うさぎライターの観てきた!クチコミ一覧

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ルーシアの妹

ルーシアの妹

ライオン・パーマ

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2014/05/15 (木) ~ 2014/05/18 (日)公演終了

満足度★★★★

タイトルの意味
人は「正義」だけで幸せになれるのか?
「正義」だけで国を治めることはできるのか?
設定と、少女が旅を通してさらに成長していく様は面白いし説得力がある。
「正義」の対極にある”大人になることのほろ苦さ”も際立っている。
ただ2時間越えは少し長く感じた。
もう少しコンパクトにして、その分“こなす”ように早口で流れてしまった台詞を
丁寧に立てたら、味わいある台詞がさらに活かされると思う。
ギャグのセンスと間が良くて、大いに笑った。
なぜこのタイトルなのか、観終わってひどく納得。

ネタバレBOX

その国にはもう3年も国王がいない。
噂では森の中に、王になるべき者が試される道があると言うが真実は解らない。
母の病気に効く青い花を取りに行くべく、ルーシアの妹エミリーが旅立つ。
彼女の行く手に立ちはだかる試練と、乗り越える度に強くなっていくエミリー。
その陰には、本当に民のための国王を選ぼうとする者たちの真摯な思いがあった。
そしてエミリーの、足の悪い姉ルーシアの秘密が明らかになる…。

正義だけで理想を実現させようとしても無理がある、
だから闇の部分を引き受ける者が存在し、彼らはその秘密を墓場まで持って行く…
という“大人のリアル”が前提にあって説得力を持つ。
試される各ステップが明確なテーマを持っていて面白い。
フラッシュバックのように、姉ルーシアの時のことが再現されるのが良い。
そのエピソードによって、試練の過酷さと選抜された理由が伝わってくる。
ただルーシアの魅力がもっと強く出るシーンが、再現場面の他に欲しかったと思う。
最後のステップで、エミリーが何を選択したのかが明かされないところがまた
為政者の取るべき道を考えさせる。

姉妹の父親役の草野智之さん、滑舌良く
汚れ役を引き受ける覚悟を語る長台詞も良かった。
前国王の息子でありながら国王にならないと決めた男を演じた橋本一郎さん、
理想を追い求める高潔な精神の男を、融通の効かなさも含めて好演した。
その娘で、父を尊敬しながらも大きな嘘を背負うことを選ぶアリ役の柳瀬春日さん、
アニメキャラのような可憐な容姿とよく通る声、表現力ある台詞で存在感大。

作品全体が筆の進むままに饒舌になっていった感があり、
もう少しコンパクトになったらメリハリがついてもっと面白くなったような気がする。
それにしてもあの歌を、皆さんよく笑わないで歌えるものだと関心した(笑)
フサエ、100歳まであと3年

フサエ、100歳まであと3年

小松台東

OFF OFFシアター(東京都)

2014/05/08 (木) ~ 2014/05/13 (火)公演終了

満足度★★★★

宮崎弁の台詞
台詞がいいなあ。
宮崎弁の柔らかなトーンが、人の営みの棘やストレスを包み込むように優しい。
達者な役者陣がまた絶妙の間で返し合う。
若干初日の硬さが見られた気もするが、
そんなものを吹き飛ばすことばの魅力に惹き込まれた。

ネタバレBOX

舞台はフサエおばあちゃん(松本哲也)が暮らすケアハウスの部屋。
(確かケアハウスだったと思う)
日頃は娘の真知子(山像かおり)が訪れるくらいだが、今日はちょっと様子が違う。
真知子に呼ばれて帰って来ている孫の康太(野本光一郎)は33歳でバイト暮らし。
姉久美子(笹峯愛)は、そんな弟が歯がゆくて、会えば喧嘩ばかりしている。
久美子は夫(佐藤達)の仕事について来月ドバイへ移住することになっており、
その前に家族が集まる形になった。
ケアスタッフの須藤(尾倉ケント)、見合いが嫌で飛び出してきたいとこの光(冨永瑞木)、
週に一度やってくる牧師の聡美(伊達香苗)らが加わってますます賑やかに…。

登場したフサエおばあちゃんが、ガタイが良くて97歳に見えない(笑)。
そんなにリアルでなくても良いが、もう少し年寄りっぽさが出ても良いと思う。
作り過ぎない年寄りの方が台詞の面白さが生きるけれど、
杖こそついているが姿勢や話しぶりは70歳くらいの印象を受けた。
年寄りがベッドに座った時、足が床に着かなくてぶらぶらするのも
ちょっと不自然かな。

その違和感が徐々に薄れるのは、その後の台詞のやりとりが面白いからである。
康太が姉の夫と話すシーンや、牧師の聡美とつきあい始めて1週間の須藤の会話、
そして何と言ってもフサエと真知子は、相手の台詞を受けとめる呼吸が絶妙で
“受ける芝居”の大切さを教えてくれる。
この二人が他の会話の“暴走”をうまく収めている。

姉がひとりになる母を心配するあまり、頼りない弟に強く当たる気持ちが
もう少しことばになっても良かったのではないかと思う。
終始不機嫌な顔で、性格が悪く見えてしまいそうなのは残念だから。
ちょっと変なダンナが、何だかいい人じゃないの、ってなるところは巧い。

フサエと真知子のキャラが魅力的で、宮崎弁の台詞が生き生きと立ち上がる。
この台詞、温かくて懐かしくて、ぜひまた聴きたいと思う。
エレクトリックおばあちゃん

エレクトリックおばあちゃん

渡辺源四郎商店

ザ・スズナリ(東京都)

2014/05/03 (土) ~ 2014/05/06 (火)公演終了

満足度★★★★★

笑ったら泣け
社会問題を扱ってこんなに笑わせるのはなべげんくらいだろうと思う。
舞台を二層に分けて二つの世界を並走させる構成と演出が素晴らしい。
笑った分だけ結末の衝撃が大きい作品。
その中心にいるのはちっちゃなおばあちゃんを演じる三上春佳である。
ほとんど“作ってる感”ゼロ、まるで素のように座っているのに
完璧な“間”と柔らかな津軽弁で、現代日本の高齢者のありようを抽出して見せる。
終演後台本を買って、下北沢から電車に乗っても私は涙が止まらなかった。
変なおばさんと笑わば笑え、私は今日なべげんを観たのだ。

ネタバレBOX

上手と下手には待機する役者が座る椅子が6脚ずつ椅子が置かれている。
舞台中央に一段高い四角い箱があり、ちゃぶ台のあるおばあちゃんの居間になっている。

地震により青森県の南むつエネルギー・センターで事故が発生、青森全域が停電する。
混乱する町立病院の医師、看護師たち。
居間では80代後半のきい(三上春佳)が突然電気人間と化し、発電できるようになる。
最初は100Wの電球が点くだけだったが、次第に発電量が増え
やがて南むつ町全体、そして青森県全域の電力を“安定供給”するようになる。
一方病院では、混乱が広がり避難命令を受けて患者とスタッフがバスで避難を始めるが
ただ一人、移動は反って危険と言う理由で病院に取り残されようとしている患者がいた。
最後まで連れて行こうと主張する看護師もついには折れて、バスは出発する・・・。

次第に電気のコードが増えて行くきいの周囲には、様々な人が訪れる。
孫(夏井澪菜)、嫁(工藤由佳子)、電気屋の社長(北魚昭次郎)、社員(工藤良平)。
一方病院ではスタッフがボケた患者の孫や母親、ボーイフレンドという役割を演じていた。
その患者も今やたくさんのチューブに繋がれた状態となり、
全員が避難する中、ひとり病院に置き去りにされようとしている。

舞台一階部分、病院の混乱が地震・深刻な事故発生という現実世界で、
二階部分で繰り広げられるのはきいの記憶・妄想・願望の世界ということだろうか。
並走する二つの世界がやがてひとつに繋がるまでのテンポと伏線が素晴らしい。
母親のエピソードや嫁との確執、子どもに戻ったりまた老婆になったりという
きいの時空の移動が全く無理なくなめらかに行われる。
電気のコードが増えて行くのが、実は病院のチューブという比喩が秀逸。
力まず軽く、だが味わい深いきいの台詞が素晴らしく、
若い三上春佳さんの力量に驚嘆する。
嫁役の工藤由佳子さんが、“東京もん”らしい都会的な雰囲気と
確執のある“嫁の毒気”をたっぷり含んでいて巧い。

