もうちょい“枯れた感”が欲しかったかな。
「パラレルワールド」の哲学的思想を挿入したことも成功している。
終盤の映像とリンクして、自分勝手なお染と、甘ったれの金蔵が
それぞれ変化・成長する様と重なるのも上手い。

ちょっと残念だったのは、やや饒舌なところ。
「粗忽長屋」のオチ「…抱いてる俺は誰だ?」のリピートはなぜだろう?
案山子の師匠のキャラがもっと渋く、もっと台詞を絞ったらより印象に残るのではないか?
一発で決めるオチの強さ、シュールな面白さが薄れた印象が惜しい。
だが元ネタを知らない人が見れば全く気にならないことかもしれない。

これらはたぶん「イエドロの落語」がどうありたいか、にかかわってくると思う。
「落語の面白さを芝居仕立てで伝えたい」のか
「落語に想を得た芝居を創りたい」のか。
それによって創作部分の分量や繋ぎ方、キャラの投入などが変わってくるだろう。

個人的な好みを言えば、
思わず元ネタのあらすじをネットで確かめたくなるような
どこまでが落語なのかわからないほど自然で自由なストーリーが観たい。
落語には出てこない魅力的なキャラが自在に動き回るのが観たい。
もしかしたら新作1本書くより手間のかかる作業かもしれないが
既に完成された落語というジャンルを、敢えて芝居で魅せる意義は
そこにあると思うから。
いずれにしてもこの芸達者なユニットの、次が楽しみ(^^♪

『心中天の網島』

『心中天の網島』

木ノ下歌舞伎

こまばアゴラ劇場(東京都)

2015/09/23 (水) ~ 2015/10/07 (水)公演終了

満足度★★★★

不安定な恋
役者は熱演、大事なものを失った人間が死を選ぶプロセスも鮮やかな、
ストーリーも秀逸。
だから歌わなくても完結しているところへ熱く歌うものだからちょっと過剰な印象。
それはたぶん歌舞伎の台詞そのものが音楽的でメロディアスだから。
全員が西田夏奈子さんくらいに歌えたらまた少し変わったのかもしれないけれど。
それにしても生きるか死ぬかの苦悩する人を表現するのに、
歌舞伎の台詞はなんと相応しい事だろう。


ネタバレBOX

白い平均台が網の目のように並べられ、あるいは立てかけられた舞台。
明転すると役者が歌いながらそれを平らに均していく。

遊女小春(島田桃子)に入れあげた治兵衛(日高啓介)は心中の約束をする。
ある日治兵衛は小春が「本当は死にたくない」と口にするのを聞き激怒。
小春を罵って別れを告げる。
だが小春は治兵衛の妻おさん(伊東沙保)に頼まれわざと愛想尽かしをしたのだった。
やがて真実を知った治兵衛は、意に染まぬ身請けを受け入れた小春が
ひとりで死ぬつもりであることを悟る。
おさんも、自分の願いを黙って聞き届けた小春の気持ちを知り、
死なせるわけにはいかないと決意。
夫婦は財産を投げ打ってでも小春を助けようと二人で力を合わせる。
しかしおさんの父は、遊女に入れあげる治兵衛を責め、無理やり夫婦を別れさせる。
妻も、小春を助ける金も失った治兵衛は、今度こそ本当に
小春と死ぬしかないと心を決める。
二人はいくつもの橋を渡り、死出の旅に出るのであった…。

冒頭の歌が、パワーはあるもののもう少し上手かったらなあ、と思ってしまった。
“役者の歌は上手さではない”と言うけれどやっぱり気になる。

不安定な平均台の上をそろりそろりと歩く人々は、それだけでもう
人生の危うさを感じさせる。
いつかは落ちてしまうであろう事の成り行きを暗示していて上手い。
一方治兵衛とおさんの家はベニヤ板を敷いて家庭の安定感を出している。
ただし堅牢なものではない。ベニヤの下はやはり平均台なのだ。

治兵衛とおさんが、小春を助けるために家財を売って金を工面しようとする場面、
小春を挟んで二人が互いの大切さを思い出す、皮肉ながら温かい場面である。
おさんの人柄がとても繊細に描かれていて良かった。
ここでは歌が効果的に使われていると感じた。

小春の真意を知りながら治兵衛を諭す、兄の孫右衛門(武谷公雄)の台詞に
味わいと慈しみがあった。
おさんの母役西田夏奈子さんは歌唱力、ギャグの間など随所で芸達者ぶりを発揮、
舞台全体をけん引していて素晴らしい。

人生に絶望した治兵衛とおさんが心中するところ、そのリアルなやり取りがよかった。
単なる形だけの心中ではなく、最期まで弱く、往生際が悪く、人間臭さが出ていた。

治兵衛が心中を決意する理由のひとつに、おさんを失ったことがあるとすれば
この心中は、男の論理と翻弄されつつそれを許す女の哀れさに満ちている。
この“浮気の構造”を紐解いて見せる近松さん、やっぱりすごいわ。
その頬、熱線に焼かれ

その頬、熱線に焼かれ

On7

こまばアゴラ劇場(東京都)

