latticeの観てきた!クチコミ一覧

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アンチゴーヌ

アンチゴーヌ

パルコ・プロデュース

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2018/01/09 (火) ~ 2018/01/27 (土)公演終了

満足度★★★★★

十文字の舞台上に役者が配置に着くと高橋紀恵さんが力強い声で物語の開始を宣言し、ここにいたるまでの状況を手短に説明します。高橋さんの(良い意味で)芝居がかった声は観衆をそして俳優をこれから紡がれる物語の世界へと一気に運んでくれるのでした。

蒼井優さん演じるアンチゴーヌは人としての道を貫きます。しかし生瀬勝久さん演じる叔父で国王のクレオンは法の支配による国の安定を揺るがすようなことはできません。後半、クレオンは亡くなった二人の兄についてのショッキングな裏話を語ってアンチゴーヌを揺さぶります。意外な話にうろたえるアンチゴーヌはクレオンの前に屈服するのでしょうか…。

生瀬さんはもちろん安定の演技ですし、映画の人というイメージが強い蒼井さんも実に堂々としたものでマイクなしでその声を会場の隅々にまで響き渡らせます。

会場は十文字の舞台によって客席が4つのブロックに分割され、それぞれのブロックが14席×5列になっています。1列目から舞台までは手を伸ばせば届く距離です。しかも舞台は幅およそ2m、高さおよそ70cmのもので本当に目の前で演技を堪能することができます。俳優さんは隅から隅までを動き回りますし、客席にもしばしば降りて来て1列目の前を走ります。その点ではブロックごとにやや当たり外れがありますがどこが当たりかは行ってからのお楽しみにしておきましょう。

演劇としての内容はもちろん悪魔的な魅力のある十文字の舞台も必見です。

宣伝用のポスターが売っていました。大(1030×728)が1,000円で、小が500円です。

戯伝写楽 2018

戯伝写楽 2018

キューブ

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2018/01/12 (金) ~ 2018/01/28 (日)公演終了

満足度★★★★★

正直それほど期待していなかった私は、最初の歌で「ごめんなさい」と心の中で土下座をしてその不明を詫びた。

幻の浮世絵師東洲斎写楽が女性だったという設定で、写楽という存在の出現から消滅までを描くミュージカルである。ストーリーは全くの創作なのだが壮一帆さん演じる花魁浮雲を一方の柱にして巧みに構成されている。

歌麿役の小西遼生さんは女性が男装したのではと思うほど美しく色っぽい。大田南畝役の吉野圭吾さんのしっかりしたとぼけっぷりは巧みすぎる。蔦屋重三郎役の村井國夫さんは張りのある低音をしっかりと響かせていた。壮さん、小西さん、吉野さんも揃って「歌うま」である。
写楽役の中川翔子さんは思ったより小柄の女性だった。変わった人というイメージを勝手に持っていたがそんなことは一切なく芝居も歌も模範的にこなしていた。
写楽の絵から飛び出てきたような座長の橋本さとしさんも安定の歌と演技である。

特筆すべきは舞台中段のガラスの向こうにいるバンドである。キーボード+ドラム+パーカッション+ベース+ホーンの構成で、年寄りの体が思わず動いてしまうくらいスイングしていた。その演奏を最高の音で聴かせてくれる音響も完璧に調整されている。エンディング以外にバンド演奏が1曲あれば最高だった。音響の良さは歌やセリフでももちろん十分に発揮されている。どこの会場もこうあってほしいものだとつくづく思った。

欲望という名の電車

欲望という名の電車

Bunkamura

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2017/12/08 (金) ~ 2017/12/28 (木)公演終了

満足度★★★★★

演劇鑑賞初心者としては観ておかねばいけない作品の一つでしょう。無駄なひねりのないストレートな感動作でした。大竹しのぶさんは言うまでもなく、北村一輝さんも鈴木杏さんもすばらしい熱演でした。

ひねってあるのは題名くらいです。この題名からこのストーリーを想像する人は皆無でしょう。しかし非常に記憶に張り付いて忘れることのできない題名です。作者の狙いもそこにあるのでしょう。

この舞台の後でビビアン・リーとマーロン・ブランドによる映画版をアマゾンでレンタルして観ました(199円)。映画は良くも悪くも丁寧に説明してくれます。冒頭には実際にあった「欲望」行の路面電車も出てきます。当時の街の様子も分かって、私の貧しい想像力を補ってくれます。映画では最後にブランチは自動車に乗って去って行くのですが、舞台を観ているときはそういう時代だとはまるで考えもしませんでした。

