Ten Commandments 公演情報 ミナモザ「Ten Commandments」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    「真摯と誠実」
    真摯に向き合えすぎれば辛くなる。
    しかし「モノを創る人」である以上真摯に向き合わなくてはならないこともある。
    「十戒」に瀬戸山美咲さんが触れたときに、この作品で語られる感覚がわき起こったのではないだろうか。

    (以下ネタバレBOXにいろいろと…)

    ネタバレBOX

    『Ten Commandments』=『十戒』。凄いタイトルだ。
    それは主人公=作・演出の瀬戸山美咲さんを縛る言葉でもあったのではないか。

    モノを創り出す人にとって、自分だけではどうしようもないことに真摯に向き合おうとすることはとても苦しくて辛いことではないかと思う。
    私はモノを創る人ではないが、そこにはとても共感する。自分で自分の逃げ道を塞いでしまっているのだろう。わかっているが真摯であればあるほど逃げることはできずに、自分の中に入り込んでしまう。

    レオ・シラードの「十戒」に瀬戸山美咲さんが触れたときに、この感覚がわき起こったのではないだろうか。
    「原子力」の問題等々を考えるときには、原爆についても頭に入れなくてはならない。
    それらに向き合おうとしたときに「十戒」に出会い、戸惑ったのではないかと思う。

    その戸惑いがこの作品を生み出したと思うのだ。

    主人公の女性は、「原子力」に端を発する諸々に向き合いすぎて、言葉を発するのがイヤになってしまう(言葉を発することができなくなってしまう)。
    この女性(劇作家であった)と作・演出の瀬戸山美咲さんは重なってくる。
    「言葉にする」ということは「伝える」ということであり、伝えるのは「自分の考え」である。
    したがって、自分の中できちんとまとまっていないことを迂闊には言えない気分になってくる。特に原子力問題は、大きすぎて。

    発言することの「責任」という意味もあろうかと思うが、その責任は「社会へ」というよりはまず「自分へ」ということではないか。
    劇作家という言葉を仕事にする人にとっての「発する言葉」「伝える言葉」を(自分自身で)考えると、とても大きな重圧を感じてしまうのだろう。
    それは(何度も繰り返すが)「真摯」に向き合っているからではないか。

    例えば「原子力」についての言葉を発することを止めてしまうと、それにまつわる「日常生活」に関する言葉も止まっていまう。
    つまり、この主人公(=瀬戸山美咲さん)には「原子力」(とその問題)は「日常」と直結していることがわかる。「直結して考えたい」ということが根底にあるから、さらに向き合いすぎて苦しくなってしまう。

    そんな彼女は現在だけでなく、過去に遡り自分を縛り上げる。すでに死んでいるアインシュタインやレオ・シラードに手紙を書く。
    あるいは、過去の自分に対する他人の声が聞こえてくる。実際には本人には聞こえなくても(そんなことを言っていたのかどうかも不明だが)まるで「マイクで拡声した」ように響いてしまう状況にさえなってくる。

    この物語は「書簡」の朗読がメインなのだが、「やり取り」ではなく、一方通行の送ることのない届かない手紙を書いている。「対話」であればこの迷宮から抜け出すこともできたのかもしれない。
    「書く」ことが自分の考えの整理になるからだろうか。劇作家の彼女にとっては会話ではなく「筆記」がその手助けだったのか。であれば、「演劇」はさらにその手助けになるような気がするのだが、そこまでの道のりは遠いだろうし、演劇は彼女1人の考えだけで創ることができるものではないからでもあろう。

    現実(アゴラでの公演)に戻ってみるとこの作品は、主人公の女性=瀬戸山美咲さんであるように思えるのだから、実際には「演劇」のところまで彼女はやってきているのだろう。
    瀬戸山美咲さんはどう生活を取り戻していったのだろうか。やはり主人公と同じだったのだろうか。
    あるいはまだ取り戻す途上なのか。

    主人公の彼女をそうした世界から救い出してくれそうなのは、日常であり愛なのだろう。
    ラストにそれが示される。それが彼女の求めている「答え」ではないのだが。
    このラストは(あえて言えば)とても「普通」なのだが、それしかないと感じる。
    その「普通」をきちんと示したことは、誠実であったと思う。「真摯と誠実」。これがこの作品で感じられた。

    主人公を演じた占部房子さんが適役すぎて、痛々しくって、観ていてツラくなった。それだけ良かったのだ。

    福島がフクシマとなった3.11以降に原子力を学ぼうとする人たちの技術者倫理の授業にこの作品は端を発しているらしいので、その授業では、たぶんレオ・シラードの「十戒」に触れられていて、瀬戸山美咲さんもそこに自分の想いが重なったのではないかと思うのだが。

    この作品で描かれたより「もう一歩先」も是非観てみたい!

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    2018/03/24 07:07

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