1970年発売のザ・スパイダースの歌「エレクトリックおばあちゃん」を
全員で歌い踊るパフォーマンスは明るく屈託が無い。
だがラスト、きいの「ここで死ぬんだもん」という台詞には痛切な選択があって
“死に場所を選びたいなら、孤独がもれなくついてくる”という
私たちにはまだ見ぬ不安と怖れに心臓を思いきり掴まれる思いがする。
爆発音が響く中、私はひとり取り残されることを選べるだろうか…。

ひとつだけ、「エレキ幸福の会」のくだりは必要性がイマイチ良く解らなかった。
非常時にあっては宗教観も変わるのが日本人かもしれないけれど。
私の好きな斎藤千恵子さんが伝道師としてはじけてるのを観るのは楽しかった。

新しい本拠地を求めて奔走中と言う渡辺源四郎商店、
ぜひ良き所を得て、私のようにぼんやりしてる人間を
がつんと目覚めさせてくれるような作品をこれからも創ってください。
畑澤先生、ありがとうございました。
さらば、仏の顔

さらば、仏の顔

アフリカン寺越企画

新宿ゴールデン街劇場(東京都)

2014/04/25 (金) ~ 2014/04/27 (日)公演終了

満足度★★★★

いちめんの般若心経
あのアフリカン寺越が名実ともに“坊主”になるという究極の設定。
人間関係においては、それが小さな集団であればあるほど
発生する力関係が、どうしようもなく人の人生を支配する。
宗教の現場という“救い救われる”はずの空間で起こる“救われない”話。
熱量の男アフリカン寺越の、台詞のない場面の視線に惹き込まれた。

ネタバレBOX

畳敷きの舞台、正面の壁いっぱいに書き初めみたいな半紙が貼られている。
書かれているのは般若心経だ。
先代の娘が継いだ寺は廃寺寸前、毎日売らないかと営業(松前衣美)が来る。
ここはその離れで、英生(えいしょう・アフリカン寺越)が
不登校の少女あかり(清水理沙)に写経と座禅を教えている。
女住職(羽鳥友子)は、あかりが希望を見いだせるまで寺は売らないと決めている。
この寺ではかつて僧たちによる暴力事件が起こっており
英生はその被害者、先輩の佑人(ゆうじん・末廣和也)は
次のターゲットにされるのを怖れて加害者側に回ったという過去があった。
最近入って写経を始めた東(宇徹菊三)という男は、
手癖は悪いが人の本音を見抜くところがあった。
英生の言葉とは裏腹にくすぶり続ける復讐心に気付き、
自分が代わりにその復讐をはたしてやる、とある行動に出る…。

壁一面の般若心経につい見入って、意味の解りそうな一文を探してしまう。
英生の矛盾と葛藤が全編を通じて重く問いかけて来る。
あの時加害者側に回った先輩に対して「もう赦しています」と答え続けながら
いまだに小さなボディタッチにもびくっと反応してしまうトラウマの影。
不登校のあかりを「いつか変われる、きっとできる」と励ましながら
自分はどうかと省みれば、結局大人になっても何も変わっていないじゃないか。

女住職は賢く理解ある魅力的な人物だが、それでも
“佑人は英生を庇って暴力に加担しなかった”と聞かされそれを信じている
愚かで善良なところも持ち合せていて、この辺りの世間の描き方がリアル。

結局東が英生と佑人の隠された本心をむりやり引きずり出して
白日のもとに晒したために、二人は再び対決することになる。
「先輩はなぜあのとき…」
「いつまでもトラウマとか言いやがって…」
そして禁じられていた暴力が待っていたように火を噴く。

いつまでも先輩面して英生の上に立ち、
「もうあの時の事は赦しています」と言わせ続けることでしか
自分を保つことが出来ない佑人の虚ろな人生が浮き彫りになる。
この手の輩が発信する無責任な発言が、たとえ一時的にでも
女住職のような立場の人間の信頼を勝ち取り、
誰かの人生を翻弄するということに対して
観ている側のいら立ちと怒りがMaxになったところで
寺の売却を知った英生がついに離れに火を放つ。

火を放つまでの英生にあと一歩近づきたかったと思う。
それは例えば、「これ以上佑人と一緒にいたくない」とか
あかりに対して「だめかもしれないけど自分も一緒にがんばるから」という
英生自身から出る最終宣言が聞きたかったということでもある。
誰にも真実を語らず弁明もせずに火をつける、という行為は
ひとつステップを飛ばしてしまったような未消化な印象を受けた。

もっともそれこそが英生の抱える一番大きな問題なのかもしれない。
“声を上げる”事さえ出来ていたら、そもそも彼は
いじめや暴力に晒されずに済んだかもしれない。
そう考えると、この結末は英生らしいとも思える。

アフリカン寺越の一瞬の緩みも無い表情が素晴らしい。
どんな場面でも“いじめと暴力の過去を背負った人間”の顔をしている。
それはたとえ嬉しいことがあって部屋をぐるぐる歩き回る時にも、である。
女住職を挟んで、先輩に嘘を強要する視線を送られるシーンの繊細な視線も良かった。

その先輩を演じる末廣和也さん、中途半端でいい加減な、
それでいて誰かの上に位置しなければ自分の存在を確認できない人間を
いや~な感じの台詞で表現していてとてもよかった。

結構前方の席だったが、肝心の火をつけるシーンが
前の人の頭でよく見えなくて残念だった。
少し煙が立ったかと思ったら燃え広がるような照明で、
アフリカン寺越の表情を下から照らし出したところが素晴らしかった。
改めてこのタイトル、巧いよなあ。


仮面音楽祭

仮面音楽祭

江古田のガールズ

赤坂RED/THEATER(東京都)

2014/04/16 (水) ~ 2014/04/20 (日)公演終了

満足度★★★★

強烈、三軒茶屋ミワ
客入れの時の選曲が素晴らしく、どストライクにその世代である私は
井上陽水の艶のある声に溺れ、ちあきなおみの「喝采」に涙がにじんだ。
こういう歌を良しとする26歳が書いて演出するのか…、と期待が膨らんだ。
多少強引な展開もあるが、“突然歌い出す”という
ミュージカルの特徴(?)を存分に活かす設定の巧さに笑った。
終演後に登場し「小音楽祭」として3曲歌った三軒茶屋ミワが
今観た芝居が吹っ飛んでしまうほど強烈な印象を残したのは
いいんだか悪いんだか…って素晴らしかったんだなこれが!

ネタバレBOX

舞台はカラオケ店の1号室。
ドアを開けて出ると喫煙スペース、ぐるりと廊下があり、階段奥にはトイレがある設定。
この1号室に常連客が来て8名の予約をするが、自分は酔っぱらって帰ってしまう。
実はここで夜中の12時から朝の5時まで合コンをすることになっており、
呼ばれた男女8人が集まってくる。
彼女と同棲3年目のニート男(あずましゅん)も参加していたが、
やがて遅れて来た女がその同棲相手(相良康代)だったことから
合コンは一気に険悪な雰囲気になる。
そして乾杯の酒が入ると、参加者の仮面が徐々に剥がれて行くのであった…。

重大(?)な局面になると歌が始まるのだが、
場所が場所だけにマイクも照明も自然で、流れに違和感がないのが妙に可笑しい。
同棲カップルの鉢合わせでいきなり本音モードに入ってからはテンポも上がる。
化粧が落ちたり落としたり、素顔も本音も露わになって互いを攻撃したりする。
“昔はJJのモデル、今はお仏壇のはせ○わのモデル”(清水ひとみ)とか
“池袋のヘルス嬢”(荒弓倫)とか、それぞれのバックグラウンドにも悲哀がにじむ。
みんなさんざん嫌な部分やダメダメなところを晒したあと
朝になるとまたけろりと自分の日常へ戻って行く。
そこが何ともいいんだなあ。

タンバリンを持って歌う男(佐川誠)、歌も上手だったし
(タンバリンをあんなに上手に叩く人初めて見た)力の抜けた風体も○。
店のバイト(熊野利哉)が沢田研二よろしく宙を舞う演出など、
サービス精神にあふれていて楽しい。
役者陣は皆達者で良かったが、歌に関しては
本編の後の三軒茶屋ミワ(山崎洋平)に持ってかれた感じ。
シャンソン3曲目の「ミロール」では、その複雑で豊かな表現力に圧倒された。
26歳でこんな人生の悲哀が歌えるものなのかと思った。

選曲や冒頭の映像の使い方などがセンスを感じさせる。
カラオケや懐メロを扱ってダサくならないのはこのセンスが洗練されているから。
ただもう少し台詞を絞ったらもっと効果的かなと思う部分があった。

