住み込みの女の観てきた!クチコミ一覧

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カタブイ、1995

カタブイ、1995

名取事務所

小劇場B1(東京都)

2024/03/15 (金) ~ 2024/03/18 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ネタバレ

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『カタブイ、1995』を観劇。

沖縄三部作で、前作は1972年で、今作は1995年。
以前から気になっていた作・演出:内藤裕子の新作だ。

あらすじ:
日本復帰を果たした沖縄だが、いまだに米軍基地があり、米兵による犯罪、用地買収問題などが山積みしている。元教師の石嶺和子は反戦地主であった父から受け継いだ土地の売却を拒否しているが、那覇防衛施設局員や土地連会員から迫られている。
そんな矢先、孫の智子が米兵に襲われてしまうのだが…。

感想:
沖縄の基地問題を地元住民の視点で描いている。
物語を追っていくうちに感じる日米間の不都合な法律、日米地位協定など、理不尽すぎる法に苦しむ地元民の姿が描かれ、苦悩する彼らの姿に寄り添いたくなり、南の島の出来事ではなく、我々の問題だと改めて感じてくる。決して住民の叫び声を受け取るだけではなく、「なぜこのような問題が生じてしまったのか?」という疑問に答えるように、要所に入ってくる日本国憲法、日米間の安全保障条約、日米地位協定の説明があり、根本を見つめ直す事が出来る作りになっている。
社会問題を描く時の難しさに、観客をどのようにして己の問題として捉え、対峙させるかに掛かってくる。当事者側からだけ描くと観劇中は寄り添えるが、問題そのものを時間と共に忘れ去ってしまう事が多々ある。だが抱えている問題を観客の中に深く染み込ませるというのがテーマのようで、地元民の苦悩、政治家からの視点、土地を買収する側からの視点など、異なったキャラクターたちが問題を俯瞰して見せることの重要性を訴えかけ、重くのしかかってくる。
前作(未見)は『傑作!』と評判を呼んだようだが、今作もそのようだ

自分が好む小劇場的な作風ではないが、内藤裕子が今後の追っかけ作家になったのは間違いない。
センの夢見る

センの夢見る

ほろびて/horobite

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2024/02/02 (金) ~ 2024/02/08 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ネタバレ

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ほろびて『センの夢見る』を観劇。

初見の劇団。

あらすじ:
1945年・オーストリア。
ドイツが侵攻寸前のオーストリアの村に暮らすルイズ、アンナ、アビゲイル。
貧しいながらも充実した日々を暮らしている。そんな三人に舞踏会への案内状が届くが、乗り気ではないルイズをよそに、他のふたりは大騒ぎだ。そこに出征予定の友人・ヴィクターが訪ねてきて盛り上がっていくのだが…。
2024年・日本。
小さな家に住む兄妹。生活は困窮しているが、いつか旅行へ行く夢を持っている。
YouTuberのサルタが兄妹の生活模様をネットに上げているが、彼らは気にもせずに喜んでいる。
そんなある日、妹が振り返ると見知らぬ外国人が部屋の中に立っていたのだ。
どうやらふたつの家族の居間が、同じ空間に重なってしまったようだ…。

感想:
チェーホフの『三人姉妹』をモチーフにしているようだ。
オーストリアの三姉妹も日本の兄妹も貧しさは同じで、時代と場所、国籍は違えども、未来を夢想することがふたつの家族の生きる糧になっているようだ。
異なる家族の風景を交互に見ながら「この物語をどのように読み解いて行けば良いのだろうか?」と考えあぐねていると、突然に時代を超えて空間が重なってしまうのだ。
互いに家族は奇妙な共同生活をしながら、兄妹には三姉妹のそばで起きているドイツとの戦争が見え始めてくるのだ。そこにYouTuberのサルタが三姉妹を撮り始めると「これは外国で起きている戦争を我々が自宅のテレビで見ている感覚と同じなのでは?」と思えてしまうのである。
兄妹に見えている戦争は、現在に起きている戦争を我々が見ているのと全く同じだと分かり始めると、物語の終わりが見え始め、恐ろしく座席を立つことすら出来なくなってしまうのだ。
事実を知っている現代人はこれから起こる出来事に目を背けたいのである。
ゆっくりと舞踏会という名目の『レヒニッツの虐殺』が始まっていくのである。
そう三姉妹はユダヤ人だったのだ。
ロープで作った家のセットが一瞬にして牢屋に早変わりしてしまう視覚効果が更なる追い討ちをかけてくるのであったのだ…。
アンネの日