2015/09/10 (木) ~ 2015/09/20 (日)公演終了

満足度★★★★★

ヒロシマの25人
原爆乙女と呼ばれた女性たちがケロイドの治療の為に渡米したことは聞いていたが
選ばれた25人の、その選択がどれほど苦悩に満ちたものであったか、
改めて等身大の女性たちの声として聴く思いがした。
戦後70年に相応しく、また女優7人のユニットに相応しい脚本が
声高でないだけに、じわりと沁みこんで素晴らしい。
隙のない演技の応酬が見応え満点、会話劇の醍醐味を味わった。

ネタバレBOX

対面式の客席に挟まれた舞台は極めてシンプル、ボックス型の椅子が4つのみ。
冒頭、アメリカに到着したばかりの原爆乙女を代表して敏子(尾身美詞)が挨拶をする。
長い髪でケロイドを隠すように俯きがちに話したあと、まるで義務のようにケロイドを晒す。
大きな音でフラッシュがたかれ、その音に思わずたじろぐ。
25人の原爆乙女たちは順番に手術をうけるのだが、
ある日、簡単な手術といわれていた智子(安藤瞳)が、麻酔から覚めないまま死亡する。
善意で無報酬の手術を引き受けてきたドクター側にも、原爆乙女たちにも衝撃が走る。
これで手術が中止になるのは嫌だという者、手術が怖くて受けたくないという者、
双方の意見が対立する中、死んだ智子と交わした会話を思い出しながら
初めてそれぞれの思いを吐露していく…。

麻酔から覚めずに死んでしまった智子が狂言回しの役割を果たす構成が秀逸。
他者を受け入れる優しさと包容力を持った彼女は、生前ほかのメンバー達と
深いところで触れ合う会話を交わしていた。
そんな彼女との会話を思い出しながら、皆否応なく自分をさらけ出していく。
同じようにケロイドがありながら審査に落ちた仲間たち、
傷の程度を比較しては幸せを計り、妬んだり羨んだりする被爆者の社会、
日本ではマスクして歩いていたがアメリカでは顔を出して歩けるという開放感、
ピカによって損なわれた人生、容貌、可能性を、ただ想像するだけの生き方でなく
アメリカで手術を受けることで変えようとする強い意志…。
舞台はそれらを反戦や正義感から声高に訴えるのではなく、
等身大の女性に語らせることで一層切なく理不尽さを突き付ける。

「死に顔をきれいにしたい」という弘子(渋谷はるか)の言動が良きスパイスになっている。
前向きに仲間同士励まし合って…という流れに逆らい、ひとり突っかかっていく弘子の
緊張感のあるキャラの構築が素晴らしい。

北風と太陽のように、じわじわと頑な弘子の懐に入っていく
智子の強い優しさが印象に残る。
安藤瞳さんの淡々と語りながら包み込むようなまなざしが、
この作品全体を俯瞰している。

片腕を失って尚、いつも周囲を励ます信江(小暮智美)が
たった一人の身内である祖母の話をした時は涙が止まらなかった。

ラスト、帰国した敏子は、髪を一つにまとめてまだケロイドが残る頬をすっきりと出し
力強く感謝の意と希望を述べて挨拶をする。
死んだ智子が微笑みながらそれを見ている。
この終わり方が一筋の救いとなって、観ている私たちも少しほっとする。

私はこんなに傷ついた身体になっても“生きていることに感謝”できるだろうか。
木っ端みじんになった人生を立て直す気になれるだろうか。
ヒロシマ・ガールズたちの強さは、そのまま哀しみの目盛りに重なる。
昨今は学校における原爆教育そのものが敬遠されがちになっているとも聞くが、
平和ボケ甚だしい日本にあって、このような意義のある作品に感謝したいと思う。
Vol.2『健康"・指・露的・回転盤』終演◎ご来場ありがとうございました!

Vol.2『健康"・指・露的・回転盤』終演◎ご来場ありがとうございました!

ド・M(マリーシア)野郎の宴

Geki地下Liberty(東京都)

2015/08/27 (木) ~ 2015/08/30 (日)公演終了

満足度★★★★

死にたい男
重すぎる、答えのないテーマに果敢に挑戦していることに感心した。
しかも無理や背伸びをせず、等身大の矛盾に悩む姿を素直に映して好感度大。
これをコメディにした脚本の力を感じる。
死刑囚のキャラ設定や、彼と1対1で向き合った時の会話が素晴らしい。
コメディシーンでちょっと脚本の台詞に役者がついて行ききれていないのが残念。
一番客席が湧いた“ビンタ”の場面、あの“タメ”と勢いがもっと欲しい。
しかしこの”死にたいのに死なない男“、いいねえ!