あるインタビューで、山崎洋平さんがご自分の原点について
「WAHAHA本舗と美輪明宏さんです」と語っていたが
まさにその両方を目指しているのがとても良く解る舞台。
シリアスな人生の苦みを踏まえた上で、あえて笑い飛ばすスタンス。
彼の笑いには深い観察眼があって、それが台詞と間に表れている。
シャンソンは、そんな作者にぴったりな音楽表現だったのだと思う。

一部の芝居と二部の歌(8:2くらいだけど)というのは、
なんだか演歌歌手の公演みたいだが
作者山崎洋平全開、彼の「娯楽」が100%伝わる最強の構成であると思う。


ケンゲキ! 宮沢賢治と演劇

ケンゲキ! 宮沢賢治と演劇

シアターオルト Theatre Ort

こまばアゴラ劇場(東京都)

2014/04/03 (木) ~ 2014/04/13 (日)公演終了

満足度★★★★

テーブルの上の銀河鉄道
劇団単体で宮沢賢治演劇フェスティバルを行うという企画もユニークだが
切り口を「銀河鉄道の多様性」と「賢治の言葉の音楽性」の2つに絞ったのが鋭い。
演劇と宮沢賢治の関わりを端的に表していると思う。
白木の長テーブルに並んだ食事の支度が美しい。
ミートローフやマッシュポテト(に見えた)、水、りんご、ミニトマト、皿とナイフとフォーク。
その周囲にレールがめぐらされ、おもちゃのSLが、かたかたと小さな音を立てて走る。
三方から囲んだ舞台奥には天井から白い布が流れていて、
まさに天の川という見立てに相応しい。
東北の豊かな恵みを食卓にのせ、自分はそこを鉄道で走り抜ける…。
死を問い続ける賢治を乗せた、はるか銀河への旅である。

ネタバレBOX

「青森挽歌」が挿入されたことで、“友人の死を受け入れる”ジョバンニの苦悩に加え
“死を選択した”カンパネルラが、死とは何かと問う悩みが深くなった。
ジョバンニを演じる八代進一さんのすっきりとした軽い立ち姿が
シリアスな命題を際立たせてとてもよかった。

“カンパネルラは君を助けるために死んだ”と級友から言われたザネリは
“彼は力がなかったから手を離してしまったんだ”という意味のことを平然と答える。
「最後にお父さん、お母さんと言っていた」とまでザネリに言わせている。
カンパネルラの犠牲的精神と、ザネリの利己的な態度を対比し強調することで
作者の北村氏自身が「本当のこと」を突き付けてくる。
この創作を喚起するのは、やはり原作の豊かさ大きさという気がする。

鳥捕り(舘智子)とサソリの話をする女(藤谷みき)が面白くて良いバランス。
客席の近くまで来て演技することが多かったので
全員衣装の布の美しさがよく見てとれた。
照明もドラマチックできれいだった。

「カンパネルラ!」とジョバンニが叫ぶと、やっぱり泣いちゃうんだなぁ。
イエドロの落語 其の壱

イエドロの落語 其の壱

イエロー・ドロップス

新宿カールモール(東京都)

2014/03/08 (土) ~ 2014/04/11 (金)公演終了

満足度★★★★

粋なふたり
おぼんろのメンバーでもある
さひがしジュンペイさんとわかばやしめぐみさんのユニットで、
そのスタートはおぼんろよりずっと古い。
落語の有名な演目という明確な元ネタを3つ合わせた構成と、
濃い色合いの芝居が超個性的。
二人とも洗練された端正な顔を躊躇なく崩して芝居するところが素晴らしい。
“始末の唄”最高♪

ネタバレBOX

「始末の極意」
始末=節約の大家に教えを請う者が、
「扇子の半分を5年使い、次の5年は残りの半分を使えば10年もつ」と言うと
大家は、「自分は孫子の代まで伝える。扇子を動かさずに顔を動かす」と答える。

「品川心中」
品川の女郎お染は、季節の行事にかける金が無いので後輩から馬鹿にされる。
悔しまぎれに死のうと決め、どうせ死ぬなら心中しようと相手を金蔵に決める。
純朴な金蔵と一緒に桟橋へ行き、ためらう金蔵を突き落とした時、
店の若い者が「金が出来た」と知らせに来て止められ、お染は思い直して店へ戻る。
一方金蔵も、遠浅だったため死にそびれていた…。

「転宅」
お妾さんにお金を渡して旦那が帰って行くのを聞きつけ、泥棒が忍び込む。
ところが鉢合わせした妾のお梅から
「自分は元泥棒、あの旦那には愛想が尽きたから一緒に逃げて」と誘われる。
その気になった泥棒は、妻となるお梅に今日の売上(?)を巻き上げられた上
二階にいる用心棒を怖れて、明日また来る約束をして帰る。
約束通り泥棒が翌日行ってみると、お梅は引っ越しした後で
近所中の人が間抜けな泥棒を待ちうけていた。

3つの古典落語をつないで“お染金蔵”の二人が
心の隙間を埋めるまでの旅路を辿る。
この構成にイエドロ独自のエピソードとパフォーマンスを挿入するところが面白い。
声がもったいないからと、端折ってところどころ発声せずに歌う“始末の唄”が最高!

また「品川心中」と「転宅」の段では、
わかばやしめぐみさんが仕掛ける側になって
あの魅力的な口跡と表情で大いに魅せられた。
白塗りって一度素顔を隠しているのに、逆に豊かな表情が際立つから不思議だ。
心中の相手に選ばれてしまった男も、金を巻き上げられる泥棒も
その人の良さが表情からにじみ出る。
拍子木の音でメリハリをつけた演出も息がぴたりと合って芝居っぽさ全開。

江戸っ子の口調を気持ちよく再現して落語好きには大変楽しかった。
噺家が創る“粋な世界”を芝居仕立てにするのはとても難しいことだ。
本当に大好きで深く研究し工夫したのだなあと思う。

両親も私も大ファンだったので、古今亭志ん朝師匠の独演会には何度も行った。
師匠が亡くなった時「葬儀に行くから会社休む」と言って周囲に説得されたのも懐かしい。

ひとつ難点は会場の狭さ。
あのスペースにあの人数、あの椅子、傾斜が無いから難しいのだろうけれど
やっぱりちょっとキツイなあ。
末原拓馬さんが細やかに気を使って下さっていたが
もう少し観る側の快適さも考慮していただけると嬉しい。
「其の弐」も楽しみにしてるからさ♪
私の好きな「野ざらし」とかいい女も出て来るし、どうでしょうか?
英霊だヨ!全員集合

英霊だヨ!全員集合

劇団東京ミルクホール

SPACE107(東京都)

2014/04/02 (水) ~ 2014/04/06 (日)公演終了

満足度★★★★

圧巻のドリフ再現
第20回本公演で解散公演って、ホントですか?!って感じだけど
圧巻のドリフネタが素晴らしく、笑った笑った。
このクオリティで再現されるとリアルタイムで観ていた“全員集合世代”は泣けて来る。
浜本ゆたかという人の、肉体的・精神的な運動神経の良さとセンスが際立つ。
「今のうちに出来ることは全部やりたい」とぬかすアバ・シンザブロウ首相、
漫画のように良く似たイシバさんを巧みに真似て
政権を揶揄しつつ「ふざけるな!」というメッセージを発信する。
で、時々やけにいい台詞を言ってまた泣かせる。
バビ市、なんでやめるのよ…。

ネタバレBOX

靖国神社で出会った8年間ひきこもりのネット右翼青年と韓国人青年。
2人は、英霊でありながら靖国に入らず彷徨っている
他の英霊を探す手助けをすることになる。
英霊たちが再び集結してもう一度やりたいこと、それは「点呼」であった。
あのドリフの伝説のネタである…。

アバ首相に「国民がお国のために死ぬには靖国が必要だ」と言わせるあたり
相変わらずドタバタしながら鋭い批判の目が光る。
「靖国より千鳥ヶ淵の方が居心地がいいんだよ」と彷徨う英霊が言うのも良かった。
自分の存在価値を見出せないひきこもり青年が変化していく様も感動的だ。

お馬鹿な展開の中でびっくりするような正論を吐き、
すごいなと思ってるとすぐくだらないことを始める。
この“あざなえる縄の如き両極の混在”がミルクホールの魅力だ。
そこにダンスが入るといい感じに句読点が打たれる。

浜本さんは他の人のギャグの間も視線が緩まない。
アドリブで間をつないでいる時も目は素になっていない。
そのプロに徹したところがいいんだな。
ハリマオもいいけど短髪軍服も似合ってた。
ダンスのキレもいいし、泣かせる台詞も上手い。

バビ市、劇団員だけで小さいところでコメディやってくれませんか?
大仕掛けでなくても、きっと台詞で笑わせる舞台になると思う。
男女両方いけるんだし人数も少なくて済むでしょう?(そういう問題じゃないか…)

