落 雅季子の観てきた!クチコミ一覧

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江戸系 諏訪御寮

江戸系 諏訪御寮

あやめ十八番

小劇場 楽園(東京都)

2014/03/12 (水) ~ 2014/03/16 (日)公演終了

満足度★★★★

騙りのための語り!
とにかく堀越涼の語りが巧くて惚れる。堀越によるオープニングの怪談を聴いているとき、彼は笑顔なのに鬼の面をかぶっているような得体の知れなさを醸していた。芝居の始まりは、劇団主宰の挨拶という体で、そこから生演奏&歌(歌謡曲)、台詞で、現実と物語の境界が溶けていく。

舞台美術の陰陽の模様が、浮き上がることもなく衣装、俳優たちと溶け込んでいた。この劇場には、真ん中に大きな柱が一本あるのだが、その柱をうまくつかって陰から顔を出すことにより、不穏な空気を盛り上げていく演出はさりげなくて見事。

作品の後味の悪さというか、不気味さは最後まで残って、ぞっとさせる。こんなおぞましく美しい語りは堀越だけのものだと思うし、彼を観ていると「語り」が「騙り」として人々を虚構の世界にいざなうものであることを、しみじみと感じる。前作『淡仙女』での、神への生け贄の花嫁と、都会のストリッパーとを重ねる描写はとても魅力的で、堀越の美学(演劇、女性、すべての虚構への)がびしびし伝わってきた。これからも、あのような意外性のある人間像と、聖俗の融解する境目を見せてくれるような団体であってほしい。

ネタバレBOX

脳溢血で倒れた祖母をデイホームに連れていった時、美斉津恵友演じる孫だけが「お化粧してくればよかった」という祖母の言葉をすくいあげて聞き取ってあげる細やかな描写に思わず涙した。同様に堀越は、記憶を失った居候の少女、巫女としての能力に目覚めてはいないがポテンシャルは絶大な末娘など、女性のか弱さ、たおやかさを表現する設定、筆力では確かなものを持っている。しかし、そのために女性観、特に結婚観が少し古いのは否めない。

伝統的な日本の「田舎」が舞台だからしかたないのだが、優しく孫を見守る、謎めいた言動で男を振り回す、だめな亭主をどやす、という女性キャラクターたちの描き方が類型的であるという弱さがある。「幻想」は「物語」と紙一重のところにあるので、用心しなければならない。もちろん、それだけでは済まないのが堀越流で、中心人物である「御寮さま」たる金子侑加が、真の「ラスボス」だった場面はとても非情な描写で、胸が締め付けられた。(そして彼女が着物で軽やかに光GENJIの『ガラスの十代』を踊る姿はとっても可愛らしかった!) 
ツレがウヨになりまして

ツレがウヨになりまして

笑の内閣

KAIKA(京都府)

2014/02/28 (金) ~ 2014/03/04 (火)公演終了

満足度★★★

傷つけないために足りないもの
全体をとおして作、演出の高間響のスマートさがよくわかる脚本だった。前説もおもしろかったし、アフタートークの進行もきっちりしていた。韓流ネタのみでよく引っ張るな、という執念をも感じた。物語の骨格や俳優たちの佇まいには、国内ツアーを回って出来た強さもある。

ただ、この作品自体は「教育的」であって「啓蒙的」ではない。「ネトウヨ」の生態をお勉強する感じで、そこから発展はしない。箱の中のものを観ている感じ。笑いが一番大切、というように高間さんは応募書類に書かれているが、笑いに変える時にも、それが「軽蔑」を含むものである時には慎重にならなければならない。本作では、ネット右翼の極端な思想が、誰かを傷つけている可能性への配慮が汲み取れない。

