厠の兵隊 公演情報 劇団桟敷童子「厠の兵隊」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    やっぱり桟敷童子はいい!!!
    あいかわらずセットが素晴らしいし、物語も桟敷童子らしい内容と展開、そして役者もすべていい。
    熱量があって、1時間40分が濃厚で、とても豊かな時間になる。

    ネタバレBOX

    夫を亡くし、頼るところもない月子と透の親子が、その夫の実家である村を訪れる。
    村には、厠の神を祭る風習があった。
    そして、村には丁度、来るはずのない、くみ取り屋がやって来ていた。

    夫は村を捨てたのだが、村は月子親子を迎えてくれる。身体が不自由であり、まだ独り者の与市(月子の夫の弟)と再婚してほしいと考えているのだ。

    女癖の悪い夫の父親は、嫁にあたる月子に目をつけ、手を出してしまう。
    また、村の山には、組の金に手を付けて心中しに来たカップルがいる。
    その男も月子に気持ちが動く。

    月子には、そんな男たちを引きつける何かがあるのかもしれない。

    ある日、月子に言い寄った父親とやくざのカップルが次々といなくなる。
    月子は、その理由にうすうす感づいているのだ。

    そして・・・。

    あいかわらずの九州にあるであろうと思わせる、古いしきたりが残る村と、都会からやってきた親子という対比で、伝奇的・幻想的な物語を見せてくれる。

    父を亡くし、より強く母を想う息子・透を中心に、暗く、切ない物語が展開していく。

    息子・透は、あまり話をしない。いつも紙製のトランシーバーで誰かと話している。彼は、常に戦いの中にあり、彼の兵隊たちと連絡を取り合っているのだ。

    透の兵隊好きは、男の子だからというよりは、父親が自衛隊員だったというところから来ているのではないだろうか。
    兵隊ごっこを通じて、父親の影を確認しているのだろう。
    また、「母を守る」ということも兵隊としての姿に結びつくのであろう。
    そして、彼は、彼の兵隊たちとずっと戦ってきたのだ。

    透の兵隊ごっこは、厠を大切にする村に訪れたときに変容を始める。
    誰が教えたわけでもなく、村の「地場」のようなものに触れて、透の兵隊たちは、
    くみ取り屋たちと一体になっていく。
    バキュームカーが黄土色の戦車になり、くみ取り屋たちが兵士に変わる。

    この展開は、わかりやすい。
    月子は、夫を亡くしてから苦労が絶えなかったのだろう。そのため自分たちは「排泄物のような存在だ」と口癖のように言う。
    透は、母のその言葉を聞いて育っていたために、排泄物に対しての親近感のような、なんとも言えないものがあったのだろう。

    そこに、厠を大切にする村が現れたのだ。
    だから、透にとっては、排泄物=自分たちを守ってくれる場所だと直感的に感じたのではないだろうか。
    しかも、都会にはないくみ取り式の厠だから、排泄物は身近にあるし、なによりもそれが素晴らしい肥料になるということだから、透にとっては、素晴らしい場所に違いない。
    だから、透は素晴らしい肥料を作るため、せっせと厠からくみ取り、大きな肥だめに持っていく。
    透にとって、それはとても意味があることで、知らず知らずにうちに自分の境遇を重ね合わせているのだ。

    そして、問題は、母に近づく男たちである。
    透は、それらと戦ってきた。
    つまり、透は、彼らを自らの手で排除していく。
    母もそれにはうすうす感づいている。
    息子から離れられない母としては、そこには深く立ち入ることができない。

    ラストがあまりにも切ない。
    月子に与市の子ども、つまり透に弟ができたことで、透は、自分の子ども時代の終焉を悟る。
    そして、さらに彼の中にあった「正義」が揺らいでいくのだ。
    与市は、命を取り止め、透は彼の兵隊とともに母のもとを去る。
    それしか道はない。

    母は透をつなぎ留めるために「大きくなったらお母さんと結婚するんじゃなかったの」と問いかけるが、透は「そんな子どもっぽいこと」と言い放つ。
    子どもは大人になり、母のもとから旅立つのだ。

    彼の周りにはまだ「敵」はいる。
    彼の中の「正義」の落としどころを求めて、透は彼の兵隊とともにそれと戦いに行くのだ。


    舞台は、隅から隅まで神経が行き渡り、隙はまったくない。
    役者の顔がいい、目がいい。
    そういう熱量が、観客を舞台に引きつける。

    くみ取り屋の頭、山嵐を演じた椎名りおさんが、とても活き活きしていた。前に広がるような台詞回しがよく、とても存在が大きく見えた。また、死に場所を探しているやくざを演じた深津紀暁さんも、ちょっと臭いぐらいの演技だったが、印象に残った。透役の鳥山茜さんも切なさ満開で、物語を見事に見せてくれた。

    もちろん、他の役者も言うことなし。
    「便所ニ兵隊サンガ、ムッチャオルトヤデェ」とフライヤーにある台詞を2回も言った外山博美さんは、その台詞が気持ちよかったんではないかなぁ、なんて思ったりもした。

    劇中歌も好きだ。冒頭の歌で、まだ物語がまったくわからないのに、じんわり来てしまった。

    桟敷童子は大好きだ。早くも次回の公演が楽しみになってきた。

    あ、そうそう、いつも客入れのときにこれから公演に登場する役者さんたちが揃ってお出迎えしてくれるのも、観客としてとてもうれしい。

    0

    2010/04/24 09:38

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大