白狐伝 公演情報 SPAC・静岡県舞台芸術センター「白狐伝」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    「アウトサイダーの嘆き」

     岡倉天心が1913年に亡くなる直前に書いた唯一の戯曲を宮城聰が劇化した。「ふじのくに野外芸術フェスタ2024」の新作である。

    ネタバレBOX

     舞台上には上下に御簾の掛かった演奏スペースが設置され、草花の意匠をあしらった衝立が目につく。真ん中の衝立の向こうから現れた美加理演じる狐のコルハは、口に青く光る魔法の玉を咥えている。SPACの劇団員による演奏も相まり、白皮の狐姿の美加理は愛らしくも妖しく我々を劇世界へといざなう。

     魔法の玉の力を狙う悪右衛門(動き:貴島豪/語り:吉植荘一郎)は、歌舞伎や京劇を思わせるようなメイクで強いインパクトを与える。悪右衛門一味の放った矢で負傷し窮地のコルハは、土地の領主である保名(動き:大高浩一/語り:若菜大輔)に助けられる。このあたりでいよいよ宮城がコルハの語りで物語に加わり客席が湧いた。

     保名は許嫁の葛の葉(動き:美加理/語り:宮城聰、共に二役)と彼女の誕生日を祝っているところを、葛の葉に横恋慕する悪右衛門一味に屋敷を侵略され、彼女を奪われてしまう。野外劇場の舞台機構をフルに使った軍勢や立ち回りは見ごたえがあった。葛の葉の破れた片袖を握ったままさまよい歩く保名を救うため、コルハは葛の葉そっくりに姿を変え保名を山中の隠れ家に匿う一方、悪右衛門を罠にかけ崖から突き落とす。

     葛の葉に姿を変えたコルハは保名とのあいだに生まれた幼子を育てながら静かに暮らしていたが、ある日保名の留守中に家の前を通った巡礼の一隊から、保名を探すことを諦めた葛の葉が明日剃髪することを知らされる。恐れおののくコルハを美加理の動き、宮城の語りが絶妙なコンビネーションで表現しここが一番の見ごたえがあった。心を決めたコルハは保名に万感を込め最後の願いを告げる。

     昨年の『天守物語』同様に人間界と自然界の対立と調和に通じる作風ながら、本作が特徴的なのは人間にも狐にもなりきれないのコルハのアウトサイダーとして嘆きである。古典芸能の世界で散々描かれてきた世界に、現在私たちが直面している人種間やジェンダーなど、さまざまな状況を重ねて観られる、きわめて間口の広い上演であった。

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    2024/05/12 17:53

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