みさの観てきた!クチコミ一覧

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元気で行こう絶望するな、では失敬。

元気で行こう絶望するな、では失敬。

パラドックス定数

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2010/06/25 (金) ~ 2010/07/04 (日)公演終了

満足度★★★★★

応援歌を奏でるプロ集団!
オープニングにヤラレル。ナラクからせりあがってくる20人の高校生。この登場の仕方がまるで暗闇から少しずつ浮き出でる勇者のようだ。目に入った完璧なるその画はきっとこの先記憶に残ると思う。そして椅子を巧みに使っての角度90度ずつ移動する彼らの情景の見せ方。素晴らしい演出だと思う。野木萌葱という女性、天才じゃないかと感心してしまう。当日のパンフレットには「太宰治を読んで『こいつぁ、相当、優しい、男だぞ』と思った。」とある。で、「ああ、そうか、男はみんな、どこかしら太宰治なのだな、」とも感じるのだ。そう感じる野木も相当優しい女だな。とワタクシは思うのだ。

以下はネタばれBOXにて。。

ネタバレBOX



森に囲まれた木造校舎の中の男子高校生20人。そこにはイジメもありそれぞれのポジションもあり、誰かと繋がっていたいという切なる想いもあり、自分を見てほしいという自意識もある。思春期という、大人と子供の狭間でモガク18歳の旬を描いた物語。

ソイツを苛めることで優しく出来るという他者との繋がりを求める酒巻、気を遣われながら苛められてると察している十枝。仲間から下に見られてると更に下を見つけねえとやってけねー。というポジションを気にする輩。時には死にたいと思ったり、家族が今里の家に借金をする光景を同級生の今里に見られて毒舌を吐く高井。だけれど20人は夏の川に泳ぐ河童のように無邪気に無心に悪戯に戯れる。悪戯に興じる彼らはただただ、我侭で強情で傲慢な子供に過ぎなかった。

しかし、一つの事件、高井が同級生の財布を盗んだことをきっかけに、ゆうやが森に入ってしまう。つまり自殺だ。ゆうやは高井をかばっての言動と、誰からも見られていないという鬱の心から森に入ったが、最後に今里と話した後に森に入ったことから、今里の心にゆうやを助けられなかったことへの後悔と闇が蔓延ることになる。19人は個々の手に懐中電灯を光らせ、闇が続く森に入りゆうやを捜索するも、ゆうやは見付からなかった。

このことが19人のそれぞれの心に巣食い、時々尖ったナイフでちょんちょんと突かれるように思い起こされ癒されることはなかった。やがて・・・、36歳になったそれぞれは弁護士やら、医者やら、刑事やら、数学者やら、役者やら・・・とそれぞれのポジションで活躍するも、大人の世界はそんなに甘くないことをも表現し、そのことがこちらの心にもズシン!!と重くのしかかり、「そうそう、現実ってのは綱渡りのようなもんだ・・。」なんて共感しつつ、彼らは未だにゆうやの闇を拭い去ることは出来なかった。

だからこそ、彼らは同級生を思いやり相当に優しく接する。そうしなければ、いつ、自分も彼らも上流の方にある心というダムが決壊して濁流と化すかが解らない、自信がない状況なのだ。彼らの血はそういった闇の想いと共に、三本締めで自分自身にも皆にも「ガンバロー」と励ます。このシーンと死んだはずのゆうやが登場する場面や、18年前の彼らと現在の彼らを交差させながらの演出は錆びた鉄の匂いが感じられるような懐かしい演出だった。

最後にゆうやが今里に向かって話す場面「俺はもう祈ることしか出来ない。堂々と幸福を求めて欲しい。この先この国には俺たちの黄金時代など、ないかもしれない。だけどきっと勝てる、確信してる。俺たちが駄目になる理由なんて何もない。それまで悠然と力を磨いておけばいい。だからさよなら。命あらばまた他日。元気でいこう。元気で行こう。絶望するな。では失敬。」

こうして今里は苦しみの淵から解放される。
ここでの20人は全員が太宰だった。死んだものも生き残ったものにも、そしてこれを観たものへの応援歌だった舞台。
明日に希望を持ち、もうちょっと頑張ってみるか、と思える舞台だった。素晴らしい!

三本締めの最初に、何で「よーお!」って言うか知ってる?
あれ「祝おう」っていう言葉から来てるんだってさ。
そうして植村の音頭でクラス全員による三本締めで幕が閉じる。

元気で行こう。絶望するな。では失敬。
ガラコンサート

ガラコンサート

音楽座ミュージカル

グリーンホール相模大野(相模原市文化会館)(神奈川県)

2008/01/27 (日) ~ 2008/01/27 (日)公演終了

満足度★★★★★

夢と愛と希望
1月21日に「音楽座のガラコンサート、ご都合が宜しかったら観ませんか。」
とメールが来た。

ふ?「ご都合が宜しかったら?」ってチケット代はおいくらなんでしょ?(心の声)

「ソレッて当たったの?ご招待チケット?他でマチネが一本入ってるんだよねぇ。」と、送信したワタクシ。


いっちゃーなんだけど、毎回ご都合はつかないのだ。まったくもってワタクシのスケジュールは真っ黒でご都合はつかないほど埋まりまくってるのだ!(心の声)


そしたらさ、そしたらよ?!(@@!)


「そうですか、マチネが入ってるんじゃ仕方がないですね。それでは次回、機会があったら・・・チケットは差し上げるつもりでした。」ときた。


な、なんとな!?それを先に言えよ。ご都合、つけちゃうってのっ!(心の声)


「ええ~、チケット頂けるんですかぁ、では是非に行きたいでっす!」と、ワタクシ。



ここで既に会話は1:2になってました。
2は二重人格の2です。



で、早速、真っ黒いスケジュールをどうにか工面して(どうにかなるもんです)行ったのでした。

お席まで確保して頂いて、ふと周りをみると、な・なんですかーーー(@@;)、近隣諸国の皆々様がどうもお知り合いのご様子。
要は観劇趣味仲間のお集まりのようで、南は九州から北は秋田のお住まいの方々が一同に音楽ミュージカルの公演の為に集まった!というのだから、びっくりこいたのでした。。


ワタクシ、実は・・本当は信じがたいだろうけれど、根っからの小心者でして、いきなり二十数名の団体さんの中に放り投げられて・・・周りはなんですか・・・めっさ、盛り上がっちゃってるご様子で、軽く中心に座った、ってか、座らされたのに、その中心はドーナツ化現象で、みんな距離をもって事の行く末を見守ってる状態になってる訳でして・・。


もうそうなってくると、この空間から脱出は許されない極限状態に陥り、片手にパンフを持ちながら意気込みは「がってんだ!」とか思いながらも、心理的にはまるで、がってんだ!じゃあないわけ。


そうこうしているうちに、開幕して、二度目のびつくり!(@@!)