笑の内閣、というユニットの名前どおり、世相を笑い飛ばすのがこの団体の強みで、風営法や青少年保護法をテーマにしてきたこれまででは通用したことかもしれないが、韓国人、朝鮮人という明確な「人」としての攻撃対象がある嫌韓流の台詞は、この作風で扱うにはきつすぎるモチーフのように思った。在日コリアンの人がこれを観て同じように笑えるか、と考えてしまった時に、私の答えはノーである。そして、その繊細さに対して「あなた方を傷つけるために作った作品ではないのです。」という余地を示すことも出来ていないのが残念であった。

ネタバレBOX

あおい役の鈴木ちひろがかわいいし、歌がへたすぎないのがチャーミング。デートDVDを発売するだけある。彼女たちが歌う歌の選曲もよかった(イミテーション・ゴールド、愛が生まれた日、さくらんぼ等等)。盛り上がる。若い同年代の俳優が、あおいの父親という無理な設定も突っ切る腕力と切れ味がある。蒼甫役の清水航平の目のイっちゃってる感じといい、金村役の由良真介の誠実さといい、萌えた。
アクアリウム

アクアリウム

DULL-COLORED POP

シアター風姿花伝(東京都)

2013/12/05 (木) ~ 2013/12/31 (火)公演終了

満足度★★★

説得力の粗さ
遅くなったけど、やはり書かなければと思いました。

中林舞が怖くて良かった。芸達者だとつくづく感じたのは一色洋平。演出による瞬間ごとの濃淡はあっても、この俳優が観られて良かったな、という満足感はあった。

ただ、やっぱり脚本における観念的な台詞や、モノローグが気になる。特に最後の、お魚にえさをやるところなど。言いたいことが浮いてしまうというか、どうしても、谷賢一自身が語っているのが透けてしまう。1982年から一年遅れて生まれ、キレる14歳、17歳と常に一歳違いで青春を送ってきた私は、彼らの「あの」呪縛をいつも近くで観察してきた。1982年生まれの作家が、サカキバラ問題とどう距離を取るかは、彼らの自意識との付合い方に等しい。そういう意味でとても「熱い作品だなあ」と思ったし、ああいう内面からの暴力性が沸騰する感じは私にはないので(女だから?とは一概に言いたくないけど、でも無関係じゃない)「これを抱えている人は大変ね」とも思った。その感情をさらっていくような説得力と勢いを持つためには、登場人物のキャラや設定、モチーフの噛合せが粗いのです。

ネタバレBOX

警官二人の勢いのある口上や、わにや小鳥の擬人化など、まんがっぽさにリアリティを持たせることは、演劇だからできると思う。でも、アパートの住人たちのナチュラルな語りとは、最後まで親和しなかった。熱量に対する細やかな説得力。演出手法だけでなく、これは脚本の課題であると思います。
SUMMER PARADE

SUMMER PARADE

AnK

サブテレニアン(東京都)

2013/09/18 (水) ~ 2013/09/22 (日)公演終了

満足度★★★★

夏の終わりの夜の美少女
初見。とても、素直にきゅんとできる作品だった。ぱっとみて、男の子にも女の子にも思える主宰のかたの名前(山内晶)も、劇団の雰囲気とあいまって、とても魅力的。ひとつひとつのシーンを細かく演出していくのと、そのシーンが集まった時にどういう情報を観客に伝えられるか、ミクロとマクロの視点を両方持って、お話を紡いでいけるひとだと思いました。

全般的に、俳優の魅力を引き出すことに、命かけてる感じの演出。関亜弓のかわいらしさ(表情、衣装)にどきどきしてしまった。シーンごとのテンポや、俳優のノリに出来が左右されないような底力が、これからどんどんつくといい団体になりそうですね。

ネタバレBOX

初日のアフタートーク有りの回でした。編集者の藤原ちからさんがゲスト。「音を消して、1分間、みんなでこの作品のよかったところとかを考えてみたい」という藤原さんの提案で、沈黙を挟んでのトーク。主宰の山内さんが合図で手を叩いてくれて(さすが演出家!)みんなで1分、作品について振り返る時間を持てたのが、なんだかよかったです。

