新譚サロメ   (改訂版)  公演情報 ウンプテンプ・カンパニー「 新譚サロメ   (改訂版) 」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    「首を所望せよ」
    あの“預言者ヨハネの首を所望したサロメ”の話が
    平家の落人伝説が伝わる小さな島に場所を移して語られる。
    古風な島言葉と島崎藤村の詩を用いた劇中歌、設定ががらりと変わることで
    “男と女”の普遍的な“不可解さ”が浮き彫りになる。 
    そうだ、預言者の首を所望せよとサロメに告げたのは、この母親だったのだと思い出させるような舞台だった。

    ネタバレBOX

    階段を降りると、舞台スペースを三方から囲むように客席が作られている。
    ぼうっと中から灯りが洩れるような太い木が2本、
    1本の根元には賽の河原のような石が積まれている。
    暗転の後、島に流れ着いた一人の男がここ「イザヨイの穴」で目覚めたところから話は始まる。

    その昔平家の安徳天皇は入水して8歳で崩御した事になっているが
    実は生き延びていたという伝説があちこちに残っている。
    この島もそのひとつで、安徳天皇に娘のウズメを差し出した男の末裔が
    今も島を牛耳る男、よろう鐵である。
    彼は弟の妻律を奪って弟を死に追いやり、今また妻の連れ子サキを我が物にしようとしている。

    島に流れ着いた男、与太者の寿安は島に災いをもたらすとして追われる身となり
    祭りで舞を舞った後よろう鐵のものになることになっているサキは
    この寿安を唯一の救世主として捨て身ですがりつくが拒否されてしまう。
    舞の褒美に何でも欲しいものを与えようというよろう鐵に
    今は囚われている「寿安の首」と叫ぶサキ。
    目を大きく見開いて、島を眺めながら波間を漂う寿安の首・・・。

    台詞を言ったあとにト書きも読んで描写するのがユニーク。
    たった今生々しい台詞を吐いた次の瞬間、距離を置いてその自分を描写する。
    あるいは台詞にしない胸の内が短い言葉で表現される。

    座付き作家の加蘭京子さんが好きだという島崎藤村の詩に
    曲をつけて歌う劇中歌が不思議な雰囲気を醸し出す。
    生演奏のピアノに合わせて難しいメロディーの歌を全員一度はソロで歌う。
    歌詞が良く分かる歌い方は素朴な歌唱ながら好感が持てる。
    一番多く歌うのは冒頭きれいなダンス(?)と踊っても乱れない歌を聴かせた
    千鳥・ウズメ・謎の女…を演じた森勢ちひろさん。

    与太者の寿安を演じた鈴木太一さん、
    人生を投げているようでどこか潔癖な寿安がはまっている。

    よろう鐵の妻律を演じた西郷まどかさん、
    夫を裏切り死に追いやってまで欲しかった男が、今は自分の娘を欲している。
    「欲するとはどういうことか」身を以て娘に教える母親の業が素晴らしい。
    もともと聖書で、サロメに「首が欲しいと言え」というのはこの母なのだ。
    この母の残虐性が、運命に流される娘に向かって流れ込んでいくような印象を受けた。
    魔性の女は着物の着付けもきれいでとても素敵だった。

    サキを演じた板津未来さん、
    母親を憎み、義父であるよろう鐵を憎み、自分の運命を憎み
    唯一愛した寿安に拒否された絶望から「首」を所望する狂気が伝わってくる。
    しかもそれは、宿命を受け容れて”初めて自ら選択した事”だったという決意の証明でもある。

    繊細でドラマチックな照明が素晴らしい。
    微妙な変化とタイミングで舞台に時の経過と奥行きが生まれ
    観ている私たちは彼らと同じ時間を過ごす。

    愛する男の首とは、単なる“殺してしまえホトトギス”の心境ではなく
    絶望の代償・孤独の証、そして母親から受け継ぐ業でもある。
    元のサロメ、平家の伝説、そこへ島の男女のいくつものエピソードが重なって
    サキの狂気の必然性が説得力を持ってくる。

    ──寿安の首、今どのあたりを漂っているのだろう・・・。

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    2012/10/30 19:46

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