公演情報
2025年度 一般社団法人 神奈川県演劇連盟合同公演「KNOCK UP」の観てきた!クチコミとコメント
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2025/12/19 (金) 19:00
過去か未来か異世界か、とにかく海賊がはびごる大海賊航海時代の世界。 女海賊「サーカス」は突然の嵐に見舞われ失踪してしまう。一方2025年現代、新進気鋭の劇団「バイキング」は公演を控えていたが、トラブルに見舞われプロデューサーと劇団員は空っぽの大ホールで頭を抱えていた。そんな中、突如嵐と共に海賊団「サーカス」が船ごと現れた!というようなCoRichに載っていたあらすじを読んだだけで心躍る奇想天外で無茶苦茶だが、とても面白そうな内容で、期待しかなかったが、実際の上演を観てみると、期待を大きく上回っており、圧倒された。
海賊がはびこる大航海時代の女海賊「サーカス」が現代日本の神奈川県立青少年センター紅葉坂ホール内の客席に突然の嵐によって、時空の歪みが生まれ、タイムスリップしてしまい、その場の流れ的にキャストとして急遽強引に女海賊たちを演劇に参加させようと四苦八苦する超個性的な新進気鋭の劇団「バイキング」の面々とこれだけでも、かなりぶっ飛んだ設定の上、ドタバタ喜劇、そして舞台の裏側を中心に話が展開し大いに楽しめた。
しかし、女海賊「サーカス」が最初に登場したときの感じが、良い意味で思っていたような感じと違って、コミカルというよりかは、虐殺をも厭わない野蛮で野性味溢れ、獰猛果敢で、かなり怖い雰囲気と、本物の銃(劇の設定)を撃ったりと手段を選ばない危険さを兼ね備えた感じに描かれており、「バイキング」の個性豊かな劇団員たちと一触即発になるような場面が何度もあったりと、異文化が交わることの難しさを暗に示唆していたり、それでも試行錯誤しながらお互いが理解しあおうと努力するような在りかたに時にその迫力に圧倒されながら、胸打たれた。
色々ありながらも、劇団「バイキング」と急遽この現代日本の神奈川県立青少年センター紅葉坂ホール内の客席に不時着し、タイムスリップしてきた女海賊「サーカス」たちがトラブルを繰り返しながらも何とか本番の劇の公演に漕ぎ着けて、何とか公演を成功させることが出来るという風に描かれた。
一時は、女海賊たちが台本の台詞が漢字が多くて読めなかったり、何度も書き換えを指示されて、気位が高くて、高圧的で、気難しく、演出家への当たりが強く、感情の起伏が激しいメンヘラ気質で、自分の書いた作品へのこだわりが強く、勝手な書き換えを許さず、自分の書いた戯曲の通りに一字一句役者が戯曲に書かれた通りに台詞を喋り、動くことを望む、若い女性脚本家に現場の劇団「バイキング」の演出家や劇団員たちが翻弄されつつ、何かというとすぐ戦闘モードになりやすく、血が頭に登りやすい女海賊「サーカス」たちを本気で怒らせないように気を使いつつのバランスを意識して疲弊する劇団「バイキング」の演出家たち、そして女海賊「サーカス」の中でボーイッシュな雰囲気で、海賊団内一荒っぽく、野性味溢れ、粗野で粗暴で、恐喝、恫喝をも厭わない、剣の腕もピカイチな正義感の強い女海賊が台本では切られ役というのに納得せず、書き換えろと演出家に迫り、結果台本を書き換えなければいけなくなったりとトラブルも頻発し、その度に観ているこちらまで肝を冷や冷やさせられるような迫力があったが、その劇が完成するまでの期間に起こるトラブルや人間関係を赤裸々に描いていたのが、大いに面白く、そのプロセスにハラハラドキドキさせられた。
劇団「バイキング」の由来が海賊というような意味で女海賊「サーカス」たちは捉えていたが、実はもっとしょーもない意味で付けられていたということが最後のほうで明かされ、その意外性に大いに笑えた。
劇団「バイキング」の演出家が個性豊かでアクが強すぎる劇団員たちや若い女性脚本家、急遽劇場の客席に不時着した女海賊「サーカス」たちに翻弄されるさまが非常に面白かった。
女性の若い役者で中年の女性演出家の演出助手のようなことも卒なくこなすが、どんな事にも動じず、何を言われてもあまり響かず、そんなに感情が表に出ることがなく、飄々としていて掴みどころがなく、どこか演出家たちが右往左往しているのを冷めた目で見ている、どこか舐めた態度の低体温系が、女性演出家とのやり取りや、他の劇団員たち、若い女性脚本家、女海賊「サーカス」たちにポロッと本音を言って、その場を凍りつかせたり、気の利いたことを言ったつもりで堂々と滑っていたり、といったこの若い女性の役者の絶妙に拔けているんだか、いないんだか定まらない独特な感じにある種のユーモラスさを感じた。
普通の劇では舞台があって客席で、観客は観るといった漠然としたイメージがあったが、今回の劇では、舞台幕の後ろの舞台上を客席にして、本来観客席であるはずのところを舞台にするという逆転の発想に驚き、新鮮で、舞台上で観るからこその臨場感だったり、差し迫ってくる役者の気迫、没入感だったりと普段以上に劇世界に引き込まれてしまった。
今回観た一般社団法人 神奈川県演劇連盟合同公演は、実は前に違う劇で1度観たことがある。
しかし、その時のイメージから市民の方が数多く参加して、そこに多少プロの劇団の方が混じっているというようなイメージが強く、その時の公演も悪くはなかったのだが、知り合いや家族が多く観に来ており、内輪乗り感が否めなくて、どこか乗り切れないところも多く、普通に考えると明らかに滑っているギャグでも暖かく笑っているような空間だったイメージが強く、今回の劇でも、役者たちには正直大した期待をしていなかった。
しかし、実際に観てみると、そういった思い込みや、懸念は吹っ飛び、まぁ今回はプロの劇団員が大半を締めているということもあるのかもしれないが、台詞を忘れることもなく、滑るギャグ、内輪受けと言ったこともなく、普通に大いに楽しめ、笑え、そして異文化交流、外国人共生について何気なく考えさせられつつも、女海賊「サーカス」たちと現代日本の劇団「バイキング」の演出家や役者たちが深い絆で結ばれ、仲良くなり、女海賊「サーカス」たちも演劇の演技の魅力に引き込まれ、でも最後は自分たちの元いた世界に戻っていく姿に成長を感じつつ、どこか寂しさも感じる、だけれども女海賊「サーカス」たちが元いた大航海時代の世界がどんなに過酷で、弱肉強食の世界であっても、彼女たちは確かにその世界に生きていて、この現代日本に居続けると歴史が変わってしまうと考えるとこれで良いんだろうと考えさせられ、複雑な気持ちになった。
女海賊「サーカス」たちの生きた大航海時代の世界と現代日本の法律の在り方やカルチャーギャップによる笑いも面白かった。
しかし、それに匹敵する程、女海賊「サーカス」たちの捕虜の中年男に対して劇の練習時以外、首輪を付けられ、鎖を女海賊たちに持たれた上、殴る蹴るの暴行や、銃や剣による脅し、言葉による恐喝、恫喝など過剰なまでにSMに描かれていて、大いに楽しめた。
しかも、中年男の海賊の捕虜で、元違う海賊に属した海賊の中年男役を、これまた憐憫の情を一切感じられない感じの、どこかウザくて、まぁヤラれ役でも仕方ないよなぁといった感じがする役者が演じているものだから、余計に過激な程の中年男がボコボコにされている感じに大いに笑えた。