ラッコサイズラッコ【公演特設ページ公開中】

ラッコサイズラッコ【公演特設ページ公開中】

トリコロールケーキ

シアター711(東京都)

2013/03/13 (水) ~ 2013/03/17 (日)公演終了

満足度★★★★★

いつだって
真顔でボケ倒す人がいちばん面白い。
脚本の人のセンスとスタンスに、しみじみ浸る。
小劇場にこういう人たちがいてくれないと楽しくないじゃん。
こういう芝居があったから私はこれまで演劇を見てきたんだと思うし、好きでいたんだと思うってことを、久しぶりに考えました。

日曜日、あと一回ですが多くの人に見てほしい。

ネタバレBOX

刑事たちのシーンが一番好きでした。
春琴(しゅんきん)

春琴(しゅんきん)

世田谷パブリックシアター

世田谷パブリックシアター(東京都)

2010/12/02 (木) ~ 2010/12/11 (土)公演終了

満足度★★★★★

陰影の奥
物語が春琴抄、全体のビジュアルコンセプトが陰翳礼讃、というイメージ。
クライマックスになだれ込んでいくくだりは春琴抄の文体そのものの、句読点や改行が省かれていても、けっして躍動的というのではなく、じわじわ上り詰めていくあの感じが見事に舞台に乗っていて美しい。
薄暗く湿り気をおびて光る、役者、人形、畳、着物。鳴くように響く三味線。サイモン・マクバーニーは、作品解釈や演出手法を見せるよりも、わたしたちが美的感覚を研ぎ澄まして谷崎の作品を「感じる」ようにしてくれたみたいだった。

ネタバレBOX

幼い春琴は、話者があやつる人形で舞台上にあらわれる。場面転換も、流れるようになめらかに、畳や木の竿や、シンプルな道具で寝所、三味線の御稽古場、ほの暗い廊下などがつくられる。歳を取って、佐助にとって本当の人間となったときに、春琴は人形ではなく、女優の演じる身体となったのだ、と、わかった。
合唱交響曲「わが星」

合唱交響曲「わが星」

北九州芸術劇場

J:COM北九州芸術劇場 小劇場(福岡県)

2010/11/27 (土) ~ 2010/11/28 (日)公演終了

満足度★★★★

ずっと、見ていた
縁と機会にめぐまれて観劇。
音楽と、脚本の持っている、機微をすくいあげる構造の力から、よいものにならないわけがなかったけれど、リーディングというスタイルでそれがどういうふうに見えてくるのか、当日パンフレットで23名が役柄を割り振られているのを見てもぴんときていなかった。
俳優陣は、みんな白いシャツ、黒のスカートあるいはパンツスタイルで、胸には役柄をあらわすニットアクセサリをつけて入場。手にもった台本を、ときどき丸めて望遠鏡みたいに目に当てる演出が、とてもチャーミング。
台詞と役柄の1:1の関係を崩してもなお、台本の縦糸と横糸がしっかり見えて、わ、これリーディングでもいけるんだ、と素直に感動。
ラップの台詞って今までどういう働きをするのかよくわかってなかったけど、個と音高を払って、否応なしに進行する台詞が感情をさらうことを、人数が多くなったことで強く実感することができた。声を頼りに立ち上がるドラマから、世界観が立脚するところの普遍性を見て思ったのは「うますぎない」脚本には「日常生活のイデア」みたいなものが閉じこめられているのかも、ということ。
初演のフォークダンスもよかったけど、全員でのユニゾンが大きな群唱となって響く空間は、ちょっとほかでは味わえないものだったな。
北九州でオーディションをして決められたという俳優さんがたは皆、それぞれこの地に自分の生活をもっているのが透けて見えて、それがまたとてもよかった。それが地域で俳優をあつめるということの、大きな魅力だと思う。
演奏していた柴さん御自身も、たのしそうにしながら、常にしっかり舞台を見つめていた。冷静な演出家の目を持っているからこそ、こういう音楽のちからを正しく使った芝居が作れるのだと思う。
わたし、客席でいちばんないてしまっていた自信が、あるなあ。

