さようなら 公演情報 オパンポン創造社「さようなら」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

     淡路島でほそぼそと生きる平凡な人々の小さなコミュニティーに、「変わりたい」と強く願った1人の女性が激震を起こします。

     黒い幕と壁でほぼ真っ黒な額縁舞台でした。舞台奥に膝の高さぐらいの黒い通路が横切り、道具は椅子が数脚あるのみです。場面転換はシャープでリズミカル。ドアの開閉はマイムと音響で表し、飲み物やタバコもマイムです。シンプルな空間で演劇的効果を生かした、密度の濃い会話劇でした。80分という短時間に収まっているのもいいですね。

     登場人物それぞれの人物造形がはっきりしていて、全員に魅力があります。怒鳴っても、威張っても、いじけても、どこかに愛らしさがあり憎めません。演技だけでなく設定やセリフで、人物像がふくよかに肉付けされていると思います。

     大阪ならではの、方言を活かしたコミュニケーションがとても心地よかったです。特にスナックのママ(美香本響)と客との会話で、大阪らしさを感じました。ママの機転の利かせ方、セクハラやクレームの受け流し方、切り返し方が見事で、大阪の女性の優しさとたくましさを感じ取れました。積極的に繰り出されたギャグや笑いのネタが、観客に媚びていないことも好印象でした。

    ネタバレBOX

     高校中退してから18年、ネジ工場で働いている宮崎(川添公二)は、仕事が終わるとスロットに行き、朝までスナックで飲んでそのまま出勤するという自堕落な生活を送っており、後輩の柴田(野村有志)を無理やり同行させています。絵に描いたようなパワハラです。宮崎がスナックのママに対して取る態度もパワハラかつセクハラで、後に登場する社長(殿村ゆたか)のセクハラはさらに下品で露骨でした。そんな関係性を肯定的に受け取れたのは、演技にリアリティーがあるだけでなく、物語全体を俯瞰する視点が保たれていたからだろうと思います。

     両親を亡くし一人で暮らす、冴えない女性事務員の末田(一瀬尚代)が、社長が脱税して貯め込んだ2000万円を盗む計画を立てます。彼女はとにかく東京に行って、人生を変えたいと思っているのです。末田は、風俗狂いで奇行が多い中国人チェン(伊藤駿九郎)と2人で社長の自宅に侵入するから、宮崎と柴田には、社長をスナックに足止めしてもらいたいと依頼します。しかしながら、末田とチェンが金を持ち逃げし、盗難に気づいた社長は宮崎と柴田が犯人だと思いこむ想定外の事態に。結果的にはチェンが全ての金を持って逃亡してしまいます。

     ママが宮崎に愛層を尽かした瞬間や、「これからも今までどおり淡路島で暮らせばいい」と説得する柴田に対して、初めて末田が大きな声で反発する場面など、直接衝突する一対一の会話に緊張感がありました。宮崎が、社長からも後輩の柴田からも「人に頼るな、自分で動け、一人でなんとかしろ」と説教されるのが爽快でした。

     チェンが整形をして、末田そっくりの姿になって帰って来るという顛末は、意外性があって笑える上に、小さな希望を示す微笑ましいものでした。「自分たちのようなつまらない人間は変わることが出来ない」と信じ込んでいた柴田が、チェンを見て笑い、終幕します。終演後のトークで作・演出の野村さんがおっしゃっていたとおり、末田も、スナックのママも宮崎も姿を消していましたから、人間は変わることができるんですよね。とはいえ、金さえあれば解決できることが山ほどあるという現実は、やはり悲しいなとも思いました。

     スナックのママを快活に演じた美香本響さんは、タクシーの運転手役も面白かったです。
     毎日のルーチンを示す場面を繰り返し演じ、徐々にルーチンの時間を短縮していくという、照明と音響と身体表現を組み合わせた演出は楽しいですね。カーテンコールの後にも見せてくださってありがとうございました。

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    2018/04/22 20:07

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