『太平洋食堂』 公演情報 メメントC+『太平洋食堂』を上演する会「『太平洋食堂』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    秀作
    定刻通りに始まり、2時間55分(途中休憩10分)は、丁寧な制作と鋭い問題提起を含んだ秀作だと思う。まず、制作は、芝居に馴染みのない客が観ても分かり易いストーリーとそれを支える演出や舞台美術・技術が素晴らしいこと。問題提起は、一人ひとりが観て感じ、考えてほしいところである。
    自分の拙文は後記するが、この公演を再演するにあたって演出家・藤井ごう 氏が当日パンフに「いつか『あの時』に変換されてしまいそうな時代を、自覚ないまま生きる僕らに、この物語は人物たちは『今』を鋭く突きつけてくる。」と記載している。自分が漫然と思っていたことが的確に書かれていたので引用させていただいた。

    ネタバレBOX

    舞台は、タイトル通りに「太平洋食堂」が中央に作られ、その看板が見えれば入り口玄関、その看板が外されれば食堂内という分かり易い転換である。もちろん食堂内になれば、テーブルと椅子が搬入されるが、それほど違和感がない。舞台転換は暗転・薄暗など工夫を凝らし、集中力を失わせない。

    この公演、直截に描いて観客を誘導しないところが良い。制作側の意図は観取れるので、後は観客(自分)として考えてみたい。

    時は明治37年、日露戦争開戦の年に遡る。舞台の場所になるのが和歌山県N市に洋食「太平洋食堂」、そして主人公はその食堂のオーナー・シェフであり、医師の大星誠之助(間宮啓行)である。「太平なる海に平和の灯を浮かべ万民が共に囲む食卓」を標榜し、その開店時には各界代表を招待する。そこには貧しき庶民の姿も...。料理の隠し味は、自由・平等・博愛という時代を超えて今なお愛される”味”である。
    この味わい深い公演は、東京・杉並区、大阪・難波、和歌山県・新宮でも相次いで開店されるという。

    さて、芝居後半は、地元有力者(権力像)と貧・庶民等(労働者層や主義者)の「傲然」と「浩然」の対立が先鋭に表され、その先に確たる証拠もなく処刑された「大逆事件」が描かれる。このクライマックスまでに、登場人物の性格や立場、知らず知らずのうちに大きな渦に巻き込まれ、その状況に抗うことが出来ないところまで追い込まれる。その恐怖のさまを的確に描き出していた。いつの時代でも自分を見失うことなく、「見ず・知らず・言わずの三途の川」を渡ってはいけないことを肝に銘じた。

    なお、大逆事件直前に描かれる誠之助...自分を段々見失う、または虚無的な場面は冗漫に感じた(必要であるとは感じつつも)。

    公演全体は軽妙な場面もあり、そう重苦しい雰囲気ではないが、そこで発せられるセリフは鋭く奥深いものがある。人生の深淵を覗かせる言葉と随所に織り込まれた状況(遊里問題、労働争議など)説明が相まって見事であった。

    次回公演も楽しみにしております。

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    2015/07/03 21:49

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