お題

「アストラル・ジャーニー」(リトルプリンス)

「シャボン玉とんだ宇宙までとんだ」序曲

「黄金色の麦畑」(リトルプリンス)

「バラの花びら」(メトロに乗って)

「負けない心」(アイ・ラブ・坊ちゃん)

「会えない日々」(泣かないで)

「インムービー」~「イエス」~「泣かないで」(泣かないで)

「揺れる心」(21C:マドモアゼルモーツアルト)

「朝焼け」(マドモアゼル・モーツアルト)

「怒らないでママ」~「チェンジのテーマ」(チェンジ)

「レボリューション」(ホーム)

「デザイン」(とってもゴースト)

「失敗がなんだ」(とってもゴースト)

「七つの人形の恋物語のテーマ」(七つの人形の恋物語)

「夜明け前」(メトロに乗って)



最後の頃は皆さん、泣いてましたね。

実際、気持ちは解ります。
今まで上演したミュージカルの総集編をこの「ガラコンサート」に込めた。って印象でした。

で、前回の音楽座を観劇した観客全員に今日の公演を「ご招待」したらしいのです。
ですから、音楽座のおっかけファンが一同に全国から集結したのでした。

実際、非常に素晴らしかった!
感動で震えました。

元気をだして行こうよ、失敗がなんだ。
いつも夢と希望をもって進んでいこうよ。
そうして心には常に愛を持っていようよ。

こんな感じのコンサートでした。


コンサート終了後、ロビーで役者全員がファンとの交流を出し惜しみなくいつまでもいつまでも写真を撮ったり、サインをしたりおしゃべりしたりしていました。
こんなところがきっとファンが離れない要因なんでしょうね。
アットホームな感じです。


良いです。とっても。音楽座ミュージカル。

はまりそうですわ!(^0^)





冬に舞う蚊

冬に舞う蚊

JACROW

サンモールスタジオ(東京都)

2011/01/05 (水) ~ 2011/01/10 (月)公演終了

満足度★★★★★

追いつめられて
流石にキャストらの演技力が光る。JACROWはキャストの起用力が定評になっていると思うが、毎回の公演ごとに満足し満たされているのは事実だ。今回は建設会社の談合をめぐって一人の人間が破壊されていく過程を描く。

ネタバレBOX

主役は富島哲平。彼を演じた立浪仲一の演技力があったからこその演劇の醍醐味を感じる。哲平は正義感溢れる真っ直ぐな若者だった。千葉大を卒業し建設会社の営業に回される。どうやら彼は挫折を味わったことがなく、とんとん拍子に社会に飛び出した一人のようだった。人生の難問の結婚にも成功し妻との関係も良好のはずだった。

配属された営業部は公共事業の入札で仕事を取るような部門だったが、こういった建設業には当たり前のように蔓延る談合や汚職を目のあたりにした哲平は愕然とする。持って生まれた正義感を振りかざし、また、国立出身というサラブレッド感が同僚や上司の妬みを買い孤立していく。

そのうち「正義感だけでは世の中は渡れない。自分の気持ちに蓋をして生きるより仕方がない。」と意見する上司を尻目に哲平は「談合反対!」を押し出し入札の書類を市役所に提出しないという荒業をしてしまう。

この入札に参加しなかったことで、下請けの坂本工務店は潰れ哲平が想像だにしなかった事態が翌日から始る。執拗にパワハラを繰り返される哲平。妻に相談するも、妻は実家の事で頭が一杯で哲平を見ていないのであった。

更に事態は悪化し、妻の実家の資金繰りで会社を退職する訳にいかなくなった哲平を、会社は脅迫するかのように退職を迫る。哲平は徐々に、しかし確実に追いつめられて窮するどぶ鼠のようだった。逃げ道を見失った人間ほど弱いものはない。哲平は正気を失い冬に舞う蚊のように、その宿命は潰されたのだった。

死んだ哲平を巡って妻が告訴する場面も、請け負った弁護士が志賀を問い詰める場面も案外、滑稽だった。人は皆大切な誰かが死んでから騒ぐ。どうして生きてるうちに大事にしてやれなかったのかと思う。更に告訴された会社が証拠隠滅に画策する様子は現代社会の構図のような気がして、その描写は見事だった。更にパワハラを裁判まで持っていっても中々勝てない。というのも事実だし、よく勉強してるな、とも思う。

観て満足する舞台だと思う。相変わらず谷仲が終盤に登場するオチが絶妙。
解ける/恍ける

解ける/恍ける

セカイアジ

OFF OFFシアター(東京都)

2011/03/17 (木) ~ 2011/03/21 (月)公演終了

満足度★★★★★

滑稽なミステリー
たぶん、きっと、コメディ。そんな印象の強い作品だ。ワタクシ的にはドツボの作品で、キャストらに吐かせるコネタの数々が妙に可笑しい。導入音楽もgood!

以下はねたばれBOXにて。。

ネタバレBOX

物語は本家の父の妾であった母が亡くなり、今は残された兄と三姉妹がいる桃上家のお話。

桃上家は喫茶パリジェンヌを経営していたが、資金はどうやら本家の父が出してるらしい。妾の子の4人兄弟は父が死んだら自分達はどうやって生きていったらいいのか・・。と嘆く。本家の父のお陰で家庭教師も、使用人も雇える身分だ。

本家の遺産を気にするあまり、姉妹達は本家の長女・密を殺そうと企む。しかし、この人たちは自分で金を稼ごうという気持ちがからっきしない。つまり、『桜の園』に登場するような人たちだ。笑

この街に伝わる風習を絡め25年前、生後100日の子供を生贄に差し出した母の罪を背負った姉妹達が、本気でもって「ひょうもんだこ」で密を殺そうと密談する場面は滑稽というか、間抜けというか、世間から逸脱した場面だ。

つまり本家の父親に保護されるあまり、どいつもこいつも世間知らずなのだった。まるで籠の中で飼われているような姉妹は「お金がなくなるのが恐い。」という。そうしていよいよ父親が亡くなると密を殺す役目を担った桃上家の長男は密をめでたく殺して使用人の珠緒と二人で逃げるのだが・・、死んだはずの密は震えながら蘇り、その先にある蛸壺の口にはひょうもんだこの身体が黒光りしてニョキリと出ていたのだった。

面白い!とっても愉快なミステリーコメディ。
沢山の要素が詰まった宝石箱のような物語だ。
ここでの重要なキーを握っているのが使用人の玉緒だ。
結局薬局、遺産は誰の手に?

これだから、観劇は止められない!
怪物-カイブツ-

怪物-カイブツ-

ブラジル

駅前劇場(東京都)

2011/02/13 (日) ~ 2011/02/20 (日)公演終了

満足度★★★★★

マジおもろい
当日券を購入するのに1時間前に並べっていうから、真面目に並んでいたら、15分も遅れて販売していた。いったいなに様?と言いたい。しかし芝居はひじょうに面白かった。
だいたいタイトルにも興味深々だったし、フライヤーのでっかい顔にも興味があった。決して怪物らしくない愛嬌がある顔は見ているとなんだかほっこりする。たぶんこの物語は脚本家の妻が3人目出産と言うことで発案した内容だと思う。
殆どコメディ。

以下はねたばれBOXにて。。

ネタバレBOX

福田亜希子(姉)は妊娠を機に会社から独立し、生まれてくる子供と二人で生きていこうと決意するも、亜希子の妹・有希や有希の恋人・克哉、亜希子の元夫、元上司、タクシーの運転手がこれを放っておかない。しかし生まれてきたベイビーは「ジャイアントベイビー」だったのだ。笑

父親は「自分は宇宙人だ。」なんつってのたまって亜希子から金をせびり失踪してしまった宇宙人らしい。なんのこっちゃ!笑

しかも生まれてきたベイビーは母親の数倍もある体格で、いったいどこにコレが収まってたんよ。って突っ込みたくなるようなデカさ加減。笑

しかしこのジャンボは人間離れした怪力と人間離れした駿足力を持ち合わせていながら知能は3歳程度で(まあ生後3日だから凄いのだけれど)行動は幼児っぽい。

亜希子も有希や克哉もジャンボに振り回されながら、いつしか克哉はジャンボに対して母性愛に目覚めてしまう一方で母親の亜希子は、わが子は可愛いのだけれど末恐ろしくもなる心理状態にパニクり富士山の近くに捨ててきてしまう。

