三人姉妹 公演情報 ハツビロコウ「三人姉妹」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    鑑賞日2024/04/06 (土) 14:00

    三姉妹の鬱々とした思いが、肩こりのCMみたいにズーンとのしかかってくる。
    救いのキーワードである「モスクワ」ってそんなにいいか?
    そこに行けば必ず幸せになれるのか?
    そんな単純な疑念などぶん投げて、彼らの”必死のウツ状態”は延々と続く。
    これを喜劇と言うチェーホフ、その達観ぶりには冷静な目と愛おしさが同居している。

    ネタバレBOX

    開演前から劇場内は暗く、スタッフさんが足元を照らしながら案内してくれる。
    目をこらすと簡素な木製のテーブルや椅子が見えた。
    ここが、三人姉妹が暮らすプローゾロフ家の一室。
    ハイソ感ゼロ、みじめさ100%のセットが家族の絶望感を容赦なくさらけ出している。

    父が師団長としてモスクワからこの田舎町にやって来て11年が経っている。
    既にその父も亡くなり、屋敷に出入りする者も少なくなって寂れた雰囲気が漂う。

    長女のオーリガは、結婚もせずに教師として仕事一筋にやって来た。
    次女のマーシャは18歳で結婚したが次第に夫への尊敬の念も薄れ、不倫に走る。
    三女のイリーナは理想の人生を追い求めるが恋も知らず仕事も長続きしない。
    三人ともモスクワへ行けば幸せになれる、いつかモスクワへ!と
    呪文のように言い聞かせながら暮らしているが、一様に表情は暗い。

    世間知らずの長男が選んだ結婚相手ナターシャが、次第に一家を牛耳っていくあたりが
    この物語のひとつの転換期となる。
    モスクワで学者になるという夢を諦め、田舎の市議会議員に甘んじながら
    賭博に明け暮れ屋敷を抵当に入れてしまう長男は、いわば一家の面汚し。
    生まれた赤ん坊のために日当たりのよい部屋を明け渡せと三女に迫るナターシャは
    この家で、最も強い立場になったことを存分に見せつける迫力。

    結局この”外部からの力”に屈した三姉妹は、この家を追われるように出て行くことになる。
    だがそれこそが”解放”であり前進なのだと思う。
    あの圧力無しに、彼女たちは何一つ変えることが出来なかっただろう。

    第四幕で、教師として校長になった長女は多忙を極め学校に寝泊まりしている。
    次女の夫は妻の浮気を責めることなくすべて受け入れ、彼女もまたそこへと戻って行く。
    三女はようやく教師の仕事を得て、明日はこの町を出て行く決心をする。

    頭の中で何十年夢見ても、現実に打ちのめされ続けた三姉妹。
    夢を諦めなければ次へ行けない。
    何かを手放して初めて、欲しい物に一歩近づく。
    彼女たちはこれから厳しい現実に向き合うことになる。
    家を離れて姉妹バラバラで、無力感と孤独に苛まれるだろう。
    長い間頭の中で夢見ていた「モスクワ」に幸せなど転がってはいない。
    それは夢を諦めて空っぽになった心の中で育てていくものだ。

    あの家を訪れて恋したり不倫したりした男たちは
    ひととき心を揺さぶりはしたものの、誰一人として姉妹を幸せに出来なかった。
    不倫した次女に”元の暮らしに戻ろう”と、変わらない気持ちを伝える夫だけが
    彼女の心を変えることが出来るかもしれない。

    結局劇的に一家を変えたのは、長男の悪妻ナターシャだった。
    それまで誰にもできなかった”家を仕切って実権を握る”ことを強引にやってのけた
    このヨメだけが、窓の外を観ながら「この木を切ってここを花壇にするの!」
    と嬉々として未来を語る。
    この傍若無人な破壊力こそが夢見がちな三姉妹を、よくも悪くも前へ押し出した。

    だがそのナターシャでさえ、何かを諦めているはず。
    例えば夫の愛情や町の人々の信頼といった大切な何か・・・。

    三姉妹の”鬱を持続させる”エネルギーがすごい。
    時折爆発させる台詞があるが、あれ無しには持たないのではないかと思うほど。
    嫌味な将校はホント憎らしいし、人の好い長男も観ている私がストレス溜まりそう。
    希望の無い生活という、つかみどころのない背景を
    くっきりしたキャラの存在が色濃く炙り出していく様が素晴らしい。

    いいトシのお嬢様方がこの先どうやって荒波を乗り越えていくのか、
    いや乗り越えられるのか、ナターシャへの復讐なんかあるのか無いのか、
    ドラマなら続編が見たいところだ。
    三姉妹が世間を知った分、これまでよりもドラマチックになるに違いない。
    がんばれ三姉妹、そして不甲斐ない男たちよ!



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    2024/04/07 14:03

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  • 制作 佐藤様
    コメント頂きまして誠にありがとうございます。繰り返し上演される古典には、本当に時代や国境を超えた普遍性がありますね。観ていて思わず自分と重ねてしまうリアルな共感、これが観劇の醍醐味のひとつだと思います。ちなみに私は長女タイプです。幸福な時間をありがとうございました。次も楽しみにしております。

    2024/04/10 01:56

    制作です。最後まで読んで声を出して笑ってしまいました。
    私たちの『三人姉妹』をロシアの古典劇としてではなく、現代の昼メロをご覧になったかのように軽快なクチコミをお書きいただき本当にありがとうございます。
    劇中の台詞にもありましたが、人間の本質は何百年たっても変わらない、ということ。
    チェーホフ作品の、キャラクターの、魅力のひとつなのではと思います。
    ご観劇いただきましてありがとうございました!

    2024/04/09 15:40

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