実演鑑賞
満足度★★★★
日本人が書けば、どういう立場からもこういう物語にはならないが、ドイツの亡命作家が書くとこういう作品になるところが、面白いと言えば、面白いが、この舞台が興味を引くのは、そういう珍品掘り出しの上に、このところ注目を浴びている文学座の若い女性演出家たちの一人、五戸真理恵がスタイリッシュな演出で新鮮な舞台表現を成立させているところである。そこに尽きる。
一段高くなっている黒に覆われたノーセットの舞台に登場する俳優たちは、全員が白一色のギリシャ劇のような無国籍の衣装である。伴奏音楽は和風を織り交ぜた前衛音楽風で、効果音と相まって、不思議なリズム感を舞台に作る。一幕、二幕は50分そのあと10分の休憩三幕は45分。結構長いが、舞台の面白さに引きずられて飽きない。
全体がリアリズムではない新鮮な様式感で統一されている。がある。しかし様式がありながら現実感のあるリアルを舞台に残していて、見事である。たとえば、一幕の帰郷の場。村人たち、それぞれが、タナカに与えられた軍装を珍しげに触ってみるところ。
村人一人一人にちゃんと芝居がつけてあるだけでなく、全体の動きもタナカと同僚兵士ワダと村人たちの対比もよくできていて、兵士となったタナカと村が別の世界に住むようになったことがよくわかる。両者の間に起きる距離感(羨望や憎しみを含めた)がセリフにない演出をされている。
二幕で言えば、いわゆる売春宿のマワシをとるところ、前半はコミカルに様式的にできているが、この後に、兄妹の再会を持ってきて、喜劇から悲劇への急転の効果を上げている。うまい。ここまでに比べると、三幕の軍事裁判はいささかご都合主義に議論も進むので、残念なところではあるが、そこはやはり戦前の戯曲で、それを考えれば、あの国際情勢の中ではよく日本の状況を把握していたといえるだろう。
プロダクション制作で集められた俳優が主演のタナカをはじめみなすっきりと好演している。演出・五戸は前のパルコがうまくなかったが、今回は復調。やはり期待の新人である。