ひきこもり青年を演じた最年少の星浩貴さん、初々しい若さが好感度大。
生着替え(?)ありがとうございました。

ミルクホールの皆さん、また「おいっす!」と勢ぞろいするのを待ってます。



Re:verse

Re:verse

アヴァンセ プロデュース

本多劇場(東京都)

2014/04/02 (水) ~ 2014/04/06 (日)公演終了

満足度★★★★

かくも過酷な生存
“生き残る”ということは、かくも過酷なことなのか。
東日本大震災の翌年、再び巨大直下型地震に見舞われた関東地方を舞台に
ひとりの女性ジャーナリストがインタビューを試みる。
家族を喪った被災者を怒り狂わせ、二度目の試練を与えるかのような彼女の質問。
答えるうちにのたうちまわるように乱れていく被災者たちの心情。
緊張感ありまくりの展開となぜそこまで、という疑問が解けるラストが秀逸。
生き残った人々は皆、自分に出来なかったこと、出来たはずのことを探し
自分を“許されざる者”として糾弾し続ける。
それは“助かって良かった”という安堵の感情からは程遠いものだ。

ネタバレBOX

舞台中央にテーブルと椅子が置かれている。
まるで足場を組んだような金属製の階段と2階部分が
それを見下ろすように囲んでいる。
女性ジャーナリストが夫と子どもを置いて家を出るまでの顛末のあと、
その女性が被災者にインタビューをする場面に移る。
父を救えなかった男、義母を喪った嫁、津波にのまれて娘の手を離してしまった母、
仲間を置き去りにして逃げた消防団の男など、皆胸に暗部を抱えている。
ジャーナリストは彼らに容赦無い疑問を投げかける。
例えば「元々不仲だったのではありませんか?」と。
「たとえそのために死人が出ても真実が知りたい」と言って憚らないその態度には、
マスコミの人間特有の傲慢さが前面に出ていると感じさせるが
やがて彼女自身、置いて来た夫と息子たちを喪った身であり
同じような立場の人たちが一体どうやって生きているのかを知りたいという
悲痛な思いで質問しているのだと判る。
そして彼女を強く批判していた消防団の男が、全てを話したあと自ら命を絶つ。
誰もが巻き戻せない時間の中で、後悔の海で溺れるようにもがいている…。

被災地の人々の心の裏にあるのは、喪失感と同じくらいの“後悔の念”であったと思う。
こんな喪い方をするなら、別の選択をすれば良かったというどうしようもない後悔。
あまりに唐突で暴力的な奪われ方をすると、もはや死者に非を見出すことなど
不可能であり、非は全面的に生者に移行する。
背負いきれない自己否定と闘い続ける苦しみは、生きる意味も気力も奪う。

作者は徹底的に“後悔する人間”に密着し、フラッシュバックのように繰り返す
「あの時別の選択をしていたら」という思いを肯定するかのように描く。
それは“後悔してもはじまらないから前を向いて生きよう”という世間の流れや
時間が経って次第に薄れる記憶と真っ向から対立する。
人は後悔する生き物なのだ。

私は前回の公演を観ていないが、大きな空間を良く作っていると思った。
群像の中で、ひとりのジャーナリストが真ん中で喧嘩を売るように挑んでいく姿が
やがて同じ喪失感を共有する者の必死な思いであったと判る構成も上手い。

冒頭から子役が達者なのだが、技術が勝っているような印象を受けた。
死ぬ前にカメラの前で語った消防団の男の告白には泣けた。
他人には「生きるんだよ」と言いながら、家に帰って首を吊る男。
人間の抱える矛盾の優しさと切なさを感じさせるキャラが素晴らしい。
配役表があったらな、と思った。

毒っ気を振り撒く作者のイメージと重なりながらも
根本にある“不完全な人間を受容する”姿勢が感じられて、
他の作品も観てみたくなった。


『あら、救急車』   『夜まわり隊』

『あら、救急車』   『夜まわり隊』

ATラボ

高田馬場ラビネスト(東京都)

2014/03/27 (木) ~ 2014/03/30 (日)公演終了

満足度★★★

マリオネット
運悪く関わり合いになってしまった人にはえらい迷惑なことだが
傍で見ている分にはイライラしながら笑っていればよい、という人間模様。
オチがイマイチはっきりしなくて「そこが見たい、知りたい!」的な欲求が残るのは
作者ギィ・フォワシィ氏の意図するところなのか…?

ネタバレBOX

①「夜まわり隊」
夜中に散歩していた男がとっつかまったのは「夜まわり隊」と称するこん棒を持った男。
警官みたいに尋問された挙句、私生活をあれこれ詮索される。
駐車場に止めた車からカーナビ等を盗まれないよう不審者を捜している夜まわり男は、
異様に疑り深く、おまけに傍若無人な男だった…。

「お前の家を家宅捜索する」と言われてついにキレた男は
夜まわり男に突進して二人とも倒れ込むが、そこで暗転…。
その後どうなった?
あの叫び声はどっちのもの?
結局どっちが勝ったの?
と、野次馬としては知りたい事だらけ。
身の潔白を証明するのは、自由な国と言えども極めて難しいのだと痛感。

②「あら、救急車」(土屋直子さんの回)
“誰も死なない老人ホーム”がキャッチフレーズのホームの一室で、
「もうすぐ死ぬ」と騒ぐ歩けない岩崎さんは、ひとりで死ぬことを極度に怖れている。
別室の入居者のぶ子さんを呼びつけてはかみ合わない会話を交わし、
わがままを言って人をこき使い、挙句の果てにいつも悪態つき合って大騒ぎ。
結局看護師に叱られて、薬を飲んでいびきをかいて眠る日々。
ある日のぶ子さんが窓から外を見て「あら、救急車」と言ったその一言がきっかけで
岩崎さんが“身代わり脱出作戦”など計画したところから、事態は思わぬ方へ…。

孤独な老人の本音がわがままいっぱいに描かれていて
昨今のものわかりの良い年寄りとは一線を画すキャラが面白い。
だけど妄想もわがままも度が過ぎると、後が大変なことになって、
自分の首を絞めることになるんだよ、ふぉっふぉっふぉっ…って話。
ブラックな終わり方でこちらの方がちとすっきりはするが
のぶ子さんが見た救急車って、本当は何だったの?
看護師のダークなキャラがリアル、実は一番怖いのはこの人か…。
「40 Minutes」

「40 Minutes」

TABACCHI

スクエア荏原・ひらつかホール(東京都)

2014/03/21 (金) ~ 2014/03/24 (月)公演終了

満足度★★★★

サムライ三様
企画自体はとても面白いし、投票制も興味深い。
小さいハコでやった方が、より作品が活かされると思う。
さらに共通のテーマを設けず「40分」という時間の縛りだけでも
個性が十分発揮されて、劇団のカラーが際立つかもしれない。


ネタバレBOX

① 劇団チョコレートケーキ 「○○六○猶二人生存ス」

客入れの時から波の音が流れている。
特攻兵器、人間魚雷「回天」の訓練基地で起きた事故の犠牲者を描く。
舞台中央、横長に置かれた机の上、上手側に閉じ込められた二人、
回天の生みの親とも言える黒木大尉(西尾友樹)と樋口大尉(岡本篤)が座っている。
下手側には整備担当の後藤(浅井伸治)がストーリーテラーとして立ちつくしている。
海底に沈んで取り乱す樋口に、黒木が告げる。
「冷静な遺書を書け、自分たちの死を美談にすることで
後に続く者はためらわずに死んで行ける」

何かを守るため、誰かのために死ぬのは当然という時代の空気が、
あの時多くの人の命を奪った。
”潔く死ぬのがサムライ”である事を徹底的に利用したのである。

極限状態にあって尚驚くべき強じんな精神力を保てるのが
そのサムライ精神教育の賜物であることは何とも皮肉なことだ。
生き残った後藤の「空気が、多くの若者を殺した」という
苦渋に満ちたその叫びこそが作者の訴えるものであろう。
これは反戦と言うより、“反空気”とも言うべき、現代への警鐘にも聞こえる。
“なんとなく、ねばならぬ”という胡散臭さへの。

「サムライ」とは机上の理想のために死ぬものなのか。
無駄の無い台詞と圧縮したような時代の息苦しさが素晴らしい。
出来れば、少し舞台を見下ろすような位置から観てみたかった。
舞台のさらに机の上の演技を見上げるよりも、彼らの絶望を俯瞰してみたいから。
浅井さんの端正な語り口に後悔と苦渋がにじんで秀逸。

