サンサーラ式葬送入門 公演情報 シアターKASSAIプロデュース「サンサーラ式葬送入門」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    鑑賞日2017/03/03 (金) 19:00

    価格3,800円

    ある種の「どうしようもない人たち」を、観る者が思わず味方してしまうようにえがく引力ある細川作品の力、ここに極まれりという感じの作品であった。
    観客を味方にしておきながら、最後の最後で落とす。
    いつものように観客に見させない表情があったり、タイミングを外した銃声が響いたり。細川さんのSさ加減を観客は存分に味わうことになった。

    初見時、一度拝見しただけでもかなりの満足度であった。
    が、あまり好きな後味の作品でもなく、このページの満足度をつけるなら星4つかななどと考えていたが、千穐楽も無事に終わって4日経つ木曜日でもまだこの作品のことを考えてしまう。
    尾を引く作品が良いのか悪いのかということはこの際置いておく。星は5つに。

    以下ネタバレboxを使用予定。

    ネタバレBOX

    観客を見事に罠に引き込んだ主演の小沢和之さんが見事。カーテンコールまで主人公のような誠実さ実直さが感じられた。
    主人公の価値観を歪ませた張本人セリちゃん役の土田卓さん、実にナチュラルで説得力ある演技。「いつも困るんだよなー」のセリフや少年藍川を見る場面から”わかっている”側の登場人物だと知れる。「人間疲れたな」だけで”わかっている”のに輪廻を脱する、ある意味勇気ある人だった。「殺す」の言葉をつかわず「やる」としか言わないことで主人公の感覚をマヒさせ続けていた。甲斐くんの面倒見もよく、篠塚も制圧し、先生も言葉で丸め込む、とても優秀な人。
    頭の悪いチンピラ甲斐役の竹石悟朗さん、拝見するのは3度目くらいだがそれまでと全く異なる輝いた演技を観させていただいた。甲斐くんは表情がくるくる変わって幼さ・未完成さを感じさせてくれた。見せ場は自分が死んだことに気付かず主人公の潜伏する部屋に幽霊となって現れるシーンか。初見時まんまとだまされ、2回目3回目と観るにつれて叫びの悲痛さが胸に響いた。
    セリちゃんにひとり人間を用意しろと指示されて主人公を手配したヤクザの若頭、篠塚役は福地教光さん。細川さんが書いてこの方が演じたらそりゃこうなるな、という感じ。ビタッとはまっていた。まさしく”インテリヤクザ”笑。ひょうひょうとしてある意味楽しげに過ごしている、ようでいて空虚。(小ネタとして、現れたときはだいたい時間が無く、空腹。)自分のことを語る場面が2つほどあったが、それもどこまで本当なのか知れないと思ってしまうほどに、空虚な人。この人も輪廻をしているらしいが、本人は信じるとも信じていないとも言わず「オジキ」に従い、セリちゃん達を使う。劇中の感覚で言えばきっとこういう人は生まれ変わったとしてもまた忘れている、そういう意味では、篠塚が本当にサンサーラしている者、”生まれる前からの仲間”でなくても成り立つ関係の人物。追い詰められたときにサンサーラの話を口にしたのは逃れるため、逃れたあと主人公に「もう帰っていい」と伝えているのがとても良心的。最終的にはサンサーラを話半分に聞いていたことと殺人は殺人であることをしっかり認識していたことがわかった人物、会社を持っていたとか行方をくらまして海外逃亡とか、由緒正しいヤクザでだいすき。端的で短い言葉が怖さを生む、空気を変える。存在感抜群、今回も惚れ惚れした。
    篠塚と同じくヤクザの若頭、潮田役に小川大悟さん。右肩を出したスタイルと葬儀時の正装のギャップありがとうございます。Vシネマなどご出演されていることもありこちらも実に正統派のヤクザ。小さくても凄味のあるお声だったり、「組割るつもりかぁ!」の叫びだったり楽しませていただいた。篠塚のことが気に入らない空気プンプン、最終的に自分で手を下しに行くあたり、すきです。唐突に生まれ変わりの話をされたり口笛が聞こえるとか言われたりして結局去って行く笑。お疲れさまです。
    その潮田に使われる殺し屋松虫と、買い手その2露口の2役を演じられた蜂巣さん、さすが安定の演技でした。露口で笑い、ヒヤリとし。松虫はかっこよく。セリちゃんの願いを聞き届ける松虫、良いです。バンタム銃おめでとうございました。
    人身売買を手がける元ヤクザに結束友哉さん。主人公への接し方は硬質、買い手へはちょっとへこへこした感じ。それでいていつもやっている感じがあって見やすい演技。観客がすっと作品世界に馴染めるような、そこに生きているお芝居だった。作中最初の殺人シーンで絞殺されてしまうが、殺されると理解してからの篠塚を呼ぶ声や工藤に恩を思い出させようとする言葉など脚本の良さをしっかり表現してくださった。断末魔は脚本の唐突さより断然ナマのほうが良く、これは特筆しておきたい。
    いかにもな宗教家に夢麻呂さん。作中、篠塚とセリちゃんが「急ごう」と話していたのはこの人をその気にさせることだったのだろうと思っている。作品の導入部という大切な部分でしっかり観客を引き込んでからの、次のシーンが除霊(?)。とんでもない作品もあったもんである。この人の”本物”っぷりを示しておいて、からのあの殺人シーンである。工藤が礼をするたびに全員が礼をする、だけで客席が笑い、「ちょっと待って」「一回待って」でまた笑いが起こる。登場回数は少なくともとても大きな印象を残してくださった。
    インターネット掲示板にスレ立てをする葬儀会社勤務のサラリーマン、狭間に今氏瑛太さん。殺人シーンや遺体発見シーンからの葬儀シーン、観客の視線を一身に集められたのではないだろうか。スレ立てシーン面白かったです。とてもとても残念だったのがキーボードの叩きかた。もうちょっと、指をそのキーの方向に動かしてくれたらなあと思ってしまった。基本的に一人でいるシーンばかり、甲斐くんに家に上がられてしまうシーンでやっと人と絡むシーンなのに殺されるシーン…でもそのシーン、とても良かったです。狭間さんも、そこに生きている、感じでした。

    わたしは罠にかからなかったタイプなので最後が実にあっけなかったのだが、狙いはばっちりだと感じるし何より13人のご出演者皆さまが皆さまとても素晴らしかった。
    役も魅力的で、それこそが細川作品の醍醐味。楽しませていただきました!

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    2017/03/09 23:24

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