Ten Commandments 公演情報 ミナモザ「Ten Commandments」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

     文化系の物理学レベルでよく健闘している作品。夫婦役を演じる二人の演技が良い。(追記2018.3.28)

    ネタバレBOX

     核物理学に携わる科学者たち。キューリー夫人のポロニウム及びラジウム発見から説き始め、相対性理論を唱えたアインシュタインを代表とする物理学者らを巻き込んだ核兵器開発経緯を通して(タイトルの大文字でそれぞれの単語が書かれている)“十戒”を俎上に載せる。無論、モーセのそれではない。レオ・シラードのものである。ブタペスト生まれの彼もユダヤ人であったが、ナチスが原爆を作ってしまう前にとアインシュタインらと共にアメリカ大統領に請願書を出した。
    然し、太平洋戦争末期日本への原爆投下にシラードは最後まで反対した。∵ナチスは原爆を持つ前に降伏し初期の目的は既に達成されていたこと。原爆を都市に落とせばその人的被害は途方もない規模になること、そしてその被害は人的被害に留まらずありとあらゆる生命に対してであること。その絶大な威力を見た他国が開発に乗り出し開発競争の結果、地球全体の危機を招くことなどが反対の理由であった。慧眼と言わねばなるまい。
    その彼の提起した十戒が、今作で何度も語られ科学者というものの持つ純粋な好奇心の発露の莫大なエネルギーポテンシャルの可能性と、それらを通して稔った果実を利用する者達の利害故の功罪を予め気付かせるべき提言として提示されている。物語は、表現する者として自らを開花させた主人公が、己の表現手段である言葉を封印し、連れ合いである夫とも6年に亘って口をきかない状態を通して、3.11人災及び人災後にも除染技術。廃炉技術などがトレンドとなることで、自殺率が異様に高いポスドクであっても研究職に従事できるなど好奇心を萎ませないですむと目論見を立てられることが、未だこのジャンルで研究者が存続していることの条件として在ることを本当は隠しているのであろう。
     但し、ディベートシーンでは、作家が正しく文化系であることを露骨に晒す結果になってしまっている。内実がトウシロウレベルの議論に終始しているからである。更に、アメリカが日本に2度タイプの異なる原爆を投下し、人道に悖る罪を犯していることについても、言葉に責任を負わせるという形で処理してしまっている。問題にされかねないという懸念を理解せぬ訳ではないが、表現する者の覚悟としては聊か情けない。∵言葉を用いる主体があるのであり、その主体は判断を下す。その時言葉を用いるのである。その思考過程に於いても、また言葉を用いて命令を下す場合にも。
     周知のとおりマンハッタン計画には、莫大な金がつぎ込まれた。而も秘密研究であったから、その内実を知る者は政治を担当する者の中でもごく僅かであり、他は軍上層部、そして研究に携わった研究者らであった。もし使わずに戦争が終結したなら、戦後、それまでマンハッタン計画を推し進め、実際に予算をつぎ込ませた大統領など政権幹部は、国民からの訴追を免れない。原爆投下判断は、これだけではないが、余り知られていない大切な要素である。それかこれか、原爆を投下する前、アメリカは、日本のエネルギー動脈、鉄道などの運搬手段、最も重要な幹線道路などは、破壊していない。戦争遂行能力を残して置く為である。
     これらの事実から浮かんでくるファクトとは何か? 無論、原爆を使わなければ、アメリカ軍の被害は甚大なものになった云々という嘘である。更にウラン使用の広島型、プルトニウム使用の長崎型とタイプの異なる原爆を投下し、人体に与える影響をABCC等を使って調べ続けられていたことも日本人の常識である。また、日本の戦争遂行に関与した科学者が、被災地に乗り込み183冊の大学ノートに詳細な記録を書き込み、僅か数か月の間に英訳して、罪の減刑を狙いアメリカに送付したことも知らねばなるまい。因みに冷戦時代に、仮想敵国の何処にどの程度の威力を持つ原(水)爆をどれくらい落とせば敵の戦闘能力を破砕できるかを計算する際、基礎資料とされたのは、日本の学校で無惨な死を遂げた子供たちのデータであった。これだけのことをされながら、核被害を言葉の問題だけに矮小化することは、自分には矢張り納得できない。現在も福島県立医科大で暗躍する山下 俊一は、ABCC、放影研などを経て現職に就き、福島の被ばく状況を矮小化し続けている。主として言葉によって。そして嘘を吐き続けようとする意志及び利害判断に基づいて。

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    2018/03/25 23:53

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