しかし持ち前の俊足で車を追いかけて帰ってきたジャンボを待ち構えていたのは有希から事情を聴いてジャンボを研究したいドクターだったのだ。ジャンボを連れ去ろうと麻酔を打ち数人で争ううちにジャンボはドクターをいとも簡単に殺してしまう。

人を殺したジャンボはここで本当の怪物となってしまうのだが、亜希子はジャンボと二人で何処かへ逃げる決心をする。

序盤から中盤にかけて色々なセリフで観客を笑わせる。ジャンボの登場の仕方もほの暗い洞穴から這い出てきたような描写で照明もこれに加味してホラー的に盛り上げる。ホラー喜劇といえばそうなのだろうけれど、終盤の収束の仕方は偏った母の愛情と、妹が妊娠をきっかけに結婚する場面は人間臭くてひじょうに良かったと思う。

強いていうならジャンボが50キロの道のりを裸足で駆け戻って来たのに足が泥まみれでなく綺麗だったのが違和感を感じたが全体的に涙が出るほど笑わせてもらった。

観てよかったとつくづく思う。
長くて短い秘密の話

長くて短い秘密の話

ハードレインオープンカフェ

TACCS1179(東京都)

2009/05/29 (金) ~ 2009/05/31 (日)公演終了

満足度★★★★★

とてつもなく素晴らしく、そして深い演劇でした
いあいあ、完璧ですね。まず、役者から吐き出されるセリフのセンスがいい。日本的ではない欧米の独特のジョークやテンポのいい絡み。そして仰け反るほど素晴らしかったのは、キャストの逸脱した演技力にあります。
初見の劇団だったけれど、まだまだ発掘するとあるんですね~、こういう劇団が!
すんごく大満足!ひっさしぶりに内容の濃い見事な演技に全員を抱きしめたかったほど!(^0^)

4篇のオムニバス。舞台セットもいい。

以下はネタばれBOXにて。。

ネタバレBOX

『ともだちのち』
15年前の作品の再演との事。バスの待合ベンチでの会話劇。一見、友達のような3人だが、不良の安部が真面目そうな鈴木のわき腹をナイフで刺した。そんなことになったのは、安部がナイフを出して見ていたら、安部の子分のような伊達が鈴木にぶつかって反射的にナイフが鈴木に刺さってしまった。という言い訳をする。苦しんでいる鈴木に「鈴木君、やヴぁいよー、バンソウコ、貼っておいたほうがいいんじゃないのー。」なんて、阿部は能天気に苛め抜く。苛めながら、自分達は友達なんだから・・。と講釈して巧みに責任回避する。不良二人が発する言葉のバカさ加減が面白い。安部の卑怯さ、伊達のズルさ、鈴木の弱さを表現し、いじめを題材にした不条理劇。

『アリサよりよろしく』
テネシー・ウイリアムズ作「Hello from Bertha」の80年前のアメリカを現代の日本の新宿歌舞伎町に置き換えた物語。
一軒の風俗店で働いていた風俗嬢のアリサは病気の為、ベッドに居た。その情景は精神的な病らしい。一文ナシのアリサの今後に困った店主は昔の馴染み客の安岡譲二に助けを求めるようにアリサに進言するも、アリサはそれを拒否する。今でも安岡の事が好きなアリサは「アリサから譲二へ。よろしく。」とだけ伝えて、と手紙を書いてくれるように頼む。考え悩んだ挙句、大好きな安岡には迷惑をかけられないと一途に想いを寄せるアリサの純情を描いた作品。大塚悦子の迫真の演技は見もの!

・・・・・・お客さんと一緒に遊ぼうコーナー・・・・
ここでイメージで遊ぼうコーナーが設けられ主宰が司会をしてカラーマスター遊びをする。劇の合間にこうやって観客と一緒に遊ぶという劇団は初めてでした。観客によっては「うざいなぁ。」と感じるかもしれない。それは観客と舞台の境界を取り払うかのような感覚で、ズンズンと観客の懐まで入ってくるんだよね。少しでもエンゲキというものに対して観客に理解して貰いたい!みたいな気負いが感じられて、その気迫にヤラレル!(苦笑!)

『アクロス・ザ・ユニバース』
再演。盲目のふりをしたシンガーが他人を騙しながら小銭を稼ぎなんとか生活していたが、ある日精神病院を 追い出された女に出会う。女は桃源郷を夢見て「生まれた街に帰りたい」と話す。シンガーは「この街の奴らはみんな、イカレテル。仕事以外は何にもねえ。」と、吐き捨て自分の置かれている現状を嘆く。自由を渇望する男と女の二人芝居。

『個人面談』
面接官「本当に生きたいですか?」
審査にかけられてる男はこの質問に対して「はい。生きたいです。っつーか、すごく生きたいです。」
面接官「どうして生きたいのですか?」
「なんつーか、どうしても生きなきゃいけない!みたいな?っつーか、生きてみたいんです。」男は曖昧なぼんやりとした主張しかできない。
面接官「貴方は前回、出かけられる前にも同じ事を言い残したのですよ。そうしてその前と同じように自殺してここに来たのです。」
「今度はちゃんと真面目にやるから・・・、出世とかお金とか名誉とか、多くは望まないから・・、ちょっと空をみたり、花をみたり、人と話して、少し笑えたら、それでいいんです。」
面接官「解りました。それでは、良い旅を。」

死んでる男が下界に戻るにあたっての個人面談!


4篇、どれも内容の濃いひじょうに素晴らしい舞台でした。そこに息づく現実と不条理を織り交ぜながら、人間の悲しさ、哀れさ、切なさを訴え、そうして最後は多くを望まない事が幸せに近づく一歩だということをさりげなく響かせるのです。時には重厚に時には軽口で。素敵な舞台を観ました。
Zyklon B (再演)

Zyklon B (再演)

劇団パラノワール(旧Voyantroupe)

サンモールスタジオ(東京都)

2010/06/02 (水) ~ 2010/06/07 (月)公演終了

満足度★★★★★

それぞれの正義
過去に観た「劇団 海賊ハイジャック」の公演の中で一番の熱演だったと思う。ちょっと噛んだキャストやかちゅぜつの悪い箇所はあったものの、まあ、生身の人間だから、仕方がないかな・・、とは思う。舞台のセットがキャストらを大きく見せていた。音楽、照明、演出・・・どれをとっても秀逸だった。それにも増して、いきなり衝撃的なシーンからの幕開けは芸術的だった。
余談だが制作さんの前説はモヒカンに似合わずガチガチに緊張しており、かわいらしかった。笑

以下はねたばれBOXにて。。

ネタバレBOX

アンリ・バレリ大尉はユダヤ人たちを救った功績から「諸国民の中の正義の人」として賞賛を得た。しかし、その影には人肉を喰らう殺人鬼・ウォレスが兄・アンリの全ての罪をかぶった由の上に成り立った事柄だった。それはアンリがユダヤ人亡命の手助けをした時に彼らの財産を自分のものにしたことだった。