葬送の教室

葬送の教室

風琴工房

ザ・スズナリ(東京都)

2010/10/06 (水) ~ 2010/10/13 (水)公演終了

満足度★★★★★

ドラマの力
わたしが、演劇のちからを信じたくなるのは、こういうときだ、と思う。
ひと一人の身体や心のサイズをこえて、何か大きなもののために作品が存在し
観客が立ち会っている、このとき。そのことを感じられただけで、心ふるえるような時間を過ごせました。

ネタバレBOX

ポストパフォーマンストークのゲストは、実際の事故で遺体引き渡しを
4か月にわたって担当された、当時群馬県警にいらした、飯塚訓さん。
単なる作品の話にとどまらない、講演のようなお話しを
伺うことができました。
視点 vol.1 Re:TRANS(MU×ミナモザ×鵺的) 満員御礼、審査発表をblogにて公開しました!

視点 vol.1 Re:TRANS(MU×ミナモザ×鵺的) 満員御礼、審査発表をblogにて公開しました!

視点

ギャラリーLE DECO(東京都)

2010/09/21 (火) ~ 2010/09/26 (日)公演終了

満足度★★★★

意義深いコンペ
ハセガワさんの企画力と、舞台芸術振興へのつよい意志を感じた、すばらしいコンペティションだ。
ミナモザ『スプリー』は、キャラクタ造形と展開がやや粗く、性急な印象。最後に見えてきたテーマを、もっと時間をかけて見せるべき作品だったのではないかと感じた。というか、時間をかけて見たかった。
鵺的『クィアK』は、純文学作品にできそうな深い色。役者の身体に落とし込んでしまうと、もしかしてスキルによっては世界を崩してしまうかも。たったひとりの女優が異質な存在感でもう釘付け。あとからじわじわ思い出してしまうタイプの作品。
MU『無い光』は、まずタイトルの引き込みが秀逸。『トランス』へのオマージュとして、誰が演じてもある程度の強度を保てるだろうと思える普遍性を持った作品はこれだけだったように思う。俳優陣も、どたばたしてきっちり笑わせるテクニックを持った方ばかりでした。

しゃぼんのころ

しゃぼんのころ

マームとジプシー

STスポット(神奈川県)

2010/05/26 (水) ~ 2010/05/31 (月)公演終了

満足度★★★★

細い絹糸の束のような
川辺で野宿をする14歳の少女たちのうたかたの日々を、絡まりそうな危うさを秘めつつ大胆に綾織りをしていくように描写するさまは、まことに見事。全体的に暗喩が巧みで、きりきりしめつけられた。長らく小説の領域だった"少女"というものに真っ向から手を伸ばしていて、鮮烈。
この作品は、大人(作り手)がふりかえった少女・少年時代を細かく描写したかわり、彼らが世界をどう見ていたのか、についての本質は観客に委ねている気がした。だからいろんなひとが心奪われ、自身のかけらを舞台上に見つけて、絶賛しているのだろう。

幸せを踏みにじる幸せ【公演終了!ご来場誠にありがとうございました】

幸せを踏みにじる幸せ【公演終了!ご来場誠にありがとうございました】

ジェットラグ

タイニイアリス(東京都)

2010/05/28 (金) ~ 2010/05/31 (月)公演終了

満足度★★★★

今日みたく雨ならきっと泣けてた
「ひとごとじゃない、演劇」ということを考えた。「舞台上にいる俳優は"わたし"ではない」という演劇の大前提を使いながら「でも"わたし"かもしれない」という気持ちを想起させることは難しい。玉置さんという、つよくうつくしく鍛えられた身体に裏打ちされた精神性を持つ俳優でなければ、観客にそれを伝えることはできないのかもしれない。

