BIGBABYが投票した舞台芸術アワード!

2018年度 1-10位と総評
ナイゲン(2018年版)

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ナイゲン(2018年版)

feblaboプロデュース

昨年も拝見したに関わらず、息もつかせないハラハラドキドキの2時間でした。
本作品はコメディ仕立てになっており、某高校で起きた僅か数時間の話となっていますが、私はまさに今の日本の縮図であり、例えば結論が本来あるべき姿ではないと誰もが感じているに関わらず多数決をしたことにより、正当化されてしまうことや自分の身にふりかからないことを確認した後は“いい人”になり下がる、といった矛盾を見事についた作品であると思います。
昨年に比べ今回はスマホがクローズアップされており時代の流れを感じさせる細部の工夫も感じました。

寒花

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寒花

ハツビロコウ

異国の暗室で一人の男の“死”を目前としながらも淡々と進行、しかしその会話の一言一言がとても重く、思わず身を乗り出し続けて観てしまいました。
日露戦争の僅か4年後の旅順という遠い異国の地が醸し出す極寒と不安感、そこでに勤務することの意味(明治維新が生んだヒエラルキーの産物)を知らされました。単に安重根について描くのみでなく、勤務者たちの無念・断念といった心情が全体を包み込んでいるおり、暗室の中ランタンと煙草の“生火”が見事な演出効果を生み出していましたね(受付のマスク準備も流石でした)。
また、後半の韓国語のやりとりは安重根の人間性を感じ取ることが出来とても良かったです。特に明日刑が執行される旨を伝えたとき、押し殺したような声での「알겠습니다(了解しました)」は胸にささりました。また、典獄が最後に安重根に欲しいものを繰り返し尋ねる場面、本当に感動でした。
そしてラストの「天より“寒花”下る」の一節は“寒花=雪”に例えられた安重根の人生そのものを感じることができました。
安重根はテロリストとして処刑されながらも死後勲章が与えられ、没後60年には記念館が建てられ、200ウオン切手には氏の肖像画です。最期に家族とも会えなかった彼は現在殉国の義士としてたたえられています。本当に素晴らしい公演、ありがとうございました。

おせん

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おせん

サスペンデッズ

本当に素晴らしい舞台を堪能させていただきました。
1人四役もの役割を演じ切り、演技をしていない役者さんは衝立の後ろで早着4替えとメークをやっているのがよくわかり、それが素晴らしい演出効果になったと思います。舞台から目が離せない1時間20分になりました。

「熱海殺人事件」「青春かけおち篇」

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「熱海殺人事件」「青春かけおち篇」

★☆北区AKT STAGE

『熱海殺人事件』2時間呼吸が止まったかと思うくらいの素晴らしさでした。
『熱海殺人事件』は他劇団で『モンテカルロイリュージョン』『売春捜査官』を先に拝見しましたが、本家本元の当作品はなかなか機会に恵まれず今回が初見でした。先の2作品からはこのような作品であることは全く想像しておらず、特に水野朋子婦人警官がかような重要な役割であったと初めて認識しました。大筋は先の2作品と大差はありませんが、本作品は“大山金太郎と山口アイ子”、“木村伝兵衛と水野朋子”この二つの愛が描かれた作品だったのですね。好きだからこそ別れがあり、好きだからこそ手に掛ける、つかさん流の“愛”の形の描き方、素晴らしいです。そして既存の演劇界に無かったリズム感と言葉の一つ一つ、つかさんが岸田國士戯曲賞を最年少にて受賞したのもうなずけます。
木村伝兵衛を演じた平田裕治さん、マシンガンのように繰り出される台詞を実は一つ一つ大切に発する能力の高さ、容姿も端麗で北区ACT STAGEさんはこんなにすごい役者さんがいらっしゃるんですね。また心根の優しい人格が殺人を犯してしまう大山金太郎を演じた関谷裕太さん、素晴らしい。水野朋子役の山田奈保さん、熱海の海岸のシーンや木村伝兵衛への想いの描き方は実に感動的、ラストの静岡に向かうシーンはこみあげてくるものがありました。容姿も可愛らしく木村伝兵衛とのバランスがとても良かったです。是非また拝見したい女優さんでした。
天国のつかさん、素晴らしい作品とDNAを受け継ぎ貴方の想いを伝えてくれる劇団を残してくれて本当にありがとうございます。

