眠る羊 公演情報 十七戦地「眠る羊」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    奢る平家
    「国民の理解を得て比良坂家を守るため」平易な言葉を使って
    証人喚問のリハーサルをするものだから、政治の話が大変解り易くなった。
    国を守ると言いながら、守りたいのは一族とその立場、プライド、既得権。
    過去作品のようなダイナミックな展開や大胆なファンタジー要素は薄れたが
    その分現実とリンクして“多分絶対あるある”的なリアリティが色濃く漂う。
    キャラの立った一族に加えて有能な秘書達が事態を引っ張るのが面白く
    過去の経緯はともかくラスト次男の選択は、潔くて清々しい。
    このラストは作者の理想・ファンタジーか、国の行方を託すひとすじの光か。
    それにしてもスペース、テーマ、人数など、敢えて難しい制限をかけた中での
    この設定と会話の緊張感は素晴らしい。
    また意外なキャスティングで役者の新たな面を見事に引き出している。

    ネタバレBOX

    証人喚問を控えた与党国防部会の衆議院議員が、想定問答集を元にリハーサルを行う。
    亡き父の後を継いで国防一族である3人の息子たちはそれぞれ要職についているが
    今や3人とも不正疑惑の渦中にあり、次男である議員はその釈明を求められている。
    リハーサルには3人のほか、母親、議員の妻、秘書3人、左翼系の妹、
    そして彼らが身を寄せているこのギャラリーのオーナーで亡き父の秘書兼愛人の女性。
    リハーサルが進む中新事実が次々と発覚し、事態は予想しなかった方向へと動き出す。
    次男は、最終決断を迫られる。
    「調査中」と逃げるか、認めて謝罪するか…。

    まずこの証人喚問をエンタメ化するという設定が素晴らしい。
    そもそも一般人とかけ離れたモラルや金銭感覚で動く政治家や官僚という存在に
    滑稽さを見いだすところがユニークかつ鋭い。
    証人喚問というショーの演出を練る舞台裏を暴く面白さが秀逸。

    柳井作品には珍しく笑いをもたらしているのも、この“存在の滑稽さ”だ。
    へそでも見なくちゃ頭を下げることができない、ボクが国を守り動かすと決心している、
    親切な人からすぐ金を借りる、自分が正しいとマジで信じている、人の話を聞かない、
    最後はやっぱり金がモノを言う、バレなければ大抵のことは大丈夫…etc.
    といった生態が現実とリンクし、その既視感が可笑しい。

    キャラの設定にメリハリがあるのも魅力的。
    いつも沈着冷静でクールな役が多かった北川さんが
    傲慢で横柄で「殺してやる!」とか言う次男の与党議員を演じるのが大変楽しい。
    意外に凶暴な役とか似合いそう。
    防衛省装備施設本部調達課にいながら軍需商社から平気で金を借りる
    オペラ狂いの長男を演じた澤口渉さん、
    “小役人のぼんくら”と言われる屈折を
    軽いノリでやり過ごそうとあがく様が情けなさ全開で印象的。

    困った3兄弟とは対照的に彼らを支える秘書たちは非常に優秀で、そこもまたリアルだ。
    “素朴な人”でなく立板に水みたいな秘書を演じた真田雅隆さん、
    都会的なキレの良い台詞がリハーサルを牽引して魅力的だった。
    結果的にリハーサルをリードした、亡き父の秘書兼愛人美咲を演じた植木希実子さん、
    冷静に状況判断をしながら重大な決断をさせる、理知的なキャラがぴたりとはまる。

    ダメダメ一族を描きながら、作者はどこか一縷の望みを託しているように見える。
    左翼寄りの妹礼子が、最後レコーダーを受け取らず美咲に委ねるところ、
    一族の失脚を前にどこか明るい兄弟たち、
    潔くバッジを外す決断をした次男も、最後は屈託のある美咲に対して本音で向き合う。
    柳井氏の“絶望しないために必要なファンタジー”を感じた。

    柳井氏のtwitterを見るといつも、リラックスした自虐ネタに笑いつつも
    「制限の中で印象的なメッセージを効果的に発信する」という作家としての言葉を感じる。
    それは単なるつぶやきというレベルを超えていて
    この瞬発力とクオリティが戯曲の核になっているような気がする。



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    2014/03/02 00:57

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