しにたい、って思う気持ちが幻なら、生きたい、って思うことも幻だろう。でも幻だって、思いこんで触って愛していけば現実になるかもしれないし、触って愛して、大事にできるもののことを、わたしたちは現実と定義するのだ。だからわたしは、まだ生きるのだ。

ネタバレBOX

玉置さんがしんでしまう、という物語の終わりから始まることで、わたしたちは観客として物語の外に置かれる。しかし、まるでそれは巧妙な罠であったかのように、いろんな方法で演劇世界にひきずりこまれてしまった。

山小屋のシーンでは、連合赤軍の山岳ベース事件を思い出して、うっとなったりもした。それは俳優を通してわたしたちに与えられた疑似的な暴力体験だった。スクリーンや液晶画面ではありえない、舞台上で"今"ふるわれている暴力には、否応無しにわたしたちの感覚をさらう力がある。

そしてそれは、音楽を通しても、行われていたのではないかと思うのだ。普通、芝居では、客がよく知ってそうな曲というのは音響で使わない。観客個人の思い出にリンクしていた場合、世界観の邪魔になったりするから。でも全編で流れていたCoccoは、10年くらい前に少女だったわたし(同じく少年だった谷賢一さん)の、ふくれあがった思春期の鬱屈、不幸感を、呼び起こしてくれた。死、は、やっぱり究極の個人的な状態だから、こうやってわざとかきむしるようなことやらないと、描けないんだと思う。

客出しで流れた「さんぽ」で、涙がこぼれてしまった。
大人になると、こういう明るさこそ、悲しい。

あと、余談かもしれないけど、これタイトルとテーマを決めて台本書き始めたあとに、物語が一人歩きを始めたんじゃないかな。だからもともと目指してたところと違う場所(※物語の最初と最後の整合性の話ではない)に着地したような印象を受けたけど、そういうのって作家にとっては幸せなことだと思う。他の観客がどう思うかは知らないけれど、すくなくともわたしは。
露出狂

露出狂

柿喰う客

王子小劇場(東京都)

2010/05/19 (水) ~ 2010/05/31 (月)公演終了

満足度★★★★★

女豹の群れ
新興強豪女子サッカー部でのあれやこれやを明快な台詞と身体でぶった切りちょっと乱雑にセックスを混ぜ、その上に絵の具チューブをぶちまけたような勢いある作品だった。
本来「稚拙」とか「鬱陶しい」と言われがちな"状況説明台詞"に必然性を持たせ、まるで琵琶法師が謡いながら語るように、それ自体ドラマティックな味付けで楽しめるようにしているところに、柿喰う客の醍醐味がある。今回は特にそれが顕著で、いつもよりあらすじは別にないけど、構造がすごくあざやか。
女の子しか出ない場合にたまにある、鼻につく女くささがまったくなくて爽快。かっこいい。私たち、簡単には性的な見せ物になんてならないわよ、というかんじ。笑

日本語を読む その3~ドラマ・リーディング形式による上演~『老花夜想』 

日本語を読む その3~ドラマ・リーディング形式による上演~『老花夜想』 

世田谷パブリックシアター

シアタートラム(東京都)

2010/05/07 (金) ~ 2010/05/09 (日)公演終了

満足度★★★★★

今更すみません。でもすばらしかった。
若さを失った娼婦が月蝕の夜に見た儚い夢を描いた作品。
8人の俳優陣が白シャツ、黒ボトムスで現れて椅子に座る。抑制された"身体"をちゃんと認識していることが見て取れる。やはり、身体を操ることに長けている演出家は、そのあたりに敏感なのだ。リーディングの"制約"を正しく意識して魅力に転化できていたし、これは普通のストレートプレイとして上演するより絶対良かったと思う。
朗読の中から、月光と水底と人魚のモチーフがゆらゆら見えてすごくロマンティック、かつ、しめつけられるほどせつなかった。

日本語を読む その3~ドラマ・リーディング形式による上演~『熱帯樹』

日本語を読む その3~ドラマ・リーディング形式による上演~『熱帯樹』

世田谷パブリックシアター

シアタートラム(東京都)

