毒婦二景「定や、定」「昭和十一年五月十八日の犯罪」 公演情報 鵺的(ぬえてき)「毒婦二景「定や、定」「昭和十一年五月十八日の犯罪」」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    君臨する女王(Bプログラム)
    あの安部定事件を、逮捕直後の取調室で検証するという設定。
    かみ合わず強張っていた刑事と定のやりとりが、次第に変化していく様が面白い。
    “女王のように君臨する定”の周りで、理解不能な事件に男たちはおろおろする。
    だが定の心情に触れ、変化をもたらしたのもまた、その男たちであった。
    たたみかけるような淀みない台詞のやりとりが素晴らしく、ぐんぐん惹き込まれる。
    すっきりと美しいハマカワフミエさんの定が、君臨するに相応しい強い意志を感じさせ、
    単なる猟奇事件の犯人を超えたキャラを立ちあがらせる。
    谷仲恵輔さんが、人間味と余裕を合わせ持つ刑事を演じていて大変魅力的。

    ネタバレBOX

    平日のマチネ、客席は立錐の余地も無いほどぎっしり入っている。
    楽園のあの柱が、セットなのか劇場の一部なのかわからないような装飾を施されている。
    私は楽園で初めて、柱の存在を忘れた。

    明転すると、取調室の入口に近い小さな机の上に定が正座している。
    刑事たちは奥の大きい机の周りにいる。
    署の外には、定を一目見ようと群衆が押し寄せている。
    惚れた男の首を絞めて殺し、その性器を切り取って持ち去った女に
    「男に対する殺意と憎しみがあったはずだ」と決めつける輿石刑事(平山寛人)、
    「まあまあそう言わずに、お定さんも話してくれませんか」
    と辛抱強く問いかける浦井刑事(谷仲恵輔)。
    そこへ突然内務省の役人(瀬川英次)が「自分も取り調べに混ぜてくれ」とやって来た。
    2人の刑事と1人の役人は、定の心情に迫るため事件を再現しようと試みる。
    だが所詮定の真意には届かず、取り調べは行き詰ってしまう…。

    文字通り君臨する定の強さ、迷いの無さ、理屈を超えた情の深さに圧倒される。
    自分の物差しで測れない女を、ただ嫉妬に狂ったか金のもつれかくらいにしか
    想像できない男たちの代表が輿石刑事だが
    その理解できないもどかしさ、忌々しさがビシビシ伝わって来た。
    定の話に「理解出来ないが、邪念が無かったということは解った」という
    浦井刑事との対照的なスタンスが鮮やか。

    そこへ好奇心丸出しでテンション高く定に接する役人が加わり
    事態は俄然面白くなってくる。
    定になり切って事件を再現しようとする役人の
    稀代の犯罪者を目の前にしてミーハーっぽいテンションの上がり方が可笑しい。
    瀬川さんの振り切れ方が素晴らしく、一気に「静」から「動」へ切り替わった。
    取調室がワイドショーのスタジオになったようで
    “わけがわかんないほど大騒ぎする”大衆の心理を代弁する感じ。

    「吉さんとは終わっていません、続くんです」と主張する定に対して
    終盤、攻防に疲れた浦井刑事がついに個人的な感情をぶつける。
    そこから定の態度が一変するラストまで見ごたえがあった。

    劇中BGMも無く、台詞も決まった言い回しが繰り返される。
    だがそれが不自然でなくむしろ共感を持って聞けるのは
    役者陣の説得力ある台詞と絶妙な間の力である。

    すっぱりと切り落としたような終わり方で
    むしろここから先を観たくなるような印象さえ受けた。
    定の、わずか6年で出所してからの人生がどこか投げやりなまでに自由奔放なのは
    捕まるまでの人生に満足して、あとはどうでもよかったからではないかという気がする。
    ハマカワフミエさんの安部定は、それほどまでに孤高の女王だった。

    0

    2014/06/19 22:34

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大