② JACROW 「刀と天秤(はかり)」

東電OL殺人事件の被害者渡邊泰子を描いた作品。
東電の管理職にあるOLが、夜は円山町で客を引いていた、
しかも4年間ほぼ毎日、一晩にお客4人と自らにノルマまで課して。

世間を驚愕させたあの女性の心理に迫ろうとしたのは解るが
作家が「この場面をやります」と語りながら進行し、時には作家も演じる
という構成にする必要性があまり感じられなかった。
もっとシンプルに泰子にフォーカスし続けても良かったような気がする。
衣装を着替えなくても泰子の頑ななまでにストイックで孤独な生活は伝わる。
映像で場所を示すのがスタイリッシュで判り易く、それで十分場転は可能かと。

仁王立ちになって、全く卑屈さを感じさせない客引きの様子を見ても
何か強い信念を持って選択した結果だろうと思わせる。
それは亡き父への尊敬と思慕なのか、その父を軽んずる母への反発なのか。
「サムライ」が岡田以蔵のように誰かを喜ばせたくて人を斬るのだとしたら
喜んでくれる人を失った後は、もう自分の存在価値など見いだせなくなるだろう。
あの孤高の立ち姿を、作者が人斬り以蔵に重ね合わせたというのも
何となくわかるような気がする。
彼女には、幸せになろうとする気持ちが微塵も感じられない。

③ 電動夏子安置システム 「召シマセ腹ヲ」

初めての電動夏子は、なるほど“ロジカルコメディ”と言われる劇団だった。
最大与党の「保民党」、「新党もののふ」っていうのが可笑しい。
オーバーアクトで徹底的に政治家を揶揄するところも良い。
広報担当スタッフを演じるなしお成さんの歯切れの良い台詞と
ラストの黒い思惑が効いていて、“おぬしやるのう感”が楽しい。
「サムライ」とは腹を括って嘘をつく人々のことか。
ちょっと中華の出前男が黙って突っ立っている時間が長くて不自然だったかな。

男の60分 -2014-

男の60分 -2014-

ゲキバカ

王子小劇場(東京都)

2014/03/19 (水) ~ 2014/03/23 (日)公演終了

満足度★★★★★

躍動する小学生
初めてのゲキバカ、すんごい楽しかった!
笑っているうちにいつの間にか泣いてた。
“ノスタルジー”と“子どもの時間”のバランスが良く、脚本の巧さに脱帽。
段ボール箱のみのセットもいいし、BGMと照明も好き。
変にオサレにしない無邪気なダンスが素晴らしく、ストーリーを盛り上げる。
子どもを演じると役者の力量がモロに出るが、
平面的でないキャラが生き生きとして本当に魅力的だった。
ケーよ、あんまり似ていてあなたの今後の人生が心配になる(笑)

ネタバレBOX

大きな段ボール箱が舞台を囲むように置かれている。
弟(菊池祐太)が跡を継いでいる故郷の家へ、
母の葬儀のために帰って来た兄(西川康太郎)は
蝉の声を聞きながら子ども時代のことを思い出す…。

再現される子ども時代のエピソードが秀逸だ。
在日の子コチュジャン(伊藤亜斗武)、貧乏で万引きするトッタン(書川勇輝)、
悪天候の中、川で泳いで足を怪我する河童(石黒圭一郎)、
野球からサッカーに転向するケー(伊藤今人)、
そしてメンバーを率いるもじゃお(鈴木ハルニ)。
兄弟はこのメンバーといつも一緒だった。
葬儀の準備をする兄弟の会話がとても繊細で「静」であるのと対照的に
子ども時代は躍動感あふれる「動」の展開だが、
内容はただ「動」なだけではなく、子どもの社会をリアルにとらえている。
だからその中で“怪獣ごっこ”のギャグがめちゃくちゃ冴えて大笑いした。

作・演出の柿ノ木タケヲさんの設定はどちらかというと情緒的で
ラスト、葬儀の準備中に弟の子どもが生まれたり、
売れない作家の兄が母を書きたいと語ったりと、思い入れたっぷりなのだが
対照的に子ども時代の演出のはじけっぷりが見事で、そのバランスが素晴らしい。

隙のない役者陣が全員素晴らしく、子ども時代は圧巻。
ダンスの振り付けが自然な子どものエネルギーを表現していて
伊藤今人さんの“作為を感じさせない”センスに魅了された。
それにしても今人さんとあの人の激似ぶり、あれは演技を超えている(笑)

ゲキバカの役者さんっていいなあ。
おかげで私も、王子で素敵な夏休みを過ごしたのであった。
ショパンの馬鹿!!!~別れの夜~

ショパンの馬鹿!!!~別れの夜~

劇団東京イボンヌ

ワーサルシアター(東京都)

2014/03/18 (火) ~ 2014/03/23 (日)公演終了

満足度★★★★

名曲誕生秘話(笑)
クラシックの名曲をテーマにナンセンスコメディーを紡ぐという東京イボンヌ、
組み合わせのあまりのギャップに想像がつかなかったが
これがバカバカしくて可笑しかった。
赤ちゃんがえりのシューマンにホラーのようなその妻クララなど
あっと驚くキャラのオンパレード、圧巻は貫禄ありまくりのジョルジュ・サンド。
ショパン、大変だったんだね。
でもあそこまでしなければ自分の気持ちが解らないなんて、
やっぱり君はお馬鹿さんだ♪

ネタバレBOX

劇場に入ると下手側舞台の手前にピアノが置かれている。
舞台上にはショパンの家の居間、横長のテーブルに椅子が5脚。
色白で長身のショパン(土橋建太)は自信が無くてほとんど挙動不審状態。
家政婦のステラ(本堂史子)に励まされたり叱咤激励されたりしている。
奔放で他の男とも自由に付き合う肉食獣ジョルジュ・サンド(小俣彩貴)と別れたくて
その相談をするために今日友人達を呼んでいる。
シューマン(古賀司照)とその妻クララ(串山麻衣)、
リスト(阿部英貴)とその恋人マリー伯爵夫人(平野尚美)は
どうしたらあの怖ろしいジョルジュ・サンドが別れ話を受け入れるか知恵を出し合うが…。

ぶっ飛んだキャラ設定にびっくりしているうちに
観ているこちらまで騙されてしまう構成が巧い。
つまりはジョルジュ・サンドの方が1枚も2枚も上手だったということで
彼女のてのひらでピアノを弾いているショパンが見えて来る構造。
最後にようやく自分の気持ちに気づいたショパンに名曲が降りて来てスランプ脱出♪

ジョルジュ・サンドの強烈な存在感が際立っている。
小柄な小俣彩貴さんが出て来ると場が緊張するのが伝わって来て可笑しい。
阿部英貴さん演じる自信家リストが友人のためにだんだん熱くなっていくところが良い。
良妻賢母のクララ・シューマンが「馬車でその上を何度も行ったり来たりして…」と
夫を脅すところがとても好き、平野尚美さんもっと狂気じみて下さい(笑)

クラシックファンを満足させるためかピアノの音量が大きく、時々台詞を聞くのが辛い。
聴かせどころを絞るなど、工夫が必要な作品もあるだろうなと思った。

ナンセンスコメディと銘打ったからか若干キャラ設定に無理も感じられたが
観客をも欺く構成は面白かったし、後半マジなショパンの演出は良かった。
次はシリアスな設定と感動的な台詞の東京イボンヌも観てみたいと思った。




海に降る雪を魚達は知らない

海に降る雪を魚達は知らない

ユニット TOGETHER AGAIN

劇場MOMO(東京都)

2014/03/18 (火) ~ 2014/03/23 (日)公演終了

満足度★★★★

そしてまたくり返す
3.11をテーマにしながら、原発建設当時の揺れる地元を描くという視点がユニーク。
反対していたら生活が成り立たなくなる…という当時のリアルな実情や
賛成派と反対派、都市と地方、官と民、といった構図を再現することで
“私たちはみんなで原発を作ってしまった”という大きな失敗をもう一度問いかける。
何かを強く批判する時は、説明的で饒舌になりがちだが
金子真美、藤井びんという2人のベテラン俳優は
“説明を忘れさせる”台詞と、人物像の陰影の深さでその存在が際立っている。
観終わって、フライヤーの写真の重みがじわりと押し寄せて来る作品。