背に描いたシアワセ

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背に描いたシアワセ

やみ・あがりシアター

とても良い意味での“客騙し”の舞台、やられましたね。
冒頭から若妻が古めかしい白い割烹着だったり“キドカラー”だの“2ドア冷蔵庫”といった時代錯誤のような会話が飛び交い、なぜか新婚家庭に平気で近所の方が平気で上がり込んでくる、という不思議感満載の前半でした。
後半、本当の人間関係が判明した瞬間は驚きもありましたが、むしろ“あたし”を取り巻く人の心の優しさを改めて感じることができました。“あたし”役の加藤睦望さんとおかあさま役の市川歩さん、嫁姑感が出まくりで素晴らしかったです。

蒲田行進曲

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蒲田行進曲

ふれいやプロジェクト

銀ちゃん、ヤスさん、小夏ちゃん、半端ないって!
まさに半端ない熱量が最初から最後まで会場を覆っていたと思います。
男同士の友情と憧れ、そして男女の愛で強く結ばれた銀ちゃんヤスさん小夏の心情を丸山さん、關根さん、倉地さんが見事に演じ切ったと思います。他の役者さんたちも素晴らしいサポートで舞台を盛り上げてくれたと思います。
特にすごいと思ったのは、やはり「階段落ち」ですね。昇りの場面ではビニール傘を階段に見立て、落下ではヤスさんの回転に合わせ、付け木付け板の緊張感ある音と光の効果があまりに見事で、思わず見入ってしまいました。
更に特筆すべきはセットの無い舞台に関わらず、あるときは太秦撮影所、あるときはヤスのアパートに見えたのは演者+演出+照明・音響の絶妙なコンビネーションによるものだと感じました。私の目には完全に情景が浮かびました。
今日は素晴らしい舞台をありがとうございました。天国のつかさん、本当に素晴らしい作品を遺してくれて本当にありがとうございます。

人造カノジョ~あるいは近未来のフランケンシュタイン~

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人造カノジョ~あるいは近未来のフランケンシュタイン~

劇団鋼鉄村松

ラスト10分間の思わぬ展開、震えました。
フランケンシュタイン(無論SF)の時代では人造人間は怪物以外には存在せず。圧倒的多数の人間の前で怪物に与えられたのは悲劇的結末のみでした。しかしシンギュラリティが起こるといわれる2045年にはひょっとすると少子高齢化した人類は能力でもはるかに優れるAIに数の上でも劣勢となってしまうのかも知れないんですね。オープニングでモノクロ衣裳から本番衣裳に着替えるのですが、やや時間をとったこのシーン、最後にまた最初の衣裳に戻ったときに意味がわかり「なるほど!」と思わず唸ってしまいました。
役者陣では高橋里帆さんのヒマワリは明るくて悲しい非人間感の出し方は素晴らしいの一言です。武田博士のボス村松さんの楽しくて怪しい存在感も抜群でした。また新宿ムラマティさん演じるノムラ、堂々と正論を吐くも予期せぬコメントに急に腰砕けになるという落差や運転手役では大ラスで何気ない一言で会場を凍りつかせる等、素晴らしかったです。
本作品は人間と非人間のマジョリティとマイノリティが後半徐々に逆転するという恐怖かつ現実味を帯びたストーリーですが、コミカルな要素をふんだんに取り入れたり壁面に工具類をポップに描いたことでバランスの取れた素晴らしい作品に仕上がった、と感じました。