ネタバレBOX

いつもながら感じの良い受付と案内で地下へ降りる。
客席から見てもこの劇場の造り、本当に使い勝手良さげで面白いと思う。

5人の死刑執行官が並んでボタンを押す指示を待っているところから始まる。
誰のボタンで執行されたかわからないように5人が一斉にボタンを押すのだが、
この仕事に疑問を持つ者、ことさら軽いノリでやり過ごす者、淡々とこなす者、
とそれぞれ思うところありながら職務についている。
ところが今日の死刑囚のひとりは、執行後も死ななかった。
そして意識を取り戻した彼は、病院を抜け出して刑務所へと戻って来る…。

ごく普通の感覚で描いているから、死刑をめぐる意見の多様性が身近に感じられる。
ああいう仕事をする人たちも、きっといろんな思いで働いているんだろうなと思う。
熱血漢で繊細な菅谷(佐々木祐磨)の、矛盾に対する疑問の眼差しが純粋で
思わず一緒に考えさせられる。
佐々木さんはここ何作かで急に上手くなったと感じる(エラそうにすみません)。
内に秘めた思いを持つ福本(森山匡史)や副所長(紀平悠樹)のキャラもとても良かった。

キャラと言えば、何といっても死刑囚笠井川(大浦力)が魅力的。
雨の日に仕掛けを施した傘で、2年間で女性ばかり16人を殺したという伝説の殺人鬼・・・、
ってもうそれだけで1本芝居が出来そうなキャラじゃないか!
自分を生んで死んだ母親の歳が34歳だったから、自分もそれまでに死にたいという
“死刑願望”を持つというのも、このテーマに一石を投じるのに十分な要素だ。
大浦さんは台詞の多い役も面白いが、こういう寡黙な役の時の表情が良い。
最初に登場するところ、刑が執行される直前客席の前を横切って行くのだが、
その横顔が“屈折した殺人鬼”のそれを感じさせて素晴らしい。
どんな経緯で罪を犯したのか興味を掻き立てる顔だった。
このキャラがあって初めて成立するストーリーだと思う。

ギャグとシリアスの割合は良いが、ギャグの部分が弱い印象。
テンポを優先するあまり台詞が流れて引っかかりがないまま滑って行く感じが残念。
ユルイ会話の面白さを出すのは一番難しい事だと思うが
工夫次第でもっと笑いがとれるはず。
ボケとツッコミを整理して1時間30分くらいにしたらシャープになると思う。

ラスト、再執行されてもまた死なないというオチが秀逸。
死にたい男は死なない、死ねないという皮肉が効いている。
彼にとっては死ねないことこそが罰だろう。

しかしこのテーマにこのセンス、私は好きだなあ。
次も楽しみにしています (^_-)-☆

ゴースト・ゴースト・ゥライター

ゴースト・ゴースト・ゥライター

東京パイクリート

OFF OFFシアター(東京都)

2015/08/19 (水) ~ 2015/08/23 (日)公演終了

満足度★★★★

物書きがいる!
怒涛の台詞が鍛えられた役者陣から繰り出され、
シチュエーションだけに頼らず脚本の面白さでも大変楽しめた。
職業人の裏話と悲哀に支えられながらカラッと明るい。
舞台が大きく動くのは中盤からだが、前半の振れ幅の大きい演技が
中途半端でないことが、後半の展開を支えている。
内海詩野さんとさわまさしさんの掛け合いが絶妙で素晴らしい。

ネタバレBOX

中央に大きなベッド、下手にはソファ、上手に細長い机、机の上には書類の山。
ここは古いホテルの一室で、脚本家の千葉真(内藤羊吉)がカンヅメになっている。
最後の章が書けなくて悩んでいる彼の元へ、催促にやってくる編集者堂本(加藤玲子)、
歴史家(?)の江沢(用松亮)、そしてず~っと以前からここにいる地縛霊が二人。
なかなか書けない千葉ちゃんを助けようと
元物書きの地縛霊たちが立ち上がるのだが…。

当日パンフにあるように「楽屋」を“女優”から“脚本家”に置き換えたという作品。
これが、コメディに徹することで全く違うものになった。
まず地縛霊の強烈なキャラが面白い。
地縛霊安孫子(さわまさし)と馬場(内海詩野)の二人の明治か大正のようないでたち、
“眠っている人の身体を借りて自分が書いてやろう”と言い出す安孫子と
“色恋”しか書けない馬場の、
ズレながらもテンポ良く交わされる会話が楽しくて引き込まれる。
バカバカしい会話なのに勢いがあって無駄がない、この脚本が大変面白い。

平凡な脚本家の男が、死者と対話することで自分の“逃げの人生”を振り返り、
人生をやり直す前向きな方向性が明るくて心地よい。
そもそも地縛霊や、死の床にある作家の代わりにゴーストライターが書く、という設定が
十分重いのだから、そこで泣かせなくてもベースには既に悲哀が横たわっている。
ゴーストたちが何気に口にする台詞がまたいい。
欲や世間に翻弄される生者が見失っているものを、さらりと提示してくれる。

欲を言えば、安孫子と江沢と本当の作者(名前忘れました)の3人が
見た目もキャラも近かったかな、と言う気がする。
全く違うキャラ設定の方が、憑依が明らかでより面白かったと思う。
編集者堂本に憑依した時も、もっとジイサンと若い女性の振れ幅が大きい方がいい。
声を変えるのは大変かもしれないが話し方で変化はつけられる。
そのあたりの工夫がされたら、もっと爆笑が起こるはず。
せっかくのこのアイデアと脚本、更なる進化に期待したい。
ヘルメスの媚薬

ヘルメスの媚薬

BELGANAL

新宿眼科画廊(東京都)

2015/07/31 (金) ~ 2015/08/05 (水)公演終了

満足度★★★★★

危機管理
60分の中に、人間の欲とプライド、他人を観察して面白がる冷めた視線が交差して
濃密な“嘘つきドラマ”が展開。
“大人の崖っぷち感“満載の登場人物が「人は信じたいものしか信じない」なんて
素敵な台詞を吐きながら蠢くあたり、作家柳井氏の若いのに老成した部分が全開。
不気味なBGMも良かった。