ネタバレBOX

震災直後の写真が大きく映し出されて、舞台は始まる。
震災後間もない原発の町を記録しなければと、映像作家スズキ(塩原啓太)は
ビデオカメラを携え単独で現地入りする。
スズキはそこで出会った老婆に導かれ、原発建設をめぐって真っ二つに割れる
40年前の「魚の町」へとタイムスリップする。
反対派のリーダーイサキ(坂浦洋子)、その伯母のカサゴ(金子真美)、
農業青年タコスケ(石塚良博)、絵描き志望のメバル(佐藤睦)らが住む町へ
電力会社のアサバ(若林正)や不動産屋のアカメ(藤井びん)がやって来る。
姿を消していたメバルの兄ワカシ(千葉誠樹)も3年ぶりに戻ってくる。
提示される条件に負けて次々と賛成に回る人々、家族の対立、
暗躍する男たちによるあからさまな贈収賄等をスズキは克明に記録していく…。

魚の名前を持つ人々のキャラが鮮やかで共感を呼ぶ。
反対派にも賛成派にもそれぞれの暮らしがあり、それを守ろうとして闘っている。
この作品の特徴のひとつは、きれい事では済まされない、時に取引さえもするような
推進派と反対派の関係がリアルに描かれていることだ。
このリアルさが、被災しなかったエリアに安穏とする私たちの責任をも鋭く問うてくる。

リアルさを支えるのは役者陣の人物造形に負うところが大きい。
特に、金と電力会社への就職を武器に次々と土地を買収していく不動産屋アカメ。
彼もまたこの土地で生まれ、中学卒業の翌日に集団就職の列車に乗ったひとりだった。
都会へ出て行かなければ生活できない故郷に強力な企業と将来を誘致する、
それこそが未来を創ると信じる彼もまた、この土地の人間なのだ。
藤井びんさんの不遜な表情には何かを信じて疑わない者の動じない強引さがにじむ。
最近立て続けに拝見した、台詞のほとんどない、或いは少ない舞台とはうって変わって
この作品では“説得”より“ねじ伏せて”事を進めようとするアカメの言葉に
圧倒的な説得力があって素晴らしい。

電力会社のアサバがまー嫌なヤツで、これがまた巧い。
南京玉すだれなんて時代がかった出し物で、ますます人の神経を逆なでするあたり
演じる若林正さんが嫌いになりそうなほど(笑)

反対派の拠点でおでん屋をしながら人々を見つめるカサゴの
一歩引いた視点が効いている。
演じる金子真美さんが一升瓶のふたをぽんっとてのひらで閉める音も心地よく
この土地に居ながらこの土地を憎み、同時に離れがたい愛着もあるという
複雑な心境をぶっきらぼうな台詞に込めて秀逸。
彼女の最後の決断に涙が止まらなかった。

反対派のリーダーとして先頭を走り続けるイサキ、
坂浦洋子さんの熱演でこの土地への思いは伝わってくるが、
窓の外の自然や幼いころの思い出だけでここを守ろうと説得するのはちと弱い気がする。
現実的な推進派の意見に比べて、イサキの理由は情緒に傾きがちだ。
もう少し何か、施設運営とか施設の子ども達を守るとか、具体的な強い理由が欲しい。
もっとも、それこそがあの当時推進派に押し切られた理由なのかもしれない。

メバルの不思議な力がとても魅力的で、スズキに
「この町の将来を知りながらなぜその事実を人々に知らせない」と叫ぶところ、
何も出来ない無力な自分への絶望感が痛切。
そのメバルと寄り添って生きて行く決意をしたタコスケを演じた石塚良博さん、
繊細な表情と溌剌とした青年らしさがとても良かった。

ただ最初にスズキと出会った老婆と、最後にもう一度対峙する所が見たいと思った。
撮った映像をスズキがこれからどうするのか、
ドキュメンタリーにはどんな力があるのか
魚の町へ誘った老婆に、その決意を語って欲しかった。
裁判所の場面より、むしろあの老婆がスズキに伝える言葉が聞きたかった。
それはそのまま今日の私たちへのメッセージであると思うから。
ちょっと待って誰コイツ!こんなヤツ知らない

ちょっと待って誰コイツ!こんなヤツ知らない

ポップンマッシュルームチキン野郎

シアターKASSAI(東京都)

2014/03/14 (金) ~ 2014/03/23 (日)公演終了

満足度★★★★★

踊るPMC野郎
客入れパフォーマンスのあと、6つの短編とそれをつなぐ幕間のショートストーリー、
そして終演後に30分のアフターイベントまで付くという
まるで“数量限定春のスペシャル幕の内弁当”みたいに盛りだくさんで素敵な企画。
通常公演とは違ったテイストのラインナップが楽しく
キレの良いダンスの素晴らしさにびっくりした。
エンタメ精神全開の構成もポップンらしくて好きだが
作品自体に力があるのだから、もっとシンプルな構成でも成立すると思う。
ただ短編を並べただけでも、個々の作品は十分際立つはず。
★の5つ目は素晴らしいダンスに捧ぐ。

ネタバレBOX

開演前のパフォーマンス、今回はCR岡本物語さんのももクロに代わり
増田赤カブトさんの“あの歌姫”ガガ。
これがマジで面白くて、まー会場が盛り上がること。
初期の頃はただ衣装と目玉だけで“ガガって”いたが
今回はそのパフォーマンスに努力とセンスが表れていてとても素晴らしかった。
ボリューミーなボディながら顔の輪郭などが引き締まってその変化に驚く。
「私の彼は甲殻類」で見せたひとり芝居の充実ぶりにも、目を見張るものがある。
笑いを取る間とタイミング、ピュアな台詞など、ポップンで鍛えられたんだなあと思った。
吹原幸太さんとコンビで仕切る司会も臨機応変でゆとりが感じられ、とても良かった。

「ふたりは永遠に」、近未来SF世界に夫婦の相手を思いやる心が満ちていて
あっと驚くラストの真実がすごい。
「触り慣れた手のひら」のホラーもセットや演出が効いていて大変面白かった。
吹原さんはぶっ飛んだ設定やあり得ないシチュエーションの中で
普遍的な人の欲望や矛盾、弱さなどを際立たせるのが巧い。
危ないギャグも下ネタも、一本通った太い幹の枝葉だからこそ笑って済ませられる。
短編というコンパクトなサイズで、それが強調されたところが面白かった。

黒バックの舞台にオレンジ色のキューブが椅子やベンチとなる
シンプルなセットが鮮やか。
最終話では壁の一部が開いたりして、スタイリッシュな一面を見せた。
この最終話でのサイショモンドダスト★さんとNPO法人さんのやりとりは
クールで味わいがあってとても良かった。

そして何と言っても「悪魔のパンチ」で見せた迫力あるダンスシーン。
塩崎こうせいさんの素晴らしい動きから目が離せなかった。
正直、ストーリーが吹っ飛ぶくらいの強烈な印象。
この方の所属する劇団X-QUESTを観てみたくなった。
女の子みたいにきれいな顔だけど、意外に力強い野口オリジナルさんにもびっくりした。
岡本さんは、“挙動不審のおどおどタイプ”と“謎の大魔王タイプ”
それに“脱いだり着たり”とマルチぶりをいかんなく発揮してやっぱり素晴らしい。

別にオネエ系ではないのに何だかいつも女性役を振られるNPO法人さん、
やっぱり女性の繊細さが出るから納得してしまう。
アフターイベントのようなお遊びタイムに中途半端でなくきちんと演技するから
ポップンは面白いんだなあ。
妙なお題を出されてもちゃんと個性が表れて感心するもの。

短編ダーク編、短編ホラー編など、吹原作品の別の顔をもっと観てみたい。
これから毎回最後に全員のダンスを入れるっていうのはどうでしょう?
開演前も終演後も踊る踊る…これからはこのパターンか?!(希望)



楽屋

楽屋

劇団チョコレートケーキ

「劇」小劇場(東京都)

2014/03/14 (金) ~ 2014/03/16 (日)公演終了

満足度★★★★★

浮遊する女優魂
世代を超えた女優たちの本音と哀愁が凝縮された「楽屋」という空間。
脚本の面白さ、メリハリの効いた台詞と間、キャストの素晴らしさを堪能した。
劇中劇ながら、これほど「三人姉妹」に感動したのは初めてだった。
暗闇を際立たせる照明が劇的で素晴らしい。

ネタバレBOX

濃い闇に浮び上る3つの化粧台、上手側に座る女優(伊東知香)は
間もなく幕が開く「かもめ」のニーナ役を演じる準備に余念がない。
後の2つの化粧台では2人の女が黙々と化粧を続けている。
ニーナが出て行った後、2人は互いに担当した役を振り返り披露し合う。
しがないプロンプ人生でも役には愛着があり、誇りもある。
やがてその2人、顔に火傷の痕がある戦前の女優(松本紀保)と
首に大きな切り傷のある戦後の女優(川田希)は、どちらも幽霊であることが判る。
そこへもうひとり、枕を抱えた元プロンプターの女優(井上みなみ)が現われ、
ニーナ役の女優に向かって「自分にニーナの役を返せ」と詰め寄る。
楽屋には時代を超えて女優たちの魂が浮遊している…。

