ファウストの悲劇 公演情報 Bunkamura「ファウストの悲劇」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    立体的宗教画のような豪華さ
    歌舞伎、シルク・ド・ソレイユ、イリュージョンをミックスしたような豪華で楽しい舞台。蜷川ワールドを満喫できる。冒頭、木場勝巳の口上場面は江戸歌舞伎の名乗り台を思わせて面白い演出。
    歌舞伎の下座音楽と、ルネサンスの宗教音楽が同時に鳴る中、花火が噴き出し、フライイングを駆使して、まるで立体的宗教画のような美しさ。主役の野村萬斎はファウスト博士というよりは、宝塚時代の涼風真世の「銀の狼」のシルバを連想する銀髪の美男ぶり(涼風は宝塚の小池修一郎作品「天使の微笑 悪魔の涙」でメフィストフェレスも演じている)。勝村政信、白井晃、長塚圭史も贅沢に配置し、いつもより印象がかすむほどだ。仕掛けの奇抜さに眼を奪われるせいかドラマとしての深みや感動はいまひとつの感。ただ、萬斎ファンなら必見の舞台かもしれない。

    ネタバレBOX

    商業演劇もここまで豪華にできるかというゴージャスさ。メフィストの勝村が最上2階席に忽然と現れて客を驚かせるなど、サービス満点。かつて新宿の映画館で清水邦夫と、華麗さとは無縁の男くさいアングラ芝居を作っていたことを思うと隔世の感がある。もっとも、音楽の使い方や場面転換は歌舞伎の「十二夜」のときに得たテクニックを応用したものだし、舞台上カーテンの陰で役者が扮装準備するのも「コースト・オブ・ユートピア」のときと同じで、蜷川の演出としては特に目新しさはない。
    物語は“極楽めぐり”の趣向で、ファウストはメフィストフェレスと契約して、法王の食卓で透明人間よろしく悪乗りしていたずらをしたり、アーサー王やトロイの美女など歴史上の人物に会ったり、快楽の限りを尽くすが、ファウストの邪気が前面に出てくるせいか、通常のファウスト譚で印象的な失われた青春への狂おしい哀惜は描かれない。このファウスト博士はじゅうぶん魅力的だから老いや己の容姿を嘆く必要もない。契約どおり、このお遊びにも終わりの時が迫ってくるが、「これだけ好き勝手遊んだからしかたないでしょう」と思ってしまうので同情できない。萬斎ファウストは随所に死や冒涜の罪への恐れや生の苦悩はにじませるものの、見ている側としては共感が薄かった。
    むしろ、「全開の演技」を披露し、舞台でのたうちまわって熱演する野村萬斎を見ていると、コクーンから5分ほどしか離れていない萬斎氏本来の職場、観世能楽堂を思い起こし、複雑な気持ちになった。「独立した狂言より、能の間狂言こそが狂言師の本分」という意見をよく聞くだが、「能の間狂言」ではまったく個性の発揮を許されない狂言師・野村萬斎は商業演劇では存分にその天分を発揮して観客を酔わせているのだ。
    ユネスコ世界遺産に登録されようと、いまや能楽観客人口の高齢化は深刻な問題である。いつも能楽堂からの帰り道、コクーンの楽屋出待ちの人並みを目にするとつくづく違う世界であることを思い知らされる。
    確かに野村萬斎は狂言師という枠を越え、偉大な天才俳優であることはまちがいないとこの芝居でも実感させられた。

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    2010/07/16 14:17

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