天国への登り方 公演情報 アマヤドリ「天国への登り方」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    鑑賞日2023/03/24 (金) 14:00

    異なる立場にある人々が全員葛藤を抱えている。死に方は生き方。あまりにも個人的な、そして社会的な課題に果敢に取り組んだ力作。安楽死と自殺は何がどう違うのか?医師二人の主張が、どちらも正しくて忘れられない。夫のキャラがギャップありすぎて、ラスト号泣するしかないじゃないか。

    ネタバレBOX

    ●~○~●以下ネタバレ注意●~○~●

    いつもと変わらない様子だったのに、夫が仕事から帰ると妻は家を出ていた・・・。
    夫と、妻の兄夫婦、妻の古い友人は、途方に暮れつつ
    妻と、付き添っている妻の妹がいると思われるホッキョ区へと向かう。
    そこは「より安楽に、より尊厳を保った形での死に方を様々なサービスとして提供する」という
    「安楽死特区」だった。
    「ことばのがん」で余命いくばくもない妻が望む死に方を容認できない家族は
    説得できるのか、処置する医師も悩みつつ今日も特区では運命の注射が打たれる・・・。

    妻にとって、がん(「ことばのがん」というのが傑作だ)が
    今「安楽死」を望むほど苦痛な状況なのか、何が辛くて死を望むのか
    妻のことばで聞きたかった気がするが、言葉のがんでは無理なのか・・・。
    安楽死の選択理由が、家族の想像だけで優しく包まれている感じ。
    観る側のジャッジに関るだけにリアルさが欲しかったが、他の患者のエピソードによって
    そこは補完されていく。

    葛藤する医師二人(宮川飛鳥・相葉るか)が素晴らしかった。
    十分身体に落とし込んでから振り絞るような台詞に、自分だったらどうする・・・?
    と思わずにいられなかった。

    弱者を家族みんなで守ろうとするキツネの社会と、
    死を合法化してシステムの中に組み込もうとする人間社会の対比が面白い。
    「死ぬ人の権利」は「残された人の気持ち」を置いてきぼりにする。
    忘れられがちなこの置いて行かれる人々の気持ちが、実は重要なのだ。
    だって「死を語る人」は皆、置いて行かれた人々なのだから。

    いつも「自分の情」で熱く動く夫が、妻の望みを叶えるべく大変身を遂げる終盤。
    役者(沼田星麻)の見事な切り替えでボロ泣きの嵐だった。

    アフタートークで、作演出の広田淳一氏にこの作品のインスピレーションを与えた
    著書「安楽死を遂げるまで」の作者 宮下洋一氏が登場、
    世界の安楽死事情や、欧米と違い日本で受け容れられるのが難しい理由など
    深く考えさせられる内容だった。
    広田氏が様々な問題を、慎重に、丁寧に台詞に乗せていたことが伝わって来た。

    いつも”語り尽くせない部分をダンスで表現する”アマヤドリが、
    今回は本当に語り尽せないテーマに挑み、ラストは生への強い意欲を感じさせる
    力強いダンスで終わった。
    死ぬことと生きること、私たちはそこを行き来しながら今日も生きている。

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    2023/03/25 00:52

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