生きている女優も死んだ女優も、舞台にかける情熱は同じ。
時代の違いはあるが、ついに表舞台に立てないままプロンプターで終わった2人が
命果てた後も楽屋に執着する気持ちが怖ろしくも切ない。

松本紀保さん演じる三好十郎の「斬られの仙太」、口跡と気風の良さが心地よく
その台詞を愛唱する気持ちがビシビシ伝わってくる。
伊東知香さんのニーナ、井上みなみさんのニーナの後で聴くと
その経験値と味わいが一段と深く共感を呼ぶのは私自身の世代に近いからか。
“いろんなものを犠牲にして”ここまで来た意地と気概にあふれた独白が
現代の女優らしくリアルで素晴らしかった。

「かもめ」も「マクベス」も「三人姉妹」も、戯曲のエッセンスを感じさせて本当に楽しい。
あの「三人姉妹」のラスト、思わず別公演として観てみたいと思った。
偉大な戯曲に女優たちの思いを乗せる脚本が巧みなのは言うまでもないが、
特に衣装を変えることも無くショールひとつで切り替えるシンプルな演出が秀逸。
前半幽霊2人の動きが抑えられていたことも、
後半の劇中劇でほとばしるような情熱との対比が鮮やかになって効果的だと思う。

チョコレートケーキが昨年9月に上演した「起て、飢えたる者よ」で
渋谷はるかさん演じる管理人の妻が変貌する様を観た時
表面上の顔と、秘めた本性とのギャップをえぐり出すのが巧いなあと思ったが
生と死、時代の違い、キャリアの差などを鮮やかに対比して見せて素晴らしかった。
改めてチョコレートケーキは全方位的に優れた劇団であると思わずにいられない。



Jack moment.

Jack moment.

バンタムクラスステージ

萬劇場(東京都)

2014/03/12 (水) ~ 2014/03/16 (日)公演終了

満足度★★★★★

行く川の流れ
シカゴを舞台に思いがけなくギャングになってしまった会計士の男と熾烈な抗争を描く。
物静かな時計屋の男が物語の進行役を務め、
バンタム特有の整然とした場転(舞台には折りたたみ椅子とテーブルだけ)により
スピーディーながら一つひとつが腑に落ちる展開で脚本の巧さが際立つ。
登場人物が人間臭く魅力的で、キャスティングの妙を存分に味わった。
Jackと Frogのキャラが素晴らしく、スピンオフが観たくなる。
それにしてもバンタムの銃声は音質・音量・タイミング全てが素晴らしい。
照明に工夫があり、シンプルな舞台が劇的に変貌するのも見事だった。

ネタバレBOX

ちょっと映画の吹き替えみたいな台詞も時代と場所を感じさせて雰囲気がある。
「スティング」や「オーシャンズ11」みたいな痛快犯罪劇かと思いきや
後半事態はどんどん悪い方へと転がって行く。
シカゴのボスが入れ替わる度、時計屋によって繰り返される台詞が
どうしようもない無常感を醸し出して効果的だ。
フライヤーにある「方丈記」の精神が色濃く漂い始める。

丁寧な人物相関図が配布されて判り易く、よくこの人間関係をまとめたと感心する。
時流に乗ってのし上がろうとするギャングたちと
多くを持たなくても幸せになれると考えるジャックは対照的だ。
反撃に転じたジャックの選択眼で声をかけられた“落ちぶれ軍団”が集まって
チームを作り大仕事をやり遂げるプロセスが面白く、ここをもっと見ていたかった。
ここが充実すればするほど、ラストの二転三転が口惜しく、爽快で、
且つ“生きる場所を見出すために生きる”人の哀愁が浮き彫りになる。

ジャックを演じる信國輝彦さん、誠実な風貌がこの役にはまって実にリアル。
苦学して会計士になった堅実な男が知識を生かしてギャングに立ち向かう
痛快な役にぴったりで、ラストの潔い身の処し方も説得力があった。

フロッグ役の土屋兼久さん、自信なさげな時計屋の息子が
巻き込まれた果てにギャングの一味となり次第に立場が変わって行く様が
声や視線まで繊細に演じていて素晴らしい。
ジャックの婚約者マリーに不器用ながら心を寄せるシーンなど切なさ全開。
土屋さんはマジでポニーテールが一番似合う(と勝手にそう思う)。

ダニー役の福地教光さん、今回も今すぐ金が必要な理由は“女”という
どうしようもなく純で、立場に溺れやすく、虚勢を張りたがる男(しかも振られる)を
生き生きと演じていて、またそういうダメ場面で色気があるから面白い。
バンタムは、二枚目看板役者に“スーパー完璧主役”ではなく
こういう“情けな系ダメ男”を当てるところが本当に巧いと思う。
もったいないようでいて、実は次が楽しみになるのはこの意外性のためだ。

久しぶりに身体に響く銃声とエンタメ精神に大変満足。
次のバンタムはどんな作風だろう?
シリアスかコメディか、ダークなサスペンスか、銃声かナイフか、猟奇的か変質的か…
ってもう私の個人的期待が渦巻いて、今から楽しみでならない。
萬劇場、JR大塚駅まで行きさえすれば、そこからは近いと知った。
新しい等高線

新しい等高線

ユニークポイント

シアター711(東京都)

2014/03/11 (火) ~ 2014/03/18 (火)公演終了

満足度★★★★

地図屋の抵抗
東京にある地図会社の、昭和15年から終戦の20年夏までの5年間を描いた作品。
戦争中、国力を示す地図は国策の名の下、いとも簡単に書き変えを命じられた。
ユニークポイントらしい史実に基づいたストーリーに市井の人々のエピソードが絡む。
そのエピソードのバランスが、観ている私の興味と微妙にずれているように感じた。
私の知りたい事はひと言の説明で終わってしまい、
逆に会話のテンポが滞るように感じる場面があった。
時代とリンクした説得力あるテーマの選択はまさにユニークで新鮮。

ネタバレBOX

「色彩堂」は先代から続いた地図会社である。
社長(佐藤拓之)始め先代の頃から仕える森田(植村朝弘)ら社員の目下の悩みは
国の指導で軍需工場を“公園”とするなど地図を書き換えなければならないことだ。
さらに全国の地図会社は廃業届を提出して、政府のコントロールの下
一つの組織に統合されることになる。
戦局の変化に伴って市民の暮らしも否応なく変わって行く。
軍需景気、満州、特高、疎開、そしてヒロシマに原爆が落ちて終戦へと向かう中
地図屋の秘めた抵抗が初めてことばにされる…。

社員3人が皆住み込みで働く会社の雰囲気が温かい。
そこへ加わったお手伝いの純子(水田由佳)が
素直でよく働くが、ことばを発しないという設定が象徴的だ。
どうやら東北なまりを咎められたかして口を閉ざすようになったらしい純子は
ここへ来てから文字を覚え、さらに地図を描く技術も身につける。
「美しい等高線を描くので、戦争中僕が徹底的に教えたんだ」と
社長はひと言で説明するが、私はその事情が知りたいと思った。
自分に自信がなく無知で素朴な存在であった純子が
“美しい等高線を描く”と判ったいきさつや、特殊な技術を習得していく成長の過程こそ
その後の日本と重なるような気がする。

冒頭純子が連れて来られた時の会話が少しもどかしく、なかなか始まらない感を覚える。
特高に引っ張られた社員の事情も不明で(確かに特高は理由が無くてもやるのだろうが)
彼が本当に不敬罪に当たるような行為をしたのかどうか
私の見落としかもしれないが、それまでの彼の態度からして唐突な印象が残った。

軍の命令により終戦直後の地図を作るため、社長と共にヒロシマへ行くことになった時
思わずことばが口をついて出た純子に、社長が語りかける。
「これからは自分の言葉で話せばいい」
もはやどこからも規制されず、自立して自ら語り始める日本を象徴することばだ。
終戦の半年前、社長と内務省官僚(平家和典)が本音で話す場面も印象的だ。
地図屋の仕事に対する誇りと、関東大震災の時の哀しみをくり返すまいと言う
悲痛な思いが吐露されて、地図の持つ別の意味を考えさせる。

濃く熱く人情120%の森田を演じた植村朝弘さん、
巧いしそのキャラもテンションも私は好きだが、見慣れるまで少々浮いていたかも。
受ける社長が淡々として落ち着いた物腰だから余計そう見えてしまうのかもしれない。
誰からも信頼され相談される、とても魅力的なキャラだけにもったいない気がする。

