ナイトーシンジュク・トラップホール 公演情報 ムシラセ「ナイトーシンジュク・トラップホール」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

     現在の新宿と江戸時代のナイトーシンジュクを時代も場所も綯交ぜにし、表現する者達の業とそこに関わる飯盛り女たちの「恋」に纏わる手練手管とそのようにせねば生きて行けない社会的背景や何ら充実することの無い浮草稼業と世間には明かすことのできない疚しさが生み出す滓のような無限の侘しさ虚しさ、これらが飯盛り女たちの精神を内部から蝕む、刻一刻休むことなく。

    ネタバレBOX


     それをそうと知りつつ己の業の成就の為にある意味遊び、或る意味身請けするほど真剣に戯れる男たち。(具体例として物語られるのは一九が追い掛けている小春と一九。東海道を西へお伊勢参りを一緒にしようと身請け話迄進んでいたのが、一九が小春に飽きてしまったことで一瞬にして崩れる等残酷な現実も描かれるが、小春も当初から一九を利用するだけ利用したら後はトンコを決め込む所存であったから、如何にも在りそうな話としてリアルな重しの役割を果たしている)何れも地獄を抱え地獄を抱える程度のことは単に登龍門への一里塚であることを重々知りながら不即不離、決して離れることのできないのも分かり切ったこと。而も生き抜き続ける為には滾々と自らの内から湧き出る創造の泉を枯らすことは許されない。
     以上のような創造する者の宿命を基本に綾なす恋模様を鏤め残酷な迄の離合集散をも突き放して描く。既に大成した表現者たちの持つしたたかさに対し、広重の恋は純愛に近い。カスミが入れ挙げているのはあくまでもキョウヤであるから広重を愛している訳では無い。而も彼女は自死してしまう。この手練手管と純情の対比も今作の美点ではある。然し幾つもの焦点を一作に詰め込んだ為、ギリギリの緊張感を伴いつつ収斂する構造にはなっていない。その点が今作の弱点でもある。
     登場人物は未だ殆ど無名だった頃の歌川 広重、広重が恋する飯盛り女・カスミ。葛飾 北斎、そのアシスタント・お栄、滝沢 馬琴(南総里見八犬伝など)、十辺舎 一句(東海道中膝栗毛)当時の出版社を経営した著名編集者・蔦屋 重三郎、編集者・竹内 孫八、カスミが入れあげるホストの名はキョウヤ。ホストクラブを経営するのは下級武士の娘で、広重の実姉。飯盛り女・カスミが体を売って稼いだ金は、押しのキョウヤの居るホストクラブに流れ、ホストクラブに流れた金はカスミに逢う為の資金として姉から広重に流れるという循環構造を為している。ところでキョウヤはカスミに冷たい。理由は彼は安楽亭 堂夏という噺家の大ファンで、それもネタにシュレジンガーの猫を振るような極めて特異な落語、当然一般受けはしない。堂夏には女弟子・志乃が居て彼女は二人落語(実質漫才)を提案したりする。様々な要素を分解、再構成しつつ現代と江戸時代を縦横に行き来する。然し根っこは硬派だ。表現する者として即ち創造する者としてまたそれに関わるプロとしての覚悟、地獄の処世をキチンと描いているからだ。一方、これらの生活が各々に齎す不如意、アンヴィヴァレンツや退廃、虚無感といったものも当然キチンと盛り込んで作品に厚みを加えている。
     別格の天才は北斎ということになるが、彼の台詞は重く説得力がある。同時に北斎のアシスタントを務めるお栄のプロ意識とリアルな現実認識も見過ごせない。

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    2024/07/19 09:08

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