アンネの日

serial number(風琴工房改め)

ザ・スズナリ(東京都)

2024/01/12 (金) ~ 2024/01/21 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ネタバレ

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serial number『アンネの日』を観劇。

 以前は風琴工房という劇団名だったが、改名したようだ。
今作は再演で、代表作である。
 チラシとタイトルから『アンネの日記』の『記』を外しているので、何か企みがあるのではないか?と勘繰っていたが、どうやら全くの勘違いのようだった。
 月経の話だ。男性の理解力の無さ、都度感じる痛みと心の悩み、社会での女性の立ち位置、世界での男女差別まで話を広げていき、『アンネの日』という言葉の由来と意味の説明もしていく。
 8人の登場人物の初潮体験談から始まり、キャラクターを均等に掘り下げ、厚みを持たせてくる。この始まり方に女性観客は頷き、未知な世界への男性観客の誘導は見事で、出だしは上々だ。そこから自然素材を利用した生理用ナプキン・プロジェクトが物語の中心になり、肌に直接触れる故の繊細さ、素材へのこだわり、科学的根拠、商品作りを通して経験者の痛みをひしひしと伝えてくる。成功に導く奮闘記でもあるが、背景だけに留めておき、描かれるのは登場人物たちの初潮から閉経までの生き様だ。そこに性同一性障害を問題提起してくるので、誰もがその問題に背を向けずにはいられない。
 作家の志もそうだが、男女年齢問わず、展開の面白さが最大の魅力だろう。人気作品というのは頷けるのである。
 初演(2017年)の頃と時代が変わってきているので、その都度、背景を踏まえて改訂され、数年おきに再演出来る貴重な作品であるのは間違いない。
パートタイマー・秋子【石川公演中止】

パートタイマー・秋子【石川公演中止】

ニ兎社

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2024/01/12 (金) ~ 2024/02/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ネタバレ

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二兎社『パートタイマー・秋子』を観劇。

 スーパー「フレッシュかねだ」でアルバイトを始めた成城に住むセレブ主婦・秋子。
夫の会社が倒産し、生活費、子供たちの学費の捻出など、家計は火の車だ。
仕事を始めてみると人手は充分足りているようだが、店舗内では何かがおかしい。
バイトたちの商品の横流し、お釣りのちょろまかし、いじめなど様々だ。見かねた秋子は本社から来た店長に直訴しようとするが、周りに止められる。生肉担当のバイトが理由もなく辞めてしまい、秋子にお鉢が回ってくるが、店長から日付の改ざんを求められる。一旦断った秋子だったが…。

 控え室で物語は展開する群像劇だ。
 不正に加担しながらも誰もが会社の為だと思い込み、悪いことではなく、習慣だと割り切っているアルバイトたち。それは日本の企業が起こした様々な不正の過程の様子を丸写しているようだ。それが小さなお店でも起こっている。誰もが秋子の様に「それは間違っている!」と声を上げようとするが、仕方なく周りに順応してしまう怖さすら感じてしまう。自分の身に置き換えて、秋子の取った行動は「しょうがないよね」と思えてしまう瞬間すらある。
 芸達者な役者の演技、笑いと展開の面白さに釘付けにされ、描かれるの深刻な問題と相反していながらも、ゆっくりと問題提起へ誘導していく上手さは今作も抜群だ。更にハンナ・アーレント「悪の陳腐さ」を思い出せば、もう完璧である。
 深刻な社会問題をエンターテイメントの話術に乗せる上手さは、野田秀樹とは全く異なるが、永井愛が一番かも知れない。

傑作である!
#34「闇の将軍」四部作

#34「闇の将軍」四部作

JACROW

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2023/12/08 (金) ~ 2023/12/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ネタバレ

