イヌジニ 公演情報 雀組ホエールズ「イヌジニ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    犬猫目線
    必要悪みたいに容認されている動物の殺処分、そこに疑問を抱くところから発生した
    センチメンタルコメディ。
    素晴らしいのはそれが単なる動物愛護スローガンではなく、“犬猫目線”であること。
    オリビア、一緒に遠吠えしちゃったよ。アオーン!

    ネタバレBOX

    明転すると黒ずくめの男が中央に座っている。
    片足を伸ばしてうらぶれた様子の彼に、作業服姿の男性が声をかける。
    「お前は、まだ大丈夫そうだな」
    それには答えず、「ふん、犬殺し!」と小さく罵って立ち去る黒い男…。

    作業服の男は安西と言い、動物愛護センターに勤務する公務員だ。
    そこでの彼の仕事は、持ち込まれた犬猫の殺処分。
    娘のサクラはそんな父の仕事を激しく批判する。
    そのサクラが突然飼っている犬の言葉がわかるようになったから大混乱。
    飼い主から見捨てられ、殺されるのを待つ犬猫たちの気持ちを代弁するサクラ。
    自分の仕事に疑問を持ち始め、殺処分でない別の方法を模索しようとする安西。
    そしてついに上司と全面対決することになる…。

    様々な理由から飼い主に見捨てられた犬猫たちのキャラが豊かで面白い。
    中でも出色は阪本浩之さん演じる黒い犬オリビア。
    その不自由な足と一緒に凄惨な過去も一緒に引きずる、人間不信に陥った犬だ。
    人間に対する距離を置いた視点が、哲学的で一貫している。

    「犬猫は人間の言葉を覚えるが人間は犬猫の言葉を覚えようとしない、
    その方が都合がいいからだ。
    人間は動物を裏切るが、自分たち動物はそんな人間を裏切らない。」

    このクールで突き放したオリビアの価値観が、ラストで効いてくる。
    元の飼い主を語るところ、そしてラストの遠吠え…。
    マジで泣かせる。
    阪本さんのキャラづくりに深みがあって、冒頭から台詞に過去をにじませる。
    笑いの多い作品の中で、批判精神がきらりと光る。

    父親を批判するサクラの台詞に具体性が無く、
    繰り返す「命」という言葉が一本調子になりがち。
    犬猫の言葉を理解できるようになる、という体験を通して得たものが見えにくく残念。
    父の仕事や世の飼い主たちの無責任ぶりを批判するだけでなく、
    劇的な体験を通して彼女自身も大きく成長し、行動も変化するという構図が見えたら
    もっと“通訳”として魅力的なポジションを得たのではないかという気がした。

    “飼い主の責任”ばかりが取り沙汰される問題の中で、
    人間に裏切られてもなお人間を信頼して生きる、動物たちの哀しいほど誠実な習性。
    そこに焦点を当てた、繊細さと優しさあふれる作品だった。

    0

    2015/07/16 20:57

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大