2010/05/05 (水) ~ 2010/05/08 (土)公演終了

満足度★★★★

大輪の花のような
深紅の薔薇か、花粉まみれの百合か、とにかく大輪の花の匂いに噎せかえるような、濃密な時間だった。台詞の点が、集まって線となり、密度を増して、織り上がった面が迫ってくるような、勢いのある演出。
上演すると、なんだかうごめく生きものみたいになるよね。三島由紀夫って。ライフワークのように三島作品を演じる"役者"さんは幾人かいらっしゃるけれど、作品全体を正しい充実感で満たせる"演出家"さんというのは、極めて少ないのではないだろうか。
役者さんの中では特に久世星佳さんが、それこそ宝塚音楽学校のころから今に至るまで、ストイックに声と身体とドラマティックでゆたかな語彙を鍛えてこられたことが伺いしれる、すばらしい演技でした。

ネタバレBOX

作品とは直接関係ないけれど、この企画全体を観て思ったこと。
たぶん『ドラマリーディング』と『朗読劇』と『台本を持った状態の立ち稽古』が、日本の俳優たちの体内で、まだ未分化であるのだ。それが演出の及ぶ範囲以外の、俳優の身体にダイレクトににじんでいるのを感じる。
今後、そのへんの理論を自分で構築したうえで締め上げて作品をつくっていく演出家さんが増えて、リーディングがもっとおもしろくなるといいな。
動け!人間!

動け!人間!

鰰[hatahata]

アトリエ春風舎(東京都)

2010/04/16 (金) ~ 2010/05/05 (水)公演終了

満足度★★★★

深海魚
ほんのちょっとの時間、身体が触れあって、声をかわして、でもまた散っていくという演劇の偶然にどうしても期待してしまう、みたいな点において、神里さんと白神さんは同じ場所に根を張っているように見えた。それ以外のことはあんまり信じてないように見える、という雰囲気も同様。

そんなふたりが組んでやっていた意味は、もちろん感じられた。
土からよい粘土を掘ってくるのは白神さんのほうがうまくて、彫刻にするのは神里さんのほうがうまいこととか。

ネタバレBOX

①身体感覚②発声(手や床を叩くことによって出る音なども含む)③意味としての台詞 の三つが等しく押し寄せてくる感じがあって、よかった。
パフォーマが、魂を抜いて、お人形のようなただの物体になるときと、魂をこめて動くときのメリハリに、息を呑む思いだった。
稽古公開型の淡水魚ver.も観たい。
どどめジャム

どどめジャム

甘もの会

MAREBITO(東京都)

2010/04/23 (金) ~ 2010/04/25 (日)公演終了

満足度★★★★★

記憶があふれてくるような
茅場町にこんなすてきなスペースがあるなんて知らなかった。
夜の回を拝見したのだけど、明かりの雰囲気がとても素敵でした。
記憶は過去にわたしを引き戻す。でもいつからか未来に引っぱってくれるようにもなっていたのだ。昔を思い出すと涙が出るようになるような歳になったのだなあ、としんみりしてしまった。
思い出せないことと、なんにもないことは違うから、どうかいろんなものをからだにしみこませて生きていたい。そうすれば、ふとしたときに滲んで、わたしを助けるちからになってくれるかもしれないし。
あと、終演後に試食させていただいたどどめジャムがすごくおいしかった。

ネタバレBOX

結婚を前にして去来するさまざまな思いを、ほろほろこぼすように魅せる巧みな脚本。うふ、と笑いながらもいっしょに涙もでちゃうような、せつなさがすごくよかった。
立蔵さん(青年団)が好演。少女から老女まで、ほんとに自在だなあと思う。天上人のような、透明感のあるひとですね。
八百長デスマッチ/いきなりベッドシーン

八百長デスマッチ/いきなりベッドシーン

柿喰う客

タイニイアリス(東京都)