これを知らない町民は、 彼を英雄と慕うなか、一方では影の英雄が存在していた。おりしも、突如として町に異国の女が現れる。 彼女の名をヴィヴィアンという。彼女は特異な体質を持ち、女に近づくと 死ぬという。物語の後半で解明されるがヴィヴィアンはチクロンB(毒ガス)の後遺症によって、このような体質になってしまっていた。だから彼女はずっと孤独だった。こんな彼女を2mの長さの鎖で繋ぐウォレス。

奇異な事件と殺人鬼の恋を絡ませながらも、ウォレスが結果的には異国の女・ヴィヴィアンを拉致し山小屋に監禁しながらも町民とヴィヴィアンを守る。

チクロンB(毒ガス)の謎や軍の不正、Drモンローの考えや行動、犠牲になった人からのワクチン採取など物語は怒涛な展開で、息もつかぬまにまに時間を忘れさせ、特異な空間へと誘う。不条理を噛み締めながらも折れるティファニー大尉の表情が忘れられない。そうして、ウォレスの最後の死の場面、絵画のような情景はキリストの死となぜか重なり美しく気高い絵だった。

見事な演出と頑張ったキャストら。拍手を送りたい。素直にそう思う。

姫子と7人のマモル

姫子と7人のマモル

ネルケプランニング

こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ(東京都)

2010/12/18 (土) ~ 2010/12/26 (日)公演終了

満足度★★★★★

めっちゃオモロイ!
第一、姫子のキャラクターがいい。姫子が7人のイケメンから守られる、なんつーお話だから、どう考えてもめちゃんこ可愛い美形の姫さまみたいな女子を守るナイト。と思うでしょう?ふつう。だけれどここに登場する姫子はけっしてきわめて平凡な(?)女の子ではなかったのだった。そう・・、どこからどこまでもクビレのないおおデブな姫子さまだったのです。

ネタバレBOX

姫子は絵本作家希望の守とささいなことから喧嘩になって別れてしまう。新たな生活を目指そうと一年発起し姫子は引っ越すことに決めたのだった。だから今まであった物を整理整頓し引っ越してみたものの、6、5万円だと思い込んでいた家賃は実は65万だったと解り唖然とする。そこで彼女はルームシェアするアイデアを思いつくのだった。

早速、募集をすると守と名乗るイケメン6人が応募してきた。そこで彼らと一緒に暮らすことになったのだが、何故か彼らは彼女に勝手に忠誠を誓って守るのであった。

そうこうするうちに彼らはかつて姫子に捨てられたストラップやビニ傘、口紅、ビトンの小銭入れ、Gショックらが人間の形に代えて登場したのだと解る。これらのキャラクター達が実にコミカルで面白い。昨今のアイドルは何でも器用にこなしてしまい凄いなぁ。とつくづく感心するがアドリブでも何でもござれで大いに笑わせてくれる。これぞエンタメって感じだ。

更にオカマの京子がこれまた鮮やかにギャグかましながら笑をとる。歌あり、ショーありで全体的に関西のノリだ。西川きよしじゃあないけれどコツコツと貯めた貯金が1000万あった姫子は甘い言葉で言い寄ってきた質屋のおっさんに騙されたりしながらも、守たちのお蔭で人間の守と仲直りすることが出来て元の鞘に収まる。

そうして守は念願の絵本作家大賞を取って賞金の2000万をゲットするも借金だらけの京子や超樽の社長、姫子を騙した鈍塚らにばら撒いてしまう。こういったノリも関西系だ。笑

舞台は確かに思いっきりやりたい放題!の体で、プチ暴走しながらも生あたたか~い、はぁとフルコメディだった。これだけ楽しませてくれたら、もう一回観たいと思う。

それにしても・・姫子を静かにさせる時にペットにお菓子を与えるように「ほい、お菓子」と守らが姫子の口に突っ込む辺り、そして姫子が放つムードもなんとなく可笑しくて笑が止まらなかった。お勧め!
續・河をわたる

續・河をわたる

菅間馬鈴薯堂

王子小劇場(東京都)

2008/09/19 (金) ~ 2008/09/23 (火)公演終了

満足度★★★★★

憎らしいほどに温かい物語
セットといい、蚊取り線香やうちわなどの小物の使いからが絶妙です。

私たちが忘れかけた何かがここには存在する。

そんな優しい物語。



以下はネタばれBOXに。。

ネタバレBOX


東京隅田川の佃島の勝どき橋あたりに、ホームレス達が住んでいるバラック小屋があった。
名を「蛍茶屋」という。

ここでは社会に適合出来ない人達がおばちゃんを中心に自分たちの秩序の下、ちっさな社会を築いているのだった。

そんな折、区役所職員の月島が、バラックの立ち退きの話を持ってくる。
町の美観と風紀が損なわれるとして地域住民が反対しているからだ。

月島は、ホームレス達と関わるうちに、彼らの人間の温かさに触れ、すっかり仲良くなっていた。
更に、月島の父親が「関東自動車道の勝っちゃん」と呼ばれていた流浪のホームレスだったという過去も解る。

月島のそんな状況がここのホームレス達を親切にしている理由の一つだった。

月島が語る父親の思い出は、涙なしでは見られません。
タオルで顔(涙)を拭く仕草など、涙をこらえてる芝居が涙を誘います。


ここで一番の長老のおばちゃんが絶妙な味わいを出しながら、ホームレス達の相談相手になったり、癒しになったりしています。

現実の社会で傷ついた彼らは、「俺たち二本足で生まれた者は生まれる前から傷ついてる。」と吐くシーン。

美しいセリフです。


ここまで、音の導入はありません。
しかし、この状況で音は必要ないです。
むしろ、ない方が心地いい。。

静かで暖かい温度のある物語です。


ホームレス達は自分の心の闇を隅田川に向かって叫びます。
心の暗闇を吐きだすように。

ときえは「何も言うことがない。」といい、何もなければ「かあちゃん」と叫べ。と教えられ、

「かあちゃーーーん!」と叫ぶシーン。
前後のやりとりの合間のこのセリフ、泣けます!

仕事を首になったリーマン。
夫に暴力を振るわれて逃げてきた女。
一人で頑張ってみるといって家を出て来た女。

それぞれが辛くなったり悲しくなったりすると隅田川を向こう岸まで泳いで渡ろう!と水泳大会を開きます。



なんだろ・・なんでこんなに温いのに涙がでるんだろ?


後半の導入音楽も素敵です。


そう、、ワタクシはこの芝居で忘れかけたものを思い出したのです。


母乞食

母乞食

MissPRs

サンモールスタジオ(東京都)

2009/05/08 (金) ~ 2009/05/11 (月)公演終了

満足度★★★★★

魅せる!そうして拍手は鳴り止みません。
とにかく素晴らしい作品。靄のかかった幻想的な舞台に照明の効果が加味され、導入音楽はクラシックの嵐。ベートーヴェンのピアノソナタ、「月光」「悲愴」他、ショパンなど。
物語の雰囲気は江戸川乱歩の香りのする妖しさと優しさに満ち溢れた舞台で衣装といい、役者の演技力といい、とにかく素晴らしいの一言でした。
脚本家・演出家斉藤尚子が、放つ妖艶且つ迫力のある世界観は相当な能力と実力のある事を観客に納得させるに値する女性でした。初見の劇団でしたが、こんな素晴らしい舞台を見せられると前作もとっても気になる・・。

時間があったら是非に観劇することを切にお勧め!騙されたと思って観てみて。これは観ておくべき舞台です。

以下はネタばれBOXにて。。

ネタバレBOX

母に捨てられても子供は母を乞うていつまでも探し続ける母乞食。
この道を通るととりこまれてしまう母乞食。
母を乞うて座る道、母乞食。
「桜の枝が目印です。お母さん、僕を見つけてください。」