ネタバレBOX

入り口から見ると奥へと延びる長方形のアクティングスペースには
たくさんの白っぽいくしゃくしゃの紙が敷き詰められている。
目を引くのは正面の壁を覆う、一瞬血しぶきかと思うような荒々しいタッチの抽象画。
それを三方から囲むように客席が設けられている。

暗転の後、車いすの男性がゆっくりとその絵の前に進み、絵を見つめている。
表情は暗く、生気がない。
彼は日向記念病院の病院長志郎(西地修哉)、妹百合は看護師長(林田沙希絵)、
弟直樹(朝川優)は事務長、という一族が経営する病院である。
ここで原因不明の病気により、5人の患者が次々と死亡した。
スキャンダルを怖れる病院が呼んだのは、かつてこの病院の医師で、
今は医療危機管理センターの主席コンサルタント大神(鶴町憲)である。
情報分析に長けた門野(北村雄大)と共に、副院長の牛尾(狩野和馬)や
カウンセラーの兵藤(岸野聡子)らからも聞き取り調査を開始するが、
全員何かを隠している様子でなかなか核心にたどり着けない。
そんな中、事務長の直樹が提出した資料から、内部告発の手紙が出て来る…。

率直かつ素直なのはコンサルタントの大神だけで、
他は皆怪し気で嘘をついているように見える。
だからつい大神の視点で真相に迫ろうとしてしまう。
「人は信じたいものしか信じない」という台詞は、
大神と同時に観ている私にも向けられている。

隙のない役者陣が素晴らしく、緊張感が途切れないままラストまでなだれ込む。
一度もハケない鶴町さん、屈託のある立場で真実を追求する姿にリアリティがあった。
車椅子の病院長役西地修哉さん、積極性をとことん消した表情と声が巧い。
事務長を演じた朝川優さん、チャラいぼんぼんの感じが巧くて、
その後の行動とのギャップが鮮やかだった。
KYな助手門野が医療部門の専門家でなく、観客と同じ目線で
質問したり解説を求めたりしたのが理解を助けてくれて良かった。。

大人の嘘は“何かを守るため”、その何かとは“自分を守ってくれるもの”なのだ。
そして嘘をついた人間は、どこかでそれを告白したくてたまらない。
その衝動は嘘の大きさに比例して強くなり、ついには耐えきれなくなって爆発する。
告白すれば楽になるが、同時にその人間の終わりも意味する。

抑制の効いた人生の最後に”媚薬”を持ってくるところが
単なる医療問題にとどまらない奥深さがあって素晴らしい。
無駄なせりふ無し、こってり気味の演技も謎解きにはプラス、
事件の15年前も、事件の今後も気になる含みを持たせた構成も巧い。

本当にこのあと、病院はどうなるのだろう?
誰一人爽やかな笑顔を見せなかったこの物語の、今後が気になって仕方がない。
そしてすべての始まりであった15年前の物語もまた観てみたいと思う。
空恐ろしい15歳の少女の物語を。



君原毬子の消息

君原毬子の消息

劇26.25団

駅前劇場(東京都)

2015/07/30 (木) ~ 2015/08/03 (月)公演終了

満足度★★★★

動機
「歌う映画スター」君原夢子の突然の死の謎を追いつつ、描かれていく家族の裏側。
天才女優は私生活も奔放で、夫も養子の子どもたちも、人生丸ごと振り回されてきた。
いびつな家族の内面が次第に明らかになる過程が、サスペンスフルで意外性に富んでいる。
夢子役のリサリーサさんがはまり役で、華やかさと同時に退廃的な雰囲気が素晴らしい。
「この世には女と男と女優しかいない」という、その女優の毒がたっぷり味わえる。
まさに「君原毬子の消息」がカギとなる、このタイトルも秀逸。

ネタバレBOX

舞台は横長で正面にベンチ椅子といくつかの椅子、下手に小道具が並んだ棚。
棚の小道具は、テレビの生放送ドラマが出てきたころのスタジオシーンで使われる。
上手には庭と池があるという想定。

冒頭、自宅の池で“歌う映画女優”君原夢子が死に、大騒ぎとなるところから始まる。
夫英夫(田辺日太)との間に子どもは無く、夫婦は5人の子どもを養子に迎えていた。
しかし現場に残されていた「M.K」のイニシャルが入ったネックレスに疑問を抱いた刑事は
夢子が夫の出征中に妊娠、出産した毬子という娘の存在を英夫に告白させる。
17年前親類に預けたままの毬子が母親を殺しに来たのか…、という衝撃の中
養子たちの事情が次々と明らかになり、使用人セツ(林佳代)も秘密を抱えていた…。

よくある、刑事が聞き取りによって次第に犯人を割り出すというパターンではなく
一家の日常と過去の再現シーンとで次第に観客に解き明かしていく展開が面白い。
また英夫と長男正巳(長尾長幸)が出演する、テレビドラマの撮影現場を挿入すること、
そのドラマが、君原夢子の残された家族の物語であること、などから
一家を見る世間の好奇の目や、演じる英夫の役者としての葛藤などが伝わってくる。

