星をかすめる風 公演情報 秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場「星をかすめる風」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    鑑賞日2023/09/13 (水) 14:00

    座席1階

    「温泉ドラゴン」のシライケイタの脚本・演出とのことで、期待を持って劇場へ。3年前に上演された作品の再演だが、当時はコロナ禍の厳しい時で、ほぼ満席のサザンシアターということで実質上の初演という感じであった。

    想像だが、原作に忠実に練り上げられた戯曲だと思う。朝鮮半島の著名な詩人、尹東柱(ユン・ドンジュ)の物語だ。舞台は福岡刑務所。戦時中、治安維持法違反で収監された尹らが、暴力的な看守を殺害した容疑をかけられ、後任の若い看守が調べに入るというのが舞台の出だしである。
    舞台を見る前は尹の物語かと思っていたが、これは収監された朝鮮半島出身の囚人たちも含めた群像劇だ。さらに言えば、刑務所の職員や医療関係者も含めた物語であり、塀の外と内のたこ揚げの場面など、日本の庶民と囚人たちの心の交流という素材も織り込まれている。尹の詩は暗幕に映され、その繊細な詩が彼らの思いを鮮烈に訴えかけている。脚本・演出の力であろう。
    二幕ものだが、休憩も含めて2時間20分ほど。あえて二幕としたのは、客席に高齢者が多いから? テンポのいい会話劇が続くだけに、一気にラストシーンまで走ってもよかったかもしれない。
    日本に留学をしていた尹は、これだけの理不尽な扱いを受けても相手への礼節を失わない。対する日本の看守は暴力的に描かれるが、殺人事件の犯人捜しを命じられた後任の看守は、あの暗い時代の中で真実を追求する姿勢を持っている。現実はもっと激烈な憎悪があふれる人間関係だったかもしれないが、そこは劇作家へのリスペクトなのだろう。リンチや虐殺もあったであろう刑務所内のストーリーだが安心して劇作に没頭できる。
    人間と人間が信じ合うことの大切さを通じて反戦という教訓が描かれ、青年劇場らしい仕上がり。でも別に、説教臭いわけではない。むしろ尹という詩人を取り巻く群像に、何だか希望のようなものを感じて劇場を後にすることができる。

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    2023/09/13 22:14

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