コナンが投票した舞台芸術アワード!

2018年度 1-10位と総評
happiest

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happiest

みどり人

感情移入とは何も自分と同じ境遇だからするとは限らないことを強く実感できた作品でした。
たとえ生活環境や性格、性別さえも違っていても、今何を思い何に苦しんでいるのかしっかり伝わってくる人物を目の前にした時、その人物の喜びや哀しみがダイレクトに突き刺さってくる醍醐味。

鋭い観察眼、それをしっかり演じきった全ての登場人物の姿に逐一頷き、そしてついつい笑わかされてしまいますが、時折襲ってくるヒリヒリする痛み。
この痛みがきっと「孤独」という厄介な感情なのでしょう。

作者の視点は意地悪いほどに人の言動を掌握しており、それが故にひょっとして人間嫌いなのではないかと思えたりするのですが、いやいや人間愛がしっかり根底に流れておりました。
もう、どうしようもなく泣けてきます。

舞台は基本的に素舞台なのですが、奥の一角だけ超リアルで明らかに独身男のものと分かる部屋が。
もう住人の体臭が漂ってきそうなほどリアル。
その部屋の住人は観劇マニアにして、とある劇団の大ファン。
何故ここだけがこんなにリアルに創られていたのか・・・
舞台を魅せるセンスに完全脱帽です。

慕情の部屋 2018

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慕情の部屋 2018

スポンジ

事件のあらましが分かっているうえで、登場人物達と同じ空気を吸い、その事件の経緯を“生”の目撃者として、罠に絡まっていく感覚と共に体感できるスタイルの公演でした。
このライブな面白さは映像では絶対無理。
役者さんが各役柄を等身大で自然に演じられているので、メチャクチャ入り込めました。

何しろ扱っているのが殺人事件なので重く暗い空気に包まれるかと思いきや、ごく日常の延長線上にある世界観、獄中シーンでさえも「実際こんな感じなのか」と興味深く見入ってしまいます。

再演という事で前作は拝見していないのですが、間違いなく相当のブラッシュアップがなされていると確信できる公演で、いろんなシーンに対応したセットの工夫や、立体感ある音響等、絶妙な演技と共に大いに楽しませて頂きました。

一番の被害者はもちろん旦那とその家族ですが、純情を巧みにもてあそばれた挙句、犯行に搔き立てられた若者の青さが不憫でならない。
愚かだったとはいえ、彼の未だ呆然とした中に湧き上がる悔しさが伝わってきます。
若者を一気に落としにかかった主婦の滑った唇が艶めかしくも、恐ろしいです。

実際描かれたシーンの他にも様々な心理戦略の過程、やり取りがあったであろう事がイメージできてしまい・・・そういえばよく考えると実際の殺人シーンは無かったのですね・・・スゴイ表現力!(脳内ではしっかり存在しています)

自在の時系列、ラストシーンは当然獄中かと思いきや心憎いシーンで幕。
もっともっと沢山拍手を送りたかったのに、ちょっと呆気に取られた形で劇場をあとにしたのが唯一心残りです。

顔!!!

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顔!!!

艶∞ポリス

観客席から観ると大鏡の向こう側からテレビ局楽屋の様子を一望しているかの様な仕様。
幕が上がる(ライトアップする)と目の前にド~ンと出現しました、すっごい美人さん!
ただその冴えないオーラからすると、満たされていない事は明らかなのですが、いったい・・・

作者の方はTV局もしくはそれに関連した仕事経験アリか、でなければ相当な調査をされているものと思われ、舞台上の楽屋ではさもありなんと思わず納得に次ぐ納得の超現実的エッセンスが盛り沢山。
『ドラマ』よりもシビアで面白い『楽屋裏でのドラマ』が繰り広げられていました。
これまでTV番組等でも“業界モノ”はあったかもしれませんが、この舞台表現力の生々しさたるや本作の前では全て吹き飛んでしまいます。
登場する女優さんにしろメイキャップさんにしろ自分自身が売りモノなだけあって実に個性的。(いや局のスタッフ、マネージャーさんもかなりきっつい面々)
作者さんの意図するところは「美人はつらいよ」かもしれませんが、私には「美人であろうとなかろうと女はつらいよ」に受け取れました。
むしろ美人女優さんには「こんな生き馬の目を抜く芸能界に身を置くのなら、“枕上等”くらいのしたたかさがないと生き抜けないんじゃないのか」と思ってしまったのですが言い過ぎでしょうか。

何気に笑いどころ満載なところを含め、もう最高!!に楽しめましたが、女性の方なら、どこか身に覚えがある事もあったりして(無かったら無い事に対して)よりヒリつく様な面白さを味わえるのではないかと思いました。

しかし男性陣、ワルいなーと思って観ていましたが、「“枕上等”くらいのしたたかさがないと生き抜けないんじゃないのか」的な発言が劇中男性スタッフさんの口からもあった事を書いた後思い出しました。こりゃいか~ん!
めちゃくちゃ頑張っていたのに美人女優さん・・・何を見ていたんだと反省。