この“現在と過去”、“現実とドラマ”が交互に描かれる構成が上手い。
「自分の子どもには何をしてもいい」と言い放つ夢子の身勝手さと
どうしようもない孤独が浮かび上がる。

夢子を演じたリサリーサさんの歌唱力と貫禄ある大女優ぶりに魅せられた。
夫役の田辺日太さん、長男役の長尾長幸さんの繊細でリアルな演技が印象的。
対称的に養子虹子を演じた梢栄さん、珠子役の犬井のぞみさんの濃い目の演技が
全体にメリハリをつけてこれもまた強い印象を残した。
ラスト、ここから本当に残された家族が共に歩み始めるような温かさがあって
救われた気持ちになった。
猫と洞窟と夏についての試論

猫と洞窟と夏についての試論

feblaboプロデュース

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2015/07/23 (木) ~ 2015/07/26 (日)公演終了

満足度★★★★

10代の事情
十七戦地で柳井氏が見せるミステリーの重厚さが“大人の事情”から発するならば
10代には“10代の事情”が存在して、人生を左右するほどの重みを持っているのだ。
彼らの若さゆえの行動が連鎖するところは説得力があるが
主軸となるキャラの設定や演出等に、若干の疑問も。

ネタバレBOX

小さな会議室に長テーブルが並び、丸椅子が置かれている。
下手は会議室の外、廊下へとつながるスペース。

歌舞伎町のビルの一室に集まった7人の男女は、皆同じ手紙に呼ばれて来た。
彼らは「高校生科学技術コンクール」出場常連校だった
大江学院高校科学部の元メンバーで
5年前、全国大会を目前にある不祥事から出場資格をはく奪され、
関係者は重い処分を受けた。
メンバーのその後にも大きな影響を与えたこの出来事が、
1通の手紙によってもう一度検証されようとしている。
手紙の差出人は誰なのか、そして不祥事は本当にあったのか…?

当時1年生だったメンバーが議事進行役、それを補佐するのは
5年前に唯一学校に対して好意的な記事を書いたフリーライターの男である。
事実を検証し直していくうちに少しずつ嘘が露見していく様が面白い。
10代の、彼らなりに切羽詰まった世界がリアルに描かれていて、
嘘をつく事情に説得力がある。

ただ、唯一大人として参加しているフリーライター(池田智哉)が
中盤やり込められてオタオタするところは少しキャラに違和感を覚えた。
彼もまた忸怩たる思いで参加している不完全な人間だとしても
だからこそ真摯に、大人ならではのアプローチをしてほしかった。
牽引する立場の人間は魅力的な方が観ている方は素直について行ける。

手紙と、それに同封されたという写真を
客席のパンフの中に入れた演出が素晴らしい。
あれで共有する情報が一気に増え、一緒に謎解きをする面白さにつながった。

あのスペースをほぼ半分に区切って会議室を小さくしたのはなぜだろう?
もう少し広い空間にしたら、進行役が客席に背を向けなくても良いだろうし、
テーブルの間を移動するのもスムーズになったかもしれないと思う。
空間と配置に工夫の余地があるような気がした。

カッとなりやすい短絡的なパン屋を演じた前田ちまきさん、
エリートコースを歩む多田を演じた室田渓人さん、
岡山の蓮農家の男を演じた三宅勝さんが印象に残った。


祝祭

祝祭

Trigger Line

小劇場B1(東京都)

2015/07/18 (土) ~ 2015/07/26 (日)公演終了

満足度★★★★★

誰かのために生きる
フィクションとノンフィクションを織り交ぜた作品だというが、その境界線を
全く意識させない怒涛の展開が素晴らしい。
大統領の思惑と言動、完全に “外交負け”している日本の政治家など
“あるある”感満載で説得力ありまくり。
息もつかせぬ緊張感と無駄のない台詞、巧みなキャラの配置によって
たっぷりと伏線が張られ、驚きのラストまで一気に見せる。
私には初めて拝見する役者さんも多かったが、そのあまりのハマりっぷりに、
もうこれ以外の配役が考えられない。
3か所の出入り口を生かしたスピーディーな出ハケと場面転換の巧さにも感心した。
繊細な照明も素晴らしい。
それにしても終盤のあの演出、もう一度別の角度から彼の表情を見てみたい。


ネタバレBOX

1996年12月、レセプションが開かれていたペルーの日本大使公邸が
“革命家”を名乗る集団に乗っ取られ、
大使はじめ政府関係者や民間人など約600人が人質となった。
最終的に日本人24人を含む72人が数か月間拘束され続けた。
「平和的解決」を強く要請する日本政府の要求が通るかに見えた頃、
ペルー大統領は、日本政府に事前通告もなく特殊部隊を突入させる。
偶然にも日本人は全員無事に救出されたが、そこには驚愕の真実が隠されていた…。

日系大統領がヒーロー扱いされたあの当時、強行突入の理由を声高に問うよりも
人質が無事に帰って来た喜びの報道の方が断然多かったと思う。
物語は、その隠された真実をドラマチックに描いて
“何も知らない、知ろうとしない日本人”に鋭い問いを投げかける。