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JACROW『闇の将軍・四部作』を観劇。

初見の劇団。

田中角栄の政治家時代の物語で、今作は三話目の『常闇、世を照らす』。
金脈問題、ロッキード事件などの問題で首相を辞任し、自民党を離党するが、闇将軍として裏の政界に君臨するのであった……。

田中角栄と田中派の面々が登場し、内幕が群像劇として展開されていく。
闇将軍が裏で政治を差配していくのが丁寧に描かれ、フィクションとノンフィクションの狭間を行ったり来たりしながら、時代の当事者になったような錯覚を覚えてしまい、のめり込んでしまう。俳優の演技合戦は手に汗を握り、目が離せない瞬間ばかりだ。ただ観客が期待しているのは魑魅魍魎が跋扈する政治の内幕なのだ。汚く、どす黒く、恐怖すら感じる何かを物語に期待しているのだが、清々しさすらを感じるビジネス、サクセス、ヒーロー物に見えてくる。更に各々が政治家の特徴を捕らえ、雰囲気作りをしているからか「再現ドラマかい?」とも思えてしまう。
その時代の出来事を見たいのではなく、作家がどのように田中角栄の実像を捉えたかを、嘘でも出鱈目でも妄想でも良いので創作して欲しかったのである。
観劇中に転位・21『子供の領分』を思い出したのは、自然の流れであろう…。
萎れた花の弁明

萎れた花の弁明

城山羊の会

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2023/12/08 (金) ~ 2023/12/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ネタバレ

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城山羊の会『萎れた花の弁明』を観劇。

 劇場の階段を上がり、舞台のセットが見えた瞬間、どのように始まるかが分かってしまい、笑ってしまうのである(三鷹で城山羊の会を観た人しか分からない仕掛け)。
 今までと同様にエッチな演劇ではあるが、『性とは?』を話しの筋としつつ、男性の身勝手な論理で進んでいきながら、言葉の行き違い、本音の建前、日本人論など可笑しなキャラクターたちが進めていく物語に、喜びと楽しみを覚え、期待は決して裏切らない。
性について論理的?に語っているからか、男性観客のみが妄想で生じる下半身ムズムズは感ずる事もなく、リアルな物まで見せられてしまうと、『妄想はリアルに敗北!』とまで思えてしまう。気が付くと我々の性はコントロールされ、作家に中毒症状にされてしまうのである。
 第七病棟『ふたりの女』のラストシーンは演劇史上最高の舞台仕掛けと謳ったが、それに劣らず今作も、驚愕、鳥肌、失笑…の終わり方であった。
 それはさておき、この劇団は12本目の観劇だが、明らかに社会背景が如実に表に出てきているのは確かだ。コロナ、原発汚染、少子化、宗教、性の大衆化と世の中の問題を物語の主軸としている点は見逃せない。イギリスから帰国して物語の方向性が一気に変わった野田秀樹の様にはならないと思うが、俄然面白くなってきているのは間違いない。
 次作も大いに期待するのである!
ジャイアンツ

ジャイアンツ

阿佐ヶ谷スパイダース

新宿シアタートップス(東京都)

2023/11/16 (木) ~ 2023/11/30 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ネタバレ

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阿佐ヶ谷スパイダース『ジャイアンツ』を観劇。

 2011年『荒野に立つ』はイギリス留学帰国後からの二作目で、朝日新聞の劇評と私のみが「長塚圭史の大傑作!」と謳ったが、世間ではそれほど評価される事もなく散ってしまったシュールな目玉探偵ものであった。女性が自分の目玉を目玉探偵と一緒に探す旅に出るのだが、話しを散らかすだけ散らかし、脳をフルスロットルに辻褄合わせをしながら観ていながらも、全く回収せずに物語を終えてしまう、演劇手法を根底から覆す作劇に唸ってしまったほどだったが、どうやら今作も目玉探偵の再登場で期待大なのは間違いない。
 今作の老人役の『私』も前作と同じく目玉探偵と一緒に自分の目玉探しの旅に出るのだが、行き先は老人の思い出したくない過去の息子との出来事だが、前作はシュールな風景だったが、今作は老人に起こった現実の風景だ。ただ老人という設定だからか、「老人の見ている風景は確かなのか?、それとも老いからくる記憶違いではないか?」と疑いを持ちながら、旅をなぞっていける面白さがある。主役が『私』なので一人称での展開するかと思いきや、老人の見た事もない息子の記憶の風景まで出現してしまうのだ。息子の風景を老人の記憶と取るか?それとも父と息子の確執の物語か?とさまざまに勘繰ってしまうと、一体全体何の話しだったのか?と迷宮入りしてしまうが、そこに落ち込んでしまうのが今作の正しい観劇法だ。
人間の記憶の粒と思われるドングリを拾って去っていく隣の大島さん、「実は目玉探偵社の大ボス・Mじゃない?」と終わり方も堪らない。