コーラボトルベイビーズ

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コーラボトルベイビーズ

第27班

一言でいってしまえば「家族」の物語という事になるのでしょうが、あまりにもいろんな感情が染み出してくる深い味わいに驚きました。
現在進行している2方向からの描写や過去の情景等々、演劇テクニック的に何という手法が施されていたのかよく分かりませんが、料理なら「うまッ、コレいったいどうやって作ってんの?こんなの家じゃ絶対できないわー」的な感じ。(う~ん、伝わるのか、この表現で)
作中では家族の歴史とは全く関係のない、おバカな男3人衆がスゴくいいスパイスになっていたのは確かだと思うのですが。

幸いにも自分の父親は本作の様なダメ親父ではないし、家族構成的にも全く異なるので、共感するには遠く離れているはずなのに、だからといってよその変わった家族をただ鑑賞してきたというには、あまりにも心打たれる感触が生々しい。
悩み多き思春期の甘酸っぱさや苦みがたっぷり染み込んだ「家族時代」に培われたものが、親元を遠く離れた現在に、良くも悪くもしっかり繋がっている事をしみじみと噛みしめてしまうからでしょうか。

らん

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らん

秦組

観劇後の満足感というのは「面白かった!」「感動した!」等の手土産をどれだけぶら下げて帰れるかともいえますが、まさに大漁!もう胸いっぱい、お腹いっぱいです。

悪政に苦しむ極貧の村民、更なる底辺に属する毒地で暮らす賤民の人々。
その一人、苛酷な境遇ながらも賤民ゆえの逞しさと結束の強さに包まれ、青春グラフティーさながらに恋をし、明るさ、真っ直ぐさで楽しませてくれる少女。
しかしその先には、青春モノというにはあまりに血生臭く、少女はおろか彼女を祭り上げ、裏で画策する大人達さえもドツボの争いに巻き込こんでいく悲劇。

観劇前には「予言」というキーワードから『マクベス』をイメージするところがありましたが、実に日本人的泥臭さと、闇が光を、光が闇をより際立たせるコントラストが鮮やかな展開で振り幅大きく心揺さぶられました。
ふんだんに盛り込まれた殺陣シーンでは、どれもが単純に善と悪が争う図式に当てはまらず、両者のバックボーンが充分刷り込まれている為、どちらが斬られても「あ~っやられちまった!」と心穏やかではいられない連続・・・

今年初の感動泣き。
「より激しく、より切なく、より残酷に・・・」
感極まり、気持ちいいくらい涙たくさん流させて頂きました。

主演2名が未成年、ソワレは終演時間に規制がかかる為、凝縮されたバージョンとなり、マチネの回はそこを気にせずに上演時間も若干長くなっています。と作・演出家さんからの説明。
研ぎ澄まされたソワレのバージョンの方が好みだと考える方もおられると思いますが、私は創り手の表現したいモノが全部つまったバージョンなら、もう大歓迎。
実際、長さなど意識するヒマもなく、終始全て丸ごと全部楽しめました。

主役の松本来夢さんは初舞台という事でしたが、周りの役者さんのフォローもあり、その愛らしさが生かされた演出。
彼女「らん」を一角とした五人の恋愛模様が何とも切なく、「らん」に思いを寄せる「イタチ」の殺陣シーンが涙腺崩壊の突破口でした。

明日ー1945年8月8日・長崎ー(2018年@シアターKASSAI )

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明日ー1945年8月8日・長崎ー(2018年@シアターKASSAI )

演劇企画イロトリドリノハナ

初日を拝見した時にはしっかりと受け取ることが出来なかった舞台上に渦巻く個々の感情が、2度目の観劇では余りにもグイグイ入ってくるので、ひと作品の観劇としては持て余してしまうくらいのボリュームで圧倒されまくりでした。

最初こそ、その時代を生きるアットホームな家庭の姿がそこにあるのかと思ったものの、すぐに戦争の生傷が誰もの心や生活にそれぞれの形で存在することに気付かされ段々と胸が苦しくなってきます。
それでも皆の命があればこそ.。
明るい方向へと何とか進もうとする幾つもの人々の逞しさや健気さに胸を打たれるのですが・・・
想像を絶する威力を持った爆弾。
忍び寄る危険な匂いだけを察知したとて、一体どれだけの一般人が今の生活を投げ捨ててまで動くことが出来るのか、時代は変われども本作を現在に置き換えてみると空恐ろしくなってきます。

結婚式という特別な日。
その1日で凝縮されたここに集結する人達の人生。
出席できなかった人の人生。
特別な想いで観続け、そして生まれ出た命。
人知れず堕ちていくように失われた命。
あまりにも様々な想いを抱えたまま 来たる日、原爆投下
一瞬にして彼等は吹き飛んでしまったのか、それとも・・・
その最期の表情の数々が目に焼き付きます。

