スローターハウス 公演情報 serial number(風琴工房改め)「スローターハウス」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    鑑賞日2023/07/19 (水) 14:00

    座席1階

    実際の事件をモチーフにして人の心の表裏を描き出すというのは、演劇でしかなしえない表現方法なのではないか。神奈川県の障害者施設で起きた大量殺人事件を取り上げた作品はこれまでもあった。だが今作は、殺されたのが一人の障害者でその母親が未成年の容疑者を訪ねていくという設定にして、優生思想に染まった容疑者の胸の内と母親の胸の内が交錯するというすさまじいシチュエーションを現出させた。(現実の大量殺人で容疑者は死刑でこの世におらず、雄弁に語ることはできない。殺人被害者が一人で容疑者が未成年であるというなら、あり得る設定だ)

    パンフレットによると、原作の詩森ろばは、この事件の資料を集めておきながら読まなかったという。その理由は「怒りにまかせて正義の物語をペラペラと書くのではないか」ということだった。だが、資料を読み始め、容疑者の尊大さと惨めさのそこかしこに自分がいて、たまらない気持ちになったという。彼女がこう書いているまさにそのことを、客席の一人ひとりが自分の心に痛いほど感じることになる。
    「尊大さと惨めさ」。これが重度障害者に対する周囲の人や、全く関心のない人の胸に巣くう隠された感情なのではないか。詩森は、障害者の一番の身近にいる母親ですらこのような感情を持つということを描くことで、日ごろ障害者と全く縁のない生活をしている一人ひとりも同じなんだと迫ってくる。
    印象に残るせりふを一つだけ。「障害者カースト」。これは、殺された障害者の母親が、障害者の親による自助グループに参加した際、そこに参加していた親がすべて発達障害を持つ子の親であり、その一人が「知的障害は本当に大変ですね」という趣旨の発言をしたという。その言葉の主に特段の差別感情はなかったと思いたいが、その「ねぎらい」を受け取った方は、自分の子が障害者カーストの最下位に位置することを思い知らされたのだという。

    物語ではこれだけでなく、容疑者と母親との会話、そして施設職員の言葉を通してさまざまな投げかけが客席に向けてなされる。静まり返った客席。役者たちを食い入るように見つめる客席。ここ数年の観劇体験でめったにあるものではない。
    原嘉孝の感情を抑えた演技は秀逸だった。ジャニーズタレントであるこの人目当てのお客さんもかなりいたと思うが、詩森作品2度目の出演という彼を抜てきした詩森の目は確かだった。障害者の役を演じた新垣恒平もとてもよかった。

    この作品はすごい。見ないと損するかも。

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    2023/07/19 17:31

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