しかし、どこの国でも一つの階級が没落し、別の階級が勃興することはしばしば起こることです。第二次大戦後のニューオーリンズに限定された話ではありません。そういう意味では国籍も時代も曖昧になる演劇・舞台という枠組みも悪くないと思い直しました。

初めてのシアター・コクーンは入口が分からず、ビルを一回りする羽目に。

*ミッチが「何を教えていたの」と尋ねるとブランチが "...English..." と答えるのを舞台では「英語」、映画字幕では「国語」としていました。私が訳者でもどちらにするか迷うところです。


『自作自演』<第15回>

『自作自演』<第15回>

東京芸術劇場

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2018/01/07 (日) ~ 2018/01/07 (日)公演終了

満足度★★★★★

これは世代の異なる二人の舞台関連のクリエーターが自作を朗読しトークを行うという東京芸術劇場で不定期に開催されるものの最新回です。

第15回 2018年01月07日(日)15:00
石田衣良(小説家)×辻村深月(小説家) 司会 徳永京子(演劇ジャーナリスト)

今回は同舞台で上演中の「池袋ウエストゲートパーク SONG&DANCE」の原作者である石田さんと石田さんを尊敬して親交の深い辻村さんのお二人になりました。基本的に演劇関連の出演者が多いのですが今回はお二人とも小説家ということでcorichの皆様には関心の薄いものであったようです。ちなみに過去3回の出演者は以下の通りです。

第14回 2016年10月09日(日)18:00
竹内銃一郎(劇作家・演出家)×ノゾエ征爾(劇作家・演出家・俳優)司会 徳永京子

第13回 2015年12月13日(日)18:00
穂村弘(歌人)×又吉直樹(芸人・小説家)司会 徳永京子

第12回 2015年2月2日(日)19:00
飴屋法水(現代美術家・役者・演出家)× 江本純子(劇作家・演出家・俳優)司会 徳永京子

私は特にお二人のファンということはないのですが小説を読む視点を多くするためのヒントを求めて参加してみました。以下では全体の様子を簡単にレポートして次回以降の参加を検討される方の参考に供したいと思います。

司会挨拶があって、辻村さんが新作「かがみの孤城」の冒頭部を30分朗読し、ついで石田さんが「池袋ウエストゲートパーク」の上演部分を抜粋して30分朗読して前半は終了です。辻村さんは朗読は初めてということでしたがはっきりとした口調でお母さんと娘をしっかりと読み分けていました。対して石田さんは登場人物が男女複数であることもあって特に区別せず淡々と読み進め、20年前の文章を自ら褒めているのが和めました。

10分の休憩のあと、後半は司会を交えてのお二人の対談です。普段の執筆の様子とか締め切りの対処法などの定番からちょっと危ない話まで笑いの絶えないトークでした。

少しだけ記憶を掘り起こしてみましょう(私の聞き間違い記憶違いがありうることにご注意ください)。

お二人とも音楽をかけながら仕事をするのはよいとして、日本語の歌詞があっても気にならないというのがちょっと意外でした。辻村さんは大槻ケンヂ(筋肉少女帯)さんのファンで聴きすぎて特別なものでなくなりBGM化しているそうです。石田さんはロックからクラシックまで雑食とのことでした。

作品の舞台化について石田さんはクールというか突き放した感じで気に入る入らないは半々ということでした。辻村さんは「演出家に負けたい」そうで、その意味は素晴らしいものが付け加えられることを期待するということで、原作にこの場面があればもっと素晴らしいものになったのにと思うことがあるそうです。石田さんはこの意見に対しても、出来上がっているものの一部を改良するのは簡単で、ゼロから作り出すことが素晴らしいのだと原作者の誇りを強調していました。

司会の徳永さんもうまく流れをコントロールしていましたし、最後の聴衆からの質問もサクラではないかと思うような良い質問揃いで2時間飽きずに楽しめました。

帰り道で「かがみの孤城」1,800円+税、554ページを買ってしまいました。冒頭部を聴くと後が気になりますね。うまい販促です(笑)

トロイ戦争は起こらない

トロイ戦争は起こらない

新国立劇場

新国立劇場 中劇場(東京都)

2017/10/05 (木) ~ 2017/10/22 (日)公演終了

満足度★★★★★

鈴木亮平さんといえば「東京タラレバ娘」の「早坂さん」が記憶に新しい。
この早坂さんは非常に「いい人」で、世の常としていい人は最後にババを引くのであった。
その早坂さんと鈴木さんをダブらせ近況を追うようにして、私はこの舞台まで足を運んできた。
この「いい人」の早坂さん、もとい鈴木さんが戦争から凱旋してきた将軍というのは何かピッタリこないと思ってしまったが、その疑問は徐々に解け、後半に訪れる見せ場で「鈴木亮平+谷田歩」の狙いを完全に理解したのであった。