期待を裏切らない阿佐ヶ谷スパイダース、これだからやめられない!
無駄な抵抗

無駄な抵抗

世田谷パブリックシアター

世田谷パブリックシアター(東京都)

2023/11/11 (土) ~ 2023/11/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ネタバレ

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イキウメ『無駄な抵抗』を観劇。

ディオニューソス劇場に見立てた舞台セットを見た瞬間、ギリシャ悲劇の始まりを予感する。
登場人物達は何かに抵抗する人たちである。駅に電車が止まらなくなり、衰退して行く街並みに再度停車駅と懇願する喫茶店の店主、何もしない事をモットーとし、批判を浴びながらも芸を貫く大道芸人など、傍から見れば無駄な抵抗のようだ。芽衣が幼い頃、占い好きの同級生・桜に放たれた「貴女は父親を殺す」という言葉に抗いながら生きてきた人生も然り。
「流れに身を任せて生きる事は果たして良い人生を送れるのだろうか?」とふっと観劇中に感じ、彼らの行動が無駄ではないと思い始めると、『無駄な抵抗』というタイトルの意味が刺さってくる。
魔女の囁きのような桜の言葉に芽衣は長い間付き纏われるが、その囁きに似た体験は誰しも人生の中に一つや二つはあるだろう。
ひとりの人間が犯した罪に芽衣が長年に渡って苦しみ、他の者たちにも多大なる影響を及ぼしていく様は、現実に起こっている事件と重ね合わせて観てしまうのは間違いない。
改めてギリシャ悲劇が普遍的な物語と感じるだろう。
観劇中も後も、頭から離れないほど重厚感のある傑作である。
時に想像しあった人たち

時に想像しあった人たち

排気口

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2023/09/29 (金) ~ 2023/10/09 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★

ネタバレ

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排気口の『時に想像しあった人たち』を観劇。

三鷹市芸術文化センターの期待の若手劇団シリーズ。

かつて人気のあった街並みも今ではシャッター商店街だらけだ。
大学生らがボランティアで「以前のように活気を!」近所の人たちと盛り上げようと試みるのだが…。


想像した物語と乖離してしまう展開にはうんざりしてしまった。
物語が向かう方向は悪くないのだが、それに伴わない笑いとギャグが占めてしまっている。
俳優の熱量もあり、それほどつまらなくないのだが二時間は持たないようだ。
物語の過程で、笑いやギャグを使って一線を外すことはあるが、肝心の物語がおざなりになってしまったようだ。
厳しい時間を過ごしたようだ。
柔らかく搖れる

柔らかく搖れる

ぱぷりか

こまばアゴラ劇場(東京都)

2023/09/20 (水) ~ 2023/10/04 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ネタバレ

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ぱぷりか『柔らかく揺れる』を観劇。

2022年・岸田戯曲賞受賞作品

夫を不慮の事故で亡くした小川家の母を筆頭に、アル中で出戻りの長男、ギャンブル狂いの次女、店を火事で亡くした従妹と娘が一緒に住んでいる。
父親の三回忌に長女が帰省するが、家族らが抱えた問題が露呈していくのであった…。


