latticeの観てきた!クチコミ一覧

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異邦人の庭

異邦人の庭

O企画

小劇場 楽園(東京都)

2022/08/31 (水) ~ 2022/09/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

舞台には長机が向かい合わせに置いてあり、そこに一脚ずつ椅子が付けられている。それらの二組はアクリル板(仮想)で遮られている。ここは死刑囚を収容する拘置所の面会室である。60分休憩なし。

登場人物
火口 詞葉(ひぐち ことは):死刑囚
一 春(にのまえ はる):劇作家

<あらすじはネタバレBOXに>

下敷きの下敷きとなっているのは座間市の9遺体遺棄事件である。この事件では犯人は男で精神的な問題を除けば疑問の余地のない殺人事件であって本作とはかなり違う。もっとも本作でも事件の全貌が語られることはないので実はよく分からないのだが犯人が女に変えられているので性的な犯行がないことは担保されている。しかしそのために小柄な女性に犯行が可能だったのか遺体の処理はどうしたのかなど疑問が生まれても来る。また普通なら怒るはずの春が見た目の柔らかさ優しさからむしろ親近感を増していったのは罪を憎んで人を憎まず的な主張の現れなのだろうが、綺麗ごとにまとめようとする安易さ、不自然さを感じる。いかにも凶悪に見える男を扱う方が本質的だろう。

狭い舞台での二人芝居なので大きな声も身振りも必要ないがそれでも映画とは違った芝居らしい演技が必要とされる。詞葉役の都築香弥子さんは地声と裏声を駆使して可愛い自分と強かな自分とをはっきりと使い分ける。春役の荻野貴継さんは要所要所での背景説明のナレーションは安定感があって良いものの時折見せるオーバーでリズムが崩れた言葉や動きがどうにも気になった。本当の意図を隠している心の動揺を表しているのだろうとは思うものの違和感が残る。

内容は「死刑囚豆知識」と「死刑制度豆知識」をちりばめて「自分の命は自分だけのものではない」と言いたいらしい。そういうわけで、この未来の死刑執行制度も本人の意志だけでは決められない仕組みになっている。私はこの考えにはずっと反対で「自分の命くらい自分で決めさせてくれよ」と考えていたが、日々体力の衰えを感じる今となっては、自分に関しては、自然なのか神なのかは知らないが大いなる力が適切に決めてくれるのだろうと悟りの境地である。

戯曲は以下で無料で読むことができる。
戯曲デジタルアーカイブ『異邦人の庭』
https://playtextdigitalarchive.com/drama/detail/387

ネタバレBOX

***あらすじここから***
令和6年の法律改正で死刑囚には死刑確定から5年間限定の執行日選択権が与えられることになったという近未来のお話。ただし、選択は本人の意志だけでは決められず父母あるいは配偶者の同意が必要となっているという。

火口詞葉(ひぐちことは)は、自殺願望を持つ7人の女性を殺害した罪で死刑判決を受け、この拘置所に収容されている。警察から逃れようとして事故に遭い当時の記憶を失っているが完璧な証拠により自分の犯行であることを認め、死刑を受け入れている。そこに劇作家の一春(にのまえはる)が取材のために面会に訪れる。詞葉は父母からは刑の執行の同意が得られずにいたため取材を受ける代わりに春に自分との結婚と死刑執行への同意を求める。春は求めに応じ取材がスタートする。

ほとんどの面会を断っていた詞葉が春の面会を受け入れたのは以前に観た演劇の作者としてその特異な名字を記憶していたからであった。二人の会話で春はバツイチであり、元妻はその劇に出演していた女優であることが分かる。

夫となった春の過去が気になったのかあるいは最初から動機に納得していなかったのか、詞葉は支援者に春の芝居の資料を集めてもらうと、そこには公判中に何度も見た被害者の一人の顔があった。春にとっては事件当時はすでに元妻だったが自殺をするような人ではなかったので何とも腑に落ちず事情を確かめるという目的もこの面会にはあったのだった。

しばらく経ったある日、死刑執行の同意書を求められた春は同時に離婚届も持参して詞葉に決定をゆだねる。これが最後の面会であろうと察した詞葉は教誨師から聞いた何人も隔たりもなく集う場所である「異邦人の庭」が、もしあの世にあったなら罪人の私にも会ってほしいと願い、春は同意する。
***あらすじここまで***
頭痛肩こり樋口一葉

