有明をわたる翼 公演情報 演劇企画フライウェイ「有明をわたる翼」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    12月20日、開門
    1997年「潮止め」により、諫早湾は完全閉鎖、
    地元の人が“ギロチン”と呼ぶ、あの映像は当時繰り返し放送された。
    演劇人と生態学研究者が協力して制作した作品は、
    国を相手に訴訟を起こしもう一度海を取り戻そうという“開門派”と、
    今さら自治体の補助金無しで生活できるわけがないという“現実派”の
    真っ二つに割れる漁協の対立に、専門家の協力や
    ロミオとジュリエットばりのラブストーリーを絡めた意欲作。
    渡り鳥たちの精巧な動きと本格的なダンスが美しく、
    人間の愚行と対照的に、自然界における命の連鎖を的確に表現している。

    ネタバレBOX

    「鳥のことばが解る」百合江(村上麗奈)は、絵を学ぶため諫早を出て東京へ行く。
    彼女が自分の限界を感じて故郷へ戻った時
    国を相手に訴訟を起こそうという開門派と
    開門してももう海は戻らないし、補助金無しでは暮らしていけないという反対派で
    漁港は真っ二つに分かれ激しく対立していた。
    補助金をもらって生活を安定させ、漁師でない男に娘を嫁がせたいと
    誰よりも誇り高い漁師だったはずの百合江の父は、ついに陸へ上がる決意をする。
    一方訴訟のために村人を説得に回る富雄(神田敦士)は
    専門家のハカセ(斉藤真)の助言を得ながら訴訟に備えるうち
    百合江と結婚の約束を交わす仲になる。
    そんな時、船で調査に出ていた富雄とハカセは天候の急変で嵐の中沖へ流されてしまう。
    誰もが救助をためらう中、百合江の父はひとり訴訟委任状を託して救助に向かう。
    富雄とハカセは助かり、結婚に大反対だった父は還らなかった。
    それを機に村は一気に訴訟へと団結、2010年12月、確定判決で
    干拓事業と漁業被害の因果関係が認められ、開門の実施が命じられた。
    そして2013年12月20日、有明は開門の日を迎える…。

    証言台で語る当事者のことばが、環境と人生の激変をストレートに語って
    “専門家の言うことを聞かない国”の失敗がここでも露わになる。
    このまま補助金をもらって突き進むのも
    一度立ち止まって後戻りするのも、どちらも苦しい選択なのだが
    人間は反省してやり直す道を選んだ。

    その人間どもの失態を干潟で見ている鳥の群れは
    ファンタジーのようでいながら、自然界をきっちり代弁している。
    羽をあしらった衣装や帽子で優雅に踊る鳥たちは
    一歩間違えれば学芸会になってしまいがちだが、
    鳥らしいリアルな細かい動きと本格的なダンスで、見事に人智を超えた存在になった。
    渡り鳥オオソリハシシギを率いる長老、月読(羽根渕章洋)の深いまなざしと
    群れに1羽だけ迷い込んでいるフラミンゴのルーノ(参川剛史)が良い。
    おちゃらけたルーノの台詞に、はぐれ者の孤独と人生の方向を見失った心細さがにじむ。
    ハカセ役の斉藤真さん、滑舌よく専門家としての立場から地元に協力する
    熱い思いが伝わってきて良かった。

    上手と下手に吊るされたステンレス(?)の巨大なシートの演出が秀逸。
    富雄が説得に訪れると、裏からそれを叩いて拒否の台詞に替える場面、
    嵐の中激しくそこに叩きつけられる場面では迫力ある大きな音が響いて効果抜群。

    自然に逆らえば人は居場所を失う、そして失った時には
    先頭に立った国など何の助けにもならないということを改めて考えさせられた。

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    2013/12/19 02:33

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