登場人物たちが抱えている問題(家父長制度、不妊治療、LGBT、中毒)と原因不明の父親の死が微妙な按配になり得ているのが魅力だ。
「人が死ぬような場所ではない浅瀬の川で父親が死んでしまったのは、子供たちが殺したのか?」
サスペンスにはしていないが、常に引き摺られながら、登場人物たちと対峙していき、大黒柱だった父親の影響と田舎の慣習が与える重苦しさと生きづらさを感じてしまう。
登場人物と同じ状況下ではなくとも、我々の弱さや痛みを想起させ、針で刺されているような痛みを終始感じながら観劇していたのは間違いない。
観客も登場人物の苦悩を同化してしまい、観劇中は決して目は背けることをさせてくれない内容であった。
地上の骨

地上の骨

劇団アンパサンド

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2023/09/01 (金) ~ 2023/09/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ネタバレ
絶対に観た方が良い!

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劇団アンパサンド『地上の骨』を観劇。

三鷹市芸術文化センターの期待の若手劇団シリーズだ。

下記のチラシを見て誰もが「観たい!」と思うだろうか?
チラシを参考に、面白い劇団を探していた者としては残念な出来だ。
だが侮れないのは女優・島田桃依が出演しているのだ。
彼女は常に主役ではないが、出演する作品に「ハズレなし」と言うくらいに完成度が高く、歴史に残る作品に出演していて、気がつけばかなりの本数の芝居を観ている。
小劇場界の女王は『内田慈』と思っていたが、隠れ女王は『島田桃依』のようだ。

あらすじ:
小さな会社ながら、皆で互いに助け合いながら、仕事をこなしている。
男性社員の安河内は忙しさのあまり、仕事を掛け持ちをしてしまっているが、料理好きが高じて自分で作った佃煮を皆に振舞っている。
だがそれがきっかけでどんでもない事が起こってしまうのである…。

感想:
初見の劇団で、チラシには覇気が感じられず、全く期待値ゼロだったが、三鷹市の期待の若手劇団シリーズなので観に行ったのが観劇の理由だ。
始まってみると社員の会社への不満ばかりの不毛な会話のばかりで進んでいくが、内容にリアリティーがないせいか、妙に引き込まれてしまう。戯曲と俳優の達者な演技の相乗効果が現れている瞬間なのだろうか?面白くてしょうがないのである。
だがそんな喜びも束の間、誰がこんな展開を想像しただろうか?
あの覇気のないチラシから想像がつかないくらいの怒涛の展開になっていくのである。
戯曲、俳優、演出が三位一体で、完璧は出来と言うくらいに面白い展開になっていくのである。
決して誰も想像出来なかっただろう話の流れに大笑いしかないくらい面白いのである。
『野田秀樹』も『イキウメ』も『チョコレートケーキ』も面白かったけど、今作の面白さは誰かに伝えたくてムズムズしてくる。
今年一番のお勧めの劇団であり、これこそが小劇場の自由な発想の面白さである。

今後の追っかけ劇団に決定!
我ら宇宙の塵

我ら宇宙の塵

EPOCH MAN〈エポックマン〉

新宿シアタートップス(東京都)

2023/08/02 (水) ~ 2023/08/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ネタバレ

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EPOCH MAN『我ら宇宙の塵』を観劇。

昨年の岸田戯曲賞のノミネート劇団。

あらすじ:
早くに夫を失った宇佐美陽子と息子の星太郎。
父親は何処に行ったのかを星太郎が母に尋ねると「死んだ人間は星になる」と嘘をついてしまう。星太郎は父親譲りで星が大好きなのだ。
星太郎は行方不明になり、母親は周りの人たちに巻き込まれ息子を探す旅に出るのだった…。

感想:
出だしからびっくりするのような映像舞台美術に度肝を抜かれ「今作は間違いなく面白くなる!」と確信を持てる始まり方だ。
息子が行方不明になってしまい、苦悩する母親の姿は重く伸し掛かかってくるが、
宇宙について語られたオープニング、母親の悲しみ、星太郎の父親探しがどのように繋がっていくのか疑問を呈してしまうが、陽子が息子を探し始めると一気に加速し始め、疑問なんかどうでもよくなってしまったのだ。出会った人たちと向かう旅はロードムービー風ではなく、桃太郎が鬼退治に行くという勢いだ。「この手の展開は80年代演劇シーンであったなぁ〜」と面白がりながらも、どのようにして終着点に向かうのだろう?と不安を感じたのは確かだ。
二度ほど思考を止められたが、「死んだら人間は何処に行くのか?」という誰もが感じている疑問と今作のテーマが一致すれば納得出来る物語と感じられるであろう。

