花と魚(第17回劇作家協会新人戯曲賞受賞作品) 公演情報 十七戦地「花と魚(第17回劇作家協会新人戯曲賞受賞作品)」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    花と魚と”手”
    生命体としての地球と人間というダイナミックなテーマ、
    深い人物造形、ねっとりした地方都市の人間関係、
    そして息もつかせぬ緊迫した台詞の応酬。
    バリバリ宮崎弁でところどころ理解できないのだけれど
    そんなことぶっ飛ばすリアリティと勢いを持っている。
    出演者全員、そのキャラクターが立体的で本当に素晴らしい。
    今この作品を再演してくれたことに心から感謝したいと思う。

    ネタバレBOX

    対面式の客席に挟まれた舞台スペースは極めてシンプル。
    壁面に上から下がっている魚網は、何かを祝うかのように紅白の布で編まれている。
    その向かい側には集会所の椅子や茶器などこまごました備品が置かれている。

    もっと観光客を誘致しようと準備している宮崎県の小さな漁村に
    怪物“足のある巨大な魚”が現れて次第に増殖、住民生活を脅かす。
    民間の野生生物調査員が呼ばれ、対策を相談するが
    村は“保護”と“駆除”とで真っ二つに割れる。
    村に伝わる伝説、意図的に流される噂、組織と個人の葛藤、信頼と裏切り…と
    有事の際の人間模様てんこ盛りだ。
    だがあっと驚く結末は、どこか神話的でどのかでさえある。

    感情的に主張し、相手を存在から否定する会話の応酬は観ていて心拍数が上がる。
    この会話が早口の宮崎弁でところどころ聞き取れず良く分からない。
    でも方言なんてどこもそんなもので、正確にはわからないけど大体理解できる。
    この”手加減しない方言”が、冷静さを欠いた会話に緊迫感を与え
    シュールなファンタジーっぽい展開を超リアルに見せる。

    海千山千でしたたかな村人の思惑を複雑に交差させつつ
    困難に立ち向かう人々を描いたかと思うと
    “所詮人智の及ばぬところなのだ”というオチが極めて爽快。
    生命体のサイクルの中で、ほんの一瞬もがいて終わる人間など
    塵のような存在だと感じる。

    「祈っても願ってもかなわないことがある」と主人公七生(北川義彦)が言う。
    謙虚さを喪った人類に、主役の座を明け渡す以外どんな未来があるというのだろう。
    「魚が陸へ上がり、海に花が咲く、そして人は魚になる」という村に伝わる言い伝えが
    ”ご神体”の異様な姿と共に妙な現実味を帯びてくる。
    その中で、諦観しつつ同時に諦めない七生の選択は人間の向日性を見るようで清々しい。

    へらへらしているようで一番事態を冷静に見ている須田大和を演じた澤口渉さん、
    へらへらぶりも徹底していたが、後半七生にタオルを渡すところなど
    大和の深い気持ちが視線や一挙手一投足に表れていて素晴らしかった。

    婦人部部長の須田日出子を演じた峯岸のり子さん、
    50代で演劇を始めた方と知って本当にびっくりした。
    風琴工房の「国語の時間」やガレキの太鼓の「地響き立てて嘘をつく」でも
    さらりとした手触りながら要としての存在感ありまくりだった。
    今回の天然なんだかしたたかなんだかよくわからない、
    でも事の核心の近くにいることは確か…という役にハマり過ぎるほどハマってる。
    力の抜けた居ずまいが絶妙。

    野生動物の保護を説くセンターの所長 佐糖勇樹さん、
    嘘つきで他人を叩きのめすように非難し村中を引っかき回す那美江役鈴木理保さん等
    徹底した隙のないキャラの構築が見事で、人間ってこういうとこあるよなと思わず納得。

    この“壮大なテーマを地面に下ろして来て人間とすり合わせるような作業”に
    緻密に黙々と(勝手に想像している)取り組む柳井祥緒さんという人を尊敬する。
    今この若さで、この充実ぶりにこれからも期待せずにはいられない。

    十七戦地のフライヤーはいつも端正で美しいが
    今回のこの“手”のアップの静謐な絵はどうだ。
    一目で座長北川義彦さんと判る手、物語の結末を左右する手だ。
    花(藤原薫)が描く絵は全て現実のものと成る。
    足のある魚も、そして最後に描いた“赤ちゃん”の絵もきっと現実のものとなるだろう。
    その赤ちゃんを抱く手となることを確信させる、そんな手をしている。

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    2013/09/14 05:29

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