母に捨てられた唯子(16歳)は同じく母に捨てられたハル、ぴー助、シロー、少年杏樹らと一緒に唯子の母を探す旅を始める。ハルは旅の間中、唯子を守りながら、優しく愛しむ。道中、彼らはさまざまなな事を体験し、お互い優しく励ましあいながら、母に対する思いや人としての生き方を学んでいく。
中でも少年杏樹はどこか屈折していて、「この世界は汚れている。」などと悲壮感が溢れていたが、ハルに「生きていくのは辛い事だけれど強くなれ。」と教えられながら、少しずつ学習していく。
やがてハルは唯子を誘拐した罪により逮捕されるという現実が迫る場面で、唯子は告白する。
「貴方はいままでずっと体をはって私を守ってくれました。貴方という部屋の中で私は温かだった・・。」

こうしてハルは母に捨てられ母に見つけて貰いたい、という想いは唯子の愛情によって浄化され満たされたのです。

母に捨てられても子供は母を乞うていつまでも探し続ける母乞食。
この道を通るととりこまれてしまう母乞食。
母を乞うて座る道、母乞食。


役者の面々はそんなに若くないです。だからでしょうか?演技に磨きと重厚さが備わっていて実力のほどを十分に堪能しました。
ダンスも器用に魅せてくれて、プロのダンサーとは比較にならないけれど、それでも魅せます!セリフで使われる言葉にも一種の独特さを感じ、ファンタジー的な要素も加わり舞台は観客をクラシックで、衣装で、演技で、物語で魅了し、終わります。

そうして拍手は鳴り止みません。

髪結う時

髪結う時

TOKYOハンバーグ

千本桜ホール(東京都)

2009/06/09 (火) ~ 2009/06/14 (日)公演終了

満足度★★★★★

号泣!
家族。
暖かい家庭を作った人間は死ぬときもそのように送り出してもらえるのだと、つくづく思う。家庭らしきものを作らなかった人間が、最後だけそうゆうものを望むのは身勝手なのかも知れない。

家族とは・・。今回ほど家族の存在を見直した事はなかったのではないだろうか?ひじょうに素敵な、そして素晴らしい物語でした。

脚本の素晴らしさを後押しするかのようなキャストの演技力!どれ一つ不満の無い完璧な舞台でした。
この舞台、是非に沢山の方に観てもらいたい物語です。
結婚したくなるよ~、きっと!(^0^)

ネタバレBOX

舞台は車椅子に座った幸子と幸子のひざに乗せたアルバムをめくる恵介の老いた夫婦の描写から始まります。
暗転、舞台上は幸子(お母さん)の若かりし頃、ちっさな美咲と恵介(幸子の夫)の仲睦まじい家族の風景に変わり、同時に同じ舞台上(右側)で後期の美咲が結婚する情景をも映します。物語は二つの時代、前期と後期をリンクしながら同時進行する。
後期では幸子が若年性アルツハイマーにかかり、その病が少しずつ、進行して日に日に記憶をも失ってしまう。
幸子(お母さん)を支える家族。家族の深い愛情と幸子の「家族に迷惑をかけたくない。」という思いが、絡まって、絡まって、絡まって・・・ズシン!と胸に響きます。そのズシン!は尖ったものではなく、温かな甘水のごとく穏やかに心に沁み込んで、涙の滴になります。そして、泣く。泣く。泣ける。

やがて、前期の穏やかで暖かな家族の風景は幸子の記憶の断片だと気付く。記憶を失いつつある幸子は記憶の中の断片と現在の自分と戦いながらも、不安な気持ち、家族に申し訳ない気持ち、家族に嫌われたくない気持ち、それらの複雑な感情に押しつぶされてしまい、家族に対して暴言を吐いたり、暴れたりしてしまう。

幸子の、自分自身の身の置き所そのものが解らなくなって、表情そのものが変わっていく痴呆の演技力は迫真です。お見事!
クライマックスは涙が溢れ出て止まりません。

舞台は前期の幸子が幼い美咲の髪を結うシーンと、後期の大人の美咲がおかあさんの髪を結うシーンが重なって、その情景がなんとも美しいのです。

終盤、お父さんがお母さんの車椅子を押しながら、雲を眺める風景はそれだけで絵になりますが、お母さんが雲を傘と連想し、その連想の傘を受け取るお父さんの仕草と表情がいい。
「お父さん、ありがとう。」そう言った幸子と幸子を見守る老夫婦の関係にやはり、涙します。

物語は単に前期と後期に別れてリンクしているだけかと思いきや、そうではない。過去の家族の景色が幸子の思い出の中の描写と解る時点で、なんと繊細で深い思考なのかと作家の大西弘記の頭脳を想像して、その力量に驚いてしまう。最初に仕掛けた伏線も終盤できっちりはめ込み、観ていてすっきりと収まる。
この作品を支えるキャストの演技力にも脱帽し、更に子役の演技力が完璧で文句の付けようもない。(^0^)
介護。私たちには避けられない問題なのだ。
改めて家族を見直せる物語。
大絶賛!
女子高

女子高

PU-PU-JUICE 女子’s

【閉館】SPACE 雑遊(東京都)

2011/03/30 (水) ~ 2011/04/03 (日)公演終了

満足度★★★★★

た、た、楽しい!
めちゃんこ楽しいったりゃありゃしない!特に友香を演じた藤田みかのキャラクターの立ち上がりが絶妙!このクラスの素晴らしいところは、全てのキャストが記憶に残るほど、キャラ立っていたところだ。物語の構成、演出、演技力、全てに於いて秀逸だった。

以下はネタばれBOXにて。。

ネタバレBOX

物語は、高校を卒業して10年ぶりにかつての教室で夜の同窓会を開くことになった。しかしこの同窓会には目的があったのだ。実は10年前に自殺したと見られていた夏美が本当は殺された。という真相を暴くために、開かれた同窓会だったのだ。

真犯人を探すために仕組まれた罠で釣られるのはいったい誰か?また10年後の今を生きる彼女らの見栄の張り合いや深層心理をコメディ的に描写させた展開はあまりにも巧みな見事さだった。

笑いとサスペンスを絶妙に交錯し、また彼女らの10年後、高校生の時代を上手く噛みあわせてもいた。賑やかな女子高の描写は可笑しくも可愛らしく、一方で集団で一人をイジメる集団心理も描写しながら小悪魔的で残酷な女子高校生を存分に引き出していたと思う。

また全てのキャストらの演技力も素晴らしかった。楽屋でもさぞかしニギニギしいのだろうな~、と想像するとやはり女子って素敵だ。今回、特に演出が素晴らしい。
ラ・マンチャの男

ラ・マンチャの男

東宝

帝国劇場(東京都)

2008/04/05 (土) ~ 2008/04/30 (水)公演終了

満足度★★★★★

こりっち投票の為にコメント
この劇は本当に呆れる位、観ましたね。

松本幸四郎のあの目がいっちゃってる演技、素晴らしいです。

松たかこも唾を吐きながらの演技。
この演技を観て、『成長したな~』と感慨深く感じたのはワタクシだけではないはず。

アイドルから完璧に脱皮しましたね。
実力のある演技を見せ付けられると、跪きたい気分になるのは、たぶん観劇人には良くあることなのでしょうね・・。

そう・・『ブラボー!!』と叫んだのはワタクシです!(^0^)