頭痛肩こり樋口一葉

こまつ座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2022/08/05 (金) ~ 2022/08/28 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

樋口一葉を主人公にしているが、登場人物は母親と妹以外は創作であり幽霊まで出て来る。作者の頭に浮かんだ彼女の同時代の女性を描いた『明治女性図鑑』であり、それは別の井上作品「貧乏物語」と同様である。樋口一葉と聞くと「たけくらべ」「にごりえ」と反射的に答える受験知識しかない私でも十分に楽しめた。上手すぎる6人の女優さんによる素晴らしいエンターテインメントである。
ただし、明治時代の話なので前半40分くらいは話に入れずに困ってしまった。

ミス・サイゴン【7月24日~28日、8月22日~24日公演中止】

ミス・サイゴン【7月24日~28日、8月22日~24日公演中止】

東宝

帝国劇場(東京都)

2022/07/24 (日) ~ 2022/08/31 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

素晴らしい音楽と困惑するストーリー。

あらすじは「蝶々夫人」とほぼ同じで、背景をベトナム戦争にしただけである。「蝶々夫人」は相当な問題作でそれを下敷きにして新たな物語を作るというのがそもそも間違いだ。もっともクリスは戦争の混乱が原因でキムと離れざるを得なかったと理由が付いているし、蝶々さんが自死する理由がやや弱い点はトゥイを殺した罪の意識も加えて納得できるものになっている。そこはさすがに見過ごせなかったのだろう。しかしその代わりに作者のベトナム戦争感が明らかになり、トゥイのあまりに酷で雑な扱いはアジア人感をも想像させるという副作用をもたらした。

世界4大ミュージカル(*)の未観の最後のものだったが、欧米の作品を盲目的に有難がるのはもう止めようと今更ながら反省した。(*)他の3つは『レ・ミゼラブル』、『オペラ座の怪人』と『キャッツ』

ネタバレBOX

高橋雄一郎『ミス・サイゴンと日本』東京医科歯科大学教養部研究紀要25(1995)21-31
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kyoyobukiyo/25/0/25_66/_pdf
が非常に興味深い。
ザ・ウェルキン【7月21日~24日公演中止】

ザ・ウェルキン【7月21日~24日公演中止】

シス・カンパニー

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2022/07/07 (木) ~ 2022/07/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

演出の加藤拓也さんはパンフレットで
 「この作品は『十二人の怒れる男』を彷彿とさせる裁判劇であると同時に、」
と書いているが「十二人の…」とは全く違うし、本質的には裁判劇ですらない。リスペクトしている部分はあるけれど「彷彿とさせる」ことはない。

加藤さんは続けて
 「妊娠や出産、家事労働の一切を強いられる女性たち、その存在と人生に焦点を当てた作品です。」
と書いている。こちらが適切でそういう作品なのだ。宣伝文もそちらで書くのがまともな商売だと思う。そのうちこの方面にもコンプライアンス問題が出てくるかもしれない。

お芝居そのものは「どうしてそんな人がここに」とか「何でこの人がこんなことをするの」とかの疑問が後半で回収されて行くのは結構楽しい。俳優さんでは長谷川稀世さんの独特の雰囲気はとても心地良かった。一方で最初の暗い場面は目が疲れるだけであり、次の光る宣誓台は違和感しかない。

ネタバレBOX

最初の段落に補足すると
論理的に事態が進展することはなく、ほとんどの人物は最初の直感にこだわるばかりである。
abc♢赤坂ビーンズクラブ

abc♢赤坂ビーンズクラブ

エヌオーフォー No.4

赤坂RED/THEATER(東京都)

2022/07/07 (木) ~ 2022/07/18 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

コントに歌とダンスそしてクラリネットとアルトサックスまで出て来てこれはもう令和の「シャボン玉ホリデー」だ。まあでも曲は懐メロではなくオリジナルで昭和の番組と一緒にしては叱られるかも。いやでもギターの弾き語りはあいみょんよりは山崎ハコに近かったなあ、でも恨み節ではないから吉田拓郎か。休憩なしの85分。

出演は17歳から30歳までの10人の粒ぞろいの美女群団。芝居の発声もしっかりしていてダンスもキレッキレッ。私の守備範囲では全く見かけたことのない方々で素晴らしい才能に出会えてとても嬉しい。*私が知らないだけで結構有名な方々らしい。