次作も観てみようと思える劇団であった。
ブラウン管より愛をこめて-宇宙人と異邦人-(7/29、30 愛知公演)

ブラウン管より愛をこめて-宇宙人と異邦人-(7/29、30 愛知公演)

劇団チョコレートケーキ

シアタートラム(東京都)

2023/06/29 (木) ~ 2023/07/16 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

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劇団チョコレートケーキ
『ブラウン管より愛をこめて〜宇宙人と異邦人』を観劇。

あらすじ:
ワンダーマンという特撮番組を作っている面々の話。
宇宙人や怪獣などが登場する子供向けSF番組で、以前に人気のあったヒーロー番組のパクリだが、スタッフ達は頑張っている。
だが次作は予算がなく、トレンディドラマを干された脚本家の抜擢で何とか凌ぎを削ろうとするが、果たしてどうなっていくのか…。

感想:
過去の歴史的な人物と史実を交えて、丁寧な物語作りと反骨精神を持ちつつ、一級作品を毎作事に作り続けている劇団で、「今作は特撮スタッフの熱い物語だよね?」と勘繰っていたが、どうやら違っていたようだ。
窮地に追い込まれたスタッフが難所を乗り切る姿にハラハラ、ドキドキしつつも、『差別』というテーマがずっしりと食い込んでくる。
「テーマを物語に入れるべきか?」とスタッフは葛藤するが、実のところ「差別」に対して人それぞれ差異がない事に気付かされ、登場人物と観客が一緒に寄り添いながら観れたら面白さを堪能出来るのは間違いない。だが『差別』を内容に取り込んでみたものの、テレビ局が大きな圧力をかけてくる。
放送中止か?
スタッフ解雇か?
スタッフが出した結論に「貴方だったらどうする?」と問われているようだ。
扱いづらいテーマだが、決してテーマ主義にならず、娯楽作として成り立たせてしまうのが、戯曲と演出の成せる技だろう。
見応えのある作品である事は保証する。
兎、波を走る

兎、波を走る

NODA・MAP

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2023/06/17 (土) ~ 2023/07/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

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野田MAP『兎、波を走る』を観劇。

新作である。

あらすじ:
不思議の国に迷い込んだアリスを探しに時代を彷徨うアリスの母親。そこに白兎が旅を共にしするが、迷い込んだ世界は現実と妄想が入り組んだ場所だったのだ。
果たしてアリスを探す事が出来るのだろうか?

感想:
アリスと母親と白兎。この三人は一体誰なのだ?という疑問を抱き続ける事が、テーマへと繋がっていく。『夢の遊眠社』が復活したのか?というぐらいに時代と場所と歴史上の人物が急展開に飛び周り、追いかけていくのがやっとだと思っていると『妄想』という言葉が追い討ちをかけてくる。
「そうかぁ〜、全てが伏線だったのか」と思ってしまうが、それが落とし穴になってしまうのが野田秀樹の戯曲だ。観劇後に「あれとこれはどういう関係だったの?」観客同士で述べ合う声は多々聞こえたが、伏線と捉えてしまうと大事なものを見過ごしてしまうのだ。
急展開する作品を「ジェットコースターに乗っている気分だ」と例える事もあるが、これほどの乗り物は過去にあっただろうか?というぐらいにアリス、母親、白兎の道行きには驚かされる。
社会に対する怒りは毎作品に感じ取れるが、その先には一体何があるのだろうか?
答えを少しだけ垣間見えてきたが、「今までにはないラストには驚愕だ!」
野田秀樹の新作はあと何本観れるのだろうか?という不安もあるが、
「こんな傑作を観ないのは勿体無い」
点滅する女

点滅する女

ピンク・リバティ

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2023/06/14 (水) ~ 2023/06/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ネタバレ