彫りの深い、陰影のある登場人物が大変魅力的で惹かれる。
大統領から交渉役に抜擢された国家治安情報局のカタオカ局長(佐川和正)は
端正な居ずまいと沈着冷静な話しぶりで「静」のイメージだったが、
大統領のバカ息子を一喝する迫力との鮮やかなギャップが素晴らしかった。
一方では過去の辛い経験と、それをテロリストに打ち明ける弱さと素直さを見せる。
彼の心の傷が、人質事件最大の謎に絡むところがダイナミック。

テロリストの指揮官ホセ(西岡野人)も実に魅力的な人物として描かれている。
知識と教養を持ち合わせ、交渉役の言葉に内省する謙虚さもある。
“金は出すが実情を知らない”日本人に対する言葉には説得力があった。
ほかのメンバーも、強行策を主張するサンチェス(今西哲也)の暴走寸前の緊迫感や
日本人に興味を持ち、のちにサンチェスを諭すミゲル(藍原直樹)の人の良さなど
一人ひとりのエピソードが的確で、事件の背景をはっきりと浮かび上がらせる。

そして常に「ハレルヤ」と唱える神父(林田一高)の、
人が良すぎて逆に胡散臭いキャラ。
林田さんが“ただ人の良い神父”を演じるはずはないと思っていたが
まさかあんなことになるとは予想していなかった。

しかし当時誰も予想しなかったのは、
“人質とテロリストが心を通わせるようになった”ことだろう。
この手の犯罪の解決に最も必要な「理解と共感」は、
まさに事件現場で実践されていた。
しかもそれをぶち壊したのは政治家であり、
その政治家を盲目的に支持したのは日本だった。
作品を通して、ノー天気なことはそれ自体罪だと思い知らされる。

ミゲルがサンチェスに言った言葉が忘れられない。
「誰かのために死ぬんじゃなくて、誰かのために生きるんだ」
およそ政治家には、どちらも思い及ばないことだろう。
「自分のため」にしか動かない人種だから。

イヌジニ

イヌジニ

雀組ホエールズ

OFF OFFシアター(東京都)

2015/07/15 (水) ~ 2015/07/26 (日)公演終了

満足度★★★★

犬猫目線
必要悪みたいに容認されている動物の殺処分、そこに疑問を抱くところから発生した
センチメンタルコメディ。
素晴らしいのはそれが単なる動物愛護スローガンではなく、“犬猫目線”であること。
オリビア、一緒に遠吠えしちゃったよ。アオーン!

ネタバレBOX

明転すると黒ずくめの男が中央に座っている。
片足を伸ばしてうらぶれた様子の彼に、作業服姿の男性が声をかける。
「お前は、まだ大丈夫そうだな」
それには答えず、「ふん、犬殺し!」と小さく罵って立ち去る黒い男…。

作業服の男は安西と言い、動物愛護センターに勤務する公務員だ。
そこでの彼の仕事は、持ち込まれた犬猫の殺処分。
娘のサクラはそんな父の仕事を激しく批判する。
そのサクラが突然飼っている犬の言葉がわかるようになったから大混乱。
飼い主から見捨てられ、殺されるのを待つ犬猫たちの気持ちを代弁するサクラ。
自分の仕事に疑問を持ち始め、殺処分でない別の方法を模索しようとする安西。
そしてついに上司と全面対決することになる…。

様々な理由から飼い主に見捨てられた犬猫たちのキャラが豊かで面白い。
中でも出色は阪本浩之さん演じる黒い犬オリビア。
その不自由な足と一緒に凄惨な過去も一緒に引きずる、人間不信に陥った犬だ。
人間に対する距離を置いた視点が、哲学的で一貫している。

「犬猫は人間の言葉を覚えるが人間は犬猫の言葉を覚えようとしない、
その方が都合がいいからだ。
人間は動物を裏切るが、自分たち動物はそんな人間を裏切らない。」

このクールで突き放したオリビアの価値観が、ラストで効いてくる。
元の飼い主を語るところ、そしてラストの遠吠え…。
マジで泣かせる。
阪本さんのキャラづくりに深みがあって、冒頭から台詞に過去をにじませる。
笑いの多い作品の中で、批判精神がきらりと光る。

父親を批判するサクラの台詞に具体性が無く、
繰り返す「命」という言葉が一本調子になりがち。
犬猫の言葉を理解できるようになる、という体験を通して得たものが見えにくく残念。
父の仕事や世の飼い主たちの無責任ぶりを批判するだけでなく、
劇的な体験を通して彼女自身も大きく成長し、行動も変化するという構図が見えたら
もっと“通訳”として魅力的なポジションを得たのではないかという気がした。

“飼い主の責任”ばかりが取り沙汰される問題の中で、
人間に裏切られてもなお人間を信頼して生きる、動物たちの哀しいほど誠実な習性。
そこに焦点を当てた、繊細さと優しさあふれる作品だった。
僕の中にある静けさに降る、騒がしくて眩しくて赤くて紅い雪

僕の中にある静けさに降る、騒がしくて眩しくて赤くて紅い雪

天幕旅団

【閉館】SPACE 雑遊(東京都)