まだ2ステージ目でこなれていないところもあるがどんどん改善されて行くことだろう。
点数をつけるならコントは80点、歌は75点、ダンスは85点、そして大野まりかさんのクラリネットは120点である。芝居全体の満足度はこれからの期待も込めて星5つ。

拍手のするしないが難しいのでもっと分かりやすい演出にしてほしい。お客さんの拍手を引き出すのも演出の技術だ。前に観た韓国発のミュージカルではどんなに短い曲でもド派手にジャジャジャーンと終わるので拍手せざるを得なかった。まあそれはちょっとやりすぎ感があったけれど。

ラインダンスがあれば更に良いのだけれど衣装代で大赤字確実だ。あとは誰かキーボードの基礎のある人を特訓してキーボード+クラリネット+アルトサックスのインストルメンタルとコーラスを入れたものも欲しい…きりがないね(笑)

昭和のおじさんが大好きな「シャボン玉ホリデー」はこちら
「すずかけの道 鈴木章治、ザ・ピーナツ、安田伸」
https://www.youtube.com/watch?v=Rhk6ah-x-90

おまけ:「説明」でプロデューサーである難波利幸さんが
『キャスティングは昔から好きな彼女たち。ライザ・ミネリ、ゴールディ・ホーン、 ヴィヴィアン・リー、ベッド・ミドラー、 フェイダナウェイ、ミア・ファロー、モンロー…に、一番近いところにいる日本の女優。』
と書いている。この「一番近いところにいる」の意味が分からなかったがどうやら見た目のことらしい。彼の眼にはそう見えるということなのだ。10人対7人で数が合わないが重複可ということで考えながら観るのも一興かも。「…」を独自に補うのもありだ。

ディグ・ディグ・フレイミング!

ディグ・ディグ・フレイミング!

範宙遊泳

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2022/06/25 (土) ~ 2022/07/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

席はすべて自由席でチケットの番号順に開演30分前から呼び出される。私は60番台だったが最前列にはまだいくつも空きがあった。なんか皆さんガツガツと良席に殺到するということはないみたいだ。

インターネットの炎上というとあの女子プロレスラーの事件がまず頭に浮かぶ。その話かと思っていたがこの劇は4人組のYouTuberが加害者にも被害者にもなる話で途中でこちらの頭を切り替えた。外の暑さのせいか、会場の冷房が効きすぎていたせいか、はたまた私の知らない隠喩が沢山あったのか、何とも理解できていない気分である。

満足度は私が受け取れた限りではテーマは常識的で星3つ、演劇としてはバラエティに富んでいて星4つというところ。村岡希美さんのストレートな怪演が嬉しい。

ネタバレBOX

観終わってから散々頭を働かせて理解できたことは以下の通り。

あらすじ:
「4人組のYouTuberが謝罪を求められ、過去の番組を振り返ってみるが思い当たるものはない。とうとう被害者の母親なる人物が登場するが調べてみると彼女の受け取り方が間違っていただけであった。その炎上の過程で4人組は誹謗中傷を受けて登録者がゼロになり、ノイローゼから死を意識するメンバーも出て来る。そして「死」は全員を巻き込みすべてを終わらせるように見えたが善意の視聴者のおかげで寸前で助かることになる。」

「ロボットじゃない私」というのは誹謗中傷を受ける私も誹謗中傷を行う私もどちらも血も涙もある存在だということなのだろう。

受け止めることができたことをまとめると
・コミュニケーションにおいてお互いの受け取り方に違いから混乱が生じる。とくに文字によるもので顕著である。
・その混乱は人々の肉体も精神も傷つける。
・適切な治療や援助が必要であり、その主体になりたいものだ。
となる。まあこの辺が私の限界だ。

あの「死」のオブジェは文字通りの意味ではなく心や体を蝕むすべてのものを代表していると受け止めている。
夏芙蓉/ふぶきのあした

夏芙蓉/ふぶきのあした

くじら座なごや

スタジオ空洞(東京都)