さて表題にある「トロイ戦争」について私が知っていることと言えば「トロイの木馬」と「アキレス腱」くらいだ。もちろん詳しく知っている方が親近感が湧くだろうが、この戯曲はその枠組みを借り、しかもその前夜を「捏造」したものなので、観劇中に私が理解に大きな困難を感じることはなかった。

初回を観たのだが私にはミスとか、ぎこちなさとかは一切感じられなかった。
船員役の方までさすがの実力だった。
その中でも大鷹明良さん演じる詩人(兼大臣)は観客の非難の視線を一身に浴びるというおいしい役だ。私の目にはうれしくてたまらないという思いが滲み出ているように見えた。
それにしても初回の不安は大きかっただろうがスタンディング・オベーションに応える早坂さん、もとい鈴木さんに安堵の表情があってこちらもうれしくなった。

近松心中物語

近松心中物語

シス・カンパニー

新国立劇場 中劇場(東京都)

2018/01/10 (水) ~ 2018/02/18 (日)公演終了

満足度★★★★★

すぐ隣で上演中の「アンチゴーヌ」は観客に色々考えることを求めるのに対し、こちらは観て聴いて感じたままを楽しむものでしょう。有名俳優さん揃いなこともあって私が何かを書く必要はまったくないのですが、あったりまえのことをちょっとだけ書いておきます。

堤真一さん、宮沢りえさんは演技はもちろん、声の魅力(魔力)でぐいぐい迫ります。小池栄子さんは「カンブリア宮殿」の“できる女”とは打って変わった可愛い女を演じます。池田成志さんはすっとぼけた役を演らせると日本一、笑いと哀愁の両面で観客の心を掴みます。市川猿弥さん、銀粉蝶さんのセリフの切れ味にはしびれました。

舞台セットの変化も大きな見所です。スタートは舞台いっぱいに広がった大坂の町で、溢れる色彩と歌と踊りで観客の気分は激しく高揚します。回転する舞台を巧みに用いた場面転換、笑ってしまうローテクやこちらの遠近感が狂ったのかと思わせるようなエンディングなどお楽しみ満載です。

衣装が間に合わなかったのかポスターは洋服(?)で何かひねりのある舞台なのかといぶかしんでしまいますが、ネットで通し稽古の写真を見ればわかるように普通に着物を着ています。その点では王道の元禄時代の物語ですのでご安心を。

I LOVE YOU,YOU'RE PERFECT,NOW CHANGE

I LOVE YOU,YOU'RE PERFECT,NOW CHANGE

Score

d-倉庫(東京都)

2017/10/21 (土) ~ 2017/10/29 (日)公演終了

満足度★★★★★

(木村花代、麻田キョウヤ、安達星来、今村洋一、今井端、池田海人の回を鑑賞)
いやあもったいない。この出演者、この内容で空席があるとは。
主催者はもっと宣伝に努めてほしい。最近はかなりいろいろな劇場に行っているが、このチラシをチラシ束の中に見つけることはなかった。宣伝さえしっかりやっていれば満席は楽々達成できたはずだ。

場所は誰も知らない d-倉庫。期待せずに行ってみると中は傾斜のついた客席からステージが非常に見やすく、音響もなかなか良いのでびっくりした。女性ボーカルがすっきりと伸びて、変な残響がないのである。演劇、ミュージカル用にきちんと機材を選び設計したものなのだろう。トイレの配置は問題ありだけど水回りはお金が掛かるからこの辺が限界なんだろうねと同情した。

内容は男女の出会いから破局そして死別(後)までを小話でつづって行くコメディー・ミュージカル。こういうものはアメリカ人がやらないと様にならないだろうと避けていたのだが、人名、会社名はアメリカンでエアーの車は左ハンドルであっても、ちゃんと日本の話として楽しむことができた(宗教系は無理だけど)。日本版の脚本、演出がかなり工夫されているのだろう。

出演者は男女3人ずつ、計6人の実力者が歌って演技して少し踊る。この方々をこれだけ近くで観て聴けるとは実に優雅な時間であった。ここまでのレベルになると歌がうまいとか下手とかは考えることも忘れて楽しむことができた。
歌は曲も良く訳詞もこなれていて、「ただしゃべった方が良くね?」というミュージカル嫌いの方にも受け入れられるものと思う。
贅沢を言うとマイクなしで聴きたかったのだが、結構いい音だったので良しとしよう。