2015/07/09 (木) ~ 2015/07/13 (月)公演終了

満足度★★★★★

カラフル版
本当は両方観たかったが、初演を観ているのでカラフル版を観劇。
文字通りカラフルな舞台で衣装も大変美しい。
初演の時も、毛糸の赤い血やゴムで形作る鏡の枠などに感動したが
今回のアイデアもまた素晴らしく繊細で効果的。
スローモーションの安定感と美しさ、計算された緻密な動き、
音響と照明の効果も素晴らしく
スピーディーな展開であっという間に平和な日常は崩壊する。
初演の時は「日常を喪う怖ろしさ」が印象に残ったが、
今回のカラフル版でビシビシ伝わって来たのは
「守ってあげられない自分、守ってもらおうと思っていない女」に対する
絶望と怒りだった。
“大人の男”としての王子に対する嫉妬と敵意をむき出しにした小人の心情が超リアル。
ハッピーエンドどころか誰もハッピーにならない白雪姫、でも私はこの方が断然好きだ。

ネタバレBOX

一段高く四方囲み舞台が設えてあり、色とりどりの布が敷き詰められている。
舞台下、四隅には小道具が整然と用意されていて、この劇団らしい几帳面な印象。
登場した4人の役者さんはみな裸足で、それが布を敷き詰めた床に相応しく柔らかい。

女王も白雪姫も、そして七人の小人もストールで装う。
特に多重人格の小人はストールの色で人格を表現、めまぐるしい変化が
視覚にも訴えて来る。
モノクロ版では表に出すまいとする感情がくっきりと浮かび上がった。
カラフル版では人の心の多様性に焦点が当てられているように感じた。

“多重人格の小人”という衝撃的な設定の素晴らしさはそのままに、
そうせずにいられなかった小人の孤独と、それ故に白雪姫を失いたくないという欲望、
王子に対する敵対心や、自分を子ども扱いする白雪姫に対する怒りと悲しみが
プリズムのように現れるところが素晴らしい。

女王が己のしたことを悔いてとどめを刺さずに立ち去るところ、
本当は継母に愛されたかった白雪姫の、指先まで神経の行き届いた動きの美しさ、
王子の善人というだけでない、どこか小人のコンプレックスを見透かしたような
勝ち誇ったような上から目線、
それらがキャラに奥行きを与え、登場人物を一層立体的に見せる。

冒頭に逮捕された小人を提示し、そこから時間を巻き戻す構成が成功して、
“サスペンスファンタジー”の名にふさわしい見事な本歌取りになっている。
このあっと驚くような、それでいて極めて人の心に忠実な設定こそが、
天幕旅団の真骨頂で作・演出の渡辺望さんの豊かな発想力が存分に発揮されている。
衣装のセンスの良さや効果的な照明も相まって、チーム力の高さも天幕の魅力だ。
舞台の下で待機している時の、あの表情もまた見たくなる4人なのである。
明烏 -akegarasu-

明烏 -akegarasu-

ブラボーカンパニー

駅前劇場(東京都)

2015/07/01 (水) ~ 2015/07/05 (日)公演終了

満足度★★★★

東京湾
落語の「芝浜」と「品川心中」をベースにキャラの立った登場人物が大活躍。
廓話を場末のホストクラブに置き換えたのも成功していて、うら悲しさが上手く出ている。
ピンポイントで大いに笑わせるがつなぎの部分が若干もたついた印象。
特筆すべきは安藤聖さんの大熱演。
素晴らしくブッ飛んだキャラを隙のないなりきりぶりで緊張感をキープ。
小顔で細い方だが、最初の登場からパワー全開で線の細さを微塵も感じさせず素晴らしい。
男性陣のホストぶりも「マジでいけるんじゃないか」というほど見事にハマっていて楽しい。

ネタバレBOX

新宿歌舞伎町のホストクラブの事務所が舞台。
入り口のカーテンを開けると店のBGMが聞こえる辺り、芸が細かい。
ここで働く人々の悲喜こもごもが露呈する場所としてうってつけのシチュエーション。

借金の返済に困っている男が偶然ギャンブルで大儲けしてどんちゃん騒ぎ、
目が覚めてみれば周りから「夢でもみたんだろ、それより借金返済どうするんだよ?!」
と言われる始末。
混乱する男、そこへアフリカから来た女が“金が無いのに遊んだ”と連れて来られる。
借金取りに追われ、指名もない、金が入ったと思ったら夢だった、と絶望した男は
アフリカ女と心中しようとして、女を先に海へ突き落す。
自分もすぐに行こうと思ったら、「金が出来た!」と父親が駆け込んできて思いとどまる。
もう二度とこんな借金はしないと誓う男に「実はギャンブルの金はあったんだ」
と皆が告白。
改心させるために、協力して芝居を打ったのだと謝る。

夢ネタは「芝浜」から、心中ネタは「品川心中」から取った本歌取りだが、
歌舞伎町のしがないホストクラブという設定が効いていてなかなかリアル。
根っからの悪人が出てこないほのぼのした原作の雰囲気が良く出ている。

アフリカのどこかの国から家出してきたという女が強烈で、パンチの効いたキャラが秀逸。
安藤聖さんの隙のないなりきりぶりが功を奏して、コントにならず大変面白かった。
ホスト達がまた「バイト出来そう」なくらい似合ってる。
店長やチャラ男、銀行員みたいなホストまでいて、大いに笑った。
新入りで態度のデカいホストが、ネタバレ後急におどおどするところなど
とても可笑しかった。
「仕事明けのお前たちはカラスだ、俺はそんなカラスが好きなんだ」という言葉、
いい事言うねえ、店長!
三人吉三

