あの樹の下で 公演情報 劇団グスタフ「あの樹の下で」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    初めての劇団(もちろん劇場も)の公演、ホームページで所在地を確認したところ、最寄(喜多見)駅からの道順が少し複雑のようであった。しかし要所でスタッフが案内をしており、丁寧な対応に好印象を持った。
    公演は、チラシの説明にあるように現代の大学生(2年生)が沖縄へ行くが、何かのキッカケで太平洋戦争中の沖縄にタイムスリップするというもの。このシチュエーションは多く上演されており、新鮮味はあまりないが、その事実の前では脚本・演出・演技等が変わっても、戦争という不条理のテーマは色褪せないし陳腐化もしない。

    この劇団の特長は、舞台構造を活かし、事実の具現・役者による体現という視覚化が上手い。さらに戦時中という臨場感・緊迫感が分かる音響・照明という舞台技術が印象・余韻を残す効果を出していた。
    (上演時間1時間40分)

    ネタバレBOX

    この劇場は奥行きがあるよう。冒頭、紗幕に遮られているが、樹のようなものと女性2人のシルエット。幕返しをすると連立した衝立が見える。それを背景に大学キャンパスの休憩場所(椅子が置かれているだけ)を見せる。暗転後、衝立がなくなると”ガマ(’洞窟)”の断面を思わせる観方。全体を岩、土をイメージさせるため凹凸感を出している。壕の痕は、2階部を設え、1階部はより戦時中をイメージさせる作り。一瞬にして観客を1945年春・初夏へ連れて行く。その1階部は、上手側に二段ベット、下手側は術台。外部への出入り口は上手側の階段を上る。見事な造作である。

    梗概…キャンパスライフを謳歌する女子大生(4人)。アルバイト兼夏の思い出作りとして沖縄に来た。探検と称して洞窟に入ったが、何かのはずみで太平洋戦争中の沖縄へタイムスリップする。そこは沖縄師範学校女子部(沖縄県立第一高等女学校も)-通称「ひめゆり学徒隊」として従軍命令が出された。戦場に送り出された女子部は日本の勝利を信じ、野戦病院で献身的な看護活動をしていたが…やがて沖縄は「鉄の暴風」が吹き荒れ苛烈な戦場へ。そこで見聞き体験したことは凄惨を極めることばかり。平和が当たり前の現代と、戦時が日常の当時のギャップを女子大生の視点で描く。

    国家(大儀)の前に個人(尊厳)の存在は否定される。麻痺した思考、それは戦後を知っている女子大生達でも当時の人々を説得出来ない。軍国主義、戦争という異常事態が、兵士だけではなく沖縄国民を巻き込んでいく恐ろしさ。

    負傷兵の治療は麻酔もなく腕を切断、青酸カリで服毒自殺、手榴弾による自爆死、泣く赤ん坊の薬殺、軍優先による民間人見殺し、投降しようとする民間人をスパイ容疑として殺すとう錯乱した行為。これらの事実(シーン)を積み重ねることで不条理を鮮明にしていく。事実はセットや小道具、衣装・メイクで具現、視覚化することによって観客の想像に委ねない。しっかり観せることで悲惨な出来事を手放さず、曖昧にしない。

    一方、音響・照明という技術は観客の心を揺らし響かせる。この”具象”の見せ方が実に上手い。そして劇中歌、相思樹(別れ)の歌は、女優陣の安定した歌唱がとても印象的で落涙する。
    ラスト、現代に戻った女子大生の胸に去来するものは…、それは観客の思いも同じではないだろうか。

    次回公演を楽しみにしております。

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    2017/08/28 19:04

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