電子ピアノはよくスイングしており、ピアノとバイオリンだけにも一場面分の時間を割り振ってほしかった。ただしピアノの音が大きくて歌を消してしまうところがあった。相対的にバイオリンの音が聞こえにくくなって、音程までも怪しく感じられたのは気の毒であった。PA担当の方はヘッドホンでモニターするだけでなく、客席で自分の耳で聴いてほしいな。

それから幕間の大道具(?)さんの無駄のない動きはなかなか楽しめた。

屋根の上のヴァイオリン弾き

屋根の上のヴァイオリン弾き

東宝

日生劇場(東京都)

2017/12/05 (火) ~ 2017/12/29 (金)公演終了

満足度★★★★★

ミュージカルファンとしては押えておかねばならない基本演目ということで行ってきました日生劇場。昔、ミュージカルに興味がない、というか精神的にも金銭的にも余裕がないころに森繁さんで話題になっていたことは覚えています。何十年も経ってようやくの鑑賞です。

歌、踊り、ストーリーのバランスが絶妙です。
ミュージカルのストーリーというと単純すぎたり、壮大すぎたりで軽視されていることが多々ありますが、この作品では力まず、急がずじわじわと心に沁みこんできます。日本での初演から50年というのも納得です。

実咲凜音さんはしっかりものの長女にぴったりで凛とした美しさにあふれ、神田沙也加さんはいかにもその妹らしい柔らかな振る舞いが印象的でした。また肉屋の今井清隆さんのバリトンボイスは歌もセリフも朗々と響いて、しかも嫌味がありません。もちろん鳳蘭さんの安定した歌と演技は全体を引き締め、…他の方も挙げればキリがありません。

何かあっと驚くものを求めるという人を除き、どなたにもお勧めできるものです。

ネタバレBOX

初回のためか、長い休符のあとの歌い出しがこのレベルではありえないくらいバラバラなことが2度ありました。たぶん何人か居残り特訓させられているでしょう。
赤と黒

赤と黒

梅田芸術劇場

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2023/12/08 (金) ~ 2023/12/27 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

スタンダールの名作「赤と黒」、貧しい家に生まれた主人公ジュリアン・ソレルが貴族社会を憎みつつそこにのし上がって行く物語。いつかは読むと誓っていたがもうそんなことはないと確信する今日この頃。昔の自分にはミュージカルで勘弁してもらおう。

原作を短縮かつ改変した分かりやすいストーリー、分かりやすい音楽、溢れるバックダンスとバックコーラス。とくにコーラスが最高!単純に嬉しい楽しい。フレンチロックミュージカルということだが、昭和の昔にはフレンチポップスがたくさん洋楽トップ10に入ってラジオから流れていたりしたせいか年寄りの耳には非常になじみが良い。深さとか微妙な機微とかとは無縁であるので無心に楽しもう。フライングする人もなく見事に3rdコールで納得のスタンディングオベーション。

残念だったのはルイーズとエルザの歌がユニゾンだったこととオープニングの歌の出だしが地味でバンドの派手なイントロに高揚した気持ちが宙ぶらりんになったことである。

最初の3日間4公演はカーテンコールに撮影タイムがある。

『アメリカン・ラプソディ』『ジョルジュ』

『アメリカン・ラプソディ』『ジョルジュ』

座・高円寺

座・高円寺1(東京都)

2017/12/21 (木) ~ 2017/12/25 (月)公演終了

満足度★★★★★

「ジョルジュ」も聴いてきました。

クラシックにはまるで疎い私でもショパンの曲は知っています。しかし、演奏会に行ったことはありません。その程度の関心でもこの演奏にはノックアウトされました。座席の位置も良く、ピアノの反響板正面約10メートルで聴く一流のクラシック・ピアニストの演奏は想像を超えていました。一音一音の分離の良さ、流れの滑らかさ、強弱のレンジの広さ、すべてが初体験でした。演奏に精神を集中していると別世界に吸い込まれそうになりました(もちろん眠くなるのとは違います)。クラシック・ファンもジャズ・ファンもそしてオーディオ・ファンも楽しめるものだと思います。

オープニングはまず中島朋子さんがにこやかに登場し、感情たっぷりに話し始めると、ジョルジュ・サンドもこのように優美というか耽美というか魅力的な女性だったのだろうか、それならショパンがあっさり陥落し10数年も生活を共にしたのも無理もないという気にさせられます。ついで田中美央さんが顧問弁護士として魅力的な低音で入って来ます。ひとしきりメッセージの交換をすると、お待ちかねの関本昌平さんのピアノが颯爽とソロを取ります。中島さんをクラリネット、田中さんをコントラバスと思えば変則的な編成のピアノトリオです。もちろん同時に音(声)は出しませんが、なにかそういう一体的なユニットを感じました。