享保の暗闘~吉宗と宗春

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享保の暗闘~吉宗と宗春

雀組ホエールズ

劇団初の時代劇とのことでしたが、人物の描き方・殺陣・ダンス、いずれも素晴らしいクォリティでした。
まずは主宰の佐藤雀さんに感謝をしたいです。名古屋に行かれた際に出会った「宗春ロマン隊」との出会いと公演あいさつ頂戴した資料でこれだけの舞台を作り上げていただきました。お恥ずかしながら当方不勉強で宗春については全く知識を持ち合わせなかったのですが、吉宗との関わりを含めとても興味深く拝見でき、本当に勉強になりました。
宗春の幕府に対する反抗的な行い振る舞い、御三家の藩主であり、さらに格下の藩出身の吉宗がよもや自分に処分を下すまい、という安心感だったのでしょうか。不遜とも思える言動の数々は過去のことであり、舞台上で描かれていることが分かっていながら冷や冷やでした。
吉宗については御三家の中で尾張藩に次ぐ紀伊藩の藩主であり、本来であれば将軍職に就くことはできなかった吉宗。尾張藩との格差や宗春へのコンプレックスから将軍職への自らの資質に疑問を持ち、後継者問題に頭を悩ませる吉宗の描き方がとても面白く、TVドラマで悪党をバッサバッサと成敗した吉宗とのギャップを感じとても興味深かったですね。
舞台拝見後、いろいろなことが頭をよぎりました。例えば“江島生島事件”の江島が門限に間に合っていたらおそらく宗春が将軍になっており、どのような政治・改革を行ったのだろうか、とか、吉宗は享保の改革で質素倹約を奨励する一方、思いつきのように「象を見たい」という一言で象を長崎から江戸まで歩かせ、通り道の藩には数々の要求を強いましたが、この象が尾張藩を通過するとき宗春は何を思ったのだろうか。など、いにしえに思いをはせることが出来たのも本公演の素晴らしさによるものでした。
佐藤雀さん、たっぷりとロマンを感じましたよ。

女人嵯峨(にょにんさが)

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女人嵯峨(にょにんさが)

劇団俳小特別プロジェクト公演

勉強にもなり、とても楽しめました。

正しい顔面のイジり方

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正しい顔面のイジり方

スマッシュルームズ

舞台を見終わったあと、フライヤーの女性がどんどん主人公に見えてきたのはとても不思議な気持ちでした。

次々と整形と偽名により様々な人生を送った主人公ですが、このようなストーリーを描く場合は時系列的に進行させるのが一般的な手法だと思います。しかし今回はそれを捨て、それぞれのストーリーを横一線に並べて出会いから破局までを同時進行させていく、という展開手法はとても斬新でした。
複数のショートストーリーを組み合わせた展開でしたが、待機スペースの役者さんをサイコロの移動や小道具の授受に絡ませる、といった小気味良い効果により、全く間延びせずに観れたのが素晴らしかったですね。
また主人公を1名ではなく5名の役者に演じさせ、役者さん達がそれぞれの持ち味をしっかり活かしたことにより、その都度違う顔を見せたところも素晴らしかったです。
演出面においても、サイコロと大小の“棒”をいろいろ見立てて使い、例えばサイコロはテーブルや椅子として使うのみならず、死体を見下ろす穴の上、営みの場所、ベランダ、といった様々な“箱の顔”を見せ、これが主人公の “七つの顔”に絡めたようで素晴らしい効果を生みだしていました。場面場面に緊張感をもたらした照明さんや音響さんもとても良い仕事をされたと思いました。
特に印象深かったのはラストシーンですね。主人公は実際は服役中に病死したのですが、舞台では夫と笑顔で対面し、だます為の“顔”ではなく、妻の“顔”と母親の“顔”を最後に見せたところで終わらせたところに当劇団の“思い”を感じました。
本当に素晴らしい舞台でした。ありがとうございました。

総評

2018年は本当に素晴らしい舞台が多く、順位付けが大変でした。2019年も数多くの素敵な舞台に出会えるといいですね。

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