ほとんど台詞の無い純子を演じた水田由佳さん、
丁寧な表情と視線が良かったと思う。
ひとつこれは脚本のことだけれど、終戦後の場面で違和感を覚えた。
お手伝いさんが雇い主の前でテーブルに突っ伏して寝たりするだろうか。

フライヤーも当日パンフも、等高線を思わせるストライプの色が美しい。
年表と1場~5場を解り易く示したページも親切で嬉しい。

「コントロール出来ないものをコントロールしたがる」政府の愚行が
再びくり返されようとしている今、
「物語は作るのではなく、発掘するもの」という作・演出の山田裕幸さんの姿勢が
端的に表れた作品であり、その危機感を私も共有したいと思う。
ヒロシマへ行った後、地図屋の戦後はどんなものになったのか、
そして地図は、どのように時代を写して行ったのだろう。





大きなものを破壊命令(再演)

大きなものを破壊命令(再演)

ニッポンの河川

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2014/03/01 (土) ~ 2014/03/09 (日)公演終了

満足度★★★★★

全ては役者からくり出される
“何やら大きな力に対峙する人々”を描いた作品”とのことだが
まさに“対峙する”人々が躍動する舞台だった。
並走する複数の物語を瞬時に切り替えるのは
舞台の隅の丸いボタンを「かちゃん!」と力強く踏む照明のON &OFF。
手にしたカセットを自分で入れ替えながらBGMを流すという超アナログな手法が
役者の台詞と絶妙にマッチして一体感ありまくり。
四方から観ている観客と対峙する緊張感にあふれた60分。

ネタバレBOX

両国国技館のように四方から客席に囲まれた舞台。
天井から様々な照明器具が下がっていて、どれも柔らかな光を放っている。
四隅のうち三方には自転車が吊り下げられている。
舞台の端に丸いボタンが設置されている。

これからボルダリングかバレーボールの試合でもするのかといったいでたちの4人、
カセットテープをポケットに詰め込み、ウォークマンや照明器具を装備して登場する。
①熊谷の首絞めジャックをやっつけて俺が一番のワルだってことを証明してやる
 と息巻く14歳の神林衛(佐藤真弓)と先生、仲間たち
②ラバウルのジャングルで、軍を脱走して来た4人姉妹が
 小さな葉音にも緊張しながら敵の襲来に備えて銃を構える
 そんな中でも鎌倉育ちの4姉妹はかつて叔父様が持ちこんだ
 長姉の縁談の話、夏祭りの夜の話で盛り上がる

とういう主に二つのストーリーが交錯しながら進むのだがその切り替えが実に鮮やか。
台詞、動き、照明、BGMを繰り出すのが全て役者だからタイミングに勢いがある。
何か自分より大きなものに対峙する時の緊迫感が伝わってくる。
それが真剣であればあるほど、傍で観ている私たちは可笑しくてたまらない。

場面が目まぐるしく変わるのにつれて、キャラも180度変わるのがまた楽しい。
中学生からいきなり艶やかな声、小津映画みたいにちょっと早口で
「…ですのよ」なんて言う。
あれは原節子か山本富士子かという印象だが、とてもこなれた感じで素敵。
佐藤真弓さん演じる14歳の神林衛が生き生きと悪ぶってとても魅力的。
たおやかな姉が“叔父さん”になったりするから目が離せない。
“身体を開く”お姉さまと、鳩の鳴き声と動きにはホント笑ってしまった。
中学からラバウルへ、瞬時に切り替わるキャラにブレが無く、その集中力が素晴らしい。

何だろう、この面白さは…。
他のスタッフがやればいい事を自分たちでやって、手間はかかるし順番は気になるし、
腰回りは重くなるし、衣装に色気は無いし。
だけど首絞めジャックにも鳩にも、“マジで対峙する”姿には素直な強さがある。
遊びにも見える4人の役割に、野外劇のように素朴な“なんでもやらなきゃ”感がある。
演劇にはこんな表現があって、こんな見せ方があるのだということをおしえてくれる。
このコンパクトな構成に充実の台詞、福原充則さんの脚本・演出に魅了された。

自転車のライトが花火になる抒情的なラストがとてもよかった。
破壊しようとして立ち向かった結果、逆にやられてしまった者の末路が美しい。
役者陣が皆楽しそうに演じているのがわかる。
書くのも演るのも大変だろうけれど、またこういうのを観たいので宜しくお願いします。
ただチラシが読みにくいのよね…(^_^;)


眠る羊

眠る羊

十七戦地

LIFT(東京都)

2014/02/19 (水) ~ 2014/03/02 (日)公演終了

満足度★★★★★

奢る平家
「国民の理解を得て比良坂家を守るため」平易な言葉を使って
証人喚問のリハーサルをするものだから、政治の話が大変解り易くなった。
国を守ると言いながら、守りたいのは一族とその立場、プライド、既得権。
過去作品のようなダイナミックな展開や大胆なファンタジー要素は薄れたが
その分現実とリンクして“多分絶対あるある”的なリアリティが色濃く漂う。
キャラの立った一族に加えて有能な秘書達が事態を引っ張るのが面白く
過去の経緯はともかくラスト次男の選択は、潔くて清々しい。
このラストは作者の理想・ファンタジーか、国の行方を託すひとすじの光か。
それにしてもスペース、テーマ、人数など、敢えて難しい制限をかけた中での
この設定と会話の緊張感は素晴らしい。
また意外なキャスティングで役者の新たな面を見事に引き出している。

ネタバレBOX

証人喚問を控えた与党国防部会の衆議院議員が、想定問答集を元にリハーサルを行う。
亡き父の後を継いで国防一族である3人の息子たちはそれぞれ要職についているが
今や3人とも不正疑惑の渦中にあり、次男である議員はその釈明を求められている。
リハーサルには3人のほか、母親、議員の妻、秘書3人、左翼系の妹、
そして彼らが身を寄せているこのギャラリーのオーナーで亡き父の秘書兼愛人の女性。
リハーサルが進む中新事実が次々と発覚し、事態は予想しなかった方向へと動き出す。
次男は、最終決断を迫られる。
「調査中」と逃げるか、認めて謝罪するか…。

まずこの証人喚問をエンタメ化するという設定が素晴らしい。
そもそも一般人とかけ離れたモラルや金銭感覚で動く政治家や官僚という存在に
滑稽さを見いだすところがユニークかつ鋭い。
証人喚問というショーの演出を練る舞台裏を暴く面白さが秀逸。

柳井作品には珍しく笑いをもたらしているのも、この“存在の滑稽さ”だ。
へそでも見なくちゃ頭を下げることができない、ボクが国を守り動かすと決心している、
親切な人からすぐ金を借りる、自分が正しいとマジで信じている、人の話を聞かない、
最後はやっぱり金がモノを言う、バレなければ大抵のことは大丈夫…etc.
といった生態が現実とリンクし、その既視感が可笑しい。

キャラの設定にメリハリがあるのも魅力的。
いつも沈着冷静でクールな役が多かった北川さんが
傲慢で横柄で「殺してやる!」とか言う次男の与党議員を演じるのが大変楽しい。
意外に凶暴な役とか似合いそう。
防衛省装備施設本部調達課にいながら軍需商社から平気で金を借りる
オペラ狂いの長男を演じた澤口渉さん、
“小役人のぼんくら”と言われる屈折を
軽いノリでやり過ごそうとあがく様が情けなさ全開で印象的。

困った3兄弟とは対照的に彼らを支える秘書たちは非常に優秀で、そこもまたリアルだ。
“素朴な人”でなく立板に水みたいな秘書を演じた真田雅隆さん、
都会的なキレの良い台詞がリハーサルを牽引して魅力的だった。
結果的にリハーサルをリードした、亡き父の秘書兼愛人美咲を演じた植木希実子さん、
冷静に状況判断をしながら重大な決断をさせる、理知的なキャラがぴたりとはまる。

ダメダメ一族を描きながら、作者はどこか一縷の望みを託しているように見える。
左翼寄りの妹礼子が、最後レコーダーを受け取らず美咲に委ねるところ、
一族の失脚を前にどこか明るい兄弟たち、
潔くバッジを外す決断をした次男も、最後は屈託のある美咲に対して本音で向き合う。
柳井氏の“絶望しないために必要なファンタジー”を感じた。

柳井氏のtwitterを見るといつも、リラックスした自虐ネタに笑いつつも
「制限の中で印象的なメッセージを効果的に発信する」という作家としての言葉を感じる。
それは単なるつぶやきというレベルを超えていて
この瞬発力とクオリティが戯曲の核になっているような気がする。



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