三人姉妹 公演情報 三人姉妹」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.3
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  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    「ワーニャ伯父さん」に続いてのチェーホフ作品公演。今回は異色であった。というより、ハツビロコウの真骨頂はこれなのか。古典・名作の上演ではテキレジが優れていると感じたのだが、今回の「三人姉妹」は場面の構成、つなぎも含めて大胆な展開であった。特に私にとっては「こんな三人姉妹は初めて」な部分は、チェーホフ作品の厭世観、救いの無さを前面に押し出したようなラスト。軍楽隊の音を聞きながら、不幸と不運にまみれた姉妹らが「それでも生きて行く」意思を確認するような堂々としたラストが、今作では力なく弱々しい、没落し行く人間の等身大の没落ぶりがあった。ただしその事を強調したというよりは、三人力を合わせれば・・と希望がのぞく青春物語のラストを止め、淡々と終わらせる事を選んだようであった。普通ならとうに別れを告げたはずの軍医がまだ居て、最後のニヒリズムな台詞を、長女オーリガの「それが分かったらねえ」の直前に持ってきて、去らせるテキレジである。
    私としては、地元の学校長に担ぎ上げられた事でモスクワが夢となった長女、恋する軍人と永遠に別れしょぼくれた夫の元に残された次女、本物の愛の到来を諦め誠実な結婚生活を選んだ矢先に夫が殺された三女。等しく不遇に置かれた事で三人が漸く手を取り合う場面でもあり、劇的なラストをやはり期待してしまう。だが、今舞台はそれを敢えて回避した。
    要は、「変えた」所がはっきり見えてしまった。そこがこれまでの古典の舞台化と異なる点(といってもどの程度知っているかで「分かる」かどうかも決まる訳であるが..)。ラストの手前までは出はけを壁際の椅子で処理したのも含めて華麗な捌き方を味わって観ていた。私的には「危うい」挑戦であったが、ハツビロコウの志向がもたらした必然であれば、ただ前進して頂き、私としてはそれを見守る他はない。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    鑑賞日2024/04/06 (土) 14:00

    三姉妹の鬱々とした思いが、肩こりのCMみたいにズーンとのしかかってくる。
    救いのキーワードである「モスクワ」ってそんなにいいか?
    そこに行けば必ず幸せになれるのか?
    そんな単純な疑念などぶん投げて、彼らの”必死のウツ状態”は延々と続く。
    これを喜劇と言うチェーホフ、その達観ぶりには冷静な目と愛おしさが同居している。

    ネタバレBOX

    開演前から劇場内は暗く、スタッフさんが足元を照らしながら案内してくれる。
    目をこらすと簡素な木製のテーブルや椅子が見えた。
    ここが、三人姉妹が暮らすプローゾロフ家の一室。
    ハイソ感ゼロ、みじめさ100%のセットが家族の絶望感を容赦なくさらけ出している。

    父が師団長としてモスクワからこの田舎町にやって来て11年が経っている。
    既にその父も亡くなり、屋敷に出入りする者も少なくなって寂れた雰囲気が漂う。

    長女のオーリガは、結婚もせずに教師として仕事一筋にやって来た。
    次女のマーシャは18歳で結婚したが次第に夫への尊敬の念も薄れ、不倫に走る。
    三女のイリーナは理想の人生を追い求めるが恋も知らず仕事も長続きしない。
    三人ともモスクワへ行けば幸せになれる、いつかモスクワへ!と
    呪文のように言い聞かせながら暮らしているが、一様に表情は暗い。

    世間知らずの長男が選んだ結婚相手ナターシャが、次第に一家を牛耳っていくあたりが
    この物語のひとつの転換期となる。
    モスクワで学者になるという夢を諦め、田舎の市議会議員に甘んじながら
    賭博に明け暮れ屋敷を抵当に入れてしまう長男は、いわば一家の面汚し。
    生まれた赤ん坊のために日当たりのよい部屋を明け渡せと三女に迫るナターシャは
    この家で、最も強い立場になったことを存分に見せつける迫力。

    結局この”外部からの力”に屈した三姉妹は、この家を追われるように出て行くことになる。
    だがそれこそが”解放”であり前進なのだと思う。
    あの圧力無しに、彼女たちは何一つ変えることが出来なかっただろう。

    第四幕で、教師として校長になった長女は多忙を極め学校に寝泊まりしている。
    次女の夫は妻の浮気を責めることなくすべて受け入れ、彼女もまたそこへと戻って行く。
    三女はようやく教師の仕事を得て、明日はこの町を出て行く決心をする。

    頭の中で何十年夢見ても、現実に打ちのめされ続けた三姉妹。
    夢を諦めなければ次へ行けない。
    何かを手放して初めて、欲しい物に一歩近づく。
    彼女たちはこれから厳しい現実に向き合うことになる。
    家を離れて姉妹バラバラで、無力感と孤独に苛まれるだろう。
    長い間頭の中で夢見ていた「モスクワ」に幸せなど転がってはいない。
    それは夢を諦めて空っぽになった心の中で育てていくものだ。

    あの家を訪れて恋したり不倫したりした男たちは
    ひととき心を揺さぶりはしたものの、誰一人として姉妹を幸せに出来なかった。
    不倫した次女に”元の暮らしに戻ろう”と、変わらない気持ちを伝える夫だけが
    彼女の心を変えることが出来るかもしれない。

    結局劇的に一家を変えたのは、長男の悪妻ナターシャだった。
    それまで誰にもできなかった”家を仕切って実権を握る”ことを強引にやってのけた
    このヨメだけが、窓の外を観ながら「この木を切ってここを花壇にするの!」
    と嬉々として未来を語る。
    この傍若無人な破壊力こそが夢見がちな三姉妹を、よくも悪くも前へ押し出した。

    だがそのナターシャでさえ、何かを諦めているはず。
    例えば夫の愛情や町の人々の信頼といった大切な何か・・・。

    三姉妹の”鬱を持続させる”エネルギーがすごい。
    時折爆発させる台詞があるが、あれ無しには持たないのではないかと思うほど。
    嫌味な将校はホント憎らしいし、人の好い長男も観ている私がストレス溜まりそう。
    希望の無い生活という、つかみどころのない背景を
    くっきりしたキャラの存在が色濃く炙り出していく様が素晴らしい。

    いいトシのお嬢様方がこの先どうやって荒波を乗り越えていくのか、
    いや乗り越えられるのか、ナターシャへの復讐なんかあるのか無いのか、
    ドラマなら続編が見たいところだ。
    三姉妹が世間を知った分、これまでよりもドラマチックになるに違いない。
    がんばれ三姉妹、そして不甲斐ない男たちよ!



  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    暗めの照明、出番でない俳優が舞台奥の壁際のベンチシートに座って劇を見ている趣向。台詞はかなりカットされているようだがエッセンスは失われておらず、むしろシンプルでわかりやすくなっている。反面、すんなり流れすぎていて、例えば「わたし、わかっていた」の有名な台詞が意味を与えられずにあっさり通り過ぎてしまったような印象がある。
    それにしても、3人はうまくいかない人生に終始イライラしていてほぼその姿しかない。

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