2010/04/15 (木) ~ 2010/04/18 (日)公演終了

満足度★★★★★

媒介としての身体
新作と再演の短編連続上演。
すがすがしさと毒々しさが、もっともピュアな状態で混在していた。
身体性を操ることにかけては、やはり随一の劇団です。
玉置さんや村上さんや七味さんの、媒介としての身体があってこそ、中屋敷さんの世界はわたしたちの眼前に具現化するのだと実感。

ネタバレBOX

素舞台で、照明と役者の身体だけを使った真っ向勝負。
とめ!はね!はらい!と斬りこむ、書道のような、潔い演目でした。

柿喰う客は毎回アフタートークが楽しみ。
演劇を『見世物』として研ぎ澄ます、修羅道をひた走るような中屋敷さんの話に聞き入ってしまう。
七味さんとのファーストコンタクトの話も印象的。
あと、海外での柿喰う客の評価ポイントの話も。
注目されがちなデフォルメされた派手な動きは半ばどうでもよく、台詞と身体を止めて抜く、その瞬間にこそ命をかける柿喰う客の御芝居、しかと堪能いたしました。
ORGAN 【ご来場ありがとうございました。次回公演は9月中旬】

ORGAN 【ご来場ありがとうございました。次回公演は9月中旬】

elePHANTMoon

サンモールスタジオ(東京都)

2010/04/07 (水) ~ 2010/04/18 (日)公演終了

満足度★★★★

R編
SF特有の不気味さと、後味の悪さがしっかりあって、とてもよい。
俳優陣も粒ぞろいでレベルが高い。
ちょっと系統が違うというD編をぜひ見てみたくなった。

ネタバレBOX

チラシやパンフレットでアナウンスされている臓器移植というテーマやあらすじ(背景)を読んでいない場合、物語をすんなり理解するのはもしかしたらむずかしいかもしれない。
というのは、単純に戯曲の構造として、シチュエーション自体(登場人物たちが同じ人間から移植をうけて、その日に毎年集まっている)が伝わりにくかったように思ったからだ。
推測なのだけど、作家さんはこの設定とD編R編を書こうということでいっぱいになってしまって、戯曲そのものからもたらされる情報量について、ちょっと考慮が漏れた?のではないかしら。。

でもそれを補って余りある、ぞっとするかんじを受け取れたので、満足です。
ところどころ音響がパンチきいててかっこいい。
大洪水

大洪水

山下残

STスポット(神奈川県)

2010/04/08 (木) ~ 2010/04/11 (日)公演終了

満足度★★★★

連鎖する身体
山下残さんはずいぶん演劇的なダンサーだなあとおもっていたけれど、その認識はやはり的はずれでは、なかったようだ。
彼がダンサーに課した制約は、”今、正に生まれる緊張感”を、パフォーマと観客が共有することに対して非常に貢献していたと思う。

私のこの目で【ご来場誠にありがとうございました!】

私のこの目で【ご来場誠にありがとうございました!】

劇団スカラベ

シアターブラッツ(東京都)

2010/04/09 (金) ~ 2010/04/11 (日)公演終了

満足度★★★★

引き締まった毒気
ミュージカルって、構造そのものが強固すぎるので独創的な演出は難しいかな、と思っていたけれど、ちゃんと黒澤さんの意図したスパイスが利いてるのが要所要所でわかった。
奥行きのある舞台と捌けない役者さんたちがきちんと世界観に深みを持たせるよう作ってあって、5人芝居とは思えない密度。

ネタバレBOX

二幕に入ってから、観客がミュージカルをうけいれる心持ちに変わったのが明らかに分かって、すごく楽しい感覚になれた。
やっぱり、役者さんが歌いおわったら、拍手したくなるのがミュージカル!
あらすじはパンフに書いてあるので、歌詞が聞き取れなくても「なにか歌っている」状態の早口リズムを楽しめることができれば、問題ないと思う。

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