私の毎年末の行事にしたいと思います。

ブルーストッキングの女たち

ブルーストッキングの女たち

新国立劇場演劇研修所

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2023/02/24 (金) ~ 2023/03/02 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

お話はほとんど伊藤野枝物語である。野枝が九州の婚家を飛び出して東京に来るところから甘粕大尉らによって殺害されるまでを概観する。登場人物が皆さん濃すぎるので表面をなぞっただけでもこの長さ(75分+休憩15分+90分)になってしまう。

新国立劇場演劇研修所第16期生の修了公演。10月の試演会「燃ゆる暗闇にて」は盲学校の話ということで表情も動作もかなり抑えられていて正に研修というものであった。研修生には個性を発揮しないことが求められたのではないかと想像する。しかるに今回の修了公演では打って変わってキャラの濃い人々ばかりが登場する。研修生の皆さんは生き生きとして個性を存分に振りまいていた。

・らいてう(越後静月)美しい物腰が印象的。そのまま舞台でも映画でもTVでも通用しそう。それに髪型も着物もピッタリ似合っている。後半の出番がほとんどないのが残念。
・市子(米山千陽)華やかな空気をまとった女優さん。日蔭茶屋事件で実際は大杉は瀕死の重傷を負ったので、あの場面をもっと膨らませればぴったりの見せ場になった気がするがこれは演出の問題。違う芝居になっちゃうし。
・紅吉(藤原弥生)場の空気を舞い上がらせるムードメイカー役がぴったり。もっと出番が欲しそうだった。
・保子(岸朱紗)体が弱く病気がちで進んだ考えについて行けない人そのままであった。本当にそういう人かと思ってしまうのだがそんな人が演劇研修所に来るはずもなくこれは完璧な演技なのだ。
・野枝(伊海実紗)終始元気で明るく大役を見事に演じ切った。最後に憲兵に抗議するときの真剣な表情もすこぶる良い。
・島村抱月(松尾諒)メイクが完璧そして演技も完璧だった。
・辻潤(都築亮介)優しすぎる情けない男の雰囲気が良く出ていた。ただし普段の会話調でなくもっと演技らしさを感じたかった。
・荒畑寒村(笹原翔太)堅実な演技ですでにベテラン脇役の味があった。
・奥村博、甘粕大尉(宮津侑生)らいてうの夫で画家の優男と鬼の憲兵って、後で配役表を見て驚く。ミスプリじゃないのかと半信半疑だ。
・大杉栄(安森尚)男女関係においてのクズ人間ぶりが清々しく感じられるほど的確に演じていた。
以上16期生のみ配役表順

ネタバレBOX

冒頭、市子のセリフに「青鞜社なんかに出入りしていてはいけない、と梅子さんに叱られた」とあって、私の頭にまったく無関係に存在した津田梅子と平塚らいてうの対比に俄然興味が湧いてきた。

らいてうも野枝も結婚は二人の問題であって国家に承認してもらうものではないとして(当初は)届を出さないのだが100年後の今では同性の結婚をも国家が認めよという意見が優勢になっている。

大杉・野枝夫妻の長女の名前は野枝が「魔性の女」と呼ばれたのを逆手にとって魔子と名づけられ、その後に眞子と改名された。夫妻の子供は5人もいる。野枝は28歳で亡くなるまでに計7人の子供を産んだ。

以下、その後が印象的な二人をフリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』から引用する。

甘粕 正彦(あまかす まさひこ、1891年〈明治24年〉1月26日 - 1945年〈昭和20年〉8月20日)は、日本の陸軍軍人。陸軍憲兵大尉時代にアナキストの大杉栄らを殺害した甘粕事件で知られる。事件後、短期の服役を経て日本を離れて満洲に渡って関東軍の特務工作を行い、満洲国建設に一役買う。満洲映画協会理事長を務め、終戦の最中に現地で服毒自殺した。

神近 市子(かみちか いちこ、本名:神近 イチ、1888年6月6日 - 1981年8月1日)は、長崎県出身の日本のジャーナリスト、婦人運動家、作家、翻訳家、評論家。ペンネームは榊 纓(さかき おう/えい)。1916年の日蔭茶屋事件で一躍著名になり、大杉栄に対する殺人未遂罪で2年間服役した。戦後に政治家になり、左派社会党および再統一後の日本社会党から出馬して衆議院議員を5期務めた。
髑髏城の七人 Season鳥

髑髏城の七人 Season鳥

TBS/ヴィレッヂ/劇団☆新感線

IHIステージアラウンド東京(東京都)