エダニク

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エダニク

ハイリンド

生きた家畜(牛や豚)を屠殺、解体加工するという職業。
休憩室には二人の解体職人。
舞台に存在するお二人は見事なまでに、発する台詞のひとつひとつ、表情、何気ない所作に至るまで全てが、本当にそこで生活で送る人間そのもの。
包丁の研磨室を休憩室に使っている様子など、見たことの無い業界ですがガッチリ雰囲気を掴んでいるのだと思えます。

やがて休憩室に入る「延髄」紛失事件の連絡と、間の悪い珍客(正体はネタバレになるので自粛)
職人二人に引けを取らない活きた登場人物の登場!
そう、この一見場所違いな珍客の存在が3人の絶妙なコミュニケーションを大きく揺さぶり、更に滑稽で深刻なドラマ空間へと仕立て上げていきます。

職業モノとしても考える部分が多くとても感慨深かったですが、より味わい深く伝わってくるのは、その仕事に携わる人達の日常から滲み出る感情、ひょっこり顔を出す感情、事件に巻き込まれて思わず噴き出し露呈する感情の数々。
不満、狡猾、自尊心、傲慢・・・特殊な職場の中、あまりの人間臭さに思わず笑ってしまう場面は多く、何よりその時々においての状況場面が逐一面白くて期待通り、いやそれ以上の濃厚な男芝居でした。


※「延髄」を紛失すると品質検査が出来ない為、せっかく解体した肉が出荷不可能となってしまします

美愁

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美愁

The Vanity's

稀にですが観客“全体”の集中力が結集し、舞台と完全に繋がる奇跡の瞬間を感じる事があります。
私の拝見した回では、その醜くも美しい作品の吸引力が、ほぼ観客全体を魅了し、愛情の渇望渦巻く世界へと一気に飲み込んでいく、まさに奇跡の様な時間でした。
座った席がサイドブロックだったので意図的でない限り視界には入ってこないのですが、メインブロックからの圧は感覚として伝わってきます。
この客席からのエネルギーは役者さん達にも伝わったと思うのですが・・・もちろん源である舞台からの上質なパワー、凄かったです。

本作は一言でいえばダークファンタジー作品なのかもしれませんが、グリム童話の様な完成度と残酷さ、少女漫画の様な華やかさと悲劇性、歴史ドラマの様な強い生命力と因縁絡み合う重厚さ、とても一言では言い表せるものではありません。
哀しくも美しい音楽と共に劇場全体が「美愁」の世界でした。

Hysteric FIVE

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Hysteric FIVE

放課後ランナー

連続猟奇殺人事件を軸に、正にぶっ飛んだミステリアスコメディー・・・でありながらの変態超大作。
サスペンスタッチのスタートと認識するやいなや繰り広げられる展開は、まるで目の前にぶら下がった多彩なご馳走をひょいパクひょいパクと食べ突き進んでいく様な楽しさ。
夢中で食べ進んでいるうち、今一体どこに向かっているのか時折分からなくなっても、次々ご馳走が出てくるものだから、ひょいパクひょいパク。
気が付けばアラ不思議、見事ゴールに辿り着いていました。

映画に『変態仮面』という作品がありますが、やはり生舞台の持つインパクトとパワーは絶大。しかも沢山いるし(笑)
女性陣もクールセクシー系や羞恥コスチューム等で対抗。
登場人物全員が方向性こそ違えど見事なキャラクターばかりで見どころには事欠かないのと、とにかく華のある役者さんばかりだったなーと。

格闘アクションシーンに見とれたり、あまりの荒唐無稽さに笑ったかと思うと、いきなりのシリアスシーンにドキッとしたり、何かと感情目まぐるしく引き込まれましたが、いつの間にか変態コスチュームがシュールでお洒落に見えてくるから不思議。
本来のキャラとはギャップありまくりの吹っ切れた変態パワーには、もうぐうの音も出ません、お見事です。

瀬戸の花嫁

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瀬戸の花嫁

ものづくり計画

あぁ~瀬戸の方言に癒される~。
そしてお嫁さん候補を心待ちにする島民と一緒にワクワク感もヒートアップ。
やっぱりこういうイベントは迎える前が楽しい。
なんだかんだもういろいろあって「あざといなー」と思いながらも、どの役者さんも役に入り込んだ表情のひとつひとつが実にイイ。
そして台詞掛け合いのタイミング!・・・なんて絶妙であざとい。あぁでもそれが楽しい。
島民の皆さんの思惑は赤裸々に、女性陣の本音はまだちょっと不透明なのが、またイイ。
イベンターの人達の仕切りも心憎くて実にイイ。
もうラストを待たずに心のホカホカメーターはMAXに。
こういう心の芯まで温まる作品は、観る者を無条件に笑顔にしてくれるのでとても貴重。

総評

今回も拝見した全公演を対象にすると頭の中が整理しきれないので、初めましての劇団さんに絞って検討。
それでも全然枠が足りないと悩みまくってしまうのは、本当に喜ばしいことです。
例え演劇初心者であったとしても、きっとガツンと心に響くラインナップになっていると思います。
上記以外にも好きな劇団がいくつも増えて、コリッチさんには感謝の気持ちでいっぱいですが、演劇の感動をもっと多くの人に知ってもらいたいのも確かです。

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