Ten Commandments 公演情報 ミナモザ「Ten Commandments」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

     青く光る鏡面の床に白いイスとテーブル。上手奥には音響卓とオペレーターがいて、白い衣装の男女が登場する抽象空間です。作・演出の瀬戸山美咲さんご本人であろう女性劇作家(占部房子)とその夫(浅倉洋介)の家、または彼女の脳内あるいは宇宙空間であるようにも受け取れました。

     原子力とそれを研究する人、作った人、使った人について調べ、思考の海に深く潜るうちに、瀬戸山さんは言葉を扱う劇作家であるご自身の責任を問うことになったのだと思います。その苦闘の過程がさらけ出されました。瀬戸山さんがたどり着いた絶望的な境地と、そこから這い上がる姿を観て涙が絞り出され、終演後はしばらく席を立てませんでした。瀬戸山さんの勇気に感銘を受けました。ありがとうございました。

     私は過去にミナモザ『ホットパーティクル』(2011年9月)を拝見したことがあり、今回も冒頭あたりから“セルフ・ドキュメンタリー”であることがわかったので、その心構えで観ることができました。手紙を読み続ける時間が長く、朗読劇のように見えるのは改善の余地ありではないでしょうか。この上演を土台に新しい“物語”を立ち上げる機会を見計らってもらえればと期待します。

     主人公を演じた占部房子さんは瀬戸山さんの苦悩を自身のこととして受けとめ、心を尽くして全身で演じてくださっていたように思います。浅倉洋介さんは包容力のある物静かな夫役で、柔和ながらずっしりとした存在感に説得力がありました。私が知らなかった浅倉さんの一面を発見できました。

    ネタバレBOX

     科学者レオ・シラードが1940年にまとめた「十戒(Ten Commandments)」を紹介し、アインシュタインへの手紙、生まれてくるかもしれない子供への手紙、まだ出会っていない未来の妻への手紙(本折最強さとしさんが読む)などが読まれました。俳優は手に紙を持っており、朗読の形式です。個人的には、演劇作品の上演として完成度が高いとは思えませんでした。

     「原爆を落とした人が悪いのか、作った人が悪いのか、いや、悪いのは言葉だ」という結論に目を覚まさせられた心地でした。爆弾の化学式は記号(=言葉)でしょうし、研究も投下命令も人間の言葉で行われます。人間が獲得した言葉こそが、人間がまき散らす害悪、犯した罪の発端であるという認識を、常に持っていなければと思いました。

     最後には、何年間も言葉を発していなかった女性劇作家が、とうとう夫に話しかけます。生まれたのはたわいない日常会話で、岸田國士戯曲のようにとてつもない優しさを湛えたものでした。こういう言葉で他者と交わっていきたいものですね。
     
     前説で山森大輔さんが左手に付けていた腕時計がおしゃれでした。

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    2018/05/19 10:47

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