2017/06/27 (火) ~ 2017/09/01 (金)公演終了

満足度★★★★★

主役7+1人の中でベテラン勢を差し置いて全体の明るく溌溂とした雰囲気作りに最も貢献しているのは沙霧であろう。
よく通る明るい声、可憐で美しい肢体、手足のしなり、指先の踊りが空気を弾ませる。
演ずるは清水葉月、失礼ながら美貌を第一の売りにしている方ではない。
しかし舞台に立つと、こんな綺麗な女優さんっていました??となるのである。
単独の見せ場はなかった気がするが舞台上にいた時間は一番長く思えた。
これからフォローして行きたい女優さんである。
ところで、次の「風」では沙霧は霧丸という男になるという。
男性観客をこれ以上減らしてどうするんだと言いたい。
すぐ復活するだろうから、その次は、まあ無理だろうが広瀬すずでお願いしたい。

華やかさと切れの良さは極楽太夫にお任せだ。
キップの良いせりふ回し、芯の通った声、松雪泰子はテレビでの印象とはまた別の方向で魅力的である。
歌は満点とはいかないが情感たっぷりで聞きほれてしまった。
拍手のタイミングがなかったのが残念である。
極楽太夫はそのうち藤原紀香でお願いしたい。
熱海五郎一座でのワンマンショー部分は見事であった。

鎌塚氏、腹におさめる

鎌塚氏、腹におさめる

森崎事務所M&Oplays

本多劇場(東京都)

2017/08/05 (土) ~ 2017/08/27 (日)公演終了

満足度★★★★★

「二階堂ふみは良い!」という先輩の言葉を信じて、下北沢本多劇場までやってきた。
その言葉が真実であることは舞台が始まるとすぐに証明された。
チラシの筋書き通りの「扱いにくい一人娘」が見事に目の前に出現したからである。
「宮崎あおい似の若い人」くらいの認識しかなかった私はすぐに「申し訳ありませんでした」と心の中で深く頭を垂れたのであった。
そもそも出演者が7人しかいない舞台に実力不足の役者さんの入る余地はないし、このチタルの役はストーリー的にも重要なもので、ここが弱点になっては舞台が成り立たない。
終演後にじっくりとWikipediaを読んでみるといろいろな賞も受賞しているとのこと、さもありなんと納得の演技であった。
次の舞台も必ず見させていただきますのでお許しを。

第一容疑者のヤサブロウ役の眞島秀和さんはテレビでもお馴染みだ。
いつもの眉間にしわを寄せた面倒くさい奴が基本ではあるがそこにちょっと色が付いていて楽しめる設定になっている。
主役の三宅弘城さんも大きな役ではないがテレビでたびたび見掛けるマッチョな方である。失礼ながらシリーズ物の舞台の主役をなさっているというのは意外であった。その意外性も見に行こうと思った理由のひとつではある。何でもこなす方なのであろうがこの執事役はピッタリはまっている。
他の出演者のうまさももちろんだが特に当主役の大堀こういちさんの安定した演技が印象に残った。
そういうわけで途中休憩なしの2時間5分は十分に楽しむことができた。

ネタバレBOX

強いて注文を付ければ、歌のシーンではギターのチューニングをしっかりして欲しいこと、キーを二階堂さんに合わせるべきだということの2点である。
オリジナルキーなのかもしれないが男性2人に合ったキーなのが気になった。
加えて、そこで他の4人もダンスで参加するとミュージカル好きの私は幸福感が2割増しになったと思う。
流行に迎合しても良いじゃないの。
ガラスの動物園

ガラスの動物園

東宝

シアタークリエ(東京都)

2021/12/12 (日) ~ 2021/12/30 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

テネシー・ウィリアムズの自伝的名作。しみじみと人生の切なさに浸ってみたい人におすすめ。

配役が私の感覚とはちょっとずれていたかな。星4つ半

なかなか失われない30年

なかなか失われない30年

Aga-risk Entertainment

新宿シアタートップス(東京都)

2024/04/27 (土) ~ 2024/05/06 (月)上演中

予約受付中

実演鑑賞

満足度★★★★★

アガリスク、スピードが速すぎ、情報量が多すぎだよ。ちょっと取り残された感があったのがつらい。

いつもの1シチュエーションコメディだが、今回はタイムスリップ物である。4つの時代がそれぞれ問題を抱えながら一つの場所に集まる。そこをしっかりと交通整理して進行させる、いつもの匠の技がさえる。

強いて主役を上げれば伊藤圭太さんと淺越岳人さんなのだろう。その中でも淺越さんの不思議な魅力が全編に行きわたっている。CoRich舞台芸術まつり!2023春 演技賞(『令和5年の廃刀令』)受賞は言われてみれば確かにという不意打ち感があったが、今作は受賞記念的なこともあって台本でも特別扱いがされているのだろう。堂々の存在感である。CoRichの審査委員さすがの慧眼。

