『青いポスト』/『崩れる』 公演情報 アマヤドリ「『青いポスト』/『崩れる』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    『崩れる』

    公演が始まり、明らかに「いつものアマヤドリ」とは違うことに気づく。
    シーンの重ね方、物語の進める方法がまったく違うのだ。
    いつもよりも、さらに台詞のやり取りに重きが置かれているようだ。
    しかし、その台詞のやり取りが凄すぎる。
    台詞のやり取り、というよりは「会話」の凄さに圧倒された。

    演出がいいのか役者がいいのか、その両方なのか。
    一見簡単に見えて、このレベルの作品にはまず出会えない。

    この凄さは、こういう感じの、若者の普通の会話劇を目指していて「(自分たちは)そこそこできてるんじゃない?」と思っている演劇関係者が見たら震えるんじゃないか、と思うほど。

    新しいアマヤドリ! 大歓迎!


    (以下ネタバレBOXへ)

    ネタバレBOX

    大学の同窓生だった男たちがサイクリングの旅に出て、泊まった先の宿で交わす会話劇。
    ハリーこと針谷が知らないうちに、他の3人は中止したはずのキャンプをやっていた。
    そこに来た女の子・ミライと猪俣が付き合っている。
    ミライはハリーも好きな子だ。仲間はそのことを知っていた。
    彼らはハリーには猪俣が付き合っていることも、キャンプをしたことも黙っていたのだが、宿でハリーに打ち明けることになった。そしてハリーは怒り出す。

    ハリーがキレていく様が本当に怖い。
    まったく着地点が見えないからだ。

    そこに従業員のこじらせているヤバイ奴・松本のエピソードが挿入されることで、着地点がまったく見えなくなってくるのだ。
    松本は「どうすれば満足なんだ」に対する答えがないからだ。
    同様にハリーの怒りも、とても冷静で論理的なので、逆にどうしたいのかが見えてこない。

    金沢と江田は、実際は自分たちのの話なのに、なんとなく猪俣の話、猪俣と針谷の話に変化させていく。さらに江田はずるく立ち回る。
    自分たちが「悪者になる」とかならないとかという会話は、他人事だから出てくるものだ。

    だから針谷の怒りに対して、「まあまあまあ」の感じで接しているから、針谷の論理的な怒りには対応し切れていない。

    と思っていたら、ぐらりと状況が回転した。

    針谷の真意は、同じ会社の猪俣を人員整理したいということだったので、キャンプのことも付き合っていることも知った上で、怒ってみせていたことを明かす。

    針谷は論理的に、つまりどこか冷めた頭で怒っていたので、自分の仕掛けた罠を客観的に見てしまったのだろう。だから、自分に嫌気がさして本心(罠であること)を仲間に告白してしまった。

    そこに至り、本当に「自分がどうしたいのか」がわからなくなってしまったのだろう。「怒りの着地点」からの移行されていく様がいい。

    彼の気持ちの揺れ動きの表現がかなり良い。
    そして観客にそのことをきちんと分からせるために、宿の主人・園田が、彼の気持ちをくみ取りながら、話が納まる方向を占めそうとする。カウンセリングのように。
    そもそもこの宿は、「行き場のない奴のたどり着く先」みたいな話だったので、宿の主人・園田はこうした面倒くさい人の対応は心得ている、という設定がきちんと活きているのだ。

    蜘蛛の巣のように、張り巡らされた設定がすべて上手く絡み合っている。
    本当に上手い戯曲である。
    さらに台詞やシーンの緩急、動静のリズムが気持ちよく、さすが広田淳一 さんの作・演出であると思わざるを得ない。

    シリアスな会話が交わされるのだが、笑いもある。
    真剣な他人の会話は、外から見ると面白いというのもあろう。
    「フラットな」「ドローン」「ごめんを返す」なんて台詞の面白さもあった。

    そして役者たち。素晴らしい。

    針谷役の石本政晶さんが、かなりイヤな感じでねちねちと仲間を責め立てるのが、上手すぎ。冷静な顔で責め立てる。こんな風にされたらどうしようもない。

    そして江田役の倉田大輔さんがスゴすぎる!
    今までもアマヤドリの作品で見て、「ちゃらいのが上手くて、テンポのいい俳優さんだな」とは思っていたが、今回は驚くほどの上手さだった。
    台詞の切り返し、気持ちの切り返しの上手さに驚く。ちゃらくてイヤな奴(笑)が、無意識に自分だけを守ろうとして躍起になっている感じが良すぎるのだ。

    アマヤドリには、「化け物だ」と思うぐらい凄い役者・成河さんがいたし、そして中村早香さんという、グイグイ来るわけではないのに、つい引き込まれてしまう上手い役者さんもいる。

    アマヤドリには、磨かれるとぐいっと出て来る役者さんが常にいるという印象が、倉田さんの登場でさらに強まった。磨き方も上手いのではないか。
    この作品を観ると、さらに次にぐいっと出て来そうな人たちもいるようだ。

    すでに次回作が楽しみになっている。

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    2018/01/09 06:08

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