夜のプラタナス

夜のプラタナス

弘前劇場

赤坂RED/THEATER(東京都)

2010/03/19 (金) ~ 2010/03/24 (水)公演終了

満足度★★★★★

姉妹のめあて
凪がざわめく海辺の崖の上に立つ一軒の家。崖は自殺の名所だったりする。舞台は、その家の離れにある書斎。そこで繰り広げられる3人の濃密な物語。

以下はネタばれBOXにて。。

ネタバレBOX

かつては俳優で現在はエッセイストである53歳の男が住んでいる。男の世話をする姉妹が二人。姉は36歳、妹は26歳。男はガンだ。しかも男はもう長く生きられないことを悟っているようだ。男は終の棲家を探し、この家を借りた。そうして家を借りる時の条件がこの二人の姉妹も付いて、とのことだった。男は奇妙に思ったが、それでも自分の身の回り一切の世話をしてくれるのは丁度いいと思ったのだ。男には家族が居なかったから・・。

場面は病院に行かない男とその世話をする姉の描写から始まる。セットは大きなテーブルと積み上げられた本。右サイドには大きな本棚に横に並べられた本の数々と、その中央に立てかけられた一艘の舟。
この舟が実に奇妙に映る。そうして本の並び方にも。

男の殆どの世話を担当する美しい姉。そうして時々ふもとの街からこの家に通ってくる闊達で可愛い妹。どうやら妹は男とデキてるらしい。一方で男は姉とも肉体関係こそないが感情の部分で繋がってるようす。姉妹の会話が実に楽しい。哲学的でコミカルだ。姉は全ての文学に精通してるようで上質な会話も得意とする。姉妹にも家族はいない。父親は54歳で女と駆け落ちをした。母親は既に亡くなって姉妹二人きりになったのだ。

崖の家から見える洞窟に住んでいるチャトラとチュートラの大きな猫の戦いの描写が可笑しい。まるで姉妹が牽制し合うような風景だ。顎を上げ胸を張り笑みを浮かべて男を眺める妹は、家来に指先へのキスを許可する貴族の女のようだ。一方で清楚な裏に見え隠れする妖艶な輝きを帯びた目をする姉。二人ともネコ科の肉食動物を思わせる危険な光も同居している。

庭にひまわりの種を撒く姉妹。しかし、男はひまわりの花を観る事は出来ない。時折、カッコーの鳴き声が聞こえる。カッコーは自分の卵を他の鳥の巣に落として育てさせる。そんなカッコーに「企んできたかー、君たち!」とささやく姉妹。そして男の事を「少しずつ私たちのものになっていく訳だから・・・。」と二人は愛情を持っているかのように男の世話をする。同時に家の世話をしているようにも見える。

ついに男は日に日に衰えて死んでしまう。それでも男は幸せだったに違いない。男が死ぬ間際まで姉妹は男に尽くしたからだ。「もし、私が理由で君たちに5月の笑顔がないのだったら悲しい。」なんて最後のセリフを吐く。最後の最後まで姉妹を疑うことなく死んだ男。

男の財産を目当てに企んでいた姉妹は、ようやく男が死んで男の財産が自分たちのものになる。姉妹は長い仕事が終わったかのように二人でご飯を食べる。こうやって姉妹は男を食い物にして生きてきた。まるでカッコーのように・・・。

実に秀逸な舞台だった。書斎から見える海の描写や3人の織りなす感情。いきざまなどを観客に投げつけるような物語。セリフの一つ一つは確実に高レベルで言葉に存在感がある。だから長谷川の本は好きだ。重厚な質の高い小説を読んでいるようで、しかもちょっと毒もある。3人のキャストらの演技もお見事で、だからこそ本に厚みが出る。

今日も、ふつう。

今日も、ふつう。

アロッタファジャイナ

新宿シアターモリエール(東京都)

2008/12/10 (水) ~ 2008/12/14 (日)公演終了

満足度★★★★★

ミステリー映画を観てるような
とにかく、素晴らしい!の一言!大絶賛!

何が素晴らしいかって、ドキドキワクワクの展開とそれをカバーする役者陣の演技力。
物語は最初、断片的でパズルのピースにすぎなかったが、その一つ一つのバラバラだったピースが見事に繋がる。そのネタはそこここに散りばめられて、最後は一つの風景画になる。

その風景画と青い海を見渡せる崖の上の白い一軒家だったりする。

以下はネタばれBOXにて。。

ネタバレBOX

この物語はネジ工場の社長である澄川が婚約した事から始まる。

舞台の主役は澄川紅緒、つまりネジ工場の社長ダイの妹だ。

タイトルは「今日もふつう」だが、この物語の登場人物は全て普通じゃない。
またこの人達は普通じゃない日常を望んでいる。だから、この人達にとってのふつうはふつうじゃないことだったりする。

兄が結婚をすると知った紅緒は一通の手紙を仕掛ける。その手紙によって友人たちはこの事件の真相を突き止める。

場面は変わって海を見渡せる崖の上の一軒家。
8歳の紅緒は思っているよりずっと大人で、ずっと幼く、ずっと優しく、ずっと残酷で、ぞっとするほど暗い屈折を覗かせる。
8歳の紅緒は、ダイとSEXをしていたのを両親に見つかり、「両親を殺して。」と巧みにダイを操る。

その紅緒の意思通りに両親を惨殺したダイは小さな紅緒を連れて帰り自分の妹として、ネジ工場の社長に納まり暮らしていた。

この物語は紅緒が高校になった今でもダイを愛していたという事実と、過去を忘れてふつうに結婚をしてふつうの幸せを手に入れたいと願った男の物語だ。

ダイを殺すも生かすも紅緒の手中にあるという少女の屈折しているけれど一途な愛情の行方。いざという時にダサくてダメなダイは絶対に自分を裏切らない。それどころか一緒に死んでくれる、誰にも私を渡したくなくて一緒に死んでくれる、という自信を覗かせる紅尾。
過去を背負ったふつうに生きられない二人の物語。


練りに練った脚本はとにかく素晴らしい!の一言です。
小説でも売れそうな予感!
最後の最後まで8歳の少女が紅緒だったというネタをばらさず、少女の両親を惨殺した犯人もばらさず、ある意味、刑事コロンボの真逆の設定。
だからこそ、最後の最後まで、いったい犯人は誰なんだ?というミステリアスな展開にドキドキするし、ふつうの人達がふつうじゃなくなる瞬間の空気にも納得する。

これはお勧めでしょう。本も演技も完璧です。素晴らしい劇団です。


空耳タワー

空耳タワー

クロムモリブデン

赤坂RED/THEATER(東京都)

2009/06/16 (火) ~ 2009/06/21 (日)公演終了

満足度★★★★★

呪文!
ここの口コミで観に行ったけれど、やっぱり観てよかった!すんごく楽しめた。板倉チヒロのどぎついカマ風味がサイコーでアドリブも面白ぉ~~い!(^0^)しかも、セリフを度忘れしたチヒロ。やり直ししながら「戻ってきたゾっ!」とここでも呪文を唱えてた!

以下はネタばれBOXにて。。

ネタバレBOX



セットは至極単純。だけれどソレを上手く使う演出がお見事!