山下雷舞さんもようやくアガリスクの仲間と認められたのだろう。主役級の大役を与えられて全力で応えていた。

クールビューティー鹿島ゆきこさんは今回は見せ場なし。榎並夕起さんは他の舞台とか映画とかの役作りなのか、激やせに見えてちょっと心配。江益凛ちゃんは全編元気で普通で私は不完全燃焼。おっさん目線ではどこか不安定で守ってあげたいと思わせてほしいのだ。そして今回の推しは雛形羽衣さん。ちょっと軽目のキャラだが将来の目標は国連難民高等弁務官であるという。この国連難民高等弁務官というリズムの良い言葉で3割うまい(何が?)。

アフタートークに登場した鈴木保奈美さん、去年の「セールスマンの死」ではどうもしっくりこなかったのだが、このフリートークでは頭の回転の速さが分かってさすがだなあと感心しきりだった。適切な話を反応よく繰り出してきてよどみがない。中田顕史郎さんによるとシアタートップスのトップスはあのチョコレートケーキのトップスなのだそうだ。昔は1階に店があったという。

仏の顔も三度までと言いますが、それはあくまで仏の場合ですので 鰹&栄螺

仏の顔も三度までと言いますが、それはあくまで仏の場合ですので 鰹&栄螺

ポップンマッシュルームチキン野郎

シアターKASSAI(東京都)

2017/10/04 (水) ~ 2017/10/15 (日)公演終了

満足度★★★★★

(栄螺を鑑賞)
最後のあいさつでfacebookに並べてcorichを挙げていた。corichが話題にされるのを初めて聞いたよ。

内容を一言で書けば「喧嘩別れした兄妹が30年の歳月を経て和解する人情喜劇」ということになる。そしてそこに硬軟、美醜、清濁、正邪、その他取り混ぜて大量にトッピングが載っている。
…ううむ先が続かない。こういうときは他の方の感想をカンニングしよう。

*この劇団の良さは「感情操作」の上手さにあると思いました。(c)itomasa7さん

ですよね。散々笑わされるものの、すっと人情ものに戻っている。

*「中東事変」が 暴れまわるんだろうな~ と思ってたけど、 最初だけで、 ちょっと物足りなさを感じました。(c)ガチャピンさん

インタビュービデオのクオリティも高くて、もったいないというか贅沢というか。
まあしかし、煽られて煽られて蹴落とされるというエアポケット的な快感がありました。

小岩崎小恵さんてどこかのバンドのボーカルかと調べてしまった。
いやいや絶対昔やってたでしょう。
そのまま役になりきって地下アイドルとして握手・チェキ・物販で稼ぎましょう(笑)

*大きな劇場やテレビ、映画での見せ方を知ってる人が、メジャーな場所ではできないことを、タガを外せる小劇場でやっちゃう面白ステージ。(c)数学者の奥さん

というまとめに納得。危ないところもギリギリセーフ、音楽も衣装もしっかりしているし、素人臭いところがないですよね。

ネタバレBOX

ここだけは滑りまくりでした。
*肩こりが長かった(c)naisen424さん
星屑バンプ

星屑バンプ

THE CONVOY

博品館劇場(東京都)

2017/09/07 (木) ~ 2017/09/24 (日)公演終了

満足度★★★★★

The CONVOY SHOW 不覚にも全然知らなかった。
ここで出会って人生の失点を最小限に食い止めた思いだ。

観客には男性ばかりのグループ(こういうところでは絶滅危惧種だ)も見かけたりしたが多くは女性である。若い方も多いが、かなり古い昭和ネタにも反応が良いので結構な年代の方もそれなりにいらっしゃるのだろう。
そのほとんどが昔からのなじみのようにアットホームな雰囲気を作り出している。
何をやっても笑ってやろうと待ち構えているお姉さんたちもたくさんいるようで、よそ者の私は「そこで笑うの???」と圧倒的なアウェー感に最初は押されっぱなしであった。

お目当てのダンスはまさにキレッキレでバレエ的な優雅さを排除したスピード感あふれるものだった。
1曲の時間が長く、普通なら終わるところで、さらに1コーラス2コーラスと続き、そうだそうだ、どんどん行けと心の中で叫んでしまった。
そして曲の数も多い。
ポーズも決まって拍手喝采、これで終演と思いきやそこから30分くらいも続いたような気がする。

男ばかり8人(内4人は若者)のダンスショーということで、「俺には無関係」となりそうだが人生踏み外すことも必要だ。騙されたと思って行ってみよう。
最初の30分の(今と昔の)お姉さん方の熱狂に同化しているかのように見せかけてしのいでいれば、そこから先には男性観客も大いに楽しめる世界が開けている。

くるんのぱー

くるんのぱー

ふくふくや

駅前劇場(東京都)

2017/11/01 (水) ~ 2017/11/12 (日)公演終了

満足度★★★★★

「ふくふくや」は初めてで、題名が「くるんのぱー」ということもあって、何か変わったことを仕掛けてくる劇団かと思っていました。しかし、全くそんなことはなく、芸達者の皆さんと達人脚本家の方が正統派の人情話を自在に料理し、単純な予定調和に陥らない極上のお芝居に仕上げてくれていました。

まあしかし何度も転がしてくれます。周りのファンの皆さんは転がす前のサインをしっかりと捕まえていたとのこと。私はそんなことにはまったく気づかず、なすがままに飛ばされていました。

アフタートークでリピーターの方から「歌手の三条きよし」に歌のリクエストがありました。なるほど25年も歌っているヒット曲だというのに鼻歌のひとつもなかったなあと共感していると、きよし役の岩田和浩さんはあきらかに動揺されたご様子。どうなるかなあと見守っていると「後からYouTubeで」という助け舟が出て岩田さんほっと一息。このファンの方にも星5つ!役者さん達とこういう濃いファンの方々が作る幸せな空間がここにあるのだなあと羨ましく感じました。

〜その企画、共謀につき〜『そして怒濤の伏線回収』

〜その企画、共謀につき〜『そして怒濤の伏線回収』

Aga-risk Entertainment

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2017/09/15 (金) ~ 2017/09/24 (日)公演終了

満足度★★★★★

女性アイドル界の2017年夏の最大の収穫が欅坂46の全国ツアー最終日幕張公演2日目であるとすれば、若手演劇界でのそれは間違いなくアガリスクエンターテイメントの本公演である。

綿密に練られたシナリオを得て、優秀な俳優陣がおそらく膨大な練習を積み上げ作った珠玉の作品を目の前で観ることができるのは今回が最後であろう。今はシアターミラクルの80席のキャパであるが次期公演からは10倍、20倍となり、それでもプレミアチケットとなって入手は困難となるはずだ。

なんてことを秋元康のAKB48の話に重ねて妄想した。
そして彼曰く「大衆が求めるものは何かを考えるのではなく大衆の一人である自分が面白いと思えるものをやれ」と。
常識人の私は伏線回収は多すぎると思うのだが、作り手が面白くてたまらず突き抜けたのだろう。
それで良いのだというのが秋元康の教えだ。
バリバリ突き進んで行ってもらいたいと思う。

脚本などをネット上で公開しているという。
いっそのこと動画をYouTubeで公開してはどうか。
編集して予告編とか最初の「はあ??」のところまでをダイジェストでとか。
iPhone1台を客席上部に固定したもので撮影すれば十分だろう。
動画を見ると絶対に実演が見たくなるはずだ。

欅坂46のセンターは声が出なくなったり、倒れたりしたらしい、
こちらのセンターもあの長台詞が最終日までもつのか非常に心配である。
気になる人は1日でも早く出かけてみることをお勧めする。
*「なんでいきなり欅坂46?」の伏線回収はできたぞ。……弱い弱い(笑)

BLIND HERO

BLIND HERO

演劇集団「バックドア」

小劇場B1(東京都)

2018/01/23 (火) ~ 2018/01/28 (日)公演終了

満足度★★★★★

いやあ、面白かった。久しぶりにスカッと笑えました。

チラシではシリアスな感じがするのですが(企画段階ではそういうテイストだったのかも)実際にはそんなところは微塵もありません。意外性重視でそういう表現にしたのでしょう。それも良いのですが観劇検討中の人をミスリードする恐れがあります。私もピアノとバイオリン目当てでした。

あからさまなキャッチコピーを作るなら「ゲス人間バトルロイヤル」とでもなるのでしょうか。私は“そうくるか”、“それはないよ”、“まさかあなたまで”という感じの呆れた仕業の連続に笑いが止まりませんでした(ちょっと盛ってます)。ナンセンス(?)・コメディ・ファンには絶対のお勧めです。

まだまだ試行錯誤を続けているようですし、俳優さんが一杯一杯になる場面も見受けられました。千秋楽に向かってどんどん進化して行くことでしょう。

ネタバレBOX

私のツボは終盤になって聖子ちゃんが首のあたりを見せるところです。十字架でも出てくるかと思ったらまさかの…でした。

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