三人吉三

木ノ下歌舞伎

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2015/06/13 (土) ~ 2015/06/21 (日)公演終了

満足度★★★★★

際立つ様式美
河竹黙阿弥の9時間に及ぶ原作をギュッと縮めてそれでも5時間、
日本語のことばの面白さが凝縮された素晴らしい舞台だった。
歌舞伎を観て泣いたことはないのに、木ノ下歌舞伎はなぜ泣けてしまうのだろう。
あり得ないほど“世間は狭い”的な物語である。
生き別れた親子、別々に育った双子の兄妹、血の盃を交わした義兄弟の家族、
彼らが出会ってしまう入り組んだ偶然は、解り易い現代語で語られ、
その上で、ハイライトの痛切な心情が七五調で語られる。
七五調のリズムは、登場人物の“言い切った感”がストレートに伝わるから不思議だ。
見栄を切るのさえ自然に感じられる。
平易な現代語の台詞の中で、歌舞伎の様式美がひときわ際立ち、
かたちを超えた芝居の面白さを感じさせてくれる。
和尚吉三の大村わたるさん、お坊吉三の大橋一輝さん、土左衛門伝吉の武谷公雄さん
の台詞が耳に残る。
女性陣の滑らかな声が違和感なく歌舞伎に溶け込んでいて心地よい。
木ノ下裕一さん、杉原邦生さんの“偉大なるいいとこ取り”には、
古典への愛が溢れている。
膨大な作業によって成り立つ創作とセンスに感服する。







ネタバレBOX

舞台の奥に「E・D・O」の巨大な3文字が佇んでいる。
(中盤から「D・O・G」に変わってその世界観にやられた)
舞台中央に「TOKYO」の小さい立札、そこに三人吉三が三方向から登場して開演となる。
客入れのBGMがカッコよくてこれから始まる舞台のワクワク感が倍増、
でも開演時の大音響はちょっと耳に痛い。
あんなに大きい音でなければダメなのかしら。

吉三郎という同じ名前の盗人3人が出会って意気投合、義兄弟の盃を交わす。
和尚吉三・・・元小坊主で今は小悪党。
        父土左衛門伝吉は、かつては大変な悪党だった。
        安森の屋敷から宝刀を盗み、その際犬を斬ったのが祟って双子を授かる。
        不吉とされていた双子に慄き、女の子を手元に残して男の子を寺に捨てる。
        この双子が将来出会って恋に落ちるという因果をもたらす。
        和尚吉三にとって双子は弟・妹である。
お坊吉三・・・宝刀を盗まれてお家取り潰しに遭った安森家の息子。
        宝刀を取り戻してお家再興を望んでいるが
        なかなかうまくいかず、盗人稼業に。
        妹の一重は花魁で、刀剣商の文里が熱心に通って来ている。
お嬢吉三・・・父は八百屋久兵衛だが5歳の時に誘拐され、
        旅役者に育てられる。
        ある時女装していて言い寄られ、その相手から簡単に
        頂戴できたのが最初の盗み。
        久兵衛は寺で拾った赤ん坊を引き取って育て、
        その子十三郎は刀剣商文里の店で働くまでになった。
        しかし十三郎が、宝刀を売った店の金百両を盗まれてしまい、
        責任を感じた久兵衛は金策に走り回ることになる。

金百両と宝刀が奪い合いの末ぐるぐる回り、それにつれて
人々も出会ったり対立したりする。
元々の脚本が緻密で、極小コミュニティで起こる濃密な因果関係が無駄なく描かれる。

木ノ下版では現代語によって話がスピーディーに進行し、
重要な感情表現はたっぷりの七五調で語られる。
その対比が鮮やかで、結果オリジナルの台詞が生き生きと立ち上がった。
歌舞伎は形式の芸術だと思っていたが、こんなに感情の濃い表現の芸術なんだと
改めて実感させてくれる。

歌舞伎では割愛される「地獄の場」が、アフタートークで「脚本を忠実に」と聞きびっくり。
改めて歌舞伎の発想の自由さ、シリアスと滑稽のメリハリの効果を思い知らされる。

終盤、三人が捕り方に追いつめられながら覚悟して斬りこんで行く悲痛な姿が印象的。
土左衛門伝吉の若き日の罪を悔いる台詞や、何としてもなさねばならぬと思えば
どんな相手にでも頭を下げる腹のくくり方に、その心情が色濃くにじんで素晴らしい。
最初長髪で登場した和尚吉三が、次に清々しい坊主頭で現れたときには
そのキャラの変化と自在な台詞にすっかり魅了された。
堀越涼さんのお嬢ぶりは鉄板で安定感抜群。
圧巻の群像劇であった。

台詞や衣装にこれほど大胆な解釈をしながら、結局は古典の良さを存分に際立たせる。
オリジナルを読み込み選択するセンス、古典へのリスペクトと愛情あふれる膨大な作業、
木ノ下氏の豊富な知識と、杉原氏の柔軟な発想の賜物と言えるだろう。
終演後のアフタートークで、丁寧に解説するお二人の姿勢にいつも感心する。
中学時代、「歌舞伎教室」でこんなに丁寧に解説してもらったら
どれほど歌舞伎好きになっただろう。
次回は近松門左衛門の「心中天の網島」だというが、もう今から楽しみでならない。

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