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ピンク・リバティ『点滅する女』を観劇。

初見の劇団である。

あらすじ:
父親の快気祝いに集まった家族と会社の仲間たち。
家族経営の小さい工務店だからか、皆が和気藹々だ。
そこに5年前に水死した長女に取り憑かれたと謎の女性が現れ、家族の秘密を暴いて行くのであった…。

感想:
謎の人物が家族の秘密を暴いて行き、路頭に迷わせるという不自然な設定ながらも、長女を失った各々の悲しみが垣間見え始めて、不自然な始まりが自然になっていく展開にはすんなり入れる。
興味は「秘密を暴く理由は何なのだ?」だが、それはあくまでもきっかけに過ぎず、家族の再生の物語なのだというのが分かれば、不自然な出だしも違和感がなくなっていく。
壊れた人間関係の再生方法はそれぞれだが、「今作で探し当てることが出来るかも?」というきっかけを与えてくれたようだ。
風景

風景

劇団普通

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2023/06/02 (金) ~ 2023/06/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ネタバレ

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劇団普通の『風景』を観劇。

あらすじ:
茨城県のとある場所でお通夜の後、通夜振る舞いに集まっている親戚一同。久しぶりの再会ながら、跡取り問題、近況など話している内に、互いの家族間の在り方が少しづつ見えて始めてくるのだが….。

感想:
葬式を舞台にした映画や演劇は沢山あり、描かれる家族、親戚関係のもやもやをおもしろおかしく描いている作品は多数だが、今作もその辺りに行き着いている。ただ誰もが本音を漏らさず、同じ様な内容の会話が淡々と続いているからか、触れたくない、聞きたくない、見たくない物がちらほらと感じ取れてしまう生々しさがある。
結婚、出産、子育て、親の世話、跡取りと世代によって立場は違えども、観劇中にぞっとしてしまうのは間違いない。直接的に描いてないだけ余計に目を背けたくなってしまう。
その先に行き着くのは何なのだろうか?
暗示的な答えを出しているラストは見逃せない。

毎作後、ひんやりとした気分で劇場を後にさせてくれる劇団なのである。
独り芝居『月夜のファウスト』/前芝居『阿呆劇・注文の多い地下室』

独り芝居『月夜のファウスト』/前芝居『阿呆劇・注文の多い地下室』

フライングシアター自由劇場

音楽実験室 新世界(東京都)

2023/05/13 (土) ~ 2023/05/21 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ネタバレ

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『独り芝居・月夜のファウスト』を観劇。

貴方は知っているだろうか?
1970年代に六本木の地下劇場から、あの歴史的傑作劇『上海バンスキング』生まれた事を?
20代の頃、アンダーグランド・シアター自由劇場の名前は知ってはいたが訪れた事はなかった。
だが未だに存在していて、串田和美の独り芝居が行われたのだ。
既に数年前に観劇して、感想は述べているのでここでは省くが、
前芝居として『阿保劇・注文の多い地下室』も観ることが出来るが、
それを観た瞬間に観客の全員はあっと驚くのだ。
『串田和美は郷愁を求めてこの劇場に戻ってきたのではないのだと!』
見事なまでの阿保劇であったのだ。
綿子はもつれる

綿子はもつれる

劇団た組

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2023/05/17 (水) ~ 2023/05/28 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ネタバレ

ネタバレBOX

劇団た組『綿子はもつれる』を観劇。

あらすじ:
再婚の綿子と悟の夫婦関係はぎくしゃくしていて、ちょっとした会話すら成り立たないくらいだ。悟の連れ子は高校生で母親に懐いてはいるが、興味あることは好きな女子のことばかりだ。
冷え切った夫婦関係はどうなっていくのだろう?

感想:
どのようにしたら妻・綿子と出会った頃の様な淡い関係に戻れるのだろうか?と悟は綿子と話し合うが、出口が見える可能性はゼロだ。
男と女が根本的に混じり合えない箇所が会話から少しづつ抉り出され、違和感を感じ、失笑してしまうが、これこそが妻もしくは女性と話している会話の中身ではないか?と捉えられていく。並行して女性を知らない悟の連れ子が、恋愛感情の芽生えから発展していく展開にうっとりと甘い感情を抱きつつも、直ぐに綿子と悟の現実の嫌な部分に戻されてしまう。もし観客自身が同じ様な悩みを抱えていたら、かなりの振り幅を感じられる作劇になっている。
『綿子はもつれる』というタイトルが示すように、もつれる先には初めと終わりがあり、もつれ初めは悟の連れ子と女子の関係、もつれている最中は綿子と悟。
そしてそのもつれた先には何があるのだろうか?
「それは各々の夫婦関係の終わりにあるものですよ!」と劇作家は言っているのであろう。

傑作である。
人魂を届けに

人魂を届けに

イキウメ

シアタートラム(東京都)

2023/05/16 (火) ~ 2023/06/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

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イキウメ『人魂を届けに』を観劇。

あらすじ:
絞首刑となった政治犯。首を吊るされた直後、臓器の様な謎の物体が身体の中から落ちてくる。そこから囁くような声が夜な夜なしてくるので、偉い人は捨ててこいと言う。
刑務官・八雲は物体を持って深い森に住む母親に届けにいくが、そこは傷ついた者たちの集まる場所でもあったのだ…。

感想:
今作はイキウメらしからぬ展開であった。何かしらの仮説を立てて、まるで実在するかの様な物語を作り出し、騙されてしまう面白さがあるのがイキウメだが、今作は一気に作風を変えてきた。だがよくよく考えてみると屍人の臓器が人魂となって蘇ってくるという話しは現実味ではないにしても、ありえなくもないな?と勘繰ってしまうほどだ。
だが政治犯の人魂に込められた意味は何なのだろうか?と考えあぐねていると、死刑廃止制度への意味も込められている意図を感じつつも、思考を一瞬でも止めてしまうと置いてきぼりを食らってしまう。難解なテーマではないが、日頃からそれについて考えを巡らせていないと追いつくのがやっとだ。
見事なまでに今作に乗り遅れてしまったのは間違いないようだ。
桜姫東文章

桜姫東文章

木ノ下歌舞伎

あうるすぽっと(東京都)

2023/02/02 (木) ~ 2023/02/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ネタバレ

ネタバレBOX

木ノ下歌舞伎の『桜姫東文章』を観劇。

解説:
私にとっての最高な劇団と苦手な劇団が組んでしまうというのが今作の難問だ。
木ノ下歌舞伎は、歌舞伎の長い演目でも決して端折らず、4時間超えの長いものは長いままで上演するが、音楽、衣装、演出などは毎回様々に変えていきながら、歌舞伎特有の退屈さを払拭するかのように傑作率90%の出来高だ。そこに参戦してくるのが『チェルフィッチュ』である。
『マームとジプシー』『ままごと』と同世代で、岸田戯曲賞を取り、海外では人気の劇団で、寺山修司や唐十郎などを簡単に超えてしまっている前衛劇団だ。ただ何度も観ても全く受け付けず、観るのを止めてしまったのだ。
監修・補綴:木ノ下祐一
脚本・演出:岡田利規

あらすじ:
高僧・清玄は稚児・白菊丸と心中を試みるが失敗。17年後、出家を望む桜姫が現れ、彼女こそ白菊丸の生まれ変わりだと確信するが、彼女は清玄には興味すら覚えず殺してしまう。
変転の末、女郎になった桜姫に清玄の幽霊が現れてくるのであった…。

感想:
歌舞伎は時代の世相を反映させながら、因果応報という決して逃れられない人間の性を描くことで観客を魅了し、息を呑むのだ。
清玄と桜姫の恋愛感情が巻き起こすドラマが始まる序盤から一気にトーンダウンしていく。えげつない人間模様に観客には感情すら持たせない、起こっている変化をただ見つめるだけになっているが、鶴屋南北の戯曲を過剰に解釈せず、そのまま読み解くとそのような作りになるのかもしれないが、チェルフィッチュの作品作りは何時もこうなのだ。だからか批評をしようなんて無理なのである。
木ノ下歌舞伎を初見の方には不安、ファンには衝撃的であった。

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