2022/06/17 (金) ~ 2022/06/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

高校演劇のスタンダードを作り続けている越智優の作品2本を休憩なしに続けて上演する。どちらも60分(高校演劇大会の規定らしい)。

『夏芙蓉』
はるか昔、私の高校の文化祭ではよく分からない抽象劇をやっていた。あれがもし本作のような美しいファンタジーだったならその後の私の演劇に対する態度も違っていたかもしれない、と言いたいところだがガサツな男子高校生は1ミリも共感できなかっただっただろう(遠い目)。そしてまた今となっては共感するには年をとりすぎている。このように観る側にも適齢期があるのだ。ましてや演じる側をや。今回の女優の皆さんはこれがギリギリの賞味(演技)期限だろう。

千鶴役の竹田百花さん:真面目でドンくさい表現が絶品だ。一緒に観た友人が「普段からこういうしゃべり方なんでしょうね」というくらいうまい。あれ?もしかして友人が正しいのか?
由利役の西田真実子さん:こういうアホっぽくて憎めない娘が確かにいた。こちらもうますぎて普段からこういう人なのだろう疑惑が出る。
舞子役の東出薫さん:美しい瞳はマスク着用の今回なお一層輝いていた。
サエ役の利藤早紀さん:急遽代役で台本を持っての演技だったが全く不安を感じるところはなかった。

『ふぶきのあした』
「大吹雪と大寒波で孤立した学校内に取り残された学年もバラバラな10数人の高校生たち。外に出て死にそうになる者も出て地球の最後ではないかと大混乱に陥る」
という点ではパニックもののようであり、
「タイトルロールである女子高生「ふぶき」が現実感のない行動や挑戦的な発言を繰り返す」
という点ではファンタジーもののようでもあり、
「実は目的があって残っていた人もいて突然の告白を始める」
という点では秘めた純愛ものでもある。
つまりは高校生活あるある集にいろいろ盛ってみましたということなのだろう。

というのが一応の私の結論なのだが「自殺しようとしている吉沢君を「ふぶき」が見守っていた」というエピソードは大きな柱のはずで二人だけのシーンが3回もあるのだが印象が薄い。実は「ふぶき」は雪女で吹雪を起こして彼の自殺を阻止したという話とも思えるが、結局「ふぶき」は現実の存在(ですよね?)ということなのでそれはない。何とも消化不良が残っている。…そういう狙いだとすると意地が悪い。

ゴンドラ

ゴンドラ

マチルダアパルトマン

下北沢 スターダスト(東京都)

2022/06/15 (水) ~ 2022/06/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

白に続いて赤も鑑賞。もしかすると内容が異なるかと思ったが同じだった。でも俳優さんによって受ける印象はまるで違う。白の兄は細身で昔の自分に同化できたが赤の兄は頑丈な体躯でずっと他人のままだった。続いて青も観た。さすがに3つも観ると細かなエピソードがあったりなかったり微妙に違っていることがよく分かる(*)。この青の兄は寝て起きたばかりの隣のあんちゃんという感じで感情移入までには至らなかった。満足度は 白:星5つ、赤:星4つ、青:星3つ。観た順番が大きく影響する。

(*)青では妹が兄にコップの水をかける、赤では兄が使っていた食器をヘルパーさんに渡す、パソコンが最初からあるか、兄が買い物から帰って来た時に手ぶらかとかは分かった。立っている場所が異なるのは多数。

池亀三太さんはワンルーム、登場人物3人の話を書く魔術師である。よくもまあこんな物理的にも精神的にも狭い世界から人前に供するに値する80分の作品をひねり出すものだと感心する。そして我々はわずかな想像力を発揮するだけでその世界に安心して浸りこむことができる。そんな作品群をこれからはアパルトマンシリーズと名付けて世に出して行くという。これはその第一弾である。あれ、何かYouTubeでいうところの案件くさいなあ(笑)

さてゴンドラそして観覧車は何を意味しているのだろうか。段々と非日常に昇って行き期待に胸が高まり頂点に達してまた段々と降りて来る他では味わえない世界というのがこの舞台で語られることである。この表設定に関して、私は真に驚くべき裏設定を見つけたが、ここはそれを書くには恥ずかしすぎる。

