実演鑑賞
満足度★★★★
鮮烈な体験。平体まひろさんのファンなら極上の空間。もう一回観たい気もする程良かった。舞台を挟んで3列ずつの客席。映画のセット並みに作り込まれた部屋。本棚には絵画写真美術演劇の専門書の類がビッシリ並び気分は美大生。開演前SEで流れる洋楽が病んだビートルズみたいな妙なポップさ。細かくいろんな場所に仕込まれた照明がノイズ音と共に明滅する演出が効果的。現実に押し潰されて認識が狂っていく自分。
話は高村智恵子、明治生まれで昭和13年に亡くなる。肩書は一応洋画家だが大成せず。夫である詩人、高村光太郎の書いた『智恵子抄』で彼女を知った人が殆どであろう。精神を病み今肺結核で死んで逝かんとする妻。最期に檸檬を欲した彼女がガリリとそれを噛んだ時、瞬間元の智恵子に戻り微かに笑う。高村光太郎の「レモン哀歌」は宮沢賢治の「永訣の朝」、「あめゆじゆとてちてけんじや」と並び日本人の深層心理に深く刻み込まれた愛する者との美しき別れの元型。誰もがその美しさに涙する···、筈だった。
こういうのを演ってこういうのを観る、というのが原初的演劇体験。間違えてゴダールの『気狂いピエロ』を観てしまった子供みたいな。
是非観に行って頂きたい。