『太平洋食堂』 公演情報 『太平洋食堂』」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 3.9
1-9件 / 9件中
  • 満足度★★★★

    再演をみてよかった。
    初演を観、今回も観たかった。「あの感動をもう一度」という訳でない。着想と言い、描き出される人物像の幅と言い、時間経過による人物たちの変化の描写と言い、一言一言の台詞の含蓄と言い、大作である。
     ただ初演では、ストーリー説明のラインを追うので精一杯だった。それには多分、俳優の人物理解、台詞の咀嚼度が影響している、と再演をみて確信した。芝居の進行を追ううちに、朧げに話が立ち上がって来たが、前はこういうニュアンスではなかった、と感じるやり取りがあちらこちらにあり、確実に良い方へシフトしていた。特に後半はこの劇世界の完成へ、台詞も、事態の展開も饒舌に滑らかに流れて行く。
     ただ、初演も今回も、最後に唱われる主人公大星を悼み称える(慈しむ)唄が、とても良い曲なのだが唐突な感が否めない。しかし今回は初演で感じた程の浮いた感じはなかった。
     大星役のみ、良くも悪くも初演と印象は変わらずだった。理想を描き、世の風に流れず自分の風を吹かす、発想と行動の人のイメージだが、変節とみえる瞬間がある。革命より家族を取った。ここは、人間=大星の側面を見せたかったのかどうか。結社をたたむ宣言に至るまでの大星は、「何が本当なのか判らない」即ち何も本気でやってない(貴族の道楽‥貴族ではないが)、根無し人の正体がうっすら見え始める、、という風に見えた。それは作家の狙いだったのかどうか‥。
     家族の安心をとり、結社を解散した時も、妻へのリップサービスをついやってしまった風にも見える。もし「根っこ無し」が暴露されたら、妻は(自分も)崩壊してしまうんではないか‥、そういう危機を感じたのだと、観客には見えた、そんな演技だった。
     これと「歌」とがそぐわないのであるが、そこは別枠に括るとして‥‥今回は初演時に否めなかった「大星礼賛」の印象は退き、太平洋食堂を訪れた様々な階層の人々の「食す」光景が、ラストに想起されてくる。大逆事件の無法に一瞥しながらも、人間として生き得たことの「勝利」---ある意味観念的な---を噛みしめる、最後であったかも知れない。

  • 満足度★★★★

    ひとりの男の物語
    百年前の日本にはこんな豪放磊落な男がいたということを知っただけでもこの芝居を観てよかったと思う。そして「大逆事件」のことも(学生時代に勉強した筈なのに)すっかり知識が抜けていたのでショッキングであったし、現代日本の状況と照らし合わせて考える機会にもなった。経験豊かな役者陣の重厚な演技に支えられてまるで青少年向けの観劇会のような雰囲気を感じる、わかりやすく、一人の男のドラマを、そして歴史の真実を伝えてくれる物語だった。

  • 満足度★★★★

    明治後期を生きる人々の活力
    医師でありシェフである主人公が自由と平等を謳って「太平洋食堂」をオープンさせる。そしてそこに集まる人々が生き生きと描かれ、明治後期という時代を生きる人々の活力が伝わってくる。その演出と役者陣の表現力は見事でたっぷり3時間飽きることなく楽しみながら、思想弾圧事件として受け止めることもできた。しかし民衆の思いを権力にぶつける手段として爆弾作りに手を染めるという主人公の過激過ぎるもう一面が自分には今一つ腑に落ちない点として残った。

  • 満足度★★★★

    今後も再演を希望
    大逆事件に取材した力作。きちんとした丁寧な作りで、エンターテインメントとしても素晴らしい、見事な社会啓蒙的作品です。この国家による弾圧事件を風化させないためにも、今後も再演を繰り返して欲しいものです。

  • 満足度★★★★★

    秀作
    定刻通りに始まり、2時間55分(途中休憩10分)は、丁寧な制作と鋭い問題提起を含んだ秀作だと思う。まず、制作は、芝居に馴染みのない客が観ても分かり易いストーリーとそれを支える演出や舞台美術・技術が素晴らしいこと。問題提起は、一人ひとりが観て感じ、考えてほしいところである。
    自分の拙文は後記するが、この公演を再演するにあたって演出家・藤井ごう 氏が当日パンフに「いつか『あの時』に変換されてしまいそうな時代を、自覚ないまま生きる僕らに、この物語は人物たちは『今』を鋭く突きつけてくる。」と記載している。自分が漫然と思っていたことが的確に書かれていたので引用させていただいた。

    ネタバレBOX

    舞台は、タイトル通りに「太平洋食堂」が中央に作られ、その看板が見えれば入り口玄関、その看板が外されれば食堂内という分かり易い転換である。もちろん食堂内になれば、テーブルと椅子が搬入されるが、それほど違和感がない。舞台転換は暗転・薄暗など工夫を凝らし、集中力を失わせない。