ネタバレBOX


ではこちらでこっそりと。クレームは受け付けない(笑)
電車には両端があるけれど観覧車に端はないということ。
舞台は客席から見ると
(理屈っぽい)兄ーー(常識派の)妹ーー(何にも知らない)ヘルパーさん
という一直線の電車構造になっている。
しかし、これを上から見ると3人は観覧車のような輪になっている。兄とヘルパーさんは妹という常識の壁で隔てられているように見えて実はこちら側からつながっているのだ。それを確認するように最後、ヘルパーさんの「時間は腐らない」という主張は現代の宇宙論に一致すると兄は驚き、妹は全く理解できないのだがヘルパーさんは確信を持って「ハイ」と2回答えるのであった。
「宇宙論の先には素粒子論があり、人生を極めると何も知らなかった赤子の精神に戻る。そんなことを教えてくれた。ありがとう池亀三太さん(NOBU塾風に読んでね)」
パンドラの鐘

パンドラの鐘

Bunkamura

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2022/06/06 (月) ~ 2022/06/28 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

原爆投下と天皇の戦争責任がテーマらしい。まあしかし観客の多くはそんなことは無視してバラエティとして楽しんでいるようだ。それが正解だね。140分休みなし。
前田敦子さんのはずんだ演技が心地良い。

貴婦人の来訪

貴婦人の来訪

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2022/06/01 (水) ~ 2022/06/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

シリーズ「声 議論, 正論, 極論, 批判, 対話...の物語」の第3弾。
前2作と違い有名な戯曲で初演は1956年、今までに映画とミュージカルにもなっている。正統的で万人向けの作品である。第1弾2弾との連続性、関連性は全く感じられない。あの二つは何だったの??

「金で恨みを晴らす」のは(必殺)仕事人だが、少し状況を変え「金で正義を買う」と言い換えると誰もが仕事人になるかもしれないというお話(詳しくは「説明」にある)。生贄とか人柱の現代版であるし「罪と罰」にも通じるところがある。人を殺すというのは極端なたとえであるが、最後の町長の演説と町民の熱狂は今も昔も国レベルでもご近所さんレベルでもよくあることだよなあと考えさせられた。

出演者も秋山菜津子さんと相島一之さんという有名実力者をそろえていて、この怪しい童話を親しみやすいものにしている。町民が貧しいようには見えないのが不満だったけれど「これはあなたの話なのですよ」と思わせるためにわざとそうしているのかもしれない。

チラシに描かれた町の様子が想像力を補ってくれるでしょう。

四月は君の嘘

四月は君の嘘

東宝/フジテレビジョン

日生劇場(東京都)

2022/05/07 (土) ~ 2022/05/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

月刊少年マガジンの連載(2011/5~2015/3)でアニメ化、実写映画化、舞台化もされている人気作品。ミュージカル化はコロナ禍で延期になり今回が初演となる。

4人の中学3年生の出会いと別れの物語。「説明」にあるストーリーを読めば分かるように全く年寄り向きではない。気持ちとしては「お邪魔でしょうけど観せてください」というところか。しかし前方席を見ると白い方や少ない方もチラホラいらして安心する。そして余計な茶々を考えずに集中しているとどんどん面白くなっていった。なかなか良いじゃないか。

主役脇役陣はもちろん快調だ。そしてそれ以上にアンサンブルの若者たちの歌とダンスが素晴らしい。特に大勢のコーラスが鮮明でバランスよく大迫力で、これまで聞いたことのない音の波が押し寄せて来る。スタジオ録音ではないかと疑ってしまうほどだ。大劇場のミュージカルはいつもデュエットでさえ濁ってしまうのに今日はPAの技術者が優秀だったのだろうか。いや素晴らしい。

しかし、どういうわけかカーテンコールで誰も立たなかった。ダブルコールで立つ準備をしていたが何も起こらずに終わってしまった。良い出来だったのに。こういうのは自然発生することもあるけれど熱心なリピーターが先導するものと勝手に思っていたのだが今日は皆さんお休みだったのかな。まあいずれにしろ明日からの観客の皆さんはダブルコールで立ち上がるようにしましょう。

奇跡の人

奇跡の人

ホリプロ

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2022/05/18 (水) ~ 2022/06/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

2回の休憩を含めて3時間半の長丁場だが一度も居眠りはしなかった…となぜか威張ってみる。

「奇跡の人」というとアン・バンクロフトのアニー・サリバンとパティー・デュークのヘレン・ケラーによる映画が有名である。私も映画好きの母に連れられて行っていても不思議ではない時期である(残念ながら記憶はない)。私より後の世代の少女漫画好きの方には「ガラスの仮面」の劇中劇として姫川歌子のアニーと姫川亜弓/北島マヤ(ダブルキャスト)のヘレンでおなじみだろう。単行本の9巻最後から12巻に渡って描かれていて、そのうち11巻後半から12巻前半の歌子・亜弓親子によるオーソドックスな舞台の全容は「奇跡の人」の見どころを網羅した優れたガイドになっている。40数年ぶりに(今回はkindleでこの4巻を買って)再読したが少し震えながら一気読みしてしまった。

