満足度★★★
翻案というにはやや迫力不足
古典の翻案と言いつつ、大切なエッセンスを残しながら現代的に改変するということが出来ていないように思えた。歌舞伎のあらすじは時折突拍子もないこと態や暗黙の「お約束」などが起こり、それを支えるのが、降りしきる吹雪や美しい舞、ドラマティックな早替わりという、ある種の非現実的な「仕掛け」ではないだろうか。今回の演出にはそれがないように思え、リアリズムで押し切るには俳優たちの台詞が一方的すぎた。思いの丈を朗々と語っても、受け止めることができなかった。互いが互いの仇であることが明らかになってゆく場面も、矢継ぎ早な台詞がもったいない。初見の団体で、いつもそうなのかは分からないので、次回作の演出も観てみたい。
全体として照明が暗く、俳優の影が長く伸びていたのが印象的だった。彼岸と此岸を隔てる橋があり、登場人物は死ぬとその橋を渡る。死んだ人々がぼうっと照らされて見守る様子は陰影が美しく、無言の圧が印象に残った。吹雪の中、三人の吉三が刺し違えるドラマに至るラストシーンは静謐さが際立っており、ろうそくを吹き消す演出もよかった。