    この公演、直截に描いて観客を誘導しないところが良い。制作側の意図は観取れるので、後は観客(自分)として考えてみたい。

    時は明治37年、日露戦争開戦の年に遡る。舞台の場所になるのが和歌山県N市に洋食「太平洋食堂」、そして主人公はその食堂のオーナー・シェフであり、医師の大星誠之助(間宮啓行)である。「太平なる海に平和の灯を浮かべ万民が共に囲む食卓」を標榜し、その開店時には各界代表を招待する。そこには貧しき庶民の姿も...。料理の隠し味は、自由・平等・博愛という時代を超えて今なお愛される”味”である。
    この味わい深い公演は、東京・杉並区、大阪・難波、和歌山県・新宮でも相次いで開店されるという。

    さて、芝居後半は、地元有力者(権力像)と貧・庶民等(労働者層や主義者)の「傲然」と「浩然」の対立が先鋭に表され、その先に確たる証拠もなく処刑された「大逆事件」が描かれる。このクライマックスまでに、登場人物の性格や立場、知らず知らずのうちに大きな渦に巻き込まれ、その状況に抗うことが出来ないところまで追い込まれる。その恐怖のさまを的確に描き出していた。いつの時代でも自分を見失うことなく、「見ず・知らず・言わずの三途の川」を渡ってはいけないことを肝に銘じた。

    なお、大逆事件直前に描かれる誠之助...自分を段々見失う、または虚無的な場面は冗漫に感じた(必要であるとは感じつつも)。

    公演全体は軽妙な場面もあり、そう重苦しい雰囲気ではないが、そこで発せられるセリフは鋭く奥深いものがある。人生の深淵を覗かせる言葉と随所に織り込まれた状況(遊里問題、労働争議など)説明が相まって見事であった。

    次回公演も楽しみにしております。
  • 満足度★★★

    間違いを繰り返さないために
    第二次世界大戦を舞台にした戯曲はいくつも観てきましたが、日露戦争というのは初めてで、興味を持ちました。先日観た三好十郎氏の「廃墟」の中に日本の間違いは、明治維新にまでさかのぼらないと駄目だ・・・という意味の台詞がありましたが、本当に納得しました。
    国民が考える力をどんどん奪っていく政府・・・・今に通じるものを感じ、恐ろしくなりました。
    役者さんたちの熱演が素晴らしかったです。特に印象に残るのは語り部的役割をした清原達之さんです。清原さんの語り口、たたずまいがあの怒涛の時代の中で、押し流された人たちを鎮魂しているようにも思いました。

  • 満足度★★★★

    生きる道
    平和・自由・平等を望む人々の言動は、時代こそ違うものの日々の生活に苦悩する私たちにとって、立ち止まって自らを見つめなおし考えるきっかけになると思います。

    ネタバレBOX

    演技力は素晴らしく、舞台を広く使った演出は見事でした。大逆事件は、詳しくは知りませんでしたが、本上演を通して、深く考えさせられました。
  • 大逆事件
    明治時代の背景を理解でき、
    とても現代の私たちにも分かりやすいストーリーでした。
    見ていて面白かったです。ありがとうございました!

  • 満足度★★★

    演技陣に拍手
    先ず、大星誠之助のことを知らず、調べもせず書きます。(この作品からの情報のみで)

    作品を観終わってまず思ったのは、何を言いたい脚本なのかよく解らなかったな?という事でした。
    「大逆事件」の判決の悪意なのか、そもそも「大逆事件」そのものが時の権力者がでっち上げた物だといいたいのか、「大逆事件」を題材として平等を目指す大星氏の生き様を(好意的に)描きたかったのか…?

    どれにしても書き切れていない本だという印象は拭えなかった気がします。

    <平和><平等>というテーマをもっと掘り下げて欲しかった。個人的には。
    その為には、時の権力の無法をきちんと描く必要もあった筈。
    この作品の警察署長や町会議長はとてもコメディタッチに描かれている。
    一見、<悪>が存在していないようだ。
    のどかなN町のちょっとした異変を描いたという印象だが、終盤、急に司直の手が及ぶという展開になる。
    その間の描き方が不十分。

    しかし、演技陣の素晴らしさには大拍手。本への不満を大方帳消しにしてくれる。
    役を客観的に見つめた上での演技であり、まさに地に足が付いた芝居を見せてくれる。

    演劇鑑賞という視点で云えばお薦めの作品だ。

    ネタバレBOX

    大星夫人の終盤の夫に対する叱咤。
    あの唐突さは本の責任であるが、演出にも責任はある。
    それまでの過程に彼女の心の動き(積もる不安と不満)を具現化していない。
    これはとても残念だった。
    叱咤の台詞が良いだけに、余計に惜しい。

    若者たちがセクト化していく事に対する大星の内面もきちんと描かれてはいない。
    故に、<社会主義><自由主義><共産主義>という言葉だけが踊り、各々どんな物として登場人物たちが捉えているのかという視点が見えない。
    それを主にした本ではないという言い訳は許されない。
    その中で生きる人々を描いているのだから。

    要は、定置観測ができていない本だという印象を持ってしまう。
    とても残念だった。

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