アン・バンクロフトは映画「卒業」でダスティン・ホフマンを誘惑するミセス・ロビンソン役のイメージが強烈である。そして姫川歌子も亜弓の母でベテラン女優である。どちらにしても内容を知らずに印象だけでアニーをベテランの厳しい先生だと私が誤解していたのも無理はない。実際はアニーがヘレンのところに派遣されたのは20才と11か月のときであり、盲学校を卒業してすぐの新米教師であった。なので高畑充希さんのアニーでもまだ年齢が高すぎるのだが7才のヘレンを20才前後の女優さんが演じるのだからバランス的には妥当なのだろう。

本舞台は私の期待・想像よりかなりコミカルな作りであった。演出家の狙いなのか現代的な事情によるものなのか分からないが、もっとシリアスならもっと泣けたのにとちょっと残念ではある。でも納得のスタンディング・オベーション。

高畑充希さん(アニー):前に観た舞台でもそうだが、素人目には難役も余裕でこなしているように見えてしまう。実際は一杯一杯なのかもしれないが、7月下旬からの「ミス・サイゴン」では苦しんでいるところを観たい気もする。
平祐奈さん(ヘレン):セリフは最後にWaterと言おうとしてウーと唸る一つだけである。3時間ずっと表情の変化を抑えてその時を待つのである。初舞台がセリフなしというのは素人目にも厳しさが想像される。しかしダブルコール時に観客が一斉に立ち上がって迎えてくれるのは病みつきになるだろうなあ。それから私は映画「暗黒女子」での陰のある美少女役に痺れたが、近くのサッカーファンらしきご婦人には「長友の嫁の妹」なのだった。まあ長友選手が平祐奈の姉の旦那と呼ばれる日も遠くはないだろう。
池田成志さん(ヘレンの父):シリアスとコミカルが瞬時に切り替わってどちらも自然。うますぎる。
村川絵梨さん(ヘレンの母):この役がコミカルな要素の少ない一番普通な設定であった。ひたむきな愛情を注ぐ母のぶれない演技は全体の基準線になっていた気がする。落ち着いた美しさが印象深い。
そして本舞台の一押しは盲学校の生徒たち。短い出番だが大いに癒された。

グリーン・マーダー・ケース×ビショップ・マーダー・ケース

グリーン・マーダー・ケース×ビショップ・マーダー・ケース

Mo’xtra Produce

吉祥寺シアター(東京都)

2022/05/13 (金) ~ 2022/05/19 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

「グリーン家殺人事件」の話を膨らませたもの。登場人物を変えてしまっているので試みの面白味は半減している。サイモン・ブレイって誰よ。ここまで原作を崩すならオリジナルな推理劇を創れば良いのにと思うがそれでは客を呼べないので有名作に便乗したのだろう。原作の世界観は「鵺的」あたりがやればぴったりなおどろおどろしいものだが本舞台はドタバタ喜劇風でリスペクトのなさに呆れた。
もっとも、こんなややこしい展開をスムーズにさばいて行く作者の構成力は素晴らしいと思う。

「ビショップ…」も観たけれど「グリーン…」とまったく同じ感想を持った。そして役者が大きな声で大げさな身振りをするだけで観客席がどっと沸くので、来てはいけないところに来てしまったことを悟った。

これを機会に50数年ぶりに二つの原作を読んだが面白いもののすでに歴史資料になっている感は否めない。本舞台のような改変は不可欠であることも確かである。次回は題名を「グリーン・マーダー・ケース異聞」とか「お笑いビショップ・マーダー・ケース」とでもしてもらえれば誤解して観に行くことを避けられるだろう。

衣人館 / 食物園

衣人館 / 食物園

牡丹茶房

ギャラリーLE DECO(東京都)

2022/05/11 (水) ~ 2022/05/15 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