好きな女子(ナナミ)の背中を刺してしまったケンジは母親から「彼女を助けて命の恩人にしてしまえば彼女は何でも言う事を聞かざるを得ない。」などと入れ知恵をされる。挙句、犯人は解らないまま、命の恩人となってしまうケンジ。暫くナナミを閉じ込めていたが、ナナミは脱出する。
一方、無実の容疑者が浮かび上がるも容疑者は犯行時間に「お芝居」を観ていた、というアリバイがあった。刑事たちは「お芝居」の中身を確かめる捜査を始める。
そのお芝居を演じてた側の役者ら、ゲイのエトウと見習い役者のようなカオルの詐欺師まがいの小芝居と、これら三つの場面が同時進行形で魅せる!

今回の芝居はなんつったって小気味良い呪文のようなセリフにある。
コメディだ。ブラックコメディ。シュールとは違う、もっと毒のあるストーリーなのにコミカルに否応なしにズンズンと、あまりにもテンポ良く進めていくものだから、あれよあれよと言ううちに、観客はすっかり毒されその世界が普通に見えてくる。

ヘンテコなオーシービーなる赤い物体を売る訪問販売人も登場し、あの物体のオチは何だろう?といらぬ妄想をしていたが大したオチもなく、物語は誘拐事件に発展し、身代金の奪い合いになる。(苦笑!)
最後は誰かが誰かを殺し、また、誰かが誰かを殺し・・・、まるでモグラタタキゲームのような抽象的なシーンでセットから頭が出たり入ったりして。(^0^)その繰り返しが続く!
終いには、そして誰も居なくなった!状態じゃね?なんて安心は到底出来るはずもなく、ヘンテコな妙ージカルで終わる。

終盤使われた音楽がいい。人を喰らうアフリカの種族のような楽曲のバースが響いて椅子に振動が伝わる。それはゴトゴトガタガタ・・ゴトゴトガタガタ・・とジェットコースターがゆっくり頂上を目指して登っていく感覚だ。

だから、一気に落ちる瞬間が見事だったのだ!
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エムキチビート

シアターサンモール(東京都)

2010/12/08 (水) ~ 2010/12/12 (日)公演終了

満足度★★★★★

夢とうつつの狭間
間違えてサンモールスタジオの方に行ってしまったワタクシは、シアターサンモールだとやっと理解してびっくら仰天!だ、大丈夫なのか?!こんなでっかい会場で。なんつって心配しちゃった。笑)・・会場に入るとセットが美しくて感嘆したがそこは仮想現実の世界。物語は案外コミカルに進ませ笑いのコネタも満載ですんごく楽しめる。終盤は泣かせどころもあって会場はすすり泣きが聞こえた。

ネタバレBOX

過去に列車の事故で幼馴染のナユタを失ったハジメはショックの後遺症からPTSDを引き起こし幻覚に悩まされていた。この病気の治療法としてオンラインゲームを利用したセラピーを受けていたハジメはオンラインの仮想空間でログインしたプレイヤーたちが集る広場で戯れる。ここが今回の物語の場所だ。しかしこの場所は終盤の展開から列車の中と考えたほうが観やすい。

自分のせいでナユタが列車事故にあって死んでしまったと思い込んでいたハジメはログインしてナユタを探し出し、謝りたいと考える。

序盤、仮想現実の広場で多数のアバターたちがハジメの周りで雑多な争いを繰り広げ、この時にこれまた雑多なコネタを披露する。数々のネタは面白い。観客もワタクシもこの時はハジメが生きていてPTSDとナユタの為に足掻いているとしか思わなかったが、終盤になって列車事故で亡くなったのはハジメのほうで大惨事から一人だけ生き残った少女がナユタだったと、どんでん返しをくらう。

現実の世界でナユタはハジメと同じようにPTSDを引き起こし同じように自分のせいでハジメが死んでしまったと思い込んでいた。そして広場に集っていたアバターらとハジメと関わった現実の世界で生きていた人たちは列車事故で亡くなっていたという種明かしが後半にあるので、広場は車両の中と想像した方がしっくりくるのだ。

ハジメは自分が生きていると思い込んでいたがナユタと逆転していたと知らされるとナユタの心を癒そうと努力する。そうしてナユタがトラウマから開放されて明日への希望を捨てずに頑張って生きようとする姿勢が清らかだった。

物語の中で劇団が登場するがこれはかつてのエムキチビートのリアルな風景のような気がしてならない。書くという仕事とそれらを支える劇団は魂が削がれるほどの努力をしていると思うがあまり多くを望まず頑張ってほしいと心から思う。

魂が作ったフィクションの世界、その美しさは透明なブルー。
不躾なQ友

不躾なQ友

クロムモリブデン

赤坂RED/THEATER(東京都)

2009/12/26 (土) ~ 2010/01/03 (日)公演終了

満足度★★★★★

超おもろい!(^0^)
劇場に入ると舞台上には椅子とテーブル、赤いバッグがサウンドバッグのように天井からロープで吊り下がってる!その途端、こりゃあ上がったり下がったりしながら芝居は進行するのだろうな~。。なんてワクワクドキドキ!案の定、ファイティングな導入音楽と共に舞台は始まる。

以下はネタばれBOXにて。。

ネタバレBOX

始まりは諸味里が警官から職務質問される場面から。
諸味里の持っていたバッグからカッターナイフが出てくる。警官は不審に思い、諸味里を精神的に追い詰めていくが、そこへ山田という昔の同級生が諸味里を助けてくれる。諸味里は同級生の山田を思い出すことが出来なかったが、山田の話で、彼には諸味里の初恋だった女性が妻となっていたことを知る。
諸味里は自分の妻を殺したいとかねがね思っていたものだから、ついついそのことを山田に話してしまう。すると山田は親切にも諸味里の妻・ナツコを殺してしまう。愕然とする諸味里に今度は自殺願望を持っていた山田が「自分を殺してくれ!」と訴える。そういわれても山田を殺せない諸味里を脅し挑発して自分を殺すように仕向ける山田。山田を殺さなければ自分がヤラレルと感じた諸味里は山田を銃で撃ってしまう。そして諸味里は自首し取調べ室で事の成り行きを自白するも、刑事たちはその場所には死人は居なかったことから諸味里自身の告白を不思議に思う。

こうして、諸味里の後に続き数人が、職務質問から始まって山田刑事を殺すまでのパターンを同じように遭遇する為、舞台はこのシーンが繰り返される。笑

同じように「山田を殺してしまった」といって自首してくる何人かを調べていた刑事はもしかしたらこの人たちは、催眠術にかけられているのではないか?と思うようになり、催眠術師の元に行く刑事ら。そこでの催眠術師の言い分は「人を殺すことで一時、幸福感を味わえる。その幸福感を捧げただけだ。」と話す。どうやら催眠術師・鱒淵の術は自らの過去を意識的に見せているようだった。

この催眠から全員を開放させるには越中のような楽天家を催眠にかけてもらって催眠中の全員を催眠から目を覚まさせる。という荒行な案を出した刑事ら。その意向を汲んだ越中は鱒淵に催眠術をかけてもらう。そうして、あっちの世界にはいりこんだ越中は早速、警官から職務質問を受けるが、この場面からの展開が実にコメディなのだ!(^0^)

結局薬局、終盤で越中は登場人物の全員を殺してしまう。そうして、取調室では越中の同級生の山田刑事が「じゃあ、お前は未来から来た人間だというんだな。ずっとあっちの世界で生きていて、こっちの世界に来たのはちょっと前で、お前が殺した全員は殺せ!と誰かが叫んで指示を出したから殺したと言うんだな。その未来とやらをいつか見せてもらおうか。」

「誰だっけお前?」と越中。

ようは全ては越中の妄想劇。(苦笑!)

