残夏-1945-(ざんげ) 公演情報 サイン アート プロジェクト.アジアン「残夏-1945-(ざんげ)」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    泣かせない秀作
    聴覚障がい者、戦争、長崎原爆...これらの説明から、重苦しい人生が描かれるのだろうと勝手に想像していた。しかし、悲惨さは伝わるが、それ以上に生きてきた、そして今も力強く生きている、そしてこれからも逞しく生きていく、そんなメッセージを発信している秀作である。単なるお涙頂戴のような観せ方ではなく、もっと前向きな母娘...というより家族の物語である。

    上演後の大橋ひろえ さん(江原アイ子役)挨拶で泣いてしまいそうであった。「子育て中でも障がいがあっても高齢であっても、サポートによって『同じ空間で同じものを見て一緒に楽しむ』ことが当たり前となるような社会を創っていければ...そんな趣旨内容である。

    この芝居、タイトルや説明から明らかなように、戦争への鋭い批判であることは間違いないであろうが、その描き方が実に良い。

    ネタバレBOX

    この芝居で素晴らしいと思ったのが、この母・逢沢康子役(五十嵐由美子さん)が、ろう者で終戦間際(1944年)の長崎で生まれ、被爆しているという設定である。この直接ではなく、自分の母・江原アイ子からの伝聞形式で語るという観せ方が良かった。直接だとその生々しさが強調され、お涙頂戴のようになり平面的な描き方になったと思う。伝聞という少しクッションをおく事で、戦争の悲惨さと、障がい者との関係もうまく観客(自分)に伝わった。お仕着せではなく、実に自然体で語られる...その暑い「残夏」は、新たな命「産夏」でもあった。そう人間讃歌という感じである。
    さて、もう一方の現在を生きる母娘(逢沢夏美役・日野原希美さん、逢沢結役・貴田みどり さん)の確執である。こちらは障がい者としての思いが伝わる。障がいがあっても自由に表現したい、感じたいという強い思いは、母親の娘を守るという意識の違いがぶつかる。優しい思いのすれ違いがもどかしい。少し、ギリシャ悲劇「エレクトラ-コンプレックス」のような気がしたが、それは母親に対する反動...それが父親への思慕に繋がっている。

    この戦争(被爆体験)と障がい者としての思いという多重構成を上手く魅せてくれた。実に泣かせない秀作であった。

    次回公演も楽しみにしております

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    2015/07/12 12:23

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