「衣人館」を観劇
ジャンルはホラーだろうか、真剣に観ると精神を蝕まれそうだ。あまりお勧めするというものではないが演劇としての出来はなかなかなものだと思う。しかし、こういうものはそのまま観るべきなのか何か別のことを想起するべきなのか塩梅が分からない。

ネタバレBOX

あらすじ
「可愛い」を追い求める若い女性、集めた衣服で壁を埋め尽くし、トイレから台所まで好みの装飾を施している。師と仰いでいたカリスマの変調もあって、独自の美の完成を目指すことになる。衣服を厳選し、最後は自分の身体にまで…。
民衆が敵

民衆が敵

ワンツーワークス

ザ・ポケット(東京都)

2022/05/05 (木) ~ 2022/05/15 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

「説明」には
 「匿名の正義」と、どう向き合えばいいのか?
 いびつな情報化社会の根底に巣くうものの正体が浮かびあがる……。
と書かれているが私にはどうもそういう話とは思えなかった。

軽快な場面転換もあって2時間飽きることなく楽しめた。しかし論点がいくつもあって見る角度も変わり作品の方向性はよく分からなかった。

奥村洋治さんはいつもの味のあるおとうさん、関谷美香子さんの官房情報調査室リーダーは怖くてはまり役。そして今日の一押しは官調室員と養護教員の東史子さん、きりりとした可愛さにやられた。


ロビー・ヒーロー

ロビー・ヒーロー

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2022/05/06 (金) ~ 2022/05/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

シリーズ「声 議論, 正論, 極論, 批判, 対話...の物語」の第2弾。第1弾と違ってすべてが明瞭である。でも無駄に長い(泣)85分+15分休憩+75分

警備員のジェフ(中村蒼)と監督役の上司ウィリアム(板橋駿谷)、ウィリアムの友人の警察官ビル(瑞木健太郎)と試用期間中の新人女性警官ドーン(岡本玲)の4人のお話。弟が犯したらしい殺人事件のアリバイをウィリアムが偽証したことで4人は複雑にそして歪に絡み合って行く…(CoRichの説明はもう少し詳しい)。

マイケル・サンデル入門のようなジレンマがテーマ。本来一人の問題だが、4人が雁字搦めになる状況を作り出す作者の力量は素晴らしい。そうなのだけれど、そのための準備に全体の4分の3の120分が費やされる。途中休憩ではまだまだ話が見えず、帰ってしまおうかと思うくらいだった。

4人の俳優さんは皆さんうまい。とくにジェフ役の中村さんの軽薄でしつこい演技は素晴らしく、そのために私のイライラが高じてしまう。血圧が高い人(含私)は観ない方が良いかもしれない。これもまた困ったジレンマである。

先日読んだ若い作家の小説は余計な記述が一切なく何とも味気無さを感じたが、この戯曲はというと半分は無駄でできている。その無駄と見える部分を楽しめるようになれば私も成長したということになるのだろうが今のところは「全体で120分以内におさめてくれれば、もっとすっきりと鑑賞できたと思う」となってしまう。

グレーな十人の娘

グレーな十人の娘

劇団競泳水着

新宿シアタートップス(東京都)

2022/04/21 (木) ~ 2022/04/29 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

評価が分かれているのはなぜ?と雨の新宿へ。

もしミステリだと思って観たのなら私も怒りの星1つだっただろう。実際は皆さんの「観てきた!」をさらっと読んで心の準備をしていたので「まあこんなものか」と諦めの星2つである。理由は書きつくされているので繰り返さない。舞台よりも皆さんの力のこもった「観てきた!」が面白く非常にためになった。タダで読ませてもらって申し訳ないくらいだ。

今回は好みとはかけ離れていたが、話の進め方、セリフの巧みさなどからこの劇団の普段の舞台はかなり魅力的なものと想像される。“ミステリーでなければ”また観に行ってみたい。

俳優さんは皆さんお金の取れる立派な方々である。その中でも江益凛ちゃんの永遠の子供振りに心を癒され、小川夏鈴さんのクールでクリアな声と姿には心を奪われてしまった。ここで星プラス1である。

ネタバレBOX

『オリエント急行殺人事件』で、乗客は全員代行業者でした、というようなもの。全員が偽証しナイフを降ろすのだが、「仕事の依頼があったのでやりました」で済ましてしまう。いやそれって代行業じゃなくて悪の組織でしょう(笑)
殺人も窃盗もしてないよということかもしれないが「睡眠薬入りの飲み物を飲ませる」というのは立派な傷害罪だし、それ以前に普通の人は赤の他人に睡眠薬を飲ませることはできない。「さっきは睡眠薬を飲ませてごめんね。テヘペロ」では済まされないのだ。
セールスマンの死