実に楽しい芝居でした。導入音楽も良かったし、何よりキャストが吐くセリフの数々が絶妙。イッチャッテル世界感がコミカルに描かれて、これでもか、と湧き出る泉のように止めどなく溢れ出て楽しくて仕方がなかった!キャストのそれぞれの不思議なキャラも好みだった。今までのクロムの公演のうちで一番好みだった作品でした。
ムサ×コジ【ご来場ありがとうございました!】

ムサ×コジ【ご来場ありがとうございました!】

X-QUEST

THEATRE1010 ミニシアター(東京都)

2011/07/21 (木) ~ 2011/07/24 (日)公演終了

満足度★★★★★

イチバン!
今までのX-QUESTの舞台で確実にトップだと思う。照明、音響、舞台構成とも素晴らしい。そして、トクナガの本、演出、ともに秀逸だった。市川~、ダイエットして戻ってこ~~い!!

以下はネタばれBOXにて。。

ネタバレBOX

序盤、武蔵と小次郎が真剣に戦おうとする中、セカンド武蔵とセカンド小次郎が登場する。彼らはそれぞれの影だ。つまり、俺はお前でお前は俺ってやつだ。笑
この展開で大爆笑してしまう。格闘アニメで、影が登場したのは確か、「北斗の拳」だったような気がする。

更に、サード、フォースとそれぞれの影キャラクターも登場し、主役のムサコジより、彼らの闇の声(つぶやき)がめっさ、煩い。笑
もう、このシーンで割れんばかりの爆笑があり会場を沸かせる。殆ど少年ジャンプの世界感だ。やがて戦いが始ると銀のニョイ棒を振る効果音と一緒に8人のキャラクター達の超人的なアクションが観られるのだから、ワクワクドッキドッキなのだ。

こう書いてしまうと物語性なんてないんじゃないかと誤解されそうだが、巌流島で一騎打ちの筋立てはきっちり描写してあるのだから、舞台構成のレベルは高い。更に舞台上で繰り広げられるバトルコメディはフォークダンス・オクラホマミキサーを軸にヒップホップにアレンジし、踊るように斬り合いと立ち廻りをやって見せるのだから壮絶にしてコミカルだ!笑

今回、特に素晴らしいと感じたのは舞台上に配置させるキャラクター達の立ち居地だ。踊りながら、格闘しながらきっちりと計算された位置に収まるその場面を観ると鳥肌が立つほどゾクゾクしてしまう。こういった仕掛けはトクナガの天才的なところだが、思うに、トクナガは舞台を横からではなく、天から透けて見えるんじゃないかと疑ってしまうほどの才の持ち主だ。

だから想像するに、舞台を上から観るとリングの上で踊ってるコマは流線的な円を描いてメリーゴーランドのように回ってるに違いないのだ。今回、武蔵役の塩崎こうせいがあまりにも素晴らしい。まるで「ドラゴンボール」の猿を観てるようだった。笑

そうして舞台で表現される小細工やコネタやセリフがこれまた絶妙なのだ。自由奔放なアドリブも楽しかった。格闘シーンの殆どが銀のニョイ棒を使っていたが、これに照明が当たると闇夜に輝くいくつもの光の乱舞が美しい芸術でもあった。格闘アクションでも、コメディでも魅せた。大満足な舞台だった。次回も観たい。


ミュージカル ロザリー

ミュージカル ロザリー

ミュージカル座

六行会ホール(東京都)

2009/11/05 (木) ~ 2009/11/14 (土)公演終了

満足度★★★★★

それぞれの運命
全く期待していなかったけれど、本当に素晴らしかった!衣装、音楽、キャストの演技、照明、どれをとっても本格的ミュージカルでした。
特に、王妃マリーとロザリーの演技は目をみはるものがありました。
本来ならもっと詳細にUPしたいのだけれど、メモしておいた用紙を失くして、一緒に挟んであったフライヤーも失くすという失態の為、ワタクシの記憶のみのUPになります。(^^;)

以下はネタばれBOXにて。。

ネタバレBOX

舞台はフランス王妃マリーの最後の牢獄で女中としてつかえたロザリーとの場面から始まる。マリーは明日、処刑されるという日にロザリーに「貴女のことを聞かせて。」と持ちかけ、その事で二人のお互いが生きてきた過去の話に及び、ロザリーの生きざまとマリーの生きざまを交互に紹介する形で舞台は流れる。

ロザリーは貧しい平民出身で父親は殺され、母親は父親を追うように自殺してしまう。残った姉妹は生きる為に働いていたが、いざ食べるものが無くなってしまうと、ロザリーの姉は知り合いの貴族に体を預けてしまう。結果、姉には貴族との間に男の子が生まれるが、姉は一人で育てることを決意する。一方ロザリーは酒場で掃除婦として働いていたが、貴族にむりやりに強姦されてしまう。ロザリーは失意の中セーヌ川に身を投げるが、革命派の青年に助けられ、おのずと革命派の中心的存在となって動くことになる。全ては貴族に復讐を!の誓いのもとだった。

一方、王妃マリーのベルサイユ宮殿での放蕩ぶりはどなたも御存じのはずだから割愛するが、ルイ16世が男性として不能だった事や、マリーの周りではびこる貴族が、マリーに対する振る舞いも紹介される。そしてフェルゼンの登場も。

やがて、民衆は立ち上がり、大きな革命のうねりと共に宮殿に向かっての行進の場面となる。このとき、ロザリーが先頭に立って、勇ましい姿を演出するが、この場面でのロザリーの演技が神々しいのだ。素晴らしいキャストだ。

こうして宮殿になだれ込み民衆自身も被害を受けながらも貴族の切首を掲げながら倒していく。この時に、ロザリーの姉は貴族に撃たれて殺され、ロザリーは姉の息子の消息を捜しまわる。そののち、姉の息子に偶然にも出会えたロザリーは「をを!神様、感謝します!」と姉の子を抱きしめ、「さあ!行きましょう!」と光輝くスポットの中、二人は手を繋いで歩きだす。力強く。

劇中、マリーもロザリーもそれぞれの運命に逆らえなかった経緯も紹介され、相反する二人の生きざまは、お互いの想いの中で許しあう。ロザリーはマリーを獄中から逃がそうとするも、マリーは「ワタクシを処刑することで新しい時代がやってくるのだということを民衆に知らしめることこそが最後の与えられた使命だと思っています。ですからワタクシは逃げません。ここフランスで処刑されます。」と毅然と話す。

全く境遇の違う二人の女性が処刑の前日に話す場面は緊張感のなかにも二人が信頼のもと確立される精神的な揺らぎのような微妙な空気が漂い、胸が打たれる。ロザリーがマリーに対して持つ複雑な状況に心が乱れそうになるのを懸命に抑え込む演技は崇高でさえあった。一方、明日までの命と知ったマリーは死への恐怖やいら立ちを消し去り、淡々とロザリーに話を聞かせるそのセリフに迷いはなく、むしろ私たちは屈伏しそうになる。そしてマリーは「貴女を抱かせてくれる?」と話し、静かに抱きしめる。「ワタクシを許してね。」と。

マリーは死の直前にロザリーという女性に逢えたことで、彼女の命そのものが癒されたのだろうと感じる。演出もお見事ならキャストもお見事で素敵なミュージカルでした。キャスト全員が歌が上手い。

ああ、舞台って素晴らしい!

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