unicornが投票した舞台芸術アワード!

2017年度 1-10位と総評
粛々と運針

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粛々と運針

iaku

90分。
一(尾方宣久)…築野家長男。実家で母と二人暮らし。高卒後同じコンビニでバイトの高齢フリーター。膵臓癌の母の治療を望んでいる。
紘(近藤フク)…一の弟。既婚。家を出て久しくあまり帰省していない。子供を作る気はない。
沙都子(伊藤えりこ)…應介の妻。仕事はやめたくない。應介と二人で贅沢して、思い描いた人生を送りたいと、出産に対して否定的。
應介(市原文太郎)…沙都子の夫。沙都子の妊娠疑いに動揺し、出産の可能性を考える。仕事が好きでもなく、主夫でもよいと考えている。
結(佐藤幸子)…一らの母。
糸(橋爪未萌里)…沙都子が身ごもった子。

築野家の会話と田熊家の会話と結と糸の会話を順繰りに展開し、中盤から築野と田熊の4人での議論に突入し、母の生死と身ごもった子の生死と自分らの人生について想いがぶつかり合う。

いつもより笑い控えめな印象。
すでに死を覚悟した結は終始穏やかで、息子二人が見舞いにきたことがうれしいと微笑む。一方の糸は、夫婦喧嘩にも似た自分の命についてやりあう両親を見て涙目になってどうしようとうろたえる。議論の当事者であるけど、議論には参加せず(できず)って人間を配置し、そこのリアクションも客に見せることで作品に奥行きができてた。二人が序盤で話してた桜の木でいえば、二人は桜の木そのもので、当事者の意見とは別に進行する話の残酷さみたいなもの(命を奪う側の主張との落差)に、唸った。

一方で、沙都子の子を産みたくない理由も、理解できるなと感じてしまった。命を軽く扱っているワケではないけど、自分の人生というのもまたかけがえのないものだから。命とか人生とか、重いもの背負いたくないけど背負わざるを得ない、そんな一般人の叫びみたいなセリフにしびれた。
一の飄々とした雰囲気と、リアリストな紘の会話もユーモアとリアルさが混じって聴きごたえあった。ラスト、母の彼氏?の金沢さんから母が危険だと知らされ、「泣いてないぜ」という一の背中に、辛辣な作品の根底にやさしさのようなものが流れているようでコレもグッときた。いい〆だった。

沙都子と糸の髪型が同じだった?のも上手いなと思う。

15 Minutes Made Anniversary

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15 Minutes Made Anniversary

Mrs.fictions

休憩AT込み155分。
フランダースの負け犬(柿喰う客)
ドイツの若き将校ヒュンケル(深谷由梨香)は有能な指揮官として前線に立つが、上官(七味まゆ味)の判断ミスで舞台は窮地に陥る。上官らはヒュンケルの部下でおバカなバラック(葉丸あすか)にミスを擦り付けるようヒュンケルを追い詰めるが、ヒュンケルはバラックを殺せず暗殺され罪を擦り付けられる…。
面白い。しょっぱなでダークな雰囲気と熱くこみあげてくる感を充満させてた。

ハルマチスミレ(吉祥寺シアター演劇部)
全日制の高校生と定時制の高校生との恋とかいろいろ。
声がやや聞き取りにくいとかあるけどカラーは出てたかな。

BBW(梅棒)
ケーキ屋に恋したデブい女の恋を応援団員らが応援して、ダイエットのため天使と悪魔が戦い、ライザップして痩せ女になって告白しようとするも、ケーキ屋のそばには女がいて、結局リバウンドして、けどやっぱりもう一度痩せて告白するという話。
ノリを作り出すのうまいかと。エンタメしてて盛り上がった。ラストのケーキ屋の女にケーキをぶつける演出からのダンスとかいいし、悪魔と天使(とデブ女)の戦いとか魅せ方うまい。

ラスト・フィフティーン・ミニッツ(キャラメルボックス)
三歳の子・雪を両親に預け旅行にでた夫婦が、雪宛にビデオレターをとっている。実は宇宙旅行で宇宙船が隕石のせいで故障しもう地球に戻れない状況になっていて、ふたりは二人の馴れ初めを語り、将来雪が理解してくれることを願い、最期の15分間で想いを伝える…。
笑いとドタバタした展開から、ジンとさせる手法はキャラメルボックスらしい。不思議だけど、二人の馴れ初めあたりのウォーミングさはどこからくるのか。二人は死ぬけど、その気持ちは地球の娘に届いているといいなと思わせるチカラがある舞台だった。

想いをひとつに(地蔵中毒)
原宿にきた日体大の女子大生三人は上半身やくみつるの三人や暴力的なガンジーらに出会い、おっぱいに爆弾入りジェンガを置かれてしまったり、原宿を川崎にされそになる。みんなは想いを一つにしようとするが、結局爆弾は爆発し、原宿は地図から消えてしまう…。
むちゃくちゃな展開や設定だけど魅力のある作品。けど15分以上見るのはちょっと怖いかも。

私があなたを好きなのは、生きてることが理由じゃないし(Mrs.fictions)
久太郎(岡野康弘)…死亡し自由になった。優子に自分のことを忘れてと願うが。
優子(徳橋みのり)…久太郎の彼女。久太郎死後も、ずっとそばにいた。徹子の部屋にも出演した。
父(岡本篤)、母(森谷ふみ)、優子に見守られ死んだ久太郎に対して、少しずつ忘れよとする父母だが、優子はずっとそばにいて、生きている時もそんなしゃべんなかったからと今後も寄り添っていく…。
笑いそこそこ。メタ作品なとこもあるけど、根底は人を思う気持ちとかそんな感じ。人が死ぬ作品だけど、決して沈痛な感じにならず温かみを帯びたまま終幕するとこがいいとこかな。イマドキかどうかは不明だけど、静かで力強い愛情の示し方。

カーテンコールの深谷がチラシ衣装で登壇し、ハイテンションで奇声をあげ、アニバーサリーを祝ってた。

これは中型の犬ですか?

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これは中型の犬ですか?

あひるなんちゃら

面白い。80分。
イヌイ(田代尚子)…犬を見たことないOL。
ネコタ(石澤美和)…イヌイの同僚。マユコのために犬の真似をしてあげる。夢はダイエット。
イヌイ兄(根津茂尚)…子供じみたニート。犬を飼うことに反対。ザリを大量に飼う。
イヌイ兄の妻(篠本美帆)…イヌイ兄同様、子供じみたニート。猫派。
イヌイ妹(松本みゆき)…良識的なひと。先見の明もある。
タカギ(園田裕樹)…イヌイの会社の係長。クイズにニアピンし課長になる。
カワマタ(澤唯)…イヌイの会社の課長。タカギとのクイズ勝負に負け係長となる。
マチダ(世界野雄一)…イヌイの会社員。ドッグトリマーだかになるのが夢で、退職した。
マキ(福崎望)…イヌイの友人。ズレた人。イヌイと野良犬探しに出て噛まれた。
キミコ(松木美路子)…イヌイの友人。良識ある人。
レフア(三瓶大介)…イヌイの友人。かまバー勤務。
アキヤマ(宮本奈津美)…イヌイの会社の部長。社長への説明資料は、漫画、絵本、紙芝居だけど、わかりやすいと好評。
ワニブチ(渡辺裕也)…イヌイの会社社長。娘を溺愛している。
ワニブチ娘(野村梨々子)…演劇やってる大学生。将来は社長の座が約束されているが、頭もよく弁もたつ。

犬を見たことない(意識したことない)イヌイが、犬を飼おうとする話。
イヌイのあっけらかんとした笑顔が終始魅力的で、アホな設定とかみ合ってた。ラストのテーブルで犬の真似して「これが中型の犬です」と〆る際の表情もよい。
イヌイ兄のイエーイの幸福に満ち満ちた表情が最高。けど、きっとちょっとしたら帰ってくるんだろうなと思わせるダメっぷりもよい。
タカギ、カワマタ、アキヤマ、ワニブチのネタも面白かった。アキヤマの抜けた声質とみょうちくりんなキャラがあってる。アキヤマのイス蹴とばしの2回目は急きょの演出かな。1回目の暗転する中指さすタカギが、いい仕事してる。

いい舞台だった。

バージン・ブルース

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バージン・ブルース

うさぎストライプ

二回目。
娘の結婚式当日に死んだ、乳のある父の葬儀で、幸せになると宣言する娘。悲しさのような中に、しっかり幸福が織り込まれてるとこがいい作品なんだと思う。

たとえば君がそれを愛と呼べば、僕はまたひとつ罪を犯す

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たとえば君がそれを愛と呼べば、僕はまたひとつ罪を犯す

シベリア少女鉄道

110分。
高校教師の彼氏・雄一(加藤雅人)からのプロポーズを得られないまま、彼氏と離れ離れになり、姉・可奈恵(濱野ゆき子)の治療費のこともあり、社長の澤井(浅見紘至)と結婚したが、束縛屋の澤井との生活に疲れを見せる美奈子(篠塚茜)は、雄一との再会を機に、自由を得ようとするが…。
というやや重めなラブストーリーをベースに進むが、中盤からは、きっかけをトリガーにしたコメディへと変化する。
電話のコールで海浜公園へ走りだす美奈子とか、きっとという言葉でいちいち倒れる可奈恵とか、愛って言葉を聞いて罪を犯すと決心する面々とか、シーン関係なくキッカケに反応する演者と、気まずそうな表情の役者陣に大いに笑った。
妹・優奈(小関えりか)の「金」にいちいち反応してビンタかますのとか、「面白い」に反応して書類を破り捨てる自殺した高校生・明良(川井檸檬)とか、「写真」に笑顔で反応する西宮一家とか、「どちら様」で名刺を出す記者・北野(佐々木ゆき)、「手帳を閉じると」男女の雰囲気を出す澤井とか、「抱かれる」と色っぽくせき込む可奈恵とか、あげたらキリないくらい、怒涛のラッシュだった。

ラスト、キッカケに縛られた面々がゾンビのようになり、雄一が指輪を渡そうとするもうまくいかず、けどあれよあれよと美奈子の手に渡り、強引に「結婚しよう」で終幕するというパワフルな〆も最高。

久々にシベリア少女鉄道見たけど、やっぱり面白かった。

フィクション・モテギモテオ

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フィクション・モテギモテオ

ライオン・パーマ

120分。
モテない男に疑似恋愛という夢を見せる「モテギモテオワールド」の支配人・モテギモテオ。で疑似恋愛にはまった男が現実に戻ってこれなくり、そのかたき討ちに行った新入社員は返り討ちにあい、モテギモテオ被害者の会の企みは、モテギモテオに一つずつ潰される。おまけにモテギモテオの従業員の女どもは、こぞってモテオに恋し、モテオはそれを颯爽と躱す…。
という話が終盤で、モテオの疑似恋愛だと分かり、まだ疑似を味わっていたいというモテオは延長を申し入れ、女をハベらし車を加速させる…。

いつもの入り組んだ内容よりさっぱりとした構成で、シンプルに楽しめる。ハードボイルドも味わえ、ギャグも堪能でき、満足度は高い。「RGJ」のトコはとてもウケた。
モテオを演じた橋本一郎の演技が安定してたというのもあるけど、全体的に演技は上々な印象。

モテオのラストの疑似にハマっている感も、若干のブラックさを感じさせるいい終わり方と思う。あと、モテオの秘書的な石川幸代が美人と思った。

こことは

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こことは

ぱぷりか

面白い。75分。
勝浩(用松亮)…高校教師。美希子とは同居するも疎遠。美希子のことは妹として、教え子の若菜と付き合っている。
若菜(板橋優里)…高校三年。実母がダメ女で金を無心され、祖父母に養ってもらっているという、色々抱えた女子高生。勝浩にダマされていたと知り失踪。生死不明。
美希子(Q本かよ)…勝浩の妻。不倫したことを契機に勝浩に愛想つかされるも、復縁を夢見ている。若菜の前に姿を現し若菜の心を打ち砕いた。
小谷(池内風)…高校教師。実直で若菜らからはキモち悪がられ、勝浩からはめんどくさいといわれる。
真子(岡本唯)…若菜や弥ゑの友人。
弥ゑ(岡奈穂子)…若菜や真子の友人。若菜のことを気遣うが、若菜の最期の電話を取らなかったことを後悔する。
節子(坊薗初菜)…高校教師。口紅がいつもはみ出している。勝浩と若菜の噂話を聞き、勝浩にクギをさし、若菜に気を付けろと忠告する。

70分という短い時間で奥行を感じさせる舞台に仕上がってた。それぞれが抱えている心のささくれ立ったような感じとか、ピリっとしたとことかね。コメディなキャラの小谷も、見方によっては苦労人で抱えている人だし、節子もなぜか青タンこしらえているし。そんな中にあって、用松とQ本の仮面夫婦の距離感がうまいなと思う。
完全に愛想つかされているのに勝浩のもとを離れず、やりたいと告白するとことか、好きにさせてもらったと不倫現場にアタックするとことか、儚げな空気を湛えてるように見えるくせに、美希子のメンタルの強度は並みじゃないなと。後日談的なとこで子供の話をしてた勝浩だけど、美希子との子だろうなと、素直に思った。

あの人&あの人

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あの人&あの人

五反田団

100分。
ロミオ(前田司郎)とジュリエット(上田遥)の話。面白い。笑った。

ツボを得たセリフやタイミングや動きが、逐一ユーモア溢れ、ゆるめな空気が心をほぐしてくれるよう。
終盤やや間延びした感があったけど、いいエンタメ舞台だった。
ジュリエットの兄(野口卓麿)の、真人間ぽさとコメディさのバランスが抜群によかった。キャラ的に好感。ジュリエットの乳母(神崎れな)は、中でも一番まっとうキャラだけど、空気を損なわずナチュラルに馴染んでた。メガネ姿もかわいい。

シンクロ・ゴッサム・シティ

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シンクロ・ゴッサム・シティ

シンクロ少女

110分。
貧乏だけど正しく生きようとしている横手慎太郎と弟・小日向星一。堂本佳世と西田麻耶、しまおみほの三姉妹の車に轢かれた後遺症で右足不随になるも姉妹からの補償も受けられず、小日向の「永遠の友」中田麦平が起こした傷害沙汰の賠償を迫られ、絶望する。横手は次女を轢いたり当たり屋として悪事を働き歪み、あげく小日向の片思い相手で元彼女の宮本奈津美をひき殺し、成長した弟・泉政宏をさらなる絶望へと突き落とす…。

正義が生きにくい街ゴッサムシティで正義を貫く弟が苦しむサマはみてて気持ちのいいものではないが、面白い。ラスト、貧乏でも正しく生きてたにいちゃんが好きだったと言う弟に対して、お前の心を離すまいと宮本の(壊れた?)トレードマークを放り投げる、兄のゆがんだ愛情が不気味でよい。今後の弟の生き方を考えるとなおさらおどろおどろしくて。

兄、弟をそれぞれ、横手と用松亮、小日向と泉が過去と未来を演じる構成でちょいひねりが利いてる。過去と未来を同シーンで見せる花火のとことか。
孤児で小学校卒の宮本が、堂本ら三姉妹の人の道徳よりカネを重んじる話し合いをしている様子を見つめる表情が好き。自身もコンビニではカネを払わない主義という道徳心なんてない人間だけど、人の心的なものは人一番持っているようなやさしさが宿っているように見えて。

NAGISA  巨乳ハンター/あたらしい「Lady」

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NAGISA 巨乳ハンター/あたらしい「Lady」

サムゴーギャットモンテイプ

100分。
あたらしい「lady」
日本で働く外国人の会話劇。恋して破れてって話。日本語でもいいとは思う。

NAGISA巨乳ハンター
ヤクザもカタギも巨乳であることが権力という呉の町。組長らに彼氏を殺された田中渚(Aカップ)がHカップと偽って組長らに近づき、復讐を果たす…。
ウケた。いろいろコメディな工夫があって飽きなかった。田中渚のピアノとか、暗殺とか奥部分を使った演出とか。何気に高橋紗綾はコメディ感覚うまい気がする。塚田詩織というAV女優のマジ巨乳はすごかった。

席が狭いのは勘弁。

総評

粛々と運針、 バージン・ブルース 、これは中型の犬ですか?は、系統違えども、変化球なとこもありつつ、ストレートな面白さが感じられる快作。
たとえば君がそれを愛と呼べば、僕はまたひとつ罪を犯すは今季一番笑った作品かな。
15 Minutes Made Anniversary はめでたいしクオリティ高いしでハッピーな舞台だった。
こことは は、中でもまっとうな作品だけど、芯のある気がしたのでランクイン。

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