セールスマンの死

パルコ・プロデュース

PARCO劇場(東京都)

2022/04/04 (月) ~ 2022/04/29 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

75分+20分休憩+75分。2018年の舞台(NHK-BSで観劇)は正味180分を超えていたので30分も短く、エピソードをかなりカットしていることが分かる。

素のPARCOの舞台の中央に冷蔵庫だけが置かれていて、そこにセットが移動してくる。常にガランとして広さを持て余していると思ったが家族の心の空虚さを感じるべきだったのかもしれない(ガランとしていると感じたなら演出の狙い通りなのだろう)。

外国から人を招いて斬新な試みをしてもらうことはもちろん大切だ。それは分かった上で今回の演出の好き嫌いを言えば、いろいろ動き回るのが煩わしく、やはりこの劇は素朴が一番という身も蓋もない結論になる。

父と息子の話が大きな柱ではあるのだが、特に父と長男の話であると感じた。昔は長男が家督を相続することもあって長男第一主義だった。ウィリー本人は長男ではなく、そのことで悲哀を味わったこともあっただろう(そんなことは書かれていないけれど)がそれでも長男を溺愛し期待してしまうのである。以上は私の父と重なるがための勝手な想像であるが、次男の影の薄さはしっかり意図して書かれたはずである。

お話は現在と10数年前の幸せだった時代が場面転換もなく連続するのだが、最初の回想シーン以外でははっきりとした目印がなく混乱しそうになる。2018年では母(片平なぎさ)の声質で区別していたが分かりやすい反面、若干のわざとらしさがあったかもしれない。まあしかし、この片平さんは最高だった。今回の鈴木保奈美さんの現代的な妻はちょっと好みではなかった。

ネタバレBOX

冷蔵庫の意味をTakashi Kitamuraさんの観てきた!に教えられた。なーるほど。冷蔵庫だけがずっと固定されていた意味はそれなのか。すると他のものをすべて移動式にした意味が分かってきたがすでに書いた感想はそのまま残しておこう。まあしかし冷蔵庫に入って行った瞬間にあれは棺桶のメタファーだったのかと気が付かなければ演出家も報われないなあ。いやあ申し訳ない。
神州無頼街

神州無頼街

劇団☆新感線

東京建物 Brillia HALL(東京都)

2022/04/26 (火) ~ 2022/05/28 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

劇団☆新感線のFull Specの新作。待望のお祭り騒ぎ劇(withヘビメタ)である。初回のせいかカーテンコールが数えきれないほどあった(5回?、最近は3までしか数えられない 笑泣)。75分+20分休憩+95分

あらすじ:清水の次郎長を襲った身堂(みどう)一族を追って永流(ながる、福士蒼汰)は富士の麓にある一族の支配する神州無頼街に向かう。彼らがサソリの毒という中国伝来の暗殺術を使ったことから、永流は一族の長である蛇蝎(だかつ、髙嶋政宏)がかつて自分にその術を教え行方不明になっている父ではないかとアジトに潜入して探るのだが…。(もっと詳しいあらすじは「説明」にあります)

蛇蝎の妻の麗波(うるは、松雪泰子)はある大きな秘密を抱えていて、主役の二人(福士さんと宮野真守さん)に勝るとも劣らない大活躍をする。松雪さんファン(含私)は必見である。事前に分かっていればもっと良い席をとるように頑張ったのに(泣)

豊洲の回転舞台(客席)用に書いたのではないかと思わせるところが多数あってかなり残念。「豊洲なら星6つだっただろう」というのは言ってはいけない約束なのだろうか。

Brillia HALLは音響が良くない。3階だったこともあるのかギターもボーカルもボコボコモコモコで聞き取れない。そのためか半数くらいの歌には字幕が出る。もっともお祭り騒ぎなので歌詞は分からなくても良いのではあるが。

アンチポデス【4月3日、4日のプレビュー、4月8日~13日公演中止】

アンチポデス【4月3日、4日のプレビュー、4月8日~13日公演中止】

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2022/04/03 (日